けん引免許 教習記

けん引免許を教習所で取得した記録です。私は大型免許はおろか普通免許も取ったことがない状態で、けん引免許を取りました。

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前提知識

けん引免許とは

車両の後ろに、750kgを越える車両を連結器で接続し、これを引っ張りながら運転する (牽引する) ときに必要な運転免許がけん引免許です。この場合、先頭部分の車両を運転するための運転免許とけん引免許の両方が必要になります。なお、750kg以下の車両を牽引する場合や、故障車を牽引する場合は、この免許は要りません。

けん引免許は単体では意味をなさない免許で、普通車で牽引する場合 (先頭車両が普通車) は普通免許とけん引免許が、大型車で牽引する場合は大型免許とけん引免許が要ります。

まあ、自家用車に大きめの (750kg超の) キャンピングカーなどを連結したいからこの免許を取るという人もいるでしょうが、たいていの場合、この免許は大型トレーラーを運転するために取るものだと思います。つまり、基本的には大型 (トラック) 免許を持っている人がさらに大きな車両 (トレーラー) を運転するために取る免許と位置付けられます。

取得条件

取得条件は、四輪免許 (大型、中型、準中型、普通、大型特殊) のいずれかを持っていることです。と言っても通常は、大型免許を取った後でけん引免許を取るのが一般的な順序だと思います。世の中のトレーラーはほとんどが大型トレーラーなので、大型免許を持たないけん引免許ではほとんど使えないですからね。

視力の条件は普通免許や大型特殊免許より厳しくなり、大型免許と同じ条件になります。眼鏡をかけてでいいので、両目で0.8以上が必要です (普通免許や大型特殊免許なら0.7以上でいい)。あと、けん引免許には深視力の試験があります。2.5m離れた位置に3本並んだ棒があり、そのうちの真ん中の棒が左右の棒より奥にあるか手前にあるかを誤差2cm以内で見分けられることが条件です。背景も影もいっさいなく、棒だけしか見えないという条件で行なわれるので、この深視力検査で苦労する人も多いようです。

教習の進め方

指定自動車教習所 (以下「教習所」) での教習は、すべて場内コースだけで行なわれ、路上教習はありません。仮免許がないので修了検定はなく、卒業検定だけがあります。卒業検定も場内コースだけで行なわれます。教習期限は普通免許などより短い3か月間で、この期間内に教習を終えないとなりません。

規定教習時間 (補習がない場合) は、持っている免許の種類によらず、学科なしで技能12時間です。大型免許まで持っているような人でも、普通免許さえ持っていないような人でも、一律同じ規定時間になっています。

入所

教習申し込み

私は大型特殊免許と自動二輪免許だけを持っている状態で教習を受けました。普通免許は元々取るつもりがなかったし、大型免許 (あるいは大型二種免許) を取るには四輪免許を取ってから3年ほど待たなきゃなりません。一方、けん引免許は四輪免許を持っているだけですぐ取れます。従って、この3年ほどを待つ間に、大型車の練習を兼ねて、けん引免許を先に取ってしまおうと思ったのです。大型特殊車は免許を取って以来一度も運転していなかったので、これほど経験のない状態で、けん引免許の教習を受けるやつもめったにいないだろうと思います(笑)。

普通免許も持っていないということで教習所の申し込みの際には何か言われるかと思いましたが、特に何も言われず拍子抜けでした(笑)。受付の若い女性は「けん引のお申し込みですね。 (手元の一覧表を見る) ……大型・普通・大特のどれかが必要です。 (私の免許証を見る) ……大特がありますね。はい、大丈夫ですよ」ってな感じ。うーん、大型特殊免許でけん引免許を取るなんてパターンは別に珍しくもないのかな?

教習は所持免許によらず同じ時間数ということは、料金も大型免許などを持っている人と同じですから、あとはそのまま入所手続きが行なわれただけです。技能しかないので、初回の技能の予約を取って、次はもう技能の時間に来て下さいとのこと。入所日に全員を集めてオリエンテーションとかはやらないのね。

免許を取った車両が運転できない

大型特殊免許でけん引免許を取ると言っても、下の図のような大型特殊の牽引車を使って教習をするわけではありません。こんな車両、探してもめったにないです(笑)。

【大型特殊牽引車(?)の図】

けん引免許の教習は、持っている免許の種類に関わらず、同じ貨物トレーラーを使うよう、法令で定まっています。私の行った教習所では7トン積みトレーラーでした。

従って、大型特殊免許だけを持った状態でけん引免許を取った場合、通常の貨物トレーラーで教習を行ない、その検定に合格したのに、その免許でそのトレーラーを運転できないという面白い現象が発生します(笑)。教習や検定は、持っている免許の種類に関わらず同じトレーラーで行なうわけですが、大型特殊免許とけん引免許の2つだけを持った状態では、大型特殊の牽引車 (上図のような車両) しか運転できない (つまり普通のトレーラーは運転できない) からです。

同様に、AT限定免許の人がけん引免許を取る場合、マニュアルのトレーラーで教習を受けて合格しても、その免許ではAT車のトレーラーしか運転できないんですよね。けん引免許はトレーラーという「車種」に関する免許ではなく、牽引という「状態」に関する免許だという考え方からこういう現象が発生するのです。いずれにせよ、けん引免許を取った順序は関係ないので、後から大型免許などを取り足せば、大型トレーラーでも運転できるようになりますけどね。

大特で牽引の実例

ちなみに、大型特殊の牽引車の実例としては、農場などで、大きな農耕作業車 (小さいと小型特殊になるので大きいやつ) で、収穫物などを運ぶために750kgを越える荷車を引っ張ることがあるようです。そういう所 (大農場) でしか必要とされない組み合わせなんでしょうね。

農業関係の施設 (農業大学とか) に行くと、このような農耕作業用の牽引車を運転してけん引免許が取れる所もあるようですが、その場合は「農耕車限定」のけん引免許になってしまうようです。一般の限定なしのけん引免許を取るには、大型特殊免許持ちの人でも、通常の貨物トレーラーで教習を受けないとならないということですね。

