★books impressions★

こうみえても、内田康夫さんのファンだったんですよ。最近全然読んでないんだけども。名前を作品に出してもらったこともあるし。ファンクラブみたいなのの会員番号も、3桁で結構若くて、自慢です。でも、ぜんぜん内田作品のこと、書いてないね・・・。

「鉄塔 武蔵野線」(銀林みのる著 新潮社)
「雨更紗」(長野まゆみ著)
「私本太平記」(全8巻 吉川英治著 六興出版)
「海がきこえるU アイがあるから」(氷室冴子著 徳間書店)
「ひとり歩きの 東北」(JTB)
「ひとり歩きの 奈良」(JTB)
「カレイドスコープ島」(講談社)
「ドッペルゲンガー宮」(講談社)
「フルカラー特選ガイドC早池峰・栗駒・鳥海山・焼石岳・月山を歩く」(山と渓谷社)
「東北謎とき散歩」(星亮一 廣済堂出版)
「暗闇の教室」(折原一 早川書房)
「霧越邸殺人事件」(綾辻行人 新潮社)
「火怨 上 北の燿星アテルイ」(高橋克彦 講談社)
「火怨 下 北の燿星アテルイ」(高橋克彦 講談社)
「邪馬台国はどこですか?」(鯨統一郎 創元推理文庫)
「闇に消えた怪人 グリコ・森永事件の真相」(一橋文哉 新潮文庫)
「地獄の奇術師」(二階堂黎人 講談社文庫)
「日本史人物「その後のはなし」上−古代から戦国」(加来耕三 講談社+α文庫)
「吉思汗の秘密」(高木彬光 角川文庫)
「歴史余話」(海音寺潮五郎 文春文庫)
「消えた義経」(中津文彦 PHP文庫)
「義経伝説 歴史の虚実」(高橋富雄 中公新書)
「平泉の世紀 古代と中世の間」(高橋富雄 NHKブックス)

注意! ネタバレもあります!
注意! ネタバレなしもあります!

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「鉄塔 武蔵野線」(銀林みのる著 新潮社)

 趣味の世界を、ファンタジーの域にまで高めているというかんじ。ファンタジーノベル大賞を受賞したという意味が最初は分からなかったが、最後に納得。どんでん返しというか、ぎゅーっともっていかれた!という印象かな?虚・実の交錯がたまらなかった。前半がやや単調な気がしたけど(そこで読むのをやめる人もいるんだろうなぁ)、後半の展開にやられたー。80塔すべてに言及するくらいのしつこさが長編をものにした、というべきか。


「雨更紗」(長野まゆみ著)

 漢字の魔法を見ているよう。著者独特のタッチでもあるあやういところがいい感じ。かなりタブーにこだわった作品といえるが、それがファンにはうけそう。どんでん返しにはまいったけれど、トリックにすんなり入れる書き方が良い。


「私本太平記」(全8巻 吉川英治著 六興出版)

 NHK大河ドラマ「太平記」の総集編(いつのだっけ?)に感動して、どうしても読みたくなった作品。
 著者最後の小説らしく、後半は病と闘いつつ執筆したという話をきいたが、その後半はどたばたとかなりあらっぽく、義貞の死や観応の擾乱、覚一親子、卯木、元成夫妻のその後、毛利時親と忍の大蔵たちの行方などがもっと丹念に描かれても良かったのではないか(病気で無理だったのかなぁ)。藤夜叉も、直冬も、あれだけひいておいて・・・と思ってしまう。物足りない読後感が圧倒的だった。
 とはいえ、1から7巻は凄く良かった。ストーリー展開の奥深さと著者が得意そうな人物の魅力と欠点とを併記する手法(?)がすごい。
 個人的には、一色右馬介が主人公だったような気がする。それくらい大活躍。日野資朝も渋めで良かった。


「海がきこえるU アイがあるから」(氷室冴子著 徳間書店)

