/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/航海日誌(20)/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 

【8月30日(水)〜9月5日(火)】

8月30日(水)  青森県 むつ小川原港 日和待ち
今日こそは八戸へと意気込んで午前4時。外へでると小雨がぱらぱら。そして向かいの南東風が8メートル前後。
アメダスをダウンロードすると、下北半島付近は、東から南東の風ですが、表示されている数字は4メートルほど。
レーダーを見てもまったくエコーは見えません。一応、尻屋崎の風向風速を確認すると南東11メートルとかなり強い。
おかしい?ヤマセが吹くにしても北の高気圧はもう北海道の東へ抜けているはずなのに・・・・。
GPV(コンピューターの計算結果)データを見ても、早朝雲がかかるものの、下北東岸は次第に回復するはずなのに。
気象庁予報も青森県三八上北地方は「曇り、所により一時雨のち晴れ」。
昨日同様11時まで様子を見ることにしました。

そして、午前11時。雨は止んで、風も6メートルほどになったので、とりあえず、港の入り口の防波堤で様子を見て、
海の様子がよければそのまま八戸まで進むことにしました。
・・・・・・・・が、防波堤の切れ目からは大きなうねりが流れ込み、港外を見ると白波が飛び散っています。
「ウッソー」とコギャル言葉が思わず口をついてしまったKasayan。
風も10メートル前後の東風。それでも、念のため、八戸方向に向かって船を走らせ、様子を確認。
当然スプレーがビュンビュン。まだ港内にも関わらず3.8ノット。これでは、明るいうちの入港も危ぶまれます。
なにも悩まず元のバースへ引き返しました。

よく考えてみれば、これがヤマセ。レーダーに映らないのも、この雲の高さが霧などと同様、低いため。
ひまわりに映らないのもやはり背が低いため雲頂の温度が高く、とても赤外画像では捕らえきれないからと思われます。
久しぶりにアメダスの日照を確認したところ、やはり青森県の太平洋岸は、全て日照が観測されていません。
ひまわりならば、可視画像でなければヤマセを捕らえられないのです。
また、アメダスの風向風速で4メートルと観測されたとしても、この地域のアメダスポイントが少々内陸側にあるため、
東風のヤマセの場合には、海上では約2倍で考えないといけないことがわかりました。
恐るべしヤマセ。高気圧に十分覆われても、中心が北にある場合にはこれほど風が強いとは!!!。
舫いをとりおわると同時に、風が弱まらないにも関わらず霧が出始め、視程は1マイル前後まで落ちてしまいました。
湿度は99パーセント。湿り気の多い冷たい東風。まさに教科書通りです。頭でわかっていても実際に体験するのは
初めて。コンピューターの計算結果にも明瞭に現れず、気象庁予報でも予想しきれない。とても良い勉強になりました。

・・・・・・で、食料、水とも半月分はあるのですが、折りたたみ自転車を取り出して、地図上で7キロ先の村まで探検に
行くことにしました。3メートルの高さの岸壁をロープを使って自転車を吊り上げ、出発。
さまよえる湖、ロプノール湖と楼蘭を発見した探検家スウォン・ヘディンがタクラマカン砂漠を横断してタリム川に達した時
ように、すっかり「むつ小川原港砂漠」を脱出する探検家気分。

港をはずれると、延々と広がる霧の原野。青森に、こんな原野があるのか・・と思っていると、道端に看板が一つ。
「霧がでていませんか?」という文字と熊のイラスト。自転車を止めて小さな文字を読んでみると「ここに生息する熊は
ツキノワグマです。朝晩や、霧の出たときに出没するします。いきなり逃げると驚いて襲い掛かるので、出会ったらゆっくりと
後退してください。できるだけ音を立てて歩きましょう」
ウッソー!!!!!本日二回目。
まさか熊まで出るところだったなんて。
いそいで自転車をこいで、地図で目処をたてておいた尾駮の村まで35分。ようやく小さなスーパーを発見!!!。
氷と生ものいろいろ買って再び35分。往復1時間10分で食料の買出しができることがわかりました。
これで、なんとか生活できる。

