<後期>

参加者:大木庸子、金岡雅文、古川裕美、森長真一
講師:野間直彦

報告1 ロードサイドセンサス法による時間帯ごとの鳥の観察

目的
 屋久島照葉樹林において、時間帯ごとにロードサイドセンサス法をもちいて鳥の観察をおこなう。これにより観察された個体数、種数の違いを比較し鳥の生活の一部分を明らかにする。

方法
 8/7〜8にかけて西部林道において時間を早朝、午前、午後の3つの時間帯にくぎりロードサイドセンサスをおこなった。実際の観察時間はそれぞれ5:52-8:06、9:28-12:18、13:00-14:23である。なお今回はそれぞれ同じ道のりをあるいてロードサイドセンサスをおこなったわけだがこれは実際には往復の観察結果であり、また時間帯ごとの観察時間の違いは鳥の観察数の違いによる。
ロードサイドセンサスにおいて記録したことは種名、個体数、観察時の鳥の状態(飛翔、さえずりなど)、成長段階、そのときの時刻と特筆事項である。

結果
 それぞれの時間帯ごとに観察された種数と個体数を表1に示す。
 この表1をグラフにしたものが図1と図2である。観察された個体数の時間による違いをみると、早朝・午前ではあまり変化はなかったが、午後になるとその半分以下に減った。種数の変化は、個体数ほどではなかったが午後になると減る傾向に違いはなかった。ただ、個体数では早朝のほうが午前に比べておおかったのだが、種数では逆に午前のほうが早朝に比べておおかったという違いがあった。
 さらに、観察された個体数のなかにどの種がどれだけ含まれているのかを示したのが図3〜5である。メジロ、ヤマガラ、ヒヨドリは順位に違いはあるものの上位3種をしめていて、かつ、この3種で全体の75〜80%ほどをしめていた。そして種数の増減に影響しているのは残りの25〜20%の部分であった。また3つの時間帯すべてに観察された種は上位3種のメジロ、ヤマガラ、ヒヨドリとキビタキだけであった。

考察
 この観察結果は鳥のどんな生活特性を示しているのであろうか。この議論は記録項目である「観察時の鳥の状態」と直接関係してくる。この内容は S:さえずりを聞いた C:さえずり以外の声を聞いた V:姿を確認した Fl:飛翔中のものを確認した の4種である。私たちは確認することのできた鳥のそのときの状態をこのように記録したが、では私たちが上の結果に示した「種数」や「個体数」はいったい鳥の何を表わしているのだろう。
 私たちは結果のところで「種数」「個体数」といわず「観察された種数」「観察された個体数」という言葉をつかった。その調査地において時間帯ごとに単純に「種数が減少し」たり「個体数が増加し」たのではないはずだからである。ではこの観察結果はどんな現象を示しているのであろうか。
 時間帯によって観察結果が異なったことの説明には、いくつかの仮説が考えられる。まず一つめに考えられることは鳥が時間帯ごとに活動場所を変えているということである。つまり早朝と午前に観察された個体数が多かったのはその時間帯では私たちが観察をおこなった道路沿いに生息しており、午後になると別の場所へと移動してしまうというものである。この仮説で種数変化を説明すると、その移動が種によってばらばらで早朝と午前にはたくさんの種がいたが午後になるとそうでなくなってしまったという種の選好性の違いによるものになる。
 もう一つは、鳥が時間帯ごとに活動量を変えているというものである。つまり早朝と午前に観察された個体数が多かったのはその時間帯では鳥が活発に活動しておりそのため声をきいたり、姿をみることが出来たりしたのだというものである。種数の変化も同様に各種で活動時間が違っているためで、またそれによって種構成も異なってくるのである。
 由井によると(由井, 1997)、ロードサイドセンサスは「対象地域の野鳥の相対的な多さ」を求めるのにもちいられているとある。一方で由井はこの観察記録を「野鳥の目立ちやすさ」ともしている。そうしたうえである数式にあてはめ(ここでは省略する)、なわばり数などを推定する方法を開発している。
 この観察結果だけから鳥の生活特性を時間ごとの移り変わりという視点から論じることは難しいが、鳥の生活の何らかの特性の一部を浮き彫りにしていることは確かであると考えられる。今後の課題として同じ場所での異なるアプローチによる鳥類群集の時間変化をしらべる必要がある。それによって、この結果が何を表わしていたのかがはっきりしてくるであろう。