技能教習

教習車

技能教習初日、まずは車両の説明から。貨物トレーラーは、2つの車両が連結器でつながった構造をしています。正確には前の駆動車両 (牽引車) をトラクタヘッド (略してトラクタまたはヘッド)、後ろの連結車両 (被牽引車) をトレーラーと言うのですが、両方合わせてトレーラーと呼ぶことも多いです。トレーラーという言葉には、「全体」と「後ろ部分だけ」の2つの意味があるわけですね。

通常使われる貨物トレーラーは、先頭車両 (トラクタヘッド) は四輪ともあるのですが、後ろ車両 (トレーラー) は後輪しかありません。後ろ車両の前部分は連結器で前車両に支えられている形です。従って、分離して先頭車両だけで走らせることはできますが、後ろ車両だけではまったく動きません。

【トレーラーの全体図】

また、この構造から、後ろ車両の総重量の約半分が前車両の積載として数えられますので (第五輪荷重という)、世の中のトラクタヘッドは、ほとんどが大型車の分類になってしまうようです。

街中を走っているトレーラーは、たいてい後ろ車両 (トレーラー) の後輪が2軸 (横から見て後輪タイヤが2つ並んでいる) になっていますが、これは重い積載の重量を分散するためです。教習車のトレーラーはそこまで積載が大きくないので、上の図のようにトレーラー後輪は1軸のものが使われると思います。

トレーラーは連結部分で車体が折れ曲がるために、同じ長さのトラックより小回りが効きます。法令では、最小回転半径が12m以内でない車は道路を走れないことになっているので、その条件を満たす限界を考えると、トラックよりトレーラーの方が長い車両を作れることになります。そんなこともあってか、一般にトラックよりトレーラーの方が大きい車両であることが多いんですね。もっとも、教習車のトレーラーは、貨物トレーラーの中では最小の部類に入ると思います。

脱着作業

次に、連結器の脱着操作などを一通り見せてもらいました。これは自分ではせずに見ているだけでした。電車の連結作業は見たことがありますが、トレーラーの連結作業を見るのは初めてです。連結後にケーブル類を接続することで、ブレーキが六輪連動するようになっているようです。そう言えば、電車の連結作業ではケーブル類を接続していないけど、あれは連結器に接点があるのかな?

【分離したトレーラーの全体図】

分離したトラクタヘッドだけの状態は、なんか寸詰まりで変な感じ(笑)。トレーラー (後ろ車両) 部分は支柱で支えるようです。

けん引免許の教習は技能だけとは言っても、最初の時間の半時間ぐらいは、こういう車両構造の学科みたいなこともやるんですね。まあ、教室に座ってではなく、車両を前にしてですけどね。なお、これ以後はすべて連結状態で教習するので、脱着作業をすることはありません。また、これらの脱着作業を見せたりしない教習所も多いようです (見せる方が少ないみたい)。

半クラッチ練習から

残りの時間は実際に運転をします。ここで指導員が教習原簿をまじまじと見て、「えっ!? 大特って、普通免許は持ってないの?」「はい」「取り消されたとか?」「いえ、最初から持ってません」「ええっ!? ひょっとして、クラッチのある車は初めて?」「いえ、二輪で……」といった会話がありました。「変わった取り方をするなぁ。普通免許だけの人は時々来るけど、こんなのは初めてだ」とか。やっぱり、普通免許も持ったことのないやつがいきなり7トン積みトレーラーで教習だなんていうのはめったにないか(笑)。

その後、指導員が変わるたびに「君が大特けん引の子か」などと言われる始末。変わった取り方をするやつがいると、指導員室の話題の人になっているようです(苦笑)。入所申し込みの時点で注目されなかったのは、受付の人があまり、大特でけん引を取るという状況をわかっていなくて、事務的に処理したということのようですね。

「仕事は何を?」と指導員。やっぱり、こんな免許を取っていたら絶対に聞かれますね。ただの夏休み中の大学生なんですけどね(笑)。他にも「大特で何を牽引するの?」とか「そんなマニアックな免許の取り方、どこで聞いた?」とか色々言われました(苦笑)。「大型免許を取る時の練習を兼ねて」とか答えていました。

さて、話を戻して、技能1時間目。私の場合、まずは半クラッチの練習から入ることになりました。まあ、バイクの時に手でやっていたことを足でやればいいわけですから、理屈としてはそんなに難しい話ではありません。「二輪を持っててくれて助かったよ」とか言われました。二輪免許があるのって、そんなに違うものなのかなと思いましたが、ギアチェンジのタイミングがわかるという点は大きいのかもしれないですね。私は普段、バイクには乗っていませんでしたが、教習所の補習でかなり鍛えられたので(苦笑)、ギアチェンジについてはわかりました。

チェンジレバー

しかし、ギアチェンジのタイミングがわかるのはいいんですが、問題はその操作です。バイクはペダルを蹴り上げればギアが上がり、蹴り下げればギアが下がります。3速から4速に上げようと思って間違えて下げてしまうなんていう操作ミスはあり得ません。大型特殊車もレバーを奥に押せばギアが上がり、手前に引けば下がる形だったので間違えようがなかったのです。

しかし、トレーラーは (普通車もそうですが)、レバーを真上に上げたのと少し右の上に上げた場合で違う所に入ってしまうのです。ギアを上げたいのに下げてしまうとか、下げたいのに上げてしまうとかいった操作ミスがよく起こって困りました。下の図は、一般的なギア配置で、太線は入れるのに力がいる部分です。教習車は図の大型車タイプの配置でしたが、車両によってはこれらの中間的なタイプもあるようです。

【普通車と大型車のギア配置】

後述の通り、普通車では1速、大型車では2速で発進するのが基本です。どちらもニュートラルの左上のギアから発進という共通性を持たせた設計なんだと思います。しかし、この配置のおかげで、発進しようと思ってバックギアに入れるという間違いを何度もやってしまいました。要は力を入れ過ぎていたわけですが、発進するギアとバックするギアがニュートラルから見て同じ方向にあるなんて……。まあ、バックに入れると警告音が鳴るので、そのまま発進してしまったりはしませんが。