晩御飯は、函館で食べたシスコライス(ピラフにミーとソースをかけてソーセージを添えたもの)を真似たGoldenWistaria
ライス。昨日干物にしておいたヒラメのムニエルも添えました。

週末には台風12号崩れの低気圧が青森県に最接近。なんとか南下したいのですが、それもかなわず。
ここは深い港で十分に入り込んでいるので、港としては、台風直撃でもない限り耐えられるはず。
明日の予報は、「南西の風のち東の風 晴れ」。南西が吹いたなら八戸も狙えますが、東に変わると霧が出やすく
場合によっては、今日と同じ状況も。
食料調達の目処も立ったし、あせらず、待てば海路の日和有り!!


むつ小川原砂漠で食べるGoldenWistariaライス


8月31日(木) 青森県 むつ小川原港 ⇒ 青森県 八戸港
夜中の一時、トイレに目が覚めて、キャビンから顔を出してみると、一面の霧。
昨日の東風は止んでいますが、50メートル先の防波堤の街灯もぼんやりと霞んでいます。
かなり憂鬱な気持ちで毛布に包まって、再び目が覚めたのが午前4時。

恐る恐るスライドハッチを開けて外を見ると、やっぱり霧。夢ではなかった・・・・。
それでも天気図を取り、アメダスをダウンロードして、霧を除けばまったく問題ない状況であることは確認。
常備のレーダーリフレクターに加えて、予備のレーダーリフレクターも取り付けあとは霧が晴れるのを待つことに
しました。

午前5時10分の日の出。太陽が出てくると、少しは視界が開けておよそ500メートル。
よし行くぞ!!!と5時30分出港。昨日、うねりと波で引き返した防波堤も無事通過。
ホッとして振り返ると、すでに防波堤は霧の中。ここで踏ん切りがついて一気に八戸を目指すことにしました。

港外に出て5分。視程はどんどん落ちて200メートル前後。時折、刺し網の漁船が姿をあらわしては霧に消えて
行きます。五感を研ぎ澄まし、目を皿にして、刺し網の旗や漁船に気をつけながら前進。
むつ小川原から八戸までの海岸線の網の情報は得られませんでしたが、小川原の北側に定置網があったので、
この先、三沢付近にも定置網がある可能性が十分あります。そこで、2マイルから3マイルに沖出しして進むことに
したのですが、小川原港から東へ進路を取らず、やや南東気味に前進していたところ、約4マイルで目の前に突然
定置網のブイ。急遽、進路を90度左に曲げて回避。血圧が上がる一瞬。

霧の中ではどうしても自船の位置をGPSだけに頼りがちですが、今日は測深器も併用。下北半島東岸南部は、
遠浅の砂浜。むつ小川原の沖3マイルから八戸に進路を取るとちょうど水深35メートル前後の等深線と重なります。
デプスメーターのアラームを30メートルにセットして、岸に寄りすぎるのを防止。

幸い逆らう潮もなく、微風だったこともあって、機帆走の足がのびて10時前には八戸港沖に到着。
でも、港口まで1マイルになっても見えるのは白い壁だけ。GPSの画面を最大限に拡大して進路を確認し、速度を
3ノットに落としてじわじわと前進。残りマイル数、現在方位、目標方位を女房に読み上げさせ、Kasayanはワッチ
に専念。残り0.1マイルで突然防波堤が姿を見せました。
そろそろと港内に入ると、あちこちから霧笛が鳴り始めました。慌てて防波堤ギリギリに寄せ、大きな船の航路から
外れると霧笛が鳴り止みホッと一息。八戸の港は大型船が入港する商業区と漁船が出入りする漁港区がある大き
な港。港内で錨泊している船のアンカーワッチがレーダーに映るGoldenWistaria号の進路に不安を持って霧笛を鳴
らし始めたようです。・・・・・・ということは、レーダーリフレクターの効果はそれなりにあった模様。
港内ですら霧でなにも見えず、内防波堤までもGPSを頼りに前進。五感を使い果たし、ふらふらになって鮫漁港区
の岸壁に横付けすることができました。