報告2 アカメガシワを訪れる鳥の観察 -鳥と植物の関係-
 
目的
 結実したアカメガシワの木を訪れる鳥の種類、個体数、その行動を調査し、アカメガシワの果実数、種子数などとあわせて、鳥の摂食行動と種子散布について考察する。

方法
 8/7〜8にかけて西部林道沿いの4本のアカメガシワの木(個体1,2,3,4)において早朝、午前、午後の3回、定点観察をおこなった。一回の観察時間は2時間で各々およそ 5:45, 9:10, 13:50 (開始時間は4地点で5分程度のずれがある)から開始した。記録事項として、訪れた鳥の種名、個体数、その時間、アカメガシワの種子を食べたかどうか、そのときの位置、と食べ方などを記録した。またアカメガシワについては、果序や種子の数を、サンプル調査に基づいて調査し、各々の木がつけていた数を推定した。

結果
 
アカメガシワを訪れる鳥
 アカメガシワを訪れた鳥には2種類あり、一方は種子をついばむもの、もう一方はついばまないものであった。しかし今回の観察では厳密にそれを区別しながらデータをとることができなかった。その原因として、一度に多くの鳥が訪れたり高いところにとまってしまったりしたために記録ができないことがあったためである。そのため今回は主に上で述べた区別をせず、必要に応じてとることのできたデータを元にデータの整理をした。
 表2には訪れた鳥の種名と個体数を時間帯ごとにしめした。
 4本のアカメガシワの中では、アカメガシワ2に訪れた鳥の数が圧倒的に多かった。データを取る際にてこずったのはこの木であり、他の木の10倍以上の頻度になった。時間帯ごとの個体数や種の変化には一貫した傾向はなく、鳥の訪問がもっとも多かった時間帯は、アカメガシワ1,2,3,4でそれぞれ順に午前と午後、午前、早朝、なしという結果になった。鳥の種数は少なく、ほとんどがメジロであった。しかし早朝のアカメガシワ4には、3:4の割合でヒヨドリの方が多く訪れていた。

アカメガシワでの鳥の行動
 アカメガシワを訪れた鳥の、とまる場所や種子をついばむ時の姿勢・一回の滞在時間などをもとめた。
 とまる場所については、鳥のとまった場所が木の上、中、下部のうちどの部分であるかを観察し、合計59個体の記録をとることができた。内訳はヒヨドリ7、メジロ52個体である。これをグラフにしたものが図6である。
 ヒヨドリでは7個体のうち4個体が中部にいて、その半分以上をしめていた。一方メジロでは52個体のうち28個体が上部に、21個体が中部にいた。上位では順位の逆転があるものの、両種とも下部は最下位で、その割合は15%、6.7%であった。
 鳥が種子をついばむ時の姿勢については、その時の位置とついばみ方を記録した。位置は果序、葉柄、枝の3種類でついばみ方は上向き、横向き、とびついての3種類に分類された。観察回数は29回で、一個体がいくつものパターンをもつものがあった。また30回の観察のうちヒヨドリは2回しか観察できず、残りはすべてメジロであった。そのため種ごとに分けて示すことはここではしない。
 結果は、位置においては枝、葉柄、果序の順に、ついばみ方は横向き、上向き、とびついての順に多かった(図7)。位置では枝が1/2をしめ、葉柄が1/3、果序が1/6という具合にある程度の差がついていた。ついばみ方では、「とびついて」はヒヨドリで一回みられただけで、「横向き」と「上向き」がほぼ4:3の割合になっていた。位置とついばみ方の相互の関係には、明瞭な相関はみられなかった。つまり枝の時は横向き、葉柄時は上向きといったように、対になっている組み合わせは検出することができなかった。
 