 正直言って、なにも残らない。
 前作「海がきこえる」は東京と高知を舞台に、なんともいえない雰囲気の「氷室ワールド」が結構良かったのだが。
 話が全て東京であったのも前作の良さを引き出せていないし、2人の女性の対比にもちょっと失敗気味。よって、前作のファンには不満足なんじゃないか。
 ただ、後日、上京している大学生の心理などは比較的よく表現できているかもなどとも思った。


「ひとり歩きの 東北」(JTB)
 ジャンル:ガイドブック(旅行)/採点:85点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:1350円(税別)/背表紙:ピンクに黒い字でタイトル書き

〜今年は忙しくて夏休みがとれない!ウキーッ!!な感じのあなたへ〜

東北6県の旅行ガイド。400ページとガイドブックにしてはやや厚めですけど、その分内容が濃いです。東北の基礎知識(歴史・自然・文学)やショートコラムも載っていて、東北にいく予定が無くても楽しめます。
 旅行プランをたてるときのヒントがあったりして、親切設計です。観光ポイントのお勧め度を★の数であらわすところが某お料理番組っぽくて◎。ただし、採点者のフィーリングが読者と合ってないときは、役に立ちません。
 残念なところが1つだけ。この厚さで八戸の案内が載ってない。八戸って、他のガイドブックにもあまり載ってないんですけど、魅力無いんスかねぇ。観光の目的地が決まっている人は、6Pにこの本で案内している場所一覧が地図にして書いてあるので、それを見てから買うかどうか決めましょう。


「ひとり歩きの 奈良」(JTB)
 ジャンル:ガイドブック(旅行)/採点:80点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:1350円(税別)/背表紙:薄い緑に黒い字でタイトル書き

〜奈良中毒で毎年1回は奈良に行かないと死んでしまうのに、今年は行けなくて発狂寸前のあなたへ〜

「ひとり歩きの 東北」と同じシリーズ。奈良県の旅行ガイド。長所短所とも、同じですけど、こちらは同じ厚さで奈良1県のガイドなので、内容がさらに濃いです。濃縮果汁200%クラスの濃さです。飛鳥・斑鳩から吉野、はては十津川・大峰まで載っているのでこれ1冊で不足無しです。
 ただ、1つ不満を挙げると、奈良観光といえばレンタサイクル。レンタサイクルの店の電話番号は書いてあるんですが、地図でどこそこ、という情報や、おすすめサイクリングコースとかが載っていないのは不満といえば不満ではあります。ま、そこは自分で考えるのが醍醐味かもしれませんね。


「カレイドスコープ島」(霧舎巧 講談社)<−ネタバレなしの紹介です
 ジャンル:推理小説(新本格)/採点:87点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:1150円(税別)/背表紙:白に黒い字でタイトル書き(講談社ノベルズ)

〜図書館へ行ったら、今は亡き横溝正史の自分がまだ読んでない作品を探すのに夢中なあなたへ〜

「ワシ、推理小説は片田舎の温泉が舞台じゃないと読まないもんね。あと、洞窟とか伝説が絡まないと認めないもんね」という偏屈な私は、小学校中学年頃に金田一耕介『悪霊島』にはまった大馬鹿者です。片田舎・因習・伝説のどれかがないと推理小説は読まないのですが、今回の本は『獄門島』チックだよ、と本の帯にあったので、手を出しました。
 作家島田荘司氏御推薦の霧舎氏2作目です。八丈島沖の孤島で起きた、竹取物語伝説にからむ事件を大学生が解明って書くと土曜サスペンス劇場級ですが大違い。島の因習が絡んだストーリーは☆です。横溝正史っぽい題材だけど決して同じではないところも、先が読めなくて良いです。
 ただ、登場する女性陣が一部、いわゆる美少女ゲームっぽくて珍妙なのが、ひいてしまいます。まだ2作目なので、難点もこれから消えるのでしょう。もうしばらく彼の作品を読もうと思います。


「ドッペルゲンガー宮」(霧舎巧 講談社)<−ネタバレなしの紹介です
 ジャンル:推理小説(新本格)/採点:74点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:1150円(税別)/背表紙:白に黒い字でタイトル書き(講談社ノベルズ)

