旭岳ロープウェイ〜天人峡(てんにんきょう) 前々から北海道の大自然を見てみたかった。たまたま仕事と紅葉のタイミングが合い、1週間前にいきおいで旅行を計画した。今回のメインは自分の中では見たい滝ベスト3に入る羽衣の滝、銀河・流星の滝(ちなみに残りのひとつは秋田の安の滝)を見ること。また余裕があれば黒岳ロープウェイに乗って大雪山の紅葉をちょっと見ていこうというものだった。 日程に余裕をもつため前日夜に旭川入りしておいた。第1日目は天人峡周辺を散策する予定である。9:10に駅前でバスに乗り天人峡温泉を目指す。道中の景色は油絵のように紅葉が美しい。1時間程度すると旭岳が見えてきた。噴煙を上げている山と紅葉と青い空を目の前にするとこのまま素通りしてしまうわけには行かなくなった。次のバスまで1時間半程度あるのでロープウェイ往復でもしてみようと思い途中下車。 |
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ロープウェイで10分弱で姿見駅に到着。駅では客に対して山に入る前の注意事項やおすすめコースの説明をうける。1時間程度で周辺の池の散策ができるというのでちょうど良い。時間的にはちょっと厳しいがテニスで鍛えた脚力をもってすればそうはかかるまい。まず姿見ノ池へ向かう。天気が良く風も弱いためまさに名のとおり逆さになった水面に映った旭岳を見ることができた(写真右)。周りは山しか見えない。大雪山の広さをまざまざと見せつけられた。ちなみ大雪山とは北海道最高峰の旭岳をはじめとする周辺の山々の総称である。噴煙口、鏡池と擂鉢池からなる夫婦池(写真下 鏡池)等を見て回りなんとか30分程度で駅にたどりついた。 | ![]() |
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12:10発のバスに乗りいざ天人峡へ。旭岳まで来た人は途中下車して天人峡に行ってもその間はバス代は無料となる。昼どきなのと予定がくるったためコンビニで買っていたむすびを車中で食べる。納豆巻きはさすがに臭いがするので控えざるをえなかった(失敗)。 12:45に天人峡温泉に到着。ここには温泉宿があるだけで民家などはひとつもない。まわりが切り立った断崖なので畑がつくれないので生活できないのであろう。ちょうど紅葉は見ごろのようである。羽衣の滝に行くまでに大町桂月の碑があった。そこには、登山家には有名だと思われる「富士山に登って山の大きさを語り大雪山に登って山の広さを語れ」の文字が彫られている。今年8月に富士山初登山で台風のため8.5合で引き返し、さきほど旭岳でロープウェイでインチキして登った私は大いに語ることはできないが行ったことのない人にちょっとは語る資格はあるであろう。いずれにせよどちらも近い将来登頂することになるだろう。 |
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涙岩、見返り岩(写真上)などの奇石をみながら忠別川沿いの遊歩道を10分くらいあるくと、橋の手前で滝見台の案内板があった。少し登り、斜面に沿って曲がっていきといきなり羽衣の滝が目の前に現れた(写真右)。今まで写真でしかみていなかった滝が目の前で音を立てて流れ落ちている。その風景ははあまりにも綺麗で現実離れしている。ぼーっとしながらこの風景を目に焼き付けるべくただただ写真を撮りまくった。白い岩に赤黄緑の樹木の葉、その間に流れる滝を見ているとここは天国かと思える。まさに天人峡なのだと感じた。滝見台を降りると橋のうえにカメラを持った人が多数いる。橋の上でカメラを構えた方向をみると今度はまた違った滝の風景を目にすることができた(写真下)。 自分は昔から滝にはなぜか「幽玄」といった言葉が似合う暗いイメージを持っていた。信仰に関わる滝も多い。そんな中、旅行のパンフレットでみた層雲峡の銀河・流星の滝やインターネットで見た羽衣の滝は滝への見方、関わり方を変えてくれた。日本にもこんな滝があったんだという感動は今回のこの旅につながっている。 |
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上流にある敷島の滝への道は立入禁止になっていた。最近熊の出没がニュースで話題になっているがここもそうなのかもしれない。敷島の滝は高さこそないが水量の豊富さと紅葉との風景が素晴らしいことを知っていたので羽衣の滝と同様に楽しみにしていただけに残念である。気を取り直し、今度は旭岳、ひょうたん池に向かうコースを散策することにする。ここは渓谷台があり天人峡が一望できるらしい。わき道に入り30メートルくらい進むとそこも進入禁止の札とロープが。ここまで来てそりゃないと思い、あとは残されたもうひとつの羽衣の滝の滝見台へ向かう。 ここだけは頼むから通らせてと願いつつ山道に入ると大きな看板に赤い文字が!!!。ここも立入禁止なのかと残念に思いつつも気持ちはおさまらない。未練がましく近くにあった入林届の名簿を開いてみる。確かに今日来てる人はいないが昨日来てる人は何人かいる。もう一度よく看板を見た。そこには「通行注意」の赤い文字があった。これまでのながれから勝手に立入禁止と思い込んでいたのであった。 この道は軽装では行かないほうがいいというのとかなり急な斜面(そりゃこの地形だからそうだ)を登るのでハードだというのとクマに注意という情報はすでにインターネットで得ていた。それなりに登山靴も履いて準備しているので今日の入林者ゼロと名簿に記された入山時刻と下山時刻の時間差(2〜4時間くらい)に少し不安をいだきながら滝見台へと向かった。ちなみに登山口の地図には滝見台までは行き1時間半、帰り1時間と書かれてあった。 |