 アカメガシワを訪れた鳥のうち、メジロとヒヨドリの滞在時間とついばみ時間についての観察を行うことができた。しかし、滞在したことは分かっているが食べたか食べていないか判断しかねるものも多かったため、訪れて木にとまった鳥の滞在時間(訪木)、種子を食べなかったと断定できるものの滞在時間(たべない)、種子を食べていたと断定できるものの滞在時間(たべた滞在)と、種子ひとつをついばむのに要した平均時間(たべたついばみ)をもとめた。(表3
 メジロとヒヨドリともに、食べた時と食べない時とを比べると食べた時の方があきらかに滞在時間が長かった。またメジロとヒヨドリをくらべる全体としてメジロの方が時間を多くつかっているが種子一つあたりについやすついばみ時間はヒヨドリの方が長い。また一回の訪問で一羽が食べる種子の数は1個から6個であった。

アカメガシワのディスプレイと訪問した鳥の個体数
 4本のアカメガシワそれぞれにおいて、その年につける総種子数、果序数、その時点で裂開していた果実の中の種子数(その時みえていた種子数)、同じく裂開した果実の中の種子数と未裂開果実の中の種子数の和(その時ついていた種子数)を推定した(表4)。
 この結果と訪問した鳥の個体数との関係をグラフにしたものが図8である。鳥個体数とついていた種子数とのあいだには正の相関がみられた。しかしそれ以外のものでは明瞭な相関関係を見い出すことはできなかった。

考察
 この実習の目的は、アカメガシワを訪れる鳥にはどのような種があり、そしてどのようなふるまいをするかということを、アカメガシワの種子との関連から明らかにすることであった。しかし、観察時間、観察したアカメガシワの本数の少なさ、観察の難しさから充分なデータをとることができなかった。
 たとえば訪れた鳥の記録のうちすべての項目についてきちんと記録がなされたものは少なく、1/3程度であった。そのためにアカメガシワでの鳥の行動の観察結果は本来の訪問個体数よりも少ないサンプル数にならざるをえなかった。またアカメガシワのディスプレイに関しても調査者によって推定の元になるデータにバラツキがあり、それらをなくすためにははじめに打ち合わせをより丁寧に行うべきであったと思われる。しかし、えられたデータから考えられることは多い。以下ではそれらについて議論したい。

アカメガシワを訪れる鳥
 アカメガシワを訪れた鳥は圧倒的にメジロがおおかった。そしてわずかにヒヨドリとキビタキが観察された。この原因はどこにあるのであろうか。鳥には歯がなく食べ物はすべて飲み込むという形で体内に入る。そのためくちばしの大きさ、形がその鳥の食べ物を決めているのであろう。3種のくちばしの形は、どれも細く尖っている。Noma & Yumoto (1997) によると、各々の鳥のくちばしの付け根の幅の平均は、メジロは6.1mm、キビタキは8.1mm、ヒヨドリは13.3mmとなっている。メジロはヒヨドリに比べて非常に小さなくちばしをもつことになる。一方アカメガシワの種子は直径5 mmにみたない小さなもので、メジロにとってはついばむのにちょうどよい大きさなのではないであろうか。また大きなヒヨドリにとっては小さすぎる種子であり食べにくいのかもしれない。喰いわけがおこなわれている可能性もあるが、これはヒヨドリ・メジロがなにを食べているのか、他の餌も調べたうえで議論せねばならない。またメジロと大きさが近いキビタキがなぜ少ししか観察されなかったのかということも、キビタキの食性を調べたうえで議論する必要がある。