〜綾辻行人の館シリーズ最新作が早く出ないかなぁと思っている人へ〜

 上の「カレイドスコープ島」が第2作目、この本が1作目です。館で発生した”そして誰もいなくなった”的連続殺人事件を大学生が解決する・・・なんだか平板な内容紹介は恥ずかしいのでやめます。内容やトリックそのものは、泣かせます(?)。まさか、あの場面であの男が、あんなことするとは思わなかった(紹介失格な感想文)。
 ただし、デビュー作ゆえの難点も。主役とその仲間たち、なんだかぎこちないんです。個性的なキャラだから、やけに惜しい!彼らは2作目と同じだったので3作目以降も登場するのでしょう。2作目もこの本も、事件の舞台は完全に私好みなので期待してます。


「フルカラー特選ガイドC早池峰・栗駒・鳥海山・焼石岳・月山を歩く」(山と渓谷社)
 ジャンル:ガイドブック(旅行)/採点:70点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:1750円(税別)/背表紙:緑に白い字でタイトル書き

〜通勤靴にもアイゼンをつけていないと不安で不安でしょうがないあなたへ〜

 山渓登山ガイドシリーズの1冊。登山の季節毎の注意事項というありきたりな紹介に飽き足らず、季節毎のお勧め登山コースまで載っているのはニッコリです。もっとも、夏のお勧め、で気に入ったコースを秋に登りたい、なんていう反体制なあなたは情報を何らかの方法でカバーする必要ありです。紹介されてるコース日程は1日からせいぜい1泊2日ばかりなので、初級・中級者向けですね。
 山に咲く花の図鑑や山麓の温泉、歴史・自然誌に山小屋情報まで、写真もたくさん使われてて150ページに盛りだくさん。歴史まで載ってるなんて、修学旅行の旅のしおりみたいで、!!な感じです。「普通、山に登るのにそこまで勉強しないって」と突っ込みを入れてしまいますが、フルカラーなので、眺めるだけで楽しく、登山計画も盛り上がります。 


「東北謎解き散歩」(星亮一 廣済堂出版)
 ジャンル:エッセイ(紀行文)/採点:87点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:1600円(税別)/背表紙:ほんのり薄く茶色がかった白に黒字でタイトル書き、ただし”東北”は赤い字で

〜司馬遼太郎さんの『街道を行く』は重すぎて読む気が無いけど、紀行文そのものは好きな人へ〜

 軽い。バランス良く軽いです。平易な紹介で構成されているので気軽に読めます。津軽十三湊やアテルイ、奥州平泉から出羽三山、遠野など、東北各地の歴史旅行記です。本の帯には、『〜真実を歩いて探した歴史ロマン。』とありますが、それほど突っ込んだものではありません。その代わり、まんべんなく東北各地の主な歴史が載っているところは、地方新聞の記者だった著者の面目躍如というべきでしょう。
 東北旅行に行く前に読めば、負担にもならない量だし、基礎知識にもなるし、こんなタイプの紀行文は、案外少ないです。 


「暗闇の教室」(折原一 早川書房)<−ネタバレなしの紹介です
 ジャンル:ミステリ(推理?)/採点:90点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:2000円(税別)/背表紙:作業着色(?)に黒字でタイトル書き

〜私は絶対だまされないと思ってる人へ〜

 いやぁ〜、やられました。まさか、あそこで、あの人があんなだったなんて(抽象主義的?紹介?)日照り続きのある夏、乾上ったダム湖の底に残っていた廃校で4人組がやらかした百物語。それが引き金になったか、繰り返される殺人事件。犯人はあの人か、はたまたこの人か。結構怖かった。
 叙述トリックの奇才、折原さんの作品は、説明しづらい分かりづらい密室トリックとかと違って、種明かしをされた瞬間、余裕をもって納得できてしまうのが、すっきりさっぱり夏みかんのようでよろしいです。ただ、ヒッカケるための助走が長すぎて、話の流れが分からなくなりそうになった場面が少々あったのは、惜しかった。それは作者のせいじゃなくて、私のせいかな。  