港内は、秋刀魚漁船で混雑していると予想していたのですが、それに反してまったくのガラガラ。念のため停泊して
いた漁船の漁師に聞くと、今は船がいない時期だからどこでも勝手に泊めて平気とのこと。
水産会社の排水で思いっきり汚く臭い海水。それでも、久々の町並みを見て、山を下りてきた登山者の心境でした。

船を片付けて、さてビールでも・・・と思ったところで、早速人だかり。そして、いつもの質問と受け答え。
ところが、中にとても熱心な角刈りの中年男性一人。ディンギーに乗っていて、いつかは自分もヨットで日本を周りたい
と思っているとのこと。疲れも忘れて一時間も話し込み、キャビンに招待。帰り際、地酒「桃川」一升を頂きました。

午後は早々に徒歩20分の「しろがね温泉」まで。汚い話ですが4日ぶりの風呂。うたせ湯に、ラジウム湯に漢方湯に
電気湯まであって350円也。一時間も浸かって垢をすっかり流して生き返ったKasayan。

夕方からは、ちょっと贅沢にすし屋へ。でもへたな定食屋へ行くよりも断然お徳。八戸ならではのネタばかりの上寿司で
一人前1300円、あら汁付き。二三品、お好みで頼んでビールを飲んでも二人で4000円程度。おまけにすし屋の主人が
またまた人情ある人で、どうせ暇だからと鮫角の灯台、白浜の海水浴場まで30分の夜のドライブまで連れて行ってくれ
ました。お酒を一升もらったことと言い、ドライブに連れて行ってもらったといい、八戸の人情の厚さに感激。

夜9時。八戸港は、午後に一旦霧が晴れたものの、再び重い霧に覆われています。入港したときよりも視程は悪く、
100メートルもあるかどうか。多分明日の朝も霧でしょう。霧が晴れるのは早くても10時以降。あいにく明日は夕方から
天気が悪化しそう。そして久慈まで30マイル7時間。途中の八木港まで進むとするか、それとも種市までか・・・・・・。
台風12号が近づいています。八戸も避難には万全とはいえませんが、前進できなければここでがんばるのみ。


八戸港鮫漁港区奥に舫う 左奥に見える山が蕪島


9月1日(金) 青森県 八戸港 日和待ち
青森県は、昨日に引き続き、全域で濃霧注意報。どうせ霧だと、いつもより1時間遅い午前5時に目を覚ましまし
たが、八戸港は、昨日入港したときよりも濃い霧に覆われていて、視程は100メートル以下。
レーダー無しで出港はとても無理。

まず実況天気図をダウンロードすると、台風12号は、980ヘクトパスカルで早くも朝鮮半島上まで進んでいます。
およそ6〜12時間速度が速まっている感じ。数値予報データーでは、東北北部と北海道は、今日の午後から
南西が強まるとともに雨雲が掛かり、明日には弱まった台風の低圧部に入る予想。勿論、出港は不可能と判断。
霧が晴れても、雨が降り始め、向かいの南西が吹き始める午後から久慈港まで30マイルの前進は無理。 

中途半端に14マイル先、情報の無い八木港に進むのもかなりためらわれます。
幸い、低圧部の中心が北海道を通過するため、強風が吹いたとしても南西。八戸は吹きだしの南西には強い港な
ので、増しもやい、ビームアンカーで今日、明日はOK。あとは吹き返しの北風。場合によっては停泊位置をシフト
する必要があるかもしれません。今日一日は、停泊位置の見直しと、舫い、アンカーの方法について検討すること
にしました。

