西沢渓谷 大久保の滝〜三重の滝(みえのたき)〜竜神の滝〜貞泉(ていせん)の滝〜七ツ釜五段の滝

 数年前、笛吹川上流で友達のたらんたんを含む数人でキャンプをしたことがある。その時、ついでに近くの西沢渓谷に訪れたが、時間があまりなかったため、走って三重の滝まで行き、急いで写真やビデオを撮って帰った記憶がある。その後、滝めぐりを始めることになり、誰が言ったか知らないが「西の大杉谷(三重県)、東の西沢渓谷」とまで評されるその景色をいつかは全部見てみたいと思っていた。今回やっとリベンジを果たすべく、梅雨の間の晴れた日に中央本線で山梨に向かった。
 最寄駅の塩山駅までは各駅停車でも八王子駅から1時間ちょっとで着く。ここから山梨貸切自動車バスに乗り、笛吹川に沿って山の方に向かって行く。途中、乾徳山(けんとくさん)入り口を経由したが、乗車客の半分くらいはそこで降りた。さすが山梨は登山のメッカである。

 発車から1時間程度で広瀬ダムが見えてきた。そしてダム湖を過ぎていくと、だんだんと昔来た記憶が蘇ってきた。昔は空き地だったそのあたりには道の駅などができていてちょっとだけ観光地化された感じがした。
 渓谷を渡る大きな橋の手前にある西沢渓谷入口はドライブイン不動小屋と奥に東沢山荘があるくらいで別館は閉まっていて思ったよりもこちらは静かである。バスから降りた人は数人。空いていてラッキー! と舗装された道(写真左)より西沢渓谷に向けていざ出発。
 10分程度進むと左手にねとり大橋が見えてきた。ここは帰りに通ることになる。そこの分岐の広場にトイレがあるので利用する。「この先にはトイレはありません」と書かれてある。これから3、4時間かかるであろう道のりのなか、トイレが無いと言い切られるとかなりプレッシャーである。

 道路はいつの間にか土になっており、昨日降った雨でところどころ水たまりができている。途中、「徳ちゃん新道」と書かれた案内板があった。あまりのフレンドリーな名前に勝手に地元の人がつけた獣道かと思っていたが、百名山の甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)に登るれっきとした登山ルートであるらしい(写真上の現在地)。

 二俣吊橋に着いた(写真上)。ここで川は分岐していて右手に行くと東沢、そのまま行くと西沢渓谷である。「東沢渓谷には立入禁止」と書かれた看板がくどいほどある。そこまで言われると人間行きたくなる。
 吊り橋から下流を見ると白石の河原の中、澄み切ったエメラルドグリーンの水が流れている(写真左)。西沢渓谷はここから先、上流に向かっていく間どこまでも、このように綺麗な姿を見せてくれる。

 ここから道は急に登山道のようになり少しばかり狭く、険しくなる。
 最初に現れる滝は支流の大久保沢から流れ落ちる大久保の滝(約30m)である(写真右)。岩肌に沿って綺麗な白い筋をつくりながら落ちてくるこの滝は西沢渓谷のなかでは一番普通な滝らしい滝である。
 この後、三重の滝をはじめとして似たような滝が連続して現れてくるので、この滝の存在は渓谷のなかでいいアクセントになっている。
 そして、前回到達点である三重の滝に着いた(写真左)。下流の岩場に観瀑台があり、そこから見る三重の滝は、急ぎ足で見た前回とはまるで印象が違い、ちょっと暗がりの渓谷のなかでスポットライトのように陽を浴びたエメラルドグリーンの釜は神秘的で美しい。「こんな色してるわけないじゃん」と言われそうだが、ちゃんと肉眼で見た色と同じようにすべく、カメラのホワイトバランスとか調整して撮ったので本当にこうなのです(きっぱり)。
 こういう場面に出くわすと、写真の腕はどうあれ一眼レフ買って良かったと思う。
 *突然ですが今回から一部の写真を拡大できるようにします。左の写真のように枠があるものが拡大可能です。

 ここから先の道は渓谷のすぐそばの岩場につくられていて、危険な箇所は鎖場となっているが、美しい渓谷を見ながら歩いていると飽きずにいられるし疲れも感じない。
 ウナギの寝床、フグ岩、人面洞と奇岩地帯が続き、竜神の滝(写真右)にたどり着いた。この渓谷の典型的な滝の形をしている。他の渓谷にあれば「おおーっ」と思うがここではごく普通。

 恋糸の滝は支流からちょろちょろと糸のように細く流れている40mくらいの滝で情緒がある。木陰に隠れているので写真は撮りづらい。

 貞泉の滝(写真下)は滑らかな岩場を滑り落ちるように流れる水の透明感が際立つ滝である。

 母胎淵は川の流れで岩場が丸く削り取られている。

 そうこうしているといきなりガマ大王が現れた(写真右下)。カエル岩である。これは私的にはかなりよく出来た岩だと思った。次から次へとよくも見所があるものだ。
 方杖橋を渡り本流の対岸に向かう。ゴウゴウと音が聞こえ上流に滝が落ちているのがわずかに見える。期待に胸をふくらませつつ、ちょっとした勾配の斜面を登り正面に滝が見渡せるところに出た。百選の七ツ釜五段の滝だ(写真左)。ここから見えるのは下の3段だけで40mくらいあり想像していたより大きく迫力がある。 滝壺付近に人が下りていたので注意しながら下り、しばし岩の上に座り滝を眺める。