2速で発進

というわけで、普通車やバイクはギアは1速 (ロー) で発進しますが、トレーラーなどの大型車は2速で発進するのが原則です。というのも、この手の車両は、最大積載まで荷物を積んでいる状態でも上り坂で発進ができなければなりません。そのため、1速は超強力なパワーが出るように設計されています。でも荷物が空のとき (空車) の平地ではそこまでのパワーは要らないのです。だから普段は2速発進で充分というわけです。ということは、2速を「ロー」、1速を「超ロー」と呼んだ方が実情をよく表せる状態なのかも…… (そんな呼び方はしないですけど)。

で、この2速でさえ、バイクの1速などよりももっとローだと感じました。2速でアクセルを奥まで踏み込んでも徐行以上のスピードが出ません。このギアは静止状態から動き出すまでの間に必要な強いパワーを引き出すためだけのもので、走行するためのギアじゃないんですね。従って、早く加速しようと思うと、発進してタイヤが1回転もすればもう3速に上げるぐらいの運転が必要だと思いました。3速は普通に引っ張れます。左折の徐行時なども3速を使います。この教習所はかなり広くて、周回の直線部分は200mぐらいあったので、直線は5速まで上げて走行しました。

ただし、踏切内ではギアチェンジしてはいけない規定なので、踏切では2速で引っ張らないといけません。全然速度が出ないので、結果として踏切内は超徐行になってしまいます。うーむ……。

超強力パワー

バイクは (普通車もですが) 発進時にクラッチを乱暴につなぐとエンストしますが、トレーラーは少々乱暴にクラッチをつないでもエンストしませんでした。強引に発進できます。実際、教習中は一度もエンストしませんでした。こりゃあ、ほとんど半クラッチも要らないやと思っていると、「そんなに乱暴に発進してると、衝撃で荷崩れするぞ」と注意されました。

そう、私はバイクの教習の時に「発進時に半クラッチにするのはエンストさせないため」という間違った知識を身に付けてしまっていたのです。本当は「滑らかに発進するため」だったんですよね。クラッチをガツンとつないで発進したのでは、発進のたびに衝撃が起こることになります。ギアチェンジの時も同様です。教習車は空車とは言え、荷物を運ぶという車両の目的を考えると、衝撃が起こらないようにクラッチをつながないと……。

アクセル要らない

しかし、ゆっくりクラッチをつないでるつもりでも、やはり発進はガクッと衝撃が起こります。最初はこれは、連結器がトレーラーを引っ張る時の衝撃なのかなと思っていましたが、違いました。「アクセルを踏んでるから急発進になるんだよ」……えっ?

バイクでは (普通車もですが)、発進時は少しアクセルを開けた状態でクラッチをつなぎます。トレーラーも同じだと思って、少しアクセルを踏み込んでクラッチをつないでいましたが、違ったようです。

「アクセルもブレーキも踏まずに、クラッチだけ踏んで。じゃあ、そのままスッとクラッチをつないで」……あれ? スムーズに発進できた。「何トンも荷物を積んでるとか、上り坂だとかいうのなら話は別だけど、こんな空の車を平地で発進させるのに、アクセルなんて要らないの」……そ、そうだったのか。クラッチをつないでからアクセルを踏み始めるぐらいでちょうどいい感じでした。空車の貨物車って、どんだけパワーあり余ってるんだって感じです。

ブレーキ効きまくり

大型車のブレーキは、最大積載時の下り坂でもきちんと停止させるためのものですから、超強力なものが付いています。空車の平地では効きまくりです。ちょっとブレーキを踏んだだけで、ムチ打ちになりそうなぐらいガクっと止まります。何だ、こりゃー。これまた衝撃を起こさないように止めないといけません。これがなかなか慣れませんでした。

ブレーキの踏み込みの上側4分の1だけを使う感じ。それでもかなりの減速です。そして止まり掛けたらブレーキを緩めるのがポイント。奥まで踏み込むのは完全に止まっている時だけです。

エアブレーキなので、ブレーキペダルを緩めるたびにプシューとエアの抜ける音がします。蒸気機関じゃないけど、なんかスチームパンクっぽい雰囲気でかっこいい(笑)。

クラッチを踏むと加速?

低速ギアでブレーキを踏んで減速中、クラッチを切る (踏み込む) と加速してしまいます。ブレーキは踏んだままなのに、一瞬ブレーキが効かなくなったような感じ。止まろうと思ってクラッチを踏んだのに、そのせいで加速を感じるので、「うわ、止まれない」と慌ててブレーキを強めに踏み込み、ガツンと強烈な勢いで止まるというのを何度もやってしまいました。

でも、アクセルを踏んで加速中だと、クラッチを踏んでもこの現象は起きません。ということで、おそらくこの原因はエンジンブレーキでしょうね。トレーラーの低速ギアは極端にロー寄りだと考えれば、エンジンブレーキが非常に大きく効いていても不思議はないです。クラッチを切るとエンジンブレーキが効かなくなって加速するのでしょう。

というわけで、止まる時はギリギリまでクラッチを切らないことですね。私はクラッチを切るタイミングが早過ぎたようです。早めにクラッチを切ってしまうと、非常に止まりにくくなります。5km/h以下 (徐行よりも遅いぐらい) のほとんど止まる直前になってからようやくクラッチを切るぐらいのタイミングかな。

ミラー見えまくり

大型車のミラーはとてつもなく大きいです。とにかくミラーが見えまくりなんですね。自分の車両の前輪も後輪もミラーで直接見ることができます。角を曲がる時などは、内輪差で脱輪しないように、そして大回りもしないようにと、ミラーで後輪を見ながら曲がります。左に曲がっていくときなら、左のミラーで左後輪を見て、後輪が縁石から離れてきたらもう少し左にハンドルを切り、後輪が縁石に近付きそうになったらハンドルを戻すというように、ミラーを見ながら微調整をする感じです。

