MS-06G及びMS-07C-4と、地上用MSに関する系譜

 
 2009年3月末発売の大河原邦男画集の中で、新規描き下ろしMSとしてG型ザク(MS-06G)の名前が発表された。
 これは快挙であるが、発表される前に現在持ちうる情報から導き出される機体の位置づけの私見を明らかにしておきたい。


 MS-06Gは、『MSVハンドブック』で初出したザクバリエーションである。他のザクバリエーションと違って画稿は存在せず、
移動性能をアップした」との一文のみ紹介された機体である。

 次いで、『MSV ザク編』において、更なる設定が公開されたが、こちらも画稿は存在しない。
 『MSV ザク編』の記述では、06Jをベースに高機動化し、脚部に補助推進装置を持つ。装甲も強化されており、MS-07よりも太く見えた、とある。また、開発系図の中では、06J→06G …>07となっている。


 この後、06Gは不遇の時代を迎え、次に光を当てられたのはガシャポン戦士での立体化と、同時期に発売されたボンボンスペシャルの中での詳細な機体設定である。

 ガシャポン戦士付属シール(イラスト版)では、「地上戦用のザクMS-06Jの陸戦能力はそのままにし、移動能力の向上を計るため脚部のバーニアを強化するなど若干の改良を加えた機体。少数が改修された」とある。
 写真版シールもほぼ同じ内容の記述がなされる。

ボンボンスペシャル31『SDガンダム カラー完全大図解』においては、
ザクの地上戦闘性能を高める実験のために作られた試作機。脚部のスカートの中にバーニアを装備しているので、ドムのように地上をホバー走行することもできる。そのほかにも動力系統などに大幅な改修がくわえられ、のちの地上用モビルスーツの基本となった
陸戦用にバーニアを強化、ホバー走行を可能にした。ドムへの移行期に、グフ試作実験機とともに作られた」とある。

            図1 ボンボンSP内記述       図2 ガシャポン戦士付属シール


 以上の記述を並べてみると、『MSV ザク編』とボンボンSPの記述の間で、開発時期に齟齬が見られる。
 これをどう捉えるかが重要であるが、全体を並べてみると、
『MSVハンドブック』『ガシャポン戦士付属シール』の記述は、『MSV ザク編』の記述とも、ボンボンSPの記述ともに矛盾せず、どちらにも採れることが分かる。

 『MSV ザク編』の記述とボンボンSPの記述を相反するものと捉え、文献史学的手法を用いるならば、どちらかの記述が歴史的に改変されていることになる。


 『MSV ザク編』の記述を正しい歴史と認識するならば、MS-06Gは、
・MS-06JからMS-07に移行する間の、07と同様のコンセプトの下、07に先行して改修された機体
・時期的には0079年2〜3月頃と思われる
・07の制式採用により存在意義を失い、少数の生産に終わる。07自体も早すぎたコンセプトのため(連邦製のMSによる反抗を想定して格闘能力を高めた機体を要求したが、実際にこの時点ではまだ連邦側には実戦参加できるようなMSはほぼ存在しなかった)、生産数は200機程度に終わる
・強化された脚部バーニア及び、脚部スカート外部の補助推進装置による高機動化。時期的に見てもホバー走行は無理であり、07(あるいは08)同様の短時間ジャンプ飛行を目指したものと考えられる
・YMS-07には脚部補助推進装置が付いていないことから、ツィマッド社がライセンス生産したザクを使用して改修した可能性が指摘できるが、YMS-08Aが06Fベースという記述が存在することから、逆に06Jを調達できるジオニック社製の可能性も否定できない
という位置づけになるだろう。


 一方で、ボンボンSPの記述を正しい歴史と認識するならば、MS-06Gは、
MS-07C-5と共に作られたということから、0079年6月頃、ツィマッド社によって製作された試作実験機
・MS-07C-5以降の地上用MSは09系が主力になることから、動力系統やデバイス、システム制御、コンセプトなどは09と同様
・脚部のスカートはドム同様大型化し、ジェット+ロケットの複合推進でホバー走行を行ったものと推定される
・但し、ドムと同じ熱核ロケット+ジェットかどうかはザクのスペックから疑わしい
という位置づけになるだろう。

 この場合、ドムの開発経緯と共に考えると非常に興味深い位置づけを与えることができる。

 ドムが開発された経緯は、地球降下作戦以降顕著になった、06・07の戦闘展開速度の遅さにある。
 軍部は、これを解決するために各社に通達、あるいは軍の開発局にも改良を緊急に求め、少なくとも3プランが現在までに確認できる。
1.07の飛行計画化・・・当時最新技術だった熱核ロケットを搭載していることからツィマッド社の関与が考えられ、一方でベースとなったYMS-07Aはジオニック社からしか調達できない。軍部主導の合同参加プロジェクトと思われる
2.サブフライトシステムの実用化・・・ドダイはツィマッド社製のため、ツィマッド社のプロジェクトだと思われる
3.ホバー走行可能な新型機の開発・・・ツィマッド社の別プロジェクトだと思われる。YMS-08Aを主導したチームが関与していたと思われる