午前中は、近海の大きな巻網漁船が入港して、荷下ろしをしてはすぐに深い霧の中へ出港していきます。
岸壁にはトラックから落下した大きなサバやアジがゴロゴロ。かもめが群がり、何処からともなくやってきた老人達が
それを2、3匹拾っては袋にいれて持ち帰っています。かもめも人も同じだなーと妙に感心。
女房が大きなリュックを背負ってコインランドリーへ。Kasayanは船で留守番を兼ねて強風時の舫いの検討。
岸壁の直角な角に停泊しているので、3点から舫いを取ることが可能。スプリングとバウラインを微妙に調整すると、
船は岸壁から1メートル離れて安定。大きな引き波がきても岸壁に寄せられません。もし、風が強くなるようなら、ス
ターンからアンカーを打って、さらに船を岸壁から離す作戦をとることにしました。

しっかりとコインランドリーを発見して、洗濯を終えて女房が帰ってきたところで、昨日買っておいた、八戸名産「大トロ
シメサバ」半身380円で一杯。昼間からこんなことができるのも船の上ならでは。今朝、見たばかりのサバの巻網漁船
を思い出しながら脂ののったシメサバを賞味。今まで食べたシメサバはいったいなんだったんだー!!!!!美味い。
そしていきりなり2時間の昼寝。怠惰な生活。一日走っては数日の休養。せっかく痩せたのにまた太ってしまう。

夕方、3キロほどの散歩。八戸鮫漁港区の周りは水産会社の工場が林立。横浜のスーパーでもよく見かける八戸の
水産加工物の会社もあって、帰っても思い出して楽しめそうです。
また、いままで漁港では見かけなかった魚屋も数軒あって、串に刺した魚を塩焼きにして売っていて、店先からは香ばし
い焼き魚の煙が立ち昇り、食欲をそそります。
船に帰ると、ようやく1マイルほどまで視程が開けていました。

そして、夕食は、昨日寿司で贅沢してしまったので、ラジオを聞きながらつつましく船で久しぶりの豚バラ肉の肉料理。
キャビンの外ではポツポツと雨が降ってきました。

明日はいよいよ台風12号崩れの低気圧が接近。少しずつ風が強まってくるはず。
明後日も風が強い見込み。八戸の生活も長くなりそうです。



霧の八戸港 視程100メートル以下


9月2日(土) 青森県 八戸港 日和待ち
気圧が1000ヘクトパスカルを下回りました。台風12号は、朝鮮半島に大きな被害ももたらして現在は津軽海峡
の西側で停滞。でも八戸の朝は南西の微風。嵐の前の静けさといったところでしょうか。
風の吹きだしは午後から明日にかけて。気圧傾度がそれほど大きくないので吹いてもせいぜい20メートル前後
と思われますが、用心用心!!!
台風の前面には前線が形成されて吹き込む南風の影響で大気は不安定。所々に黒い雲が漂っています。
時々大粒の雨が降っては日が差すという状態。南風の影響で蒸し暑く、キャビンでは辛い日和待ち。

昨日から9月に入りましたが、Kasayanが仕事を辞めてからちょうど一年。準備に航海にずいぶん早かった気がします。
昨年の夏は、台風が少なかったものの、かわりに熱帯低気圧が多く、「よわい熱帯低気圧」のため、神奈川県の丹沢
では増水で多くの死傷者がでました。そのため、台風が少ないにもかかわらず天気予報だけではなくニュースなどの
仕事が増えて、てんてこ舞いしていたことが思い出されます。放送において、熱帯低気圧に「よわい」を付けなくなった
のも昨年から。そういえば、今年は、各局とも最初から「よわい」をつけないことが徹底しているようです。

こうして、船の中で台風の進路をあれこれ予想していると、またまた台風の時の仕事を思い出されてきます。
勿論、天気予報の内容は台風中心。ニュースにも台風の項目が入って、放送局のウェザーセンターは非常体制。
いざ台風が上陸するとなると、気象庁からは一時間に一回、50分前後に台風の現在位置、予想進路が発表されるの
ですが、なぜか天気予報の放送時間は55分前後。放送開始まで残り時間3分で原稿を書き上げてアナウンサーに渡
すなどの秒単位の戦いをしていました。一日単位で時間が流れている今からはとても信じられないような世界(綺麗なお
天気お姉さんやアナウンサーと一緒に仕事ができるのは良かったのですが・・・)。
また、台風の中継に記者や中継車が出るのですが、遅くとも6時間前には何処の系列局に連絡して何処
の岬へ中継に行けば良いのかをブリーフィングする必要がありました。気象庁の予想進路をさらに絞り込んで、報道部
で報告するのですが、外れたことを考えると、胃が痛くなる想い。すべてが自分に降りかかってくるほうがよっぽど気が
楽かもしれません。