もちろん、ミラーだけをずっと見ていたのでは前方不注意になりますが、第1段階の慣れないうちは、ずっとミラーを見ながら曲がっていくぐらいでもいいとのこと。とにかくミラーをよく見て、左の後輪と縁石 (右曲がりカーブなら右の後輪と車線のライン) の間を一定距離に保つように、ハンドル調整しながら曲がっていくように言われました。そして4〜5時間教習を受けて慣れてきたら、進行方向を見ながら進み、ミラーをチラチラ見るぐらいの比率に変えていくようにという話でした。大型車はとにかくミラーが大事なんですね。ミラーを見ながらカーブを曲がるだなんて想像もしませんでした。

ハンドル操作と左折

トレーラーは、カーブで前の車両 (トラクタヘッド) が左に曲がると、それに引きずられて後ろの車両 (トレーラー) も左に曲がるのですが、ちょっと遅れて後ろが付いてきます。ハンドル操作をしてから実際にトレーラーがその方向に動くまで少しタイムラグがある感じです。別に何秒も遅れるわけじゃないんですが、少しだけ先を考えて早めにハンドルを切らないとならないわけですね。

かと言って、交差点を左折するときなどにハンドルを早めに切ってしまうと脱輪します。脱輪しないようにするには、トラクタヘッドが交差点の角に来てもそのまま直進し、トレーラーの後輪が交差点の丸まり始めの位置 (下の図の太矢印) に差し掛かろうとした頃ぐらいからハンドルを切り始めるようにしないとなりません。しかし、先述の通り、トレーラー部分の挙動はハンドル操作より少し遅れ目になるので、実際はその少し手前ぐらいの位置からハンドルを切り始めるとちょうどいいみたいです。

【トレーラーの左折開始地点の図】

だいたい上の図の位置ぐらいまで直進して、ここからようやくハンドルを回し始める感じです。図の白丸は運転席の位置です。つまり、運転席が完全に交差点内に入って、さらに進んだぐらいから、ようやくハンドルを回し始めます。そして、回し始めが遅い分、一気に切っていきます。

【トレーラーの左折の図】

上の図のように、トラクタヘッドは、曲がった先の路端に向かって突っ込んでいくような感じのライン取りで進ませます (図の赤矢印方向)。これで後ろ車両 (トレーラー) はきれいな円弧を描いて路端に沿って曲がっていきます。

この後は、ハンドルを大きく右に切っていき、車体が路端と平行になるように進めていきます。もし普通の車で同じハンドル操作をしたら、かなり蛇行して進むだろうと思いますが、これが、トレーラー (後ろ) 部分の誘導のためのハンドル操作なんですね。

左折はあらかじめ左に寄ってから路端に沿って曲がらないといけませんが、これは車体の最も内側の部分 (トレーラー左後輪) を路端に沿わせて曲がれという意味であって、トラクタヘッドの部分は沿いません。なお、一旦右に振ってから左折すると、あまり車体を前に出さずに曲がれますが、これは禁止です。正しい走行は、右に振って曲がるのではなく、前に振って曲がるイメージです。

しっかりミラー確認

またこの時、例えば「中央線の位置まで進んでからハンドルを切り始める」とかいう風に運転席の位置でハンドルを切るタイミングを覚えるのはダメだと言われました。それをしていると、車体の長さの違う車が運転できなくなるとのこと。必ずミラーで後輪を見て、後輪と交差点の角との距離でタイミングを測らないとならないわけですね。

左にどれだけ寄せているかなども、運転席からの見た目ではなく、ミラーで確認します。後輪を路端に沿わせるときもミラーを見て曲がっていきます。しっかりミラーを見るようにすれば、どの交差点も、路端から50cm以下の間隔にまでぴっちり寄せた状態でも左折できるようになりました。ミラー様々です。

直線バック

直線バックをやりました。普通の車 (トラックやバスや大型特殊車なども含む) なら右にズレたら左に、左にズレたら右にハンドルを切って修正しますが、トレーラーはバックのときには普通の車と逆のハンドル操作になるのが特徴です。右にズレたら右にハンドルを切って修正します。これって、バイクで倒れそうになったときに、倒れそうな方向にハンドルを切って修正するのに似ているのかなと私は勝手に思ったりしました。

実際にやってみました。窓から顔を出して白線に沿ってバックしますが、全然まっすぐバックできません。どんどんズレてくるよー。しかし、直線バックは検定課題にはないからとか言って、1回やっただけで終わりになってしまいました。そんなんでいいのか?

教習時間の問題点

どうやら、大型免許を持っている人やセンスがいい人など、教習がどんどん進められる人は、このような検定課題にない教習もみっちりやるようなのですが、私のように教習が遅れている人は、時間を合わせるために、検定課題にない部分はどんどん飛ばしていくという方針のようです。

しかし、この教習所の方針が問題だと言う以前に、一番の問題は、けん引免許の規定教習時間が所持免許によらないという法令ではないでしょうかね。どう考えても大型免許を持っている人と普通免許さえ持ってない人では習得時間は違うでしょう。それを同じ時間に定めているから、こんな問題が起こるんだと思います。

まあ、けん引免許は「車種」に関する免許ではなく「状態」に関する免許だという考え方から、所持免許によらない教習時間という規定が出てきたんだとは思います。でも、現実にはトレーラーという「車種」を運転して教習が行なわれるわけです。牽引という「状態」のみが教習できるなんて、机上の空論なんですよね。

見極め

さて、教習所では各段階の最後の時間に見極めがあり、それに合格しないと次の段階に進めないように法令で決まっています。しかし、私の場合、まだ合格レベルとは思えない状態なのに見極め合格をもらえました。「次の段階で復習しながらやっていこう」とか言われて……。

通常、けん引免許の教習は、半分以上がバックの練習です。でも、私の場合は、教習時間の半分 (6時間) 以上が過ぎても、まだ直線バックを2〜3分やっただけでした。それも、「一応、形だけでもこの段階でやっておかなきゃならない規定だから」って感じでやっただけだったし、明らかに教習は遅れています。