 結局、1は頓挫し、2と3がそれぞれに制式採用された。
 但し、3のプロジェクトの進展を考えた時に、新型開発と並んで在来機の同コンセプトによる改修も想定されていたはずである。これが06Jをベースにした06Gではないだろうか。
 そして、もう1機種、07Bをベースに同コンセプトで改修された機体がMS-07C-4ではないだろうか。

 MS-07C-4は、06G同様に『MSVハンドブック』を初出とし、画稿は存在せず、ただ「脚部の推進装置を大幅に変更した」という記述が存在するのみの機体である。

 次いで、『MSV ジオン軍 MS・MA編』には記述は存在しないが、開発系図の中に現れ、07Bをベースに他の07C系とは無関係に発展した機体であることが分かる。

 脚部の推進装置を大幅に変更したのは06Gも同じであり、07C-4もやはりロケット+ジェットの複合型式だったのではないかと思われる。

 そして、これらのデータを相互にフィードバックし、同時に完成のメドが立った熱核ロケット+ジェットの複合型式の試作機を搭載したのがMS-07C-5だったのだろうと考えられる。

 MS-07C-5には、「異例の固定武装化外し」「新型機のための十字モノアイとヒートサーベル」という記述もあることから、MS-07C-4は、
・07B、あるいは07C-1同様の固定武装
・頭部を含めた外見は07Bに近似
・但し、06Gと同様のコンセプトならば、装甲の強化やテスト機用のデモカラーがなされていた可能性がある
・脚部は、ロケット+ジェットの複合推進装置付きでホバー走行可能、但し熱核式ではないので、性能や巡航的には満足できる性能ではなかったと思われる
・運用的には、Zガンダムに登場した07Hに近いと考えられる
・07+ドダイの制式採用化により存在理由を失い、少数生産に終わった
という位置づけができるであろう。

          図3 MS-07C-4(想像図)

 
 さて、06Gに話は戻る。
 2つの系統の資料からから導き出された位置づけは、同じ機種の機体であることを否定している。

 だからと言って、両者が存在しなかったと断言するのは尚早である。

 ジオン軍には、06Vの各型式が各戦線からの申請順に登録されたという記述があり、
またMIP社製のMA-05は、ジオニック社によってMA-05Mに改修されたという記述も『ミリタリーファイル』に存在する。

 また、07Hという型式番号からも、アルファベットは特に意味をなさないカテゴリを示すだけの場合が見受けられる。

 すると06Gとは、「脚部の推力を強化した陸戦用ザク」というカテゴリを示しているものとしても考えられ、
その場合、
・『MSV ザク編』記述から導き出される07以前の機体 → MS-06G(G-1)
・ボンボンSPから導き出される07C-5と同時期の機体 → MS-06G-2
と設定しても矛盾は生じない。

 以上、今回は特出した2系統の資料を他の資料から否定できないことから、両者併存の可能性を指摘した。
 大河原氏による描き下ろしによって、また多少考察内容の変更があると思うので、楽しみに期待したい。



*追記
 2009年3月末発売の大河原邦男画集において、06Gが「陸戦高機動型ザク」として前後のラフ画と、
 ポーズ付きのイラストで公開された。

        図4 陸戦高機動型ザク前後図(ラフ)        図5 陸戦高機動型ザク

付属した解説では、

大戦初期、地球侵攻においてジオン軍の主力MSザク(06J)の活躍は、目を見張るものがあった。
 しかし、ザク(06J)も無敵のMSではなかった。連邦軍との地上戦での損耗率はジオン軍の予想を上回り、
 より強力な新型MSの開発が切望されていた。

 ジオン軍からZEONIC社への新型MSの要求は、機動性能、装甲、火力、以上の3項目の向上と言うもので、
 開発は同時に数種のプランが進められることになった。そのひとつが06J、陸戦用ザクの改良型である。

 だが、この改良案の実現は困難を極めた。何故なら、ザク(06J)は度重なる性能向上によって、その性能は
 機体構成の限界点に達していたのだ。ようやく完成した改良型は、正式採用されG型の名称を与えられ、
 生産がスタートするが、間もなくG型の生産ラインは、G型と同時に開発が進められていた新型MS-07Bの
 生産ラインへと移行される。総生産数は五十数機で生産が打ち切られている。

 06Gの存在は知られていたが、記録写真が少ないのは、開発の遅れに伴い生産数が少なかったことに
 起因している。
」とある。

 この記述からは、「MSV」当時の記述及び機体系譜に準拠した、06J→06G→07Bという機体の位置づけであり、
ボンボンスペシャルの記述(07C-5と同時期)には全く触れられていない。
 しかしその一方で、外見は脚部のバーニアを除いてSD版を(カラーリングまで)準拠している。

