2003年10月12日テレビ朝日「サンデープロジェクト」で放映された内容。 途中からビデオに撮って、ナレーション+字幕を起こした(編集あり)。

米国を支配する軍産複合体という怪物

…イラク戦争によって莫大な利益をあげていた企業があった。

兵器単価製造企業
バンカーバスター 15万ドル(約1800万円) ロッキード・マーチン
巡航ミサイル「トマホーク」 60万ドル(約7200万円) レイセオン
全天候型戦闘機F/A 18 ホーネット 5700万ドル(約68億円) ボーイング
B2爆撃機 13億ドル(約1500億円) ノースロップ・グラマン

この上位4社を始めとするアメリカの軍需産業は イラク戦争で莫大な利益をあげたと言われている。 実際にはどうなのか、ボーイング社のセントルイス工場を取材することができた。 この工場で製造しているのは 精密誘導弾JDAM(一発2万ドル、約240万円)。 米軍に納めてあった分は、イラク戦争でほぼ使い果たされた。 軍から3万発の新規発注をうけ、それだけでも720億円の巨額契約になる勘定だ (3万発の新規契約⇒6億ドル、約720億円)。

「JDAMは非常に安価ですが、信頼性の高い兵器です。 この一年半で売上は飛躍的に伸びています」 ボーイング・JDAMプログラムマネージャー、キム・ミシェル氏
ブッシュ大統領はバグダッド陥落後の4月半ば、 わざわざこの工場まで出向き、こんな言葉を残しているのだ。
「アメリカはすべての兵器において、他国より優位でなければならない」ぶっしゅ
実は、これら軍需産業上位4社だけで去年アメリカ国防総省との間で 総額493億ドルという、とんでもない金額の契約を結んでいるのだ。
第1位 ロッキード・マーチン170億ドル
第2位 ボーイング166億ドル
第3位 ノースロップグラマン 87億ドル
第4位 レイセオン 70億ドル
トップ4社の受注合計493億ドル(約5兆9160億円)
だが問題はそれだけではなかった。
「ブッシュ政権の32人もの高官が以前、軍需産業の役員や株主 をつとめていました。 彼らは、そのことを恥じることもなく、とことん利用しようとしているのです」 世界政策研究所ウィリアム・ハートゥング氏
ブッシュ政権で戦争を推し進めてきた多くの高官が軍需産業の 役員を務めているというのだ。

フセイン政権崩壊を象徴する、このビデオに映っている特殊車両。 フセイン像を直接引き倒している特殊車両を作っている兵器企業がある。 ユナイテッド・ディフェンスという会社だ。

ユナイテッド・ディフェンス社(United Defence)。
国防総省との昨年(2002年)の契約受注額15億ドル(約1800億円)、 業界12位の企業。おもな兵器は「ブラッドレー戦闘車」という、 日本ではあまり知られていない、この企業こそ、 ブッシュ政権と軍需産業との結びつきを解き明かす鍵となる企業だった。
「ユナイテッド・ディフェンスはカーライル・グループという 投資ファンドが親会社です。このカーライルがブッシュ元大統領(父ブッシュ)と 関係しているのです。」前出ハートゥング氏
アメリカを影で支配してきた怪物の正体がついに見えてきた。

この企業(ユナイテッド・ディフェンス)は今から6年前(1997年)、 800億円もの借金にあえぐ赤字会社だった。 社をあげて開発しようとした自走砲クルセイダーが、 「重過ぎて使い物にならない」と国防総省から批判され、 契約はもちろん、開発の継続すら危ぶまれるピンチに陥ったのだ。 その危機にあったユナイテッド・ディフェンスを1997年に買収し、 再建を図ったのが投資会社 カーライル・グループ であった。

カーライル・グループはワシントンに本社がある、 企業買収などを行う世界的なファンドだが、 その役員などにはキラ星のごとく共和党の大物が就任していたのだ。 おまけに が役員や顧問に名を連ねる豪華ぶりだ。
「ブッシュ大統領の父親が兵器企業の親会社に雇われているのは、問題です。 父ブッシュ氏が息子やCIAから得た情報をカーライルへ流すことも できるのです。」世界政策研究所ウィリアム・ハートゥング氏
このカーライルグループが買収し、さらにブッシュ政権が誕生すると、 重過ぎて使い物にならないと酷評されたクルセイダーを抱え、 危機に陥っていたユナイテッド・ディフェンスは、 信じられないような快進撃を開始する。
1997年 カーライル・グループがユナイテッド・ディフェンスを買収
2001年 ブッシュ政権発足
 ↓
ユナイテッド・ディフェンスが快進撃を開始
ブッシュ政権発足から8ヶ月後の2001年9月、 米陸軍は宙に浮いていたクルセイダーの開発継続を突然了承。 続く12月13日には連邦議会がクルセイダーの発注を正式に承認したが、 なんとそれはカーライルがユナイテッド・ディフェンスの株を ニューヨーク証券取引所に上場する前日、という タイミングのよさだった。
2001年1月ブッシュ政権発足
 9月26日陸軍がクルセイダーの開発継続を了承
12月13日議会が発注を承認
12月14日株式を上場
これにより、カーライルは上場初日だけで284億円もの ユナイテッド・ディフェンス株の売却益を手にいれたのである。 これはブッシュ政権との癒着ではないかと批判も出たが、 我々の取材に対し、ユナイテッド・ディフェンスはこう反論した。
「カーライルは常に我が社にとって大きな助けであり、良き指導者です。 軍のニーズを知るため、有力者と連携を取っても問題はないはずです。」 ユナイテッド・ディフェンス広報ダグラス・コフィー氏
こうしたつながりがある一方で、ブッシュ政権と軍需産業の上位4社との 結びつきにいたっては、さらに露骨だ。ブッシュ政権の