教習原簿には、鉛筆書きで「○○がまだできてない」と申し送り事項が書かれた上で、ボールペンで「見極め合格」と書かれました。この、鉛筆とボールペンの使い分けは、公安委員会の査察が入ったときの対策なんでしょうか(苦笑)。補習にしたらいいのにと思いましたが、実はこの教習所は、普通免許と大型免許がメインの教習所で、けん引免許の教習車は1台しかありません。入所の時もちょっと待たされたし、後がつかえているということか……。

検定課題

けん引免許の検定課題は、右左折などを除くと、踏切、指示速度、S字、方向変換です。踏切は止まって確認するだけなので、他の課題を挙げましょう。

指示速度

指示速度は、指定された区間内で指定された速度を出すという課題です。何km/hを指定されるかは車両とコースによって決められるので、教習所によって違います。私の場合は40km/hだったかな。直線は200mぐらいあったので、この速度を出すのは難しくはありませんでした。この課題はコースが狭い教習所の方が不利ですね。

S字

S字 (曲線狭路コース) はタイヤがコースからはみ出してはいけませんが (縁石に接するのもダメ)、車体はコース上空にはみ出しても構いません。内輪差を考え、トラクタヘッドの前輪がギリギリ外側を通るようにします。左カーブの場合、正しい位置を通っているときは自分の体が縁石の上を通っていくような感じに見えます。車体が完全にはみ出しているように見えるのに、アンダーミラーなどを見てみると、タイヤははみ出していないんですよね。不思議な感覚です。

ギアは2速で軽くアクセルを踏むぐらいがちょうどいい速度だと思いました。また、S字の左カーブと右カーブが切り替わる点 (コース中ほど) では、滑らかに次の外側に向かっていくのではなく、ギリギリまで前のカーブの円弧のライン取りを保ち、その後、急いで次のカーブの縁石に沿わせるようなライン取りの方が通りやすいみたいです。下の図の破線の動きではなく、実線の動きで通るということです。要は、ここでもハンドルを少し切り遅らせるわけです。

【トレーラーのS字通過の図】

こうすることで後ろ車両 (トレーラー) が引きずられて外側に振られ、次のカーブの内側後輪に余裕が出ます。トラックではこんなことをしても全然変わらないけど、トレーラーではこれで後ろ車両 (トレーラー) が全然違う動きをするという話でした。と言っても、あまり遅らせ過ぎると今度は前輪が危なくなるので少しですよ。

なお、コースによっては、左カーブと右カーブの順序は上記の図と逆のこともありますが話は同じです。

方向変換

けん引免許の方向変換は、単にバックして車の向きが変えられればいいだけではありません。車庫のスペース内にトラクタヘッドとトレーラーを一直線にして停車させなければなりません。入れ終わったら「完了しました」と宣言。その時、車体が折れ曲がっていたら切り返してやり直しになります。そういう意味では、この免許に関しては、方向変換の課題というより車庫入れの課題に近い状態になっています。下の図は折れ曲がってしまった失敗例です。

【トレーラーの方向変換失敗の図】

まず指導員がやり方を説明しながらやって見せてくれました。「あの看板のラインに合わせて止め、何個目の縁石に並んだらハンドルを左に何回転。次に何番目のポールがここに見えたら右に……」 ええっと、なんか全然応用が効かないような教え方なんですけど……(笑)。言われた通りにやってみると確かに成功しました。どの位置に来たらハンドルを何度回すかを完全に丸暗記するという方法ですから、方法を忘れないかぎりは何度やってもうまく行きそうです。ただ、なぜそういう回し方をするかや、どういうときにはどう回せばいいのかは全然わからないままでしたが。

なお、方向変換では1回の切り返しは減点なしなので、失敗しそうになったら切り返してやり直すところですが、「トレーラーの切り返しは難しいので、失敗したら最初の場所まで前進して最初からやり直すように」とのこと。えーっ!! まあ、確かに最初まで戻っても切り返し1回は1回だけど、そんな方針でいいのか?(笑) これも、私の教習が遅れていたからカットになっただけで、教習の進んでいる人には切り返しも教えるのかもしれませんけどね。なお、切り返しは2回目からは減点になります。

卒業、そして…

卒業検定

卒業検定は全長1200m以上の場内コースを走り、ミスするたびに減点される減点法の採点で70点以上が合格です。コースは2種類あり、検定当日にどちらかに決まる仕組みでした。2つのコースは、方向変換が右からか左からかの違いです。

教習の最後の2時間ぐらいは、卒業検定のコースを延々走らされました。発着点からスタートして第1コースを走り、完走。再びスタートして第2コース完走。再びスタートして第1コース……。教習時間の最初から最後まで、延々これの繰り返し。めぼしい課題はS字と方向変換だけで、方向変換はどの位置でハンドルを何度回すかを完全に丸暗記していますので、最終的には、何度やっても失敗なしで走れるようにまでなりました。最終段階は文句なしの見極め合格です。

検定当日も練習通りに走行し検定合格。もう何度も走ったコースですからね。普通免許さえ持っていない状態での教習で、どうなるかと思いましたが技能教習12時間、卒業検定1回のストレートで卒業でした。けん引免許に学科はないので、卒業後は運転免許試験場 (免許センター) で適性試験 (視力検査など) を受けただけで免許になります。深視力は難なくクリアできました。

総括

確かにストレートで卒業できましたが、これでけん引免許取得相当の能力が付いたかと聞かれると極めて疑問に感じざるを得ません。私の場合、他の教習生に比べると、前進の教習に時間を掛け過ぎてしまって、バックの教習がほとんどできなかった感じのようです。まあ、普通免許さえ持っていないようなやつを12時間の教習時間だけで検定合格まで持っていこうとすれば、これが最良の方法だったのかもしれません。「車庫入れができないのは免許を取ってから練習することもできるが、前進ができないと公道は走れない」みたいな話は指導員もしていました。