アカメガシワでの鳥の行動
 メジロもヒヨドリもアカメガシワの木の下部にとまるものは少なかった。この大きな理由はアカメガシワの果序、つまり種子がある位置と密接に関連しているとおもわれる。これらの鳥の多くがアカメガシワの種子を目的として訪れているからである。アカメガシワの果序は枝の先端から上向きにつき、枝の広がりの内部にはつかない。つまり種子が木の中部から上部に位置しているためこれらの鳥の多くもここに集まるようになると考えられる。
 種子をついばむときの姿勢では私たちの予想とは異なった結果を得たようにおもう。ついばむとき鳥たちがとまっているのは種子に一番近い果序ではなく枝であった。また枝であったのならその上に果序がついているので上向きになると予想できるが実際は横向きについばんでいた。これはおそらく鳥にとって果序はとまりにくい場所であり枝はそうではなく、また横向きに種子をついばむのが一番エネルギーの消費が少ないのであろう。そうであるならばすべての鳥が枝にとまって横向きについばむようにすればよいのであろうがそのようにはなっていない。また結果のところでも触れたが対になっているパターンはみられなかった。
 アカメガシワを訪れた鳥の滞在時間は、メジロ、ヒヨドリともに種子を食べないときより食べた時の方が長かった。これは鳥が食事をしない場合には無駄に長い時間木に止まっていないことを示しているのではないであろうか。一つの種子をついばむのに要する時間は滞在時間を食べた種子の数で割ったものであるが、表3から考えるとメジロはヒヨドリよりも短時間でついばみ、かつ長時間滞在する。これはアカメガシワがヒヨドリよりもメジロにとって効率的な食物源であることを示唆しているであろう。また他の動物、たとえばヤクザルの食べる時間との関係も問題である。私たちが観察しているあいだに数匹のヤクシマザルが種子を食べにきた。このときの観察からヤクシマザルは種子一つを食べるのに9秒かかっていることがわかった。また本講座の前期サル班の観察データによると3.2秒であったという。これは鳥が要する時間よりも短い。またサルが種子を食べているときには鳥はアカメガシワにはいない。逆に鳥が種子を食べているときにはサルはアカメガシワにはいない。このことは両者の間にアカメガシワの種子をめぐって競争がある可能性を示している。

アカメガシワのディスプレイと鳥個体数
 アカメガシワのどのような性質が訪問する鳥の個体数に効いているのかをしらべた。私たちのデータからはその時ついていた種子(裂開した果実の中の種子数と未裂開果実の中の種子数との和)との正の相関関係が見い出された。当初の予想では、果序の数やその時みえていた種子などと関係しているのではないかと思われたがそうではなかった。その時ついていた種子と関係していてその時みえていた種子とは関係していないということは、鳥は未裂開果実と裂開した果実の区別をせずに、多数の果実がみえる木に多く立寄っている可能性がある。しかしこの調査での問題点はいくつかある。ひとつは上記のとおり人によってデータにバラツキがあることである。そしてサンプルとなる本数が少なくまた観察時間も少ない。また、鳥がアカメガシワを個体単位で選別しているのかどうかという問題もある。鳥にとっては、ひとつの枝や果序にどれだけ魅力的なディスプレイがされているかだけが、あるいは数本の結実した木がつくる果実のまとまりが重要なのかもしれないということである。隣り合ったアカメガシワを鳥が短時間に行き来しないということはないであろう。鳥は自らにとって最適な形でエネルギーを得ようとする。そのときに個体単位で見分けているのだろうか。これは今後の課題として重要なテーマであるとおもわれる。


種子散布者としての鳥
 今回みてきたアカメガシワと鳥の関係は一方的に鳥が食物としてアカメガシワの種子を利用するというものではない。つまりアカメガシワも彼等の繁殖を担うひとつの役割、つまり種子散布者として鳥を利用しているのである。その適応とおもわれる現象が、硬い種皮と、そのまわりについている油である。つまり鳥は種子を食べるのではなく周りの油をエネルギー源として利用するのである。もし鳥が種子の本体を利用するのであれば種子が死亡してしまう。アカメガシワはこの油をもつことで鳥を利用することができるのである。
 しかし鳥についばまれたからといってそれで繁殖に成功したかというとそうではない。鳥がどこで種子を体外に排出するかということが問題になってくる。一般に植物の種子は親木の近くでは生残率が低いと考えられている。つまりなるべく親木からはなれて、生育条件のよい場所に散布される必要がある。今回は鳥の行動を追跡したり、種子のゆくえを明らかにするべく糞やペリットを採集するということはおこなわなかった。種子散布者としての鳥の特性を明らかにするには、樹上での行動だけでなくそれ以外の場所での行動を調査することも重要である。


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