ラムズフェルド国防長官の諮問機関で、イラク戦争を強く後押ししたとされる 軍事政策委員会30人のメンバーのなかにも軍需産業の関係者がいた。

「私の調べでは、メンバーのうち9人が軍需産業と関わりがあり、 彼らと関係がある企業が国防総省から受注した契約の総額は750億ドル (約9兆円)に達します。」不正監視団体(CPI)ビル・アリソン氏

さらに注目すべきは、イラク戦争を中心となって推し進めた 最強行派である新保守派のメンバーだ。実は、

軍需産業第3位のノースロップ・グラマンの有給顧問やアドバイザーを務めていた。
「民主主義を世界に広げるため、軍事介入すべし(新保守派の論理)」
と主張する彼らが、軍需産業の利権と直接的な関わりを持っていたことの 意味は極めて重大だ。

新保守派の総帥リチャード・パール氏(国防総省 軍事政策委員会委員長)にいたっては、 今年3月、武器商人との取引スキャンダルが報道されるなど、 軍需産業との癒着は常に取りざたされ、 米では「暗黒のプリンス」と異名を持つほどだったのだ。 我々はパール氏に、軍需産業利権との関係についてただすべく、直撃(取材)した。

「私は決して企業のため政府に口利きしたことはなく、 軍需産業のために活動したこともない。 アメリカがこの戦争で利益を得ることもまったくない」パール氏
パール氏は疑惑の否定に終始した。

しかし歴史的に見ても、軍と軍需産業、そして政治が一体となった 軍産複合体が米では影を落としてきた。 第二次大戦の英雄から大統領になったアイゼンハワー氏が退任の際に残した言葉は 「軍産複合体が自由と民主主義を脅かすことを許してはならない」であった。 アイゼンハワー大統領の警告通り、 軍産複合体は米が関わる戦争の影の主役であり続けた。

軍需産業は冷戦が終結すると国防予算が削られピンチに陥っていたが、 9・11テロを経て、その勢いは完全に復活。 新保守派の軍事介入路線に加え、イラク戦争でも効果が実証された、 ラムズフェルド国防長官の推し進める、ハイテク化政策がより加速することで、 今までにない展開まで起ころうとしている。

シリコンバレーにあるIT企業、 SGI。 膨大な情報をグラフィック化するシステムを作ってきた、 このIT企業の現在の主力商品…それは、 なんとバグダッドの3D画像などを組み込んだ指揮管制シミュレータだ。 今回のイラク戦争でも、戦闘機のパイロットは、この映像を見て訓練し、 首都空爆を行っていた。 我々を案内するマネージャもイラク戦争で実際に戦闘を行った空軍の パイロットで、この企業に引き抜かれた人物だ。

「(この指揮管制シミュレータは)ロッキード・マーチンと共同で開発したものです」 SGI防衛部門マネージャー、グレン・イグナシオ氏

SGIはこれにより、米軍との契約を急増させ、ITバブルが弾け低迷する シリコンバレーのなかでも、注目の絶好調企業となった。 軍産複合体は、こうしてシリコンバレーまで巻き込み、 さらに軍需産業の売買で利益を得るカーライルのような投資会社まで加わり、 とどめようも怪物となっていくのか。

ブッシュ大統領はイラク戦における勝利演説を行った翌日の5月2日、 軍需産業12位のユナイテッド・ディフェンスにまで、わざわざ出向いた。 言うまでもなく、この兵器企業の親会社カーライルは、 父のブッシュ元大統領が名誉顧問を務め、 ブッシュ大統領自身も子会社の役員をしていたという関係にある。 ブッシュ大統領は、この兵器企業に向けて、こんな賞賛の言葉を残した。

「世界は戦争史上で最も進んだ精密兵器を目の当たりにしました。 私は感謝します。あなた方は多くの命を救った平和の使者です。」 ぶっしゅ

反対する国々をねじ伏せ、イラク戦争を強行し、結果的に軍需産業に莫大な 利益をもたらしたブッシュ政権。政権内で戦争を遂行した多くの権力者たちは、 軍需産業と水面下で深く結びついていた。

軍産複合体の研究者は我々に、こう語った。
「アイゼンハワー大統領が軍産複合体に支配された今の状況をみたら、 墓場でひっくり返って嘆くでしょう。 ブッシュ政権で軍産複合体に『ノー』と言える者は誰もいません。 だからこそ、米国民が立ち上がり、ブッシュ政権に対して『ノー』だと 言わなければならないのです」世界政策研究所ウィリアム・ハートゥング氏

司会の島田紳助さんと取材したディレクター2名のコメントから
紳助「何か嫌なものを見てしまいましたね、ほんとねぇ。 軍需産業とのつながり?(に対して)日本は道路とつながっていて、 まだマシのように思えてきましたが(一同笑)、すごいッスね。」
ディレクターA氏 「カーライルのように、軍需産業そのものを投機の対象としてビジネスをするという、 兵器を一切作らなくても莫大な利益をあげるような企業も出てきている。 しかもブッシュ父子のような、政権を立案できる人たちまでが、 ここに関わっているというのは、やはり大きな問題だと思いますね。」
「基本的なことなんですけども、あれだけ一般市民の血が流された戦争に、 こういう形で戦争で得をする人たちもいたんだ、ということは認識する必要 があると思います。」
ディレクターB氏 「アメリカのメディアは、実はこうした問題をきちんとやっていないんですよ。 それ(米国メディアが権力と戦わなくなった理由)は何故かというと、 メディアが超巨大企業化してしまって、 真実追求よりも経営や株価を優先するような体質になってしまった…」
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