 上部の3段はよく西沢渓谷の写真で見かけるところである(写真左下)。迫力のある下部とは正反対に静かで落ち着く。滑らかな岩肌といい、水の色といい、まさに”美しい”という表現がぴったりである。この滝は全体を一望できないのが残念だが、高さが約50mくらいある立派な滝である。

 滝は上から数えて確かに5段になっているが、どこをどう数えれば七ツ釜なのかがいまいち納得できず、下流に戻って確認したりしてみたが5つしか釜は見当たらない。帰って写真を眺めてみると2段目の釜が眼鏡のような形(ゴレンジャーの赤レンジャーの目のところみたいな)になっているのでそこで2つとカウントできなくもない。にしてもあとひとつ足らない・・・。とりあえず今後の研究課題としておこう。

 上流で河原に下りることができたのでしばし休憩し、お菓子を食べエネルギー補給。川の水で顔を洗うと冷たくて気持ちがいい。

 西沢渓谷のトリを飾る滝は不動の滝だが5m程度で木に隠れてあまりよく見えない。対岸には滝見台のようなものがあったので、昔はそこから滝を見ることができたに違いない。
 ここから急坂を登り、展望台の広場に出た。団体さんがいたので休憩することはできなかったが、そこにはなんとバイオトイレが2つ設置されていた。来る時、トイレはこの先には無いということだったので、帰りまでもつかどうかわからなかった私は救われた。多分最近できたので案内に載ってないのであろう。

 帰り道は昭和43年まで木材の運搬等で使用されていたトロッコの軌道跡を歩く(写真右)。ところどころレールが崖方面に飛び出したりしていてインディージョーンズもびっくりである。さすがに過去、転落事故なんかあったんだろうなと思っていると、案の定、彦一さんが馬と共に淵に転落して負傷した「ひこいっちゃんころばし」とか、猪狐狸さん(どんな名前だ)がトロッコの操作ミスでこれまた淵に落ちて負傷した「いこりころばし」とかの名所?があった。どうみても淵まで50m以上はあると思われるのだがよく死ななかったものだ。
 行きに見かけた徳ちゃん新道といい、名前がそのままついた場所が多いのはこのあたりの文化なのだろうか。徳ちゃんが誰だか知らないが、七ツ釜五段の滝を彼が発見したとして「徳ちゃん滝でいいずら〜」(ドカベン殿馬調で)なんて適当に名前をつけていたら百選の滝選考委員会で物言いがついていたかもしれない。

 このあたりはシャクナゲの群生地なのだが、残念ながら5月中から末にかけてがシーズンであるため葉しか見ることができなかった。しかし、なだらかな勾配のトロッコ道からは甲武信ヶ岳の手前にある木賊山(とくさやま2468m 写真左中央)、鶏冠山(とさかやま2115m 写真左左手)等の新緑の山々を眺めることができ気分がいい。
 大久保沢の橋を渡り、広い林道に出て、本流が見えてきた。行きに見かけたねとり大橋を渡り、分岐に出て、もと来た道を戻って入口にたどり着いた。
 それにしても30人くらいの団体に展望台であったくらいで、その他に出くわした人は十数人くらい。天候のせいか思ったより混雑せず自分のペースで自然を満喫でき、大満足な旅であった。
 さすがは「東の西沢渓谷」、東京からは電車ですぐ、車でもアクセスは良いので一度は訪れるべきである。

−あとがき−
●西沢渓谷入口の道向かいにある「マウントパーク西沢」でちょっと遅い昼食を食べました。お腹が減ってたので焼きおにぎりとそばのセット、やまめ塩焼き(\600だが2匹)、山菜てんぷら盛り合わせ(ざるに盛られて結構豪華)にビールという昼から宴会モードとなりました。どの料理も大変おいしく、ひさしぶりに昼飯でおなかパンパンになりました。なぜか売り子のいない外の売店からは「蜂のムサシは死んだのさ♪」なんて懐メロが流れていて平和な日曜の昼下がりでした。

【参考移動時間】 塩山駅−バス1時間9分→西沢渓谷入口−徒歩15分→ねとり大橋分岐(WC)−徒歩15分→二俣吊橋−徒歩10分→大久保の滝−徒歩5分→三重の滝−徒歩15分→竜神の滝−徒歩10分→貞泉の滝−徒歩20分→七ツ釜五段の滝−徒歩15分→展望台(WC)−徒歩1時間20分→ねとり大橋−徒歩15分→西沢渓谷入口−バス58分→塩山駅
【所要時間】 7時間30分(上記以外に休憩、食事、バス待ち時間等含む)