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押し上げる教育
 てっちゃんが、数の概念を理解し始めました。それは、周りがいくら教えようと思っても拒否反応を示していた事だったのに、ある日、気がつくと、てっちゃんは理解していたのです。
 
 私たちは今がチャンスと算数の教育ソフトを購入してやらせてみました。てっちゃの様な障害の子にはパソコン学習が結構、効果的だと聞いていたからでした。てっちゃんは大興奮。目をキラキラさせて算数の問題を解いていきました。理解度に関しては完全ではなかったものの好感触と思っていました。しかし、翌朝、私が「てっちゃん、算数のお勉強しよう」と言ってPCに手をかけると、「やだ!」と言って逃げていってしまいました。「?」パパと首をかしげながら、それでも強引にPCの前に座らせると、やり始めたのですが、しばらくすると「もうおしまい、もうおしまい」と言い出します。こちらとしては、少しはまとまった時間やってほしいと思ったので、ごまかしながら、それでも20分ぐらいやったでしょうか。これが限界というところでお終いにして、PCの電源を切ると逃げるように部屋を出て行ってしまいました。

 おりしも、言語療法をアメリカから日本に初めて伝えたというT先生とお話しができました。この算数学習の一連の話しもしますと、一言「やりすぎですね」と言われてしまいました。「方法としては良いと思いますが時間が長すぎます」 「どのくらいがちょうど良いのでしょうか」と私が質問しますと「3分ぐらいですね」
私「!」 大失敗です。てっちゃんの様な子は集中を持続させるのが不得意です。長い時間やっても意味がなく、毎日ほんの3分、2,3問ずつ繰り返しやる事が大切なのだそうです。わかる問題だけ、ひたすら繰り返して、自信がつけば自分で次に進むと言うのです。「引き上げようとしてはダメです。押し上げるんです」 「てっちゃん自身が踏み出そうとするときまで待って後ろから、そっと押し上げてあげるんです」 私達は経験的に知っていたはずの事でした。今までにも、てっちゃんに関してはトイレトレーニングを始め、着替えの躾など、同年齢の子に比べると明らかに遅かったのですが、それでも焦らず彼が踏み出すまで、じっと待ったものでした。「押し付けても身につかない」考えてみると、これはすべての子にあてはまることですよね。しかし、親と言うものは、ついつい欲が出てしまうんです。今までにも押し上げた後、そのまま、もう一段上に引っ張り上げようとしてしまった事がありました。 そして、てっちゃんの拒否反応に会って反省するのでした。 またやってしまいました・・・  

 学校のシステムが子供の成長を待ってくれるようなカリキュラムだったら・・・てっちゃんばかりでなく多くの子供たちがもっと生き生きと楽しく学習することができるのに。
 しかし、これは本当に難しいことです。仮に学校のシステムがそうなったとしても親の気持ちと言うのはなんと言うか悲しいもので・・・・ てっちゃんだから気がつかせてくれるし実践もできること。マークンにも、フックンにも、私達はついつい引っ張り上げる事ばかり考えてしまいます。反省しなくてはならないのは、私達、親ですね。 親の最大の仕事は子供の成長を見守る事そして待つ事、てっちゃんが教えてくれる子育ての基本を、他の子にも実践できるように努力したいと思います。(Aug.2000)