屋久島フィールドワーク講座

「鳥のくらし」

<前期>
−さまざまな植生における鳥類群集の比較−

参加者:森洋祐、松原圭、齋藤有香、井上健彦
講師:野間直彦

はじめに
 鳥類は、他鳥類種とニッチ競争をしながら自分の生活スタイル・生存戦略に合った様々な環境で生活している。
 今回の調査地である屋久島は、鹿児島県大隅半島佐多岬の南南西約60kmの洋上に浮かぶ島であり、その植生は標高によって様々な様相を見せることが知られている。また、最近ではスギの植林地や果樹園なども増えている。そこで私たちは、そのような環境のもとで鳥類はどのように生活しているのかを知るために、鳥類群集と環境との関係を調べることにした。

方法
 各調査地での鳥類の相対的な個体数の違いを求めるため、今回は調査手法としてラインセンサス法を用いた。時速1〜2kmで決めたコースを歩き、中央から左右25mの空間に出現した鳥類(鳴き声・姿を確認した場合)をすべて記載した。
 調査地は、植生ごとに次のところを選んだ。すなわち、原生的照葉樹林として西部林道を、原生的な照葉樹林と針葉樹林の移行帯として白谷雲水峡を、原生的な針葉樹林としてヤクスギランドを、そして、二次林として岳之川林道である。
 環境については、それぞれの調査地の標高、屋久島内でのだいたいの位置を調べた。ラインセンサスのコース両側の環境は次の基準で記載した。ただしすべての調査地で詳細に調べることはできなかった。
 西部林道では、植生のようすと、沢や法面など樹冠の途切れるところを記載した。鳥の食料になりうる餌の有無について、結実している樹種を記載するした。
白谷雲水峡では、照葉樹と針葉樹の移行帯のため、大まかな植生のようすを把握した。
 ヤクスギランドでは、植生のようすの記載とともに、ラインセンサス法の観察範囲である左右25mまでの出現樹種を結実の有無とともに記載した。
 岳之川林道では、植生の違いを大まかに5つの植生タイプに分けて、それぞれの植生タイプで鳥の出現種が違うかどうかを調べた。
各調査地の調査日、気象、調査時間、調査距離、標高などは以下の通りである。

調査地 調査日 天候
西部林道(8/3) 8月3日
西部林道(8/4) 8月4日 曇のち晴
雲水峡(8/3) 8月3日
ヤクスギランド(8/4) 8月4日
岳之川林道(8/5) 8月5日

調査地 開始時刻 終了時刻 調査距離(km) 標高(m) 標高の中間値(m)
西部林道(8/3) 5:59 8:35 2.747 147〜200 173
西部林道(8/4) 5:59 8:19 4 147〜200 173
雲水峡(8/3) 14:33 16:50 2.104 610〜890 750
ヤクスギランド(8/4) 12:30 14:21 2.429 880〜1100 990
岳之川林道(8/5) 6:00 8:42 3.369 140〜300 220
※標高の中間値は、標高別の図を作成するときに用いた。



調査地の植生と環境

西部林道…屋久島西部の海岸沿いの標高約150m〜200mを通る道路。原生的な照葉樹林。この道の下側の森林には一度人の手が入っており、アブラギリなどが目立つが、上側にはほとんど入っていない。
植生)樹冠は閉鎖されており、目立つ突出木はなく、滑らかに連続している。しかし、大きな崩壊地や法面などでは、不連続になっている。
樹種)原生的なスギ林と比べて、小径木が目立ち、種数が多い。また、結実している木が多くあった。
結実が見られた樹種:クマノミズキ・エゴノキ・ハドノキ・イイギリ・イヌビワ・ヤクシマオナガカエデ・センダン
環境)沢が何本かある。しかし、河道上は周囲の立木の樹冠によって閉鎖されている。その中でも、大きな崩壊地を伴う沢が一本ある。その周辺は、コンクリート法面とともに開放地になっている。他にも小規模なコンクリート法面が点在する。