ただ、方向変換に関しては全然応用の効かない教え方をされたので、このコースでこの車両でなら合格できるが、コースや車両が変わればまったく合格できないどころか方針すら立たないような状態だったと思います。事実、私は、トレーラーのバックの挙動についてまったく理解しないまま免許を取っていました。それを思い知るのは、それから何年も経ってからでした。

それから何年か後…

トレーラーのペーパードライバー練習

それから何年も経ったあと、大型二種免許 (バスの免許) を取ったのを機会に、今までに取った免許を復習してみようと思い立ち、自動車練習場で時間練習を申し込みました。1時間いくらで、運転練習をさせてもらえる所です。トレーラーは免許を取って以来一度も運転したことがない状態でした。この手の練習場は、通常は、運転免許試験場で技能試験 (一発試験) を受ける人が練習をする所なので、普通車ならともかく、トレーラーをペーパードライバー練習で申し込む人はめったにいないと思います(笑)。

トレーラーは久しぶりに運転しましたが、発進、停車、カーブ、右左折、S字、どれも問題なく走行できました。と言っても、何年経っても覚えていたってことではなく、バスの免許を取った直後だから運転できたんだと思います(笑)。

S字左折進入

S字は右折で進入するより、左折で進入する方が難しいです。下の図のように、右折なら道路を横切っている間に進入位置のライン取りを見極めることができますが、左折は左に寄せた状態から直接進入しなければならないからです。当然、右に振ってから入るとかはダメです。

【S字の進入方法の違いの図】

けん引免許の教習中は右折進入しかやっていなかったので、トレーラーでのS字左折進入は今回初めてやりました。うん、なんとか大丈夫。これも、バスの教習の時に左折進入をやっていたからできた感じかな。

先述の通り、トレーラーでは左折時には、かなり前に出てからハンドルを切り始めないと後輪が脱輪します。でも、S字だと前に出過ぎると前輪が脱輪するので、結局、前後輪ともギリギリの状態での進入になるのです。これは前ばっかり見ていると、前輪の脱輪が怖くて早く切ってしまいたくなるけど、要はちゃんと左ミラーを見て、後輪を縁石に沿わせて通すことを考えればいいわけですね。

ギリギリまでハンドルを遅らせて、半クラッチの超徐行で一気にハンドルを切る感じです。一旦、中に入ってしまったらクラッチをつないで少し加速することもできます。入り口が一番慎重に進まないとなりません。

直線バック

そして、いよいよバック。まずは直線バックをやりました。左右のミラーを見ながら、どっちにゆがんでいるかを判断し、ゆがんだ方向にハンドルを切るという方法を言われました。でも全然うまくいかず、ぐねぐねに曲がっていきます。すると、「ハンドルを切る方向は合ってるが、ゆがみに気づくのが遅い」と言われました。

車体のゆがみは、どこを見て判断しているかと聞かれたので、ミラーに写っている荷台だと答えました。ゆがみ判別方法は1つではありません。左右のミラーに写った荷台の面積比から判別する方法や、荷台と道路が平行かどうかで判別する方法、窓から顔を出してトレーラー最後尾の方向を確認する方法、後ろ窓を振り返って連結部分を見る方法など色んな方法があります。人によってやりやすい方法は違うけど、左右のミラーに写っている後輪を見たらわかりやすいと言われました。

見てみると、なるほどこれはわかりやすい。ほんのちょっとの角度折れ曲がっただけで、タイヤの見え方が劇的に変わります。ちょっとでもズレがわかれば即修正……をやっていれば、ハンドルはほとんど切ることはないんですね。こんなにちょっとだけのハンドル操作で完全にまっすぐバックできるなんて思ってもいませんでした。初めて直線バックがうまく行きました。ズレの修正操作も大事ですが、それ以前に、いかに早くズレていることを見つけるかが重要だったんですね。

周回バック

次に、周回カーブの追い越し車線を使って車線に沿ってバックというのをやりました。こういうのは初めてです。全然車線に沿えません。「前進はいいけど、バックは挙動がわかってないな」と言われました。

うーん、教習所では「どのポールが見えたら何度回す」なんていう丸暗記の覚え方をして取った免許ですから、あれから何年も経って何度回すのだったかを忘れてしまった今、残っているものが何もないんですね。しかも、カーブに沿ってのバックだなんてやったことがありませんし。

トレーラーのバックの仕組み

その次の時間、コースの広い所でバックの挙動を教えてもらいました。なお、以下の図は模式図なので、ハンドルを回す角度は実際とは異なります。1回転以上させた図だとわかりにくいもので(笑)。

釣り合いの位置

まずは、車をまっすぐに止めたところからスタートです。「ここから右にバックしたいときはハンドルはどう切る?」と指導員。「左……」「その通り。じゃあ、ハンドルを左に1回転してからバックしてごらん。ほら、トレーラーが右に折れてきたよね。じゃあ、ここでハンドルを元のまっすぐの状態に戻してからバックしていくと、どう動くと思う?」「え? トレーラーの向いてる方向?」「違うよ。やってみてごらん」「あれ?」

なんと、ハンドルはまっすぐ (右にも左にも切っていない状態) なのに、どんどん右に折れてきます。

【ハンドルまっすぐでも折れてくる図】

ここまでの挙動をまとめます。トレーラーはハンドルを左に切ると右に折れる。そして一旦右に折れてしまうと、もうハンドルを左に切らなくても (ハンドルまっすぐでも)、どんどん右に折れ込んでいくのです。

これ以上折れるのを防ぐには、ハンドルは逆の右に切らないといけないのです。右に切っていくと、これ以上折れないで、一定の角度を保ったまま (一定半径で) バックできる点があります。これが釣り合いの位置です。