 また興味深い記述として、
・06Gと07系は同じコンセプトで同時期に開発された機種・・・更に08系も同時期同コンセプト
・開発はジオニック社
・06J自体が複数回のアップグレードを施されている。
・生産数は50数機と予想以上に多い・・・生産数不明で、さほど多くないとされる06Jは数百機程度は生産されていた可能性がある
という点が指摘できよう。

 更に今回明らかになった外観からは、
・脚部外側補助推進装置は、むき出しの化学ロケット式バーニア
・脚部背面側補助推進装置は、ノズル式の装置
・脚部内側補助推進装置(?)は、ノズルあるいは小型スラスター装置
・脚部正面装甲は、見慣れない形状の分割様式
・腿部は07系に酷似
・脚部の動力パイプは無くなっている(内蔵式?)
・ランドセル右側側面に通信用アンテナを有する
・腰部背面にはバズーカラックがあり、120mmマシンガンと同時に270mmバズーカも携行できる
という点が指摘できよう。

 脚部の補助推進装置であるが、両側面及び背面側の3方に配置する例は同時期の機体には見られず、
寧ろ06RやYMS-09に近い形態である。このスタイルの源流は06Gに求められる可能性がある。

 性能、及び運用方法であるが、07系に生産が取って代わられたことから06Jの若干の性能向上に過ぎなかったものと考えられる。
 脚部の補助推進装置は、ホバー走行などは無理であり、従ってMS単機の高速移動展開も不可能であったと思われる。
 おそらくは、戦闘レベルでの急激な加速や方向転換による攻撃や回避に多少役立つ程度ではなかっただろうか。

 *追々記
 2009年4月末発売のガンダムエース2009年6月号において、「MSV-R」の第一弾として06Gの正面彩色画稿・
機体詳細スペック、設定図(正面・背面・武器)、実戦の一場面と解説が掲載された。


左上:図6 陸戦高機動型ザク彩色正面図  右上:図7 陸戦高機動型ザク設定図  左下:図8 陸戦高機動型ザク実戦イラスト

 これによって新たに明らかになったことは、
・全高17.5m(06F、06Jと同じ)
・本体重量58.1t(参考:06F:58.1t、06J:49.9t、07B:58.5t)、全備重量75.3t(06F:73.3t、06J:70.3t、07B:75.4t)
であり、グフのスペックに近い
・ジェネレーター出力1015kw(06F:951kw、06J:976kw、07B:1034kw)であり、これもグフに近い
・スラスター総進力55000kg(06F:43000kg、06R-1A:49800kg、06J:45400kg、07B:40700kg)であり、グフを遥かに凌駕し、更には06Rよりも高い
・武装はMMP-78マシンガン中期型(バレルジャケットと銃身ガード装備)を標準装備、オプションとしてザクバズーカ、ジャイアントバズを装備可能
・アンテナはオプションで、装備していない機体も存在する
・0079年11月に北米で実戦参加が確認されている
・06Jに比べ素早く小回りが利く感じとの証言
・それにより中隊長機などの高位機としてのポジションを与えられていた
 などが挙げられる。

 上記を総合して考えると、スペックはグフにやや劣るものの、06系列の中ではほぼ最高峰を誇る。
 スラスター総進力には目を見張るものがあるが、全備重量からは推進剤の少なさを予想でき、高機動による戦闘は時間が短いと思われる。またホバー走行はほぼ不可能であると予想される。
 但し、このスペックから予想される性能は06J、07系運用下でも十分重宝される位置づけにあると思われ、逆に少数生産で終わる意味が理解できない(追加生産や06J→06Gへの改修などが行われて当然である)。
整備の煩雑性などの致命的な問題があったのだろうか。



 大河原氏(及び川口名人、草刈氏)が立ち上げた「MSV-R」の企画は、従来文字設定のみであった機体の画稿化を目指しているとのことである。
 それはつまり、MS-07C-2や07C-4なども画稿化される可能性があり、大河原氏たちがどのような解釈をするのか楽しみである。
 現在のところ、公式的な06Gは筆者が想定した06G-1とほぼ同等であり、「06G(06G-2)と07C-4は密接な関連のある機種同士」という推察は残念ながら崩れそうな趨勢であることを記しておきたい。



参考文献
『MSVハンドブック 1、2』1983,バンダイ
『1/144 ザクタンク』キットインスト 1983,バンダイ
『1/144 グフ飛行試験型』キットインスト 1983,バンダイ
『MSV ザク編、ジオン軍MS・MA編』1984,講談社
ガシャポン戦士付属シール MSV-47 1988,バンダイ
『SDガンダム カラー完全大図解』コミックボンボンスペシャル31 1988,講談社
『EB MS大図鑑 part.8 SPECIALガンダム大鑑』1990,バンダイ
『ジオン軍ミリタリーファイル』1998,バンダイ

『原典継承 大河原邦男画集』2009,角川書店
『ガンダムエース』09年6月号 2009,角川書店





BACK