前半植物班は、先述の調査区域内で林床の植物についても調査を行った。各区画ごとに胸高直径5cm以下の木本、草本、シダ類、実生についてその有無を調べた。以下は結果と考察。

 まず木本について述べると、観察された総種数は実生も含めると49種であった。別紙の表に各調査区域での木本の出現の有無を示す。高木層の表と同様に、表中で各地点において見られた種が上から下へと移り変わっていくのがわかる。アリドオシ、イスノキ、ヒサカキなどはどの標高でもまんべんなくみられた。イヌガシ、グミ類、ヤマモガシ、ルリミノキはa区域のみでみられた。よって標高の低いところに生育する樹種なのではないかと考えられる。そしてb区域に入るとオニクロキ、マンリョウ、ハイノキ、サクラツツジなど新しい樹種が入ってくる。そしてこれらはc区域までみられた。これらの樹種は照葉樹林帯の中でも比較的標高の高い場所でまで生育できる樹種ではないかと考えられる。c区域に入ると、初めての針葉樹であるツガが登場する。
 先ほどの表の樹木を、今度は科別にピックアップした表を示す。ヤブコウジ科を見てみると、これまた高木層と同じくa区域ではモクタチバナがみられるが、b区域に入るとマンリョウやタイミンタチバナに入れ替わっているのがわかる。クスノキ科をみてみると、ヤブニッケイやバリバリノキはどの区域でもみられるが、イヌガシはa区域、シロダモはb〜c区域にかけてみられる。というようにやはり同種間の中で入れ替わっている。またブナ科の植物は全般にb区域にみられることからこの区域が照葉樹林帯の中でも一般にシイ・カシ林とよばれる部類に入るのではないかと考えられる。
 次に、屋久島照葉樹林帯の象徴であるシダ類について、その有無を調査した表を示す。シダは今回種の同定がわずかしかできなかったため、ほとんどのシダが番号で示してある。
シダは木本に比べてより顕著にその移り変わりが見てとれる。
 最後に、草本について述べる。草本は計7種と非常に少なかった。それだけ高木、亜高木層が発達しているということだろう。だが、その移り変わりは表を見てもらうと判るように、はっきりと現れている。そして、c区域おいて草本はみられなかった。これはどういうことなのかわらなかった。
以上の事より、我々の調査した森林での垂直分布についてまとめると、林床においては、標高の低い地点ではイヌガシ、ヤマモガシ、ルリミノキ、モクタチバナ等が優占し、標高360m以上になるとオニクロキ、マンリョウ、ハイノキ、サクラツツジ等がでてくる。そして600mを過ぎるとヒメシャラや唯一の針葉樹であるツガが登場した。このように狭い範囲の調査ではあったが確実に植生は変化していた。また科という単位でみてみると、クスノキ科、ヤブコウジ科、ツバキ科、ブナ科などが多かった。これらはいずれも照葉樹林を代表する者たちばかりであり、我々は照葉樹林帯の中から抜け出す事ができなかったと考えられる。だが最終c5調査区ではツガが1本だけみられたことから、もうすこし標高の高いところまで調査すれば、目標であったスギ林のところまでゆき屋久島ならではのスケールの大きい植物の移り変わりが見られたのではないかと考えられる。シダ類ついては種の同定ができなかったので詳しいことはわからなかったが、それでも移り変わってゆく様は樹木に比べて顕著にみられた。シダのほうが標高に左右されやすいのかもしれないがはっきりとした事はいえない。
草本類についてはその数は少なかったが、これもまた移り変わってゆく様は明らかにみられた。

感想
今回初めて照葉樹林の中に入ったが高木層がよく発達し、常緑樹が非常に多いという事を肌で感じた。そして屋久島でしか出会えない植物にも幾つか出会う事ができ、感動の極みであった。屋久島の森といえば、湿気が非常に多く、ヒルがうようよしているのだと想像していたが、そんなこともなく、心地よく調査ができ幸せであった。また屋久島に来る事があったら、今度は針葉樹林帯から高山帯の方まで足をのばしてみたい。

(文責  森長真一)

長井美緒 春友彦 
古川裕美 森長真一
南波和美 櫟木春理




草本


木本類


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