白谷雲水峡…標高約600〜900m。屋久島の北東部の山岳地にある。原生的な照葉樹林とスギ林との移行帯。
植生)樹冠は閉鎖されているが、照葉樹の中にヤクスギなどの大径針葉樹が突出している。
樹種)大径のスギが点在する。亜高木層・低木層には照葉樹が多くあり、林床は暗い。
環境)大きな川が存在し、それに沿うようにして登山道がある。よって、西部林道より調査コースの道幅が狭く、開放地はなかった。この地区のヤクスギは、江戸時代から伐採されており、土埋木の上に照葉樹が生えているのを多く見る。

ヤクスギランド…標高約900〜1100m。屋久島南東部の山岳地にある。原生的なスギ林。
植生)高木が突出しており、その下に照葉樹の亜高木層がある。亜高木層が林冠を構成しており、その中に、スギ・モミ・ツガなどの針葉樹の高木が頭を出しているといった印象を受ける。よって、滑らかな林冠とはいえない。
樹種)針葉樹は、スギ・モミ・ツガが多い。照葉樹の高木では、ハリギリ・ヒメシャラ・ヤマグルマの大径木が目立つ。下層には、ハイノキ・サクラツツジなどがある。
結実が見られた樹種・・・ヤマグルマ
環境)沢が多く、ほとんどの河道上は樹冠に覆われているが、一本大きな川があり、その周辺は大きな開放地になっている。急傾斜地が多く、小規模な崩壊地が点在する。

岳之川林道…標高約150〜300m。屋久島の西側、カンカケ岳の裾野にある。照葉樹林や果樹園やスギ植林がパッチ状に混在している二次林。
植生)スギ人工林、照葉樹・落葉樹の混交林(樹冠の低い混交低木林と高い混交高木林)、開放地、果樹園の5つの植生タイプに分けられた。全体的に小径木がほとんどで、大径木や突出木はなかった。照葉樹・落葉樹の混交林の林床は、低木に覆われ密生していたが、スギ人工林の林床は、主にシダ類に覆われていて混交林に比べると広い空間があった。
樹種)出現した主な樹種は次の通り。混交低木林…アカメガシワ、イヌビワ、ウラジロフジウツギ 混交高木林…スダジイ、イヌビワ、ヤブニッケイ、クスノキ、アカメガシワ、アブラギリ、ヤクシマオナガカエデ、ハドノキ など。果樹園は、柑橘類(ポンカンもしくはタンカンだと思われる)。開放地は、草本。スギ植林地は、スギの中にアカメガシワなども混在していた。
結実が見られた樹種・・・ハゼノキ・ハドノキ・ゴンズイ・サルトリイバラ・ナンバンキブシ・ハマヒサカキ・アコウ
環境)川は一つもなく、斜面は他の調査地と比べると緩かった。

結果と考察
はじめに、結果のデータには比較する上で考慮しなければならない差があることを断っておかなければならない。西部林道と岳之川林道は早朝のデータで、白谷雲水峡とヤクスギランドは昼間のデータである。鳥は早朝によく鳴くため、その差が多少含まれることになる。また、歩く速度が一定でないということも、データに誤差を生んでいるかもしれない。しかし歩く速度についての誤差はデータを解析する際に影響はほとんどないものと考えてよいと思われる。

1.植生と鳥類群集の関係

結果
鳥類の出現種数は、照葉樹林帯、照葉樹林帯から針葉樹林帯への移行帯、そして針葉樹林帯へと行くにしたがって減少していく傾向があった(図1)
出現個体数は、照葉樹林帯である岳之川林道で目立って多いが、その後には照葉樹林帯である西部林道、針葉樹林帯であるヤクスギランド、照葉樹林帯と針葉樹林帯との移行帯である白谷雲水峡の順で減少していった(図2)
出現種数の傾向と違い、出現個体数では照葉樹林帯と針葉樹林帯との移行帯である白谷雲水峡が一番少なかった。
表3及び図3〜7より出現種数と個体数の詳細をみる。照葉樹林帯である西部林道と岳之川林道では、メジロ、ヒヨドリ、ヤマガラの3種が目立って多かった。しかし、針葉樹林帯であるヤクスギランドではヒヨドリがほとんど出現せず、代わって、ヒガラが多く出現した。また、その移行帯である白谷雲水峡ではヒヨドリが一個体とヒガラも三個体が観察された。
また、少数しか観察されなかった鳥類種についても違いが認められた。照葉樹林帯で観察されたヤブサメ、アオゲラ、ズアカアオバト、キセキレイ、サンショウクイは、いずれも移行帯や針葉樹林帯では観察されなかった。また、移行帯と針葉樹林帯で観察されたミソサザイとヒガラは、照葉樹林帯では観察されなかった。キビタキは照葉樹林帯と移行帯にまたがって出現しているが、針葉樹林帯では観察されなかった。
その他、二次林である岳之川林道に特異な種が数種観察されたが、このことは、「3 原生林と二次林における鳥類群集の違い」において述べる。