「霧越邸殺人事件」(綾辻行人 新潮社)<−ネタバレなしの紹介です
 ジャンル:推理小説(新本格)/採点:97点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:1800円(税別)/背表紙:白に黒い字でタイトル書き

〜雪が好きなあなたへ〜

 良いです。重厚であること、さながらスッポンのように読む者をつかんで離さないストーリー、これまで私が読んだ推理小説のなかで最高です。
 急な雪で道に迷った劇団員たちがやっとの思いでたどりついた湖畔の豪邸「霧越邸」に起きた連続見立て殺人の行方やいかに、というような筋立て紹介だけでは決してこの本の雰囲気は伝わりません。1行1行が耽美的幻想的にして清冽怪奇(何じゃそりゃ)な霧越邸の冷たい空気を読者の目に押し込んでくるのです。真っ白な雪に包まれて、被害者の遺体すらもゾクリとするような美しさをまといます。
 この一種危険な美しさに惹かれると、繰り返し読んでしまうのが★です。


「火怨 上 北の燿星アテルイ」(高橋克彦 講談社)
 ジャンル:歴史(日本東北)/採点:92点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:1800円(税別)/背表紙:やや茶色がかった灰色に赤い字でタイトル書き

〜”阿弖流為”をなんと読むのか知らないあなたへ〜

 吉川英治文学賞受賞作品。時代は平安時代初期、東北地方にあって大和朝廷から独立の気概を示していた蝦夷の大将、アテルイの人生を描いた作品です。作者の高橋さんは、NHK大河ドラマにもなった「炎立つ」で奥州平泉の栄枯衰勢を書きなぐった、生粋の東北人です(盛岡在住)。この本からは、高橋さんがアテルイをいかに誇りに思っているかが、さながら雨の日のテント内に雨水が染み込んでくるような感じで染み染みと染み出しています。
 徳川家康だの織田信長だのと違ってアテルイを正面から扱った小説は少ないので、読んでいて新鮮なのも○。さわやかな歴史小説ですね。 


「火怨 下 北の燿星アテルイ」(高橋克彦 講談社)
 ジャンル:歴史(日本東北)/採点:88点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:1800円(税別)/背表紙:やや青色がかった灰色に赤い字でタイトル書き

〜東京に来ても臆することなく東北弁まる出しで喋ってる勇ましいあなたへ〜

 上巻の続きです。蝦夷と蔑まれる東北の原住民たち。彼らを率いて大和朝廷軍に反抗するアテルイの前に、征夷大将軍坂上田村麻呂が立ちはだかります。日本史の名場面なので、結末は分かっているのですが、作者の高橋さんは、彼らの戦いに新解釈を加えました。
 その解釈は代表作「炎立つ」以来、連綿として続いてきた高橋思想です。「炎立つ」を読んでからこの本を読むと、蝦夷への理解がより一層深まるしくみになっているのが、学習参考書の入門編と中級編の関係みたいでΨです。坂上田村麻呂がナイスガイなのもイカしてます。ただ、アテルイもナイスガイなので登場人物にアクセントがなくなって、終盤、ダレてくるところがあるのが少々残念。 


「邪馬台国はどこですか?」(鯨統一郎 創元推理文庫)<−ネタバレなしの紹介です
 ジャンル:推理小説(日本史)/採点:82点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:520円(税別)/背表紙:薄い黄色に黒い字でタイトル書き

〜エルビス・プレスリーは実は今も生きているんだと信じてるあなたへ〜

 歴史ミステリ短編集です。明智光秀の謀叛は織田信長自身の命令だった。邪馬台国は東北にある。明治維新は勝海舟が催眠術を使って成し遂げた。意味が一瞬理解できないほどの珍説ばかりですが、よくあるウソくさい歴史本ではありません。作家宮部みゆきさんの高い評価を受けた、歴史的事実を詳細にして克明かつ斬新清冽に扱ったスペクタル作品なのです(何じゃそりゃ)。始めはバカにしていた珍説も、最後はかなりの納得度を持ってしまうところが切れ味鋭い菜っ切り包丁みたいで泣かせます。
 短編なので、すぐに読みきれる感じもセンスが良いです。これなら、話の結末が気になって授業や仕事に身が入らないなんてこともありません。通勤通学電車の中で読み終わっちゃうんですから。 