登り初めは丸太の階段がついていたが、ところどころ流出したり道が崩れたりしていた。少しいくと上から物音が聞こえてきた。まだ急斜面なので熊はさすがにいないだろうと思い登っていくとおじさんが2人で階段を修理していた。この人たちのおかげで登れると感謝しつつあいさつしまた登る。山の斜面は確かに急だが、登山道は蛇行してたり階段があったりでさほどきつくはない。しばらく行くと上のほうが開けてきて笹のある平坦地に出た。ようするにここは渓谷の崖の上に位置するところなのだろう。 ここはよく見ると熊が出そうである。仕方ない。入林者ゼロということなのでウォークマンを聞きながら歌を歌うことにした。仮にだれかとあっても恥ずかしくないようにいちおう洋楽にしておいた。なぜかその時、外国人の旅行者を装ってお茶を濁そうと考えたが今考えるとはなはだバカであった。ちなみに朝見た北陸に熊出没のニュースでは小学生が「森の熊さん」を歌いながら下校していたが、この案はその時点で却下である。 |
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急斜面を登ったあとで息も絶え絶えに歌いながら進んでいくと前方から人が現れた。なんとスカジャンにジーンズで手ぶらの若者である。熊を警戒しているこんなとこでこんな人がいるとは...。歌をやめて警戒しながら進む。その間この人が物取りだったらどうしよう、いや物取りじゃなくてもそんな気をを起こしたらどうしようと気が気ではなかったが、自然を愛する人に悪者はいないしそれもこんな紅葉の美しい景色を見てそんな考えを起こす人なんているわけがないと信じ、何ごともなかったかのように平静を装いすれ違う直前で「こんちは」と不自然に明るく声をかけた。若者はぼそっと「こんにちは」と返してくれた。よかったと思いながらしばらくは後ろをちょっと振り返りつつ進み、警戒モードからは完全に抜け出せない自分であった。 この笹原は午後の日差しを受けた山吹色した葉で取り囲まれていて途中でリスにも遭遇してすごく幻想的だった。 |
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登り初めから30分くらいしたところで平坦な道の前が開けた。ついに滝見台に到着。おおーっ紅葉の渓谷の中に羽衣の滝の全景が見える。右を見ると旭岳だ。さっきまでそこにいたんだよなあと思いながら下を見る。そこには川が紅葉の渓谷の中を流れている。よく見ると立入禁止で行けなかった敷島の滝が見える。この大きさを比較するといかに羽衣の滝が大きいかがわかる。自分の持っている安物のデジカメと腕ではこの時の風景と色彩は表しきれない。しばしこの大パノラマの風景を忘れないように目に焼きつける。実際にこの滝見台まで苦労して登ってきたものだけが見れる絶景である。ちなみに上の写真2枚はその時撮ったものを並べたものである。きちんと写真はつながっていないがこのときの風景のイメージはこんな感じである。実際にはこの間に滝見台の柱と木がある(上の滝見台の写真参照)。 さきほど羽衣の滝を見たときも感じたか、ここはまさに天国のような風景である。この場所は天女が天国に戻るときに振り返ったとされる見返り岩に近いところに位置する。下から見返り岩を見たときは何も感じなかったが天女はそこからこの景色を見たんだろうと想像するとなぜか天女伝説も親近感を持って素直に受け入れることができる。 本当は今日はただ羽衣の滝が見たかっただけである。しかし旭岳に寄ったり、この滝見台に登ったりしたことで当初予想しててたもの以上のすばらしい経験ができた。自分でこの旅を計画し自分の足で自然と触れ合ったことによって神様が「見返り」を用意してくれたのだと思う。 |
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−あとがき− 滝見台からの風景をずっと見ていてふと思った。自分は実は死んで天国にいるんじゃないかと(ちょっと前にシックスセンス見てしまったもので)。そう考えると「いつ死んだんだろう。実は登ってる最中に転落した?さっき出会ったスカジャンの若者に殺された?リスは天国からの使いだったのか?」うーんと考えながら携帯を手にすると仕事先から伝言メモが入っていた。「すみませんメール入れといたんで確認しといてください」と。つかの間の臨死体験だった。 滝見台の行き帰りは登り30分、見物15分、下り20分といったところ。下り終わりの付近でスカジャンの若者に追いついたし入林届けの名簿の記録を見るかぎりかなりの速さだと思う。何かまだまだゆとりがないなあと感じる(バスの発車時間の都合もあったけど)。実はまだ先に別の滝見台があるのかもしれないとそのとき思ったが熊が怖かったので後悔はしない。 【参考移動時間】 旭川駅−バス1時間15分→旭岳温泉−ロープウェイ10分→姿見駅(散策40分)−ロープウェイ10分→旭岳温泉−バス35分→天人峡温泉(散策2時間10分)−バス1時間→旭川駅 【所要時間】7時間5分(上記以外に休憩時間、待ち時間を含む) |