考察
 種数は西部林道と岳之川林道が白谷雲水峡やヤクスギランドより多いといえる。これは、照葉樹林帯のほうが移行帯や針葉樹林帯よりも鳥類相が多様だといえるのではないか。
しかし、特に白谷雲水峡では、沢の音が大きく鳥の声を聞き漏らしている可能性をぬぐいきれないし、ヤクスギランドとあわせて道が不慣れな登山道であり、足元に気を取られて聞き漏らした可能性もある。その他、観察時間帯(午前か午後か)や観察時間(長いか短いか)も大きく影響している可能性もある。なぜなら、鳥類は、基本的に早朝に一番多く鳴くからである。よって、種数・個体数ともに発見する可能性は、早朝に観察した西部林道と岳之川林道の方が、午後に観察した白谷雲水峡やヤクスギランドよりも高いといえる。
次に、図2及び図3〜7から、それぞれの鳥の生活様式と環境の違いとを照らし合わせて考えてみたい。まず、メジロは西部林道と岳之川林道で個体数が多くなっている。メジロは枝の茂みを移動しながら昆虫やクモをあさるが、春にはツバキ、ウメなどの花の蜜を吸う。調査を行ったのは夏で、西部林道と岳之川林道では、オオムラサキシキブなどの花は少し見られたが目立って多く見られたわけではなかった。白谷雲水峡とヤクスギランドでは、花はほとんど見られなかった。
 また、繁殖に着目してみると、メジロを含めて出現した鳥のほとんどは屋久島で繁殖期を過ごす。そのため、鳥は屋久島で繁殖に適した場所も考慮して生活場所を選んでいると思われる。
 メジロは低い細い横枝の又になったところにコケ類、樹皮などをクモの糸でくっつけて吊り下げ、皿形の巣を作る。白谷雲水峡とヤクスギランドの、スギ林の湿った林床はコケ類で覆われていたので、巣の材料は西部林道や岳之川林道より豊富にあると思われる。しかし、これらの場所で確認はされるものの個体数が少ないということは、食性の影響が大きいのではないかと考えられる。
これらのことから、メジロが西部林道と岳之川林道に多く出現するのは、白谷雲水峡とヤクスギランドに比べて西部林道と岳之川林道には餌となる昆虫が多いということが予想される。
 次にヒヨドリについて考えてみる。白谷雲水峡ではほとんど観察されず、ヤクスギランドでは全く観察されなかった。ヒヨドリは樹上生活が主で繁殖期には単独もしくは2羽でいることが多く、木の枝の茂みや枝の分岐点、つるのからまったところに小枝、枯れつる、イネ科植物の茎、細根などで巣をつくる。
白谷雲水峡やヤクスギランドの林冠は密で林床は暗かったことから、巣になる木の枝の茂みはあるだろうと思われるが、スギ林では枯れつるやイネ科植物は少ないと考えられるため、巣の材料は豊富とはいえないだろう。
食性はメジロと似ていて昆虫や木の実を主に食べるが、花の蜜やコブシなどの花弁、畑のキャベツも食べることがある。岳之川林道では、畑が近く、柑橘系の果樹園も存在したため、昆虫などの餌は豊富だと考えられる。また、下層に茂みがある場所もあったので、つるなど巣の材料についても白谷雲水峡やヤクスギランドより豊富だと考えられる。岳之川林道では他よりもヒヨドリの出現数が多かったが、これにはそういった生活に適した条件が関係していると考えられる。
 ヤマガラに注目してみる。ヤマガラは出現種の中で唯一、すべての調査地で1haあたりの個体数が1.00を超えて出現している種である。ヤマガラは昆虫やクモを食べるが、メジロやヒヨドリが食べないようなシイの堅果のように大きくて硬い木の実も嘴でつついて割って食べる。ヤクスギランドではウラジロガシなどが確認されており、西部林道と岳之川林道でもシイ類が確認されている。白谷雲水峡は詳しい環境のデータを取っていないのでシイ類などが存在していたかということははっきりいえないが、メジロやヒヨドリが少ない中でヤマガラだけが多く存在しているところから考えて、ヤクスギランドと同じようにウラジロガシなどが存在していたと予想される。餌が少なかったり、似た食性の鳥類種が多かったりして種間競争が起こったとしても、こういった他の鳥類種が食べない木の実を食べることで、調査したどの場所でもある程度の個体数を保持していたのではないかと考える。
 次はヒガラについて考える。この鳥は、梢近くの細枝から細枝へめまぐるしく飛び移りながら小さな昆虫やその卵、硬い木の実などをついばむ。地上におりることは少なく、木の穴の中に蘚類を主材として巣を作る。ヒガラはヤクスギランドである程度の数が出現しており、白谷雲水峡と岳之川林道でも少し出現している。この場合もヤマガラと同様に堅い木の実も食べるからだろうと考えられる。
以上の種は1haあたり1個体以上出現した種であるが、次に少数個体のみ観察された鳥について考えたいと思う。
ヤブサメは低木の下生えの多い林で藪の中に生活する種で、高い枝にはほとんどとまらない。ズアカアオバトは樹上で木の実を食べるが、ときには地上で草の種子や農作物を食べる。このような主に下層の茂みで生活する種や、地上に降りて餌を探す種は、比較的下層の植物もある西部林道で多く出現しているように思われる。
一方ミソサザイは、特に林床がコケに覆われたような湿った林を好む種で、ヤクスギランドや白谷雲水峡の条件にあてはまるため、それらの調査地で観察されるのは納得できる。
キビタキは樹間で昆虫を捕ることが多い。キビタキは西部林道と岳之川林道で観察されており、白谷雲水峡でも観察されている。ヤマガラやヒガラ、キビタキのように比較的下層部を利用しなくてもよいような種は白谷雲水峡とヤクスギランドでも観察されていると考えられるが、データの量が少ないため、予想の範囲を越えない。