「闇に消えた怪人 グリコ・森永事件の真相」(一橋文哉 新潮文庫)
ジャンル:ノンフィクション(事件)/採点:76点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:629円(税別)/背表紙:白に黒い字でタイトル書き

〜チョコレートを食べながらこれを見ているあなたへ〜

 かつて大人たちを震え上がらせ、こどもたちに街頭販売の「千円パック」をたらふく食わせ、なおかつ多くの捜査員の家庭崩壊の原因になったグリコ・森永事件。怪人21面相などというパクリな名前を名乗った犯人は誰なのか?この本はあらゆる可能性を詳細に追求した、ある記者の取材記録です。あらゆる可能性を追求しすぎて話の流れが分かりづらくなってるのはご愛嬌、ひとたび読み出すと止められない止まらない、カルビーのカッパえびせんのような本ですね。 


「地獄の奇術師」(二階堂黎人 講談社文庫)<−ネタバレなしの紹介です
ジャンル:推理小説(乱歩)/採点:62点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:762円(税別)/背表紙:黄に黒い字でタイトル書き

〜ぼ、ぼ、ぼくらは少年探偵団♪な、あなたへ〜

 江戸川乱歩の少年探偵団シリーズを全巻読破して今でも家の書棚に揃ってるのが自慢だという変わり者(そりゃお前だろ)にお勧めかもしれません。題名からして江戸川乱歩の作品みたいじゃないですか。風変わりなお屋敷、ミイラ男、高校生探偵、どれもあなたの郷愁を呼び覚ますこと請け合いです。ただ、郷愁を呼び覚まされすぎると乱歩の作品との違いが気になって、二階堂さんの作品(忘れちゃいけません、これは二階堂さんの作品なんです)を楽しめなくなるのが危険です。 


「日本史人物「その後のはなし」上−古代から戦国」(加来耕三 講談社+α文庫)
ジャンル:歴史(日本史人物)/採点:72点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:951円(税別)/背表紙:白と黄緑に黒い字でタイトル書き

〜知ってるつもりな関口ひろし2世目指して前髪にメッシュを入れちゃった見当違いなあなたへ〜

 一休さんはどんな晩年を送ったのか、真田幸村が死んだ後の真田家はどうなったのか、奈良平城京を作った聖武天皇はその後どうしたのか。征夷大将軍坂上田村麻呂の子孫は何をやったか。小学館の漫画日本の歴史を読んでいると、いろんな人物のハイライトシーンは分かっても、その後彼らがどうなったのかは意外に分かりません。
 そんな人たちを、ひところ流行った雑誌の企画「あの人は今」風なテンポで綴ったのがこの本です。これを読めば歴史好きになること請け合い。ただし、マイナーな歴史なのでテストには絶対に出ないことも請け合いな、諸刃の剣チックな展開が読む者をして泣かせるシュールな逸品です。 


「成吉思汗の秘密」(高木彬光 角川文庫)
ジャンル:推理小説(日本史)/採点:95点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:500円(税別)/背表紙:水色に黒い字でタイトル書き

〜東北旅行を計画しているあなたへ〜

 今は亡き推理作家高木彬光さんの代表作にして、日本版安楽椅子探偵の代表作かつ歴史ミステリの元祖ともいわれる名品です。盲腸で入院し暇を持て余していた名探偵神津恭介は、義経成吉思汗伝説が史実なのか嘘っぱちなのかを酔狂で推理してみることにしました。暇つぶして始めた推理が驚天動地のスペクタクルな結末を迎えようとは、誰が予想したでありましょうか?という内容です。
 推理小説=殺人事件なんて考えているそこのお嬢さん(思いっきりテレビの、みの〇んた風に)!そんなあなたが500円で新境地を開けるなんてお買い得です。ただ、昭和48年に初版発行ですから、作者も死んでいる今、もうすぐ絶版になるのではと心配してるんですけど。 