そして、この釣り合いの位置はトレーラーの折れ角によって違う位置にあり、右に大きく折れているほど、釣り合いの位置は、より右に回した位置にあります。

【折れ角によって釣り合いの位置が違う図】

釣り合いの位置からズレた場合

「じゃあ、この釣り合いの位置よりは左で、ハンドルまっすぐの状態よりは右という、真ん中ぐらいのハンドル位置でバックするとどうなると思う?」「……?」「ほら、トレーラーはまたどんどん右に折れてきているね。そう、ハンドルまっすぐの状態から見てどっちに切ってるかは関係ない。釣り合いの位置から見て左に切ってるから右に折れていくわけだよ」……お、何か見えてきたぞ。

【釣り合いの位置より左なら右に折れる図】

「じゃあ、釣り合いの位置より右に切るとどうなると思う?」「左に折れる?」「その通り。でも今はすでに右に折れた状態だから、ここから左に折れていくということは車体がまっすぐになっていくということ。まっすぐになった後は左に折れていくわけだね」

【釣り合いの位置より右なら左に折れる図】

まとめ

ようやく挙動がわかりました。トレーラーはバックではハンドル操作が左右逆になるというのはその通りなんですが、その左右の中心、つまり、原点がどこかが問題だったのです。

まず、車体の左右は、運転席を中心に考えてはいけません。トレーラー (後ろ車両……って、バックだから前車両か?) の向いている方向を中心に右か左かを考えます。

そして、ハンドルの左右の中心は、ハンドルまっすぐの状態 (右にも左にも切っていない状態) を中心に考えてはいけません。釣り合いの位置 (車体の折れ角が変化せずバックできるハンドル位置) を中心にして右か左かを考えます。

これらの中心に対して、それぞれ左右反転状態 (つまり、左に行きたかったら右に回す) なのです。もちろん、釣り合いの位置はトレーラーの折れ角によって変わります。車体が大きく折れているときは、ハンドルを多く回した所に釣り合い位置があります。

【釣り合いの位置が中心になる図】

で、この図を見るとあることに気が付きます。「ハンドルを左に切れば車両は右後ろに進む」(図では緑の破線方向) という言い方をすれば、確かに左右反転しています。しかし、回転方向という観点から見れば「ハンドルを反時計回りに回せばトレーラーは反時計回りに折れる」という挙動になっています。実はハンドルとトレーラーの動きは一致しているのです。

つまり、トレーラーを回転させたい (折り曲げたい) 回転方向にハンドルを回せばいいという捕らえ方もできます。進行方向という観点では左右逆だが、回転方向という観点では逆じゃないのです。従って、回転方向という考え方をすれば、とっさのときも混乱せずに回せます。

そして、ハンドルが釣り合いの位置 (車体の折れ角が変わらない位置) から少しでもズレていれば、トレーラーの折れ角は、どんどんそのズレが大きくなる方向に動いていきます。要は、車体には常に、釣り合いの位置からズレようとする方向の力が働いていると考えればいいです。

釣り合いの位置とは、絶妙なバランスの上に立った、ただの一点なのです。だから現実問題としては、微妙にハンドルを調整しながらバックしていかなければ、折れ角一定は保てません。

今、知った…

しかしこれって、けん引免許の最も基本の知識じゃないですか。これは教習所時代に教えてほしかったです。これを理解させずに、けん引免許を取らせるなんておかしいですよ。いくら規定の12時間以内に収めようとしていたとしても、これを説明する30分ぐらいはあったはずでしょうに。それを何年も経ってから知るなんて……。

というわけで、これを理解していると、曲がりたい方向と違う方向に進んでいってるときに、どうハンドルを切れば修正できるかがわかります。これで、後退幅寄せや切り返しもできるようになりました。これなら縦列駐車もできそうだと思いました(笑)。教習所では切り返しを教えてくれなかったけど、その理由もわかりました。切り返し自体が難しいのではなく、切り返した後は中途半端な位置から再開しないとならないので、「どの位置に来たら何度回す」の丸暗記方法からズレてしまうからだったのね。

トレーラーの挙動の物理学的考察

上記のトレーラーのバックの挙動を、物理学的 (力学的) に考察してみましょう。以下の図も模式図なので、ハンドルを回す角度は実際の車とは違います。実際はもっと多く回さないとこの角度には進みません。

折れ角一定になる場合

普通の車で右にハンドルを切った状態でバックすると、車は右斜め後ろに進みます。では、この車の後ろに、ちょうどその右斜め後ろ (現在バックで進んでいる方向) を向いたトレーラーがあったらどうでしょう (下図)。トラクタヘッドは右斜め後ろに進もうとするわけですが、その先にトレーラーがあるので、トラクタヘッドはトレーラーをまっすぐ押す形になり、そのままトレーラーを押しながら右斜め後ろに進むことになります。これが釣り合いの状態です。

【トレーラーが一定角度でバックする図】

もっと折れてくる場合

この状態で、ハンドルを切る量を少なくした場合を考えます (下図)。普通の車なら今まで進んでいた方向より、もっと真後ろに近い方向に進むことになりますね。トラクタヘッドも同様で、もっと真後ろに近い方向でトレーラーを押すわけです。しかし、これはトレーラーに取っては斜め方向から押された形になります。

机の上で長い棒 (定規など) の端を斜めから押してみるとわかりますが、重心が摩擦で固定されたようになって回転する力が働きます。トレーラーも同じで、お尻は逆の右方向に振れながらバックしていくことになります。この回転力のために、トレーラーはもっと折れてくるのです。

【トレーラーが折れながらバックする図】

伸びてくる場合

逆にハンドルを切る量をもっと多くした場合は、その逆です (下図)。トラクタヘッドとトレーラーの折れ角は、だんだんまっすぐに伸びてくることになります。

【トレーラーが伸びながらバックする図】

長い棒を端から押している状態だと考えれば、常に釣り合いの位置 (一定方向に進む状態) からずれようとする挙動も理解できるかと思います。釣り合いの位置は、左右の回転力が釣り合っている状態というわけです。

バックの具体例

では、具体例としてバックして右に方向を変える場合を考えます。左は逆に考えればいいです。ここでは、折れ角一定の釣り合いの位置を使う方法を挙げますが、他にも方法はあります。