2.標高と鳥類群集との関係

結果
図8を見てみると、標高が上がるにしたがって出現種数は少なくなる傾向が認められた。近似式を直線になると仮定して求めてみると y=−0.0051x+9.9413(R^2=0.88)であった(図9)
また、図10より、出現個体数も標高が上がるにしたがって減少する傾向が見られた。近似式は、直線と仮定して y=−0.0059x+10.562(R^2=0.3925)であった(図11)
R^2の値より、傾向の強さは出現個体数よりも出現種数の方が強かった。

考察
今回近似式を求めるために得られたデータは5つだけであった。よって、実際は直線ではなく曲線になるのかもしれない。しかし、今回は直線と見なしてその近似式を求めてみた。
求めた直線の方程式からy=0となる標高を求めてみると、出現種数の式からは約1950mという値が、出現個体数の式からは約1800mという値が算出される。また、y=1となる標高を求めてみると、出現種数の式からは約1750mという値が、出現個体数の式からは約1600mという値が算出される。屋久島の最高峰、宮之浦岳が標高1935mであるので、この傾向が正しければ、宮之浦岳山頂でも鳥類種が生息しうることになるが、個体数は理論上ゼロとなってしまい、ほとんどいないことが示唆される。
 また、R^2の値より、出現個体数よりも出現種数の方でデータプロットがより直線に近いことがわかる。このことから出現個体数の傾向よりも出現種数の傾向の方が信頼度において高いと思われる。
具体的な種構成や個体数は、「1.植生と鳥類群集の関係」の結果で述べたようになっている。なぜそうなるかというと、屋久島の植生は標高によって変わっていくので、植生の違いはそのまま標高の違いとして出てくるからである。すなわち、今回のデータでは、鳥類群集の変化が標高によるのか植生によるのかまでは明らかにできなかった。標高が影響しているのか植生が影響しているのかを調べるためには、同じ植生タイプの異なる標高の調査地を設定して比べればよいと思う。しかし、実際は一方の理由によるのではなく、両者が互いに影響しあって分布を決めていると思われる。

