2014年「翼」11月号巻頭言
「婦人よ、ごらんなさい」
小 林 重 昭
「そこで彼らは互に言った、『それを裂かないで、だれのものになるか、くじを引こう』。これは、『彼らは互にわたしの上着を分け合い、わたしの衣をくじ引きにした』という聖書が成就するためで、兵卒たちはそのようにしたのである」。さて、イエスの十字架のそばには、イエスの母と、母の姉妹と、クロパの妻マリヤと、マグダラのマリヤとが、たたずんでいた。イエスは、母に言われた、『婦人よ、ごらんなさい。これはあなたの子です』。それからこの弟子に言われた、『ごらんなさい。これはあなたの母です』。そのとき以来、この弟子はイエスの母を自分の家にひきとった」。(ヨハネ一九・二四〜二七)
すっかり秋も深まりました。お変わり御座いませんか!被災地の為続いてお祈り致します。今回は、ヨハネ一九章です。
主イエス・キリストは十字架上で七つのみ言葉(十字架上の七言)を語りました。「十字架上の七言」は、「父よ、彼らをおゆるしください」(ルカ二三:三四)で始まります。主イエス様は、ご自身を十字架に架けた人々のため「赦しを祈り」、「赦しを宣言」されたのです。ヨハネ福音書十九章は、主イエスの処刑に当ったローマ兵が衣類を分け合う記事を紹介します。預言の成就でした(ヨハネ一九:二三〜二四)。驚くべき事に、主イエス・キリストは十字架の上から母マリヤに、愛弟子ヨハネを自分の息子とするように告げます。愛弟子ヨハネには、母マリヤを母として迎える様にと語ります。そして、聖書は「そのとき以来、この弟子はイエスの母を自分の家に引きとった」(ヨハネ一九:二七)と記します。まさに、十字架の下で、新しい人間関係が誕生したのです。
一、「わたしの衣をくじ引にした」
―預言の成就 一九章二四節
旧約預言の成就でした。二千年前、主イエス様の時代の慣習として、処刑に当る兵士たちは、報酬として囚人の衣類を取ることを許されました。兵士たちは衣類を分ける為、十字架の下で賭け事をしたのです。或る方は「キリストに対する世の無関心を、これほどまでに示している情景はない」と語ります。十字架上で、救い主イエス・キリストが世界の人々の罪の贖いの為に死のうとしています。しかし、十字架の下では、兵士たちがあたかも何事もないかのように、喜々としてサイを投げていたのです。まさに、「教会の悲劇は、キリストに対する世の敵対ではありません。悲劇は世の人々の無関心なのです。十字架で示された神の愛をなんでもないものの如く扱う無関心です」。「上着を分け合い、わたしの衣をくじ引きにした」(一九:二四)のみ言葉は、詩篇二二篇一八節の預言の成就でした。詩篇二二篇は、メシヤ受難の預言として、主イエスの十字架の情景を語っています。
二、婦人よ、ごらんなさい 一九章二六節
主イエスは、地上に残される母マリヤに愛の配慮を示されました。「婦人よ、ごらんなさい。これはあなたの子です」と、愛弟子ヨハネを「子」としたのです。イエスの兄弟たちはまだ、イエスをメシヤとして信じなかったので母を任せることができなかったのでしょう(ヨハネ七:五)。イエスの母を託されたヨハネはサロメ(イエスの母の姉妹)の息子で、イエスのいとこに当たりました。また、彼はイエスの愛弟子でもありました。そこでイエスは、ヨハネの世話をマリヤに、マリヤの世話をヨハネに託したのです。「そのとき以来、この弟子はイエスの母を自分の家に引きとった」とあります。まさに十字架の下で新しい人間関係が生まれたのです。これこそ新約の教会の姿です。