普通の車の場合

普通の車は、ハンドルを右に切ってこの状態を維持すれば一定半径でバックできます。ハンドルを戻せばまっすぐ進みます。「右→戻」の手順です。

【普通の車のハンドル操作手順の図】

トレーラーの場合

トレーラーは、まずハンドルを左に切って、トレーラーを右に向けます。思った方向を向いたらハンドルを右に切って釣り合いの位置に合わせ、その状態を保ちます。これで一定半径でバックできます。次にハンドルをもっと右に切ると車体が伸びてきます。車体がまっすぐになったらハンドルを戻せば、以後まっすぐ進みます。「左→右→右→戻」の手順です。

【トレーラーのハンドル操作手順の図】

要するに、逆ハンドルでトレーラーの方向づけをしてから、正ハンドルでその方向をキープするという方針ですね。普通の車で1手順のハンドル操作をする部分がすべて2手順になるわけです。

方向変換コースの場合

ただ、上記の方法は、車庫前が広場になっているのなら問題ないのですが、検定の方向変換コースの問題点は、車庫スペースの前にあまり空きスペースがない点です。この方法だと下の図のように、車体の右前角も左前角もギリギリを通る時があって、最初に停める位置をちょっとでも失敗すると、この方法はもう使えません。

【トレーラーの方向変換の図】

ということで、もう少し余裕を持たせた方法を教えてもらいました。左前輪が前の縁石 (上の図では上側の縁石) に引っ掛かりそうになったときは、ハンドルを右に切るともっと引っ掛かるので、左に戻してやらないとなりません。すると、トレーラーはもっと右に折れてくることになります。この時、折れ過ぎにならないためには、その前段階で伸ばしておくといいわけです。

というわけで、まず左に切ってバックしていき角度が付いたら、右いっぱいに切って車体を伸ばしながら入れていき、後輪が角を通ったら再び左に切ってもう一度折り曲げながら入れるという方法。シャクトリムシみたいな動きですが、ハンドルは「左→右→左→右→戻」の手順になります。

しかし、私が一番やりやすかった方法は、手順などいっさい考えずに、ハンドルを早めに少なめに切り始めて、進んでいく角度を見ながら徐々に方向を修正していく方法です。自分の走行ラインが頭に描けてなければなりませんが、切り始める位置がかなりズレても対応できますし、足りなかったら切り足し、多過ぎれば戻せばいいだけです。

さらに練習

その後、別の練習所に行ってみました。ここでは所持免許を聞かれなかったこともあって、すでにけん引免許を持っていることは黙って、「よそである程度練習してきたので試験前に仕上げをしたい」と言いました。「じゃあ、まず何も言わないから自分でやってみて」と言われて方向変換。初めてのコースで初めての車両でしたが、一発で入れられました。もう一度やってみても一発で入ります。おお!

「これだけジグザグに進みながらも、きちんと入れられるというのは、トレーラーの挙動がよくわかっている証拠だな。修正の方向も正しい。ただ、ハンドル操作はもっと少なくても入れられる」……はい、その通りです(笑)。その原因もわかっています。初めての車両ということもありますが、要は釣り合いの位置が見極められていないのです。

釣り合い位置の見極め

右にバックしているときに、もうちょっと右に角度を付けたいと思ったら、釣り合いの位置より左にハンドルを切らないとなりません。右バック中なので釣り合いの位置はハンドルまっすぐの状態より右の方にあるわけですが、具体的にどの辺にあるのかが見極められていないので、とりあえず多めに左に切ります。これで、少なくとも釣り合いの位置よりはハンドルを左にすることができます。

ところが、多めに切ったので、当然このまま進むと右に角度が付き過ぎることになります。今度は釣り合いの位置より右にハンドルを切って修正しないとなりません。釣り合いの位置がはっきりわからないので、多めに右に切る。今度は角度が足りなくなってくる。また多めに左に切って修正。これの繰り返しで、曲げ伸ばしを繰り返しながらジグザグと進んでしまうのです。

「まあ、ジグザグのバックでも一発で入れられてるから、この状態で受けにいっても免許は取れると思うよ。ただ、ハンドルを多く回し過ぎてしまうのは、ちょっと据え切り (車体が止まった状態でハンドルを切る) に近くなってるからだと思う。ちょっとずつバックしながらハンドルを切っていって、どの方向に進もうとしているかを見極めながら修正していったら、正しいハンドル量を大きく行き過ぎることはない」……ああ、その原因もわかります。切り遅れて対処しにくくなるのを恐れるあまり、素早く切ろうとして据え切りっぽくなってしまうんですよね。こればっかりは慣れか……。

その後も練習し、結局、最初からの合計で10時間以上練習してしまいました(笑)。そして、一応このレベルなら「けん引免許を持ってる」と言えるレベルになったと思うので、けん引免許のペーパードライバー練習を終えました。

総括

今更の話ですが、大型免許とけん引免許を両方教習所で取るつもりの人なら、けん引免許は大型免許を取った後で取る方がいいと思います。他の免許なら多少取る順序が人と違っていても構わないでしょう。私のように普通免許を飛ばして大型車に挑戦するのも構わないと思います。段階的に取得するのは必須でもないですし、その分、規定教習時間も長くなっていますから。

でも、大型車の経験がない状態でけん引免許に挑戦すると、まず大型車に慣れるのに時間が取られ、その分、牽引車に関する教習は遅れます。規定教習時間は変わらないので、結果、補習料金が増えるかもしれませんし、さもなければ、トレーラーの本質を理解する前に免許が取れてしまうかもしれません。同じお金と時間を掛けて取るのですから、それは絶対に損だと思うのです。

さて、私は必要があってこの免許を取ったわけじゃないので、これからもトレーラーを運転しなきゃならなくなる機会なんてまずないと思います。でも、折角練習したのに、またペーパードライバーになってしまうのは、もったいない話です。今後も技能が落ちないように、たまには練習に行ってみたいなと思っています。


© 2006-2007 わたなべ