3.原生林と二次林における鳥類群集の違い

結果
原生林と二次林との出現鳥類種の違いを見た。図8及び図10より、標高による鳥類群集の違いが示唆されているので、大体同じ標高である西部林道と岳之川林道で比べた。
図1より、双方の出現種数の差は小さかった。しかし、出現個体数では明らかに岳之川林道の方が多かった。図3、図4及び図7から、西部林道、岳之川林道の両方に共通してメジロ、ヒヨドリ、ヤマガラ、キビタキは多数観察されていた。
しかし、少数しか観察されなかった鳥類種では大きな違いがあった。西部林道ではヤブサメ、アオゲラ、ズアカアオバト、キセキレイ、サンショウクイが観察されたが岳之川林道では出現しなかった(表3)。逆に、岳之川林道ではカワガラス、ホオジロ、カラスバト、ヒガラが観察されたが、西部林道では出現しなかった(表3)。
岳之川林道はさまざまな植生が混在していたため、5種類の植生タイプに分け、その植生タイプごとに1haあたりの出現個体数を算出した。その結果、表7及び図12のようになった。出現個体数はスギ植林地で最も少なく、開放地と混交高木林、混交低木林で多かった。果樹園では、最も少なかったスギ植林地の約2倍、最も多かった開放地の約1/2の値を示した。
また、各植生タイプでの出現種数は、表8及び図13のようになった。

考察
岳之川林道で種数・出現個体数ともに多いのは、様々な植生がモザイク状に配置されていて、他のところに比べて鳥類の生活空間、もしくはそのバリエーションが多いからだと考えることができる。
また、開放地で最も出現個体数が多くなった原因の一つには、開放地では遮るものがないために見渡しがよく、遠くの鳥の鳴き声もよく聞こえるということが考えられる。また、調査地内の開放地の面積が少なく、出現個体数を高い精度で出すことができなかったことも考えられる。
次に、岳之川林道だけに出現したカラスバトとホオジロについて考察してみる。
カラスバトは樹上でも採食するが、地上で餌を探すことが多い。また、ホオジロは主に草の種子などを食べ、繁殖も草の根元、低い茂みの中に巣を作る。このように、これらの種は下層の茂みで生活したり、地上に降りて餌を探したりする。よって、茂みがあり下層がよく茂る環境であった岳之川林道に出現しているように思われる。西部林道に出現していないのは、西部林道には、低木があり林床は暗くても、下層の草や茂みがないからだと考えられる。しかし、今回の調査では下層植生までは十分記載できなかった。鳥の中には、上記のように下層で生活している種もいるのを考えると、他調査地または異なる植生間で比較をするのに下層植生の調査の必要性を感じた。
ヒガラは、照葉樹林帯では岳之川林道に出現しているが、西部林道には出現していない。さらに、移行帯である白谷雲水峡や針葉樹林帯であるヤクスギランドでも観察されている。ヒガラが出現している3調査地に共通することは、針葉樹があるということである。このことから、ヒガラは針葉樹を好み、また針葉樹があれば広い標高帯に生息しうることが示唆される。
最初、私たちはスギ植林地では原生林と比べて鳥類相が貧弱なのではないか、という予測を元にスギ植林地の調査地として岳之川林道を設定した。しかし、岳之川林道はスギの植林のみから構成されている林分ではなかった。出現個体数に関しては、各植生タイプ別に集計でき、単純林になりがちな果樹園とスギ植林地で明らかに少ない傾向がみられた。各植生に応じた出現種数は、スギ植林地と高木混交林でもっとも多い6種となったが、この2つの植生タイプは調査面積が大きかったため、1haあたりに換算すると少なくなった。今回は植生ごとの調査面積が小さく、さらにその大きさにばらつきがあったため、種数に関しては正確なことがいえないが、出現個体数の多い場所の方が、それだけ種も多くなる傾向にあると考えられる。
この周辺に生息している鳥は、特定の植生の空間だけを利用して生活しているとは考え難く、この周辺の環境を総合的に利用していると考えられる。しかし、主な生活空間はそれぞれが最も好む環境になっていると考えられる。スギ植林にも、特徴的な鳥類群集があると考えられる。
また、当初の予想をしっかり検討しようとすれば、データをより確実なものにするために、定点調査をし、特定の木に来る鳥の種類と数を調べてみることも重要である。また、十分にラインセンサスのルートを取ることができるような、大きなスギ植林地で調査する必要があると考えられる。