「歴史余話」(海音寺潮五郎 文春文庫)
ジャンル:日本史(こぼれ話)/採点:75点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:437円(税別)/背表紙:黒に白い字でタイトル書き

〜義経は成吉思汗になったと信じているあなたへ〜

 数々の古文書に目を通し、歴史通であることにかけては人後に落ちない大歴史作家、海音寺潮五郎さんの含蓄がポロポロとこぼれだしたエッセイ集です。平将門、源頼義、真田一族と源為朝、西郷隆盛と勝海舟の生き方を、海音寺さんの目を通して生き生きと綴られています・・・って、私が言いたいのはそこじゃないんです!
 この本の中に『義経と弁慶』というエッセイが載っていて、むしろそっちの説明をしたいんです。上に書いた高木彬光さんが「成吉思汗の秘密」を発表したとき、当然各方面から反論の火の手が上がりました。このエッセイは、高木さんに対する反論として書かれているんです。両方の読み比べをして、自分なりの結論を考えるのが楽しいです。ちなみに、私の結論は・・・あ、もう字数が足りないや。 


「消えた義経」(中津文彦 PHP文庫)
ジャンル:歴史(日本史)/採点:74点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:524円(税別)/背表紙:薄い黄色と白に黒い字でタイトル書き

〜透明人間なあなたへ〜

 兄の源頼朝に追われて奥州平泉に逃れてきた源義経。彼を匿った藤原泰衡に漬物石のようにのしかかる頼朝と朝廷の圧力。義経を差し出すか?それとも戦うのか?ギリギリの決断をせまられた泰衡の作戦とは?(?マーク多すぎ)
 現在、義経北行伝説を強力かつ控えめ(どっちだよ?)に主張している作家の代表者というと、この中津文彦さんです。中津さんの考える義経北行の一部始終が、物語の形式を採って書かれた歴史ミステリです。題名どおりに余韻を残す最後が☆ですね。 


「義経伝説 歴史の虚実」(高橋富雄 中公新書)
ジャンル:歴史(日本史)/採点:65点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:660円(税別)/背表紙:白に黒い字でタイトル書き

〜武蔵坊弁慶は実在すると信じているあなたへ〜

 一般に信じられている義経の生涯は、ウソとホントが混在しています。東北大学名誉教授の筆者が、複雑にからんだ真偽の糸を、信用できる文献や学識に基づいた推測をもとに、冷静に選り分けていったのがこの本です。義経伝説という題名ですが、義経不死伝説とは直接の関係がないところがJAROにひっかかりそうで●です。
 この本を読んだとき、これまで私が義経成吉思汗伝説の根拠と考えていたものの大半が史実ではないことに気付いて愕然としました(セミがジンジン鳴いていた高校3年の夏18歳)。そういう意味で、小難しい学者さんの本を馬鹿にしてはいけないんですね。 


「平泉の世紀 古代と中世の間」(高橋富雄 NHKブックス)
ジャンル:歴史(日本史)/採点:85点/評:ゲゲゲの金太郎
 値段:1020円(税別)/背表紙:白に黒い字でタイトル書き

〜大昔のNHK大河ドラマ「炎立つ」を全てビデオに録画して今でもそれを保存しているあなたへ〜

 上の「義経伝説」の筆者高橋富雄さんが、さらに東北蝦夷に関する研究を積み重ねて書いたのがこの一冊。「義経伝説」よりも分かりやすい文章で、なおかつ目新しい発見が多いのが♪です。
 奥州平泉は日本にあって日本にあらず、京都とは異なる文化哲学を有した別の世界だったということが、この本の眼目みたい。この主題は、「炎立つ」や「火怨」で蝦夷の心を描いた高橋克彦さんの思いと通じるところがあって興味深いですね。あれ、よく見たら二人は同じ高橋さんでした。なんか関係あるのかな。 

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