4.植生と鳥類群集の多様度との関係

結果
それぞれの調査地において、多様度指数H'を表したものが図14である。
多様度指数は、各調査地別に1haあたりの出現個体数を用いて計算した。計算方法は全体の個体数に対する各種の占める割合(P)を求め、各種ごとに−Plog2Pを求め、各調査地ごとに出現種の−Plog2Pを足しあわせて算出した。
(H'=煤|Plog2P)
 図14を見ると、照葉樹林帯である西部林道と岳之川林道は2.00以上なのに対し、照葉樹林帯と針葉樹林帯の移行帯である白谷雲水峡と針葉樹林帯であるヤクスギランドは2.00以下であった。種の多様度で見ると照葉樹林帯が高いといえる。
 また、標高別に多様度指数をプロットしていくと図15のようになる。この近似直線を描いてみると、y=−0.0006x+2.2385(R^2=0.9355)となった(図14)。

考察
 図15より、種多様度は標高が上がるにつれて減少していく傾向が認められる。しかも、R^2の値が大きいので、この傾向は確からしいといえると思う。また、図9及び図11より、標高が高くなるほど出現種数・出現個体数が減っていくことも表されている。これからも、種多様度の多さは標高の高さが増すと減少していくといえるのではないか。
 ただし、「2.標高と鳥類群集との関係」でも述べた通り、屋久島の植生は標高によって変わっていくので、植物相の違いはそのまま標高の違いとして出てくる。よって、多様度指数の違いが標高と植生のどちらによっているのかを示そうとしたら、同じ植生で異なる標高の調査地を調べるか、同じ標高で異なる植生の調査地を調べて比較する必要がある。
 
おわりに
 私たちは、屋久島内の特徴的な環境を4つ選定し、鳥類群集を調べた。さらに、鳥という側面から見たスギ植林と混生林との多様性の違いについて取り上げた。
 結果をみると、混生林の方がスギ植林よりも多様性が高いということを示していると思われる。しかし、この多様性とは鳥に関してのことであるし、調査期間がわずか3日間ということも多様性を論じるにはデータとして不十分といわざるを得ない。まず、調査地の問題が大きい。スギ植林がなかなかみつけられず、ヤクスギランドや白谷雲水峡、岳之川林道をスギ林として取り上げたが、実際には前者2つは標高の低いところでは混生林となっており、スギだけの林は我々が登ったほんの一部、上の方だけであった。また、岳之川林道はスギや照葉樹などがパッチ状に存在した環境であり、純粋なスギ植林のデータを得ることはできなかった。さらにこの調査を続けるならば、十分に大きなスギ植林でロードセンサスを行う必要がある。また、歩きながら鳥の鳴き声などから個体調査するロードセンサスだけでなく、定点調査を行いより正確にそこにいる鳥を観察するのも必要だろう。
 植生についてもまだデータが不十分である。今回森を大きく捉えようとしたときにまず注目し調査したのは目につく大きな木であった。これはもちろんその森の特徴を表しているものだが、今回鳥の生活様式を調べて考察していると、下層の植生というものが鳥にかなり影響していると感じた。鳥と植生との関係を考察するには、さらに詳しい下層の植生調査が必要である。


次のページへ

目次に戻る