昼前から南西の風が強まってきました。明日にかけてこの風が東に変わり、ますます強まる予想。
現在の横付けの停泊状態から見れば、岸からの吹きだしが次第に向かいに周る方向なので、このままの状態で停泊を
続けるつもりですが、念のため、バウ側の舫いをもう一重増し舫いし、スターンからもう一本もやいを取りました。
これで万が一、一本や二本もやいが切れても船は安全。

午後は念のため、Kasayanは船に残り、女房だけ風呂と食料の買出し。蒸し暑いキャビンで汗だくですが、つまらないこ
とで船を壊したくないので我慢。留守番をしながら、読書。漁港の片隅にある小さな本屋なのですが、さすが八戸だけあっ
て海事関連の本は非常に充実していて、「奇跡の生還、ローズノエル号119日の漂流」(舵社)という本を昨日購入。
転覆したヨットの中で119日間も漂流生活をした人の実話ですが、こういう状況で読むとあまりにリアリティーがあって
ちょっと暗くなるKasayan。

晩御飯は今日も船でつつましく。
暗くなる頃から一旦、風が収まってきました。東に変わるタイミングが要注意。
龍飛崎では西南西の風が20メートル以上。波5メートル。うねり3メートル。高潮注意報まで出ています。
台風から温帯低気圧に変わったといってもまだまだ用心が必要。
今夜は、いつでも外へ飛び出せる体制で寝る事になりそうです。


9月3日(日) 青森県 八戸港 日和待ち
南西の風に強い八戸港。昨夜は、停泊場所もほとんど揺れず床の中へ。
午前1時、一旦弱まった風が風向きを変えて、東の風に。風速は8メートル前後。この風を予想して、舫いを
張っていたので、船はしっかりと安定。再び眠りの中。
そして午前3時。にわかに風速が上がったと同時に風向きは予想もしなかった北へ。
鮫の漁港市場前は東までは吹きだしとなってなんとかしのげるのですが、北に対してはまったくの吹き込み。
うねりも防波堤の間からなだれ込んできます。さらに大粒の雨。
とたんに船は前後左右に大きく動いて、とても停泊していられない状況。
それでも日が登るまでは移動できないので、オイルスキンを着てフェンダー、そして舫いの張りを調整してじっと
耐えるのみ。キャビンの外では舫いが張り切って船体を叩く音や、岸壁に打ち付ける波の砕ける音が響きます。
しまいには、ビシッという音とともに、スプリングが切断。さらにギシギシという音を立てていたスターンのクリート
が大きな音とともに吹っ飛びました。このクリート、土台の部分がプラスチック製で、シートを巻きつける上の部分
がアルミという代物。あまりに簡単に吹っ飛んでしまって唖然。後には、フラットなデッキと一本の皿ネジが残りま
した。万が一、クリートに大きな荷重がかかったとき、デッキごともげないようにクリートが壊れる構造になっている
と思われます。代わりにジブシートウィンチに舫いをとって対応。

そして、明るくなった6時半。覚悟を決めて、昨日めどをつけておいた別の船だまりに移動することにしました。
不規則にピンと張る舫いを外す手順を考え、いざ・・・・・・・・と思っているところに車が一台停車。
「あっちの船だまりのほうがええよ」とまた別の船だまりを教えてくれました。
でも、一昨日から、多くの漁師さんが現れては、ここが良いとか、蕪島の船だまり良いとか、川の奥が良いとか
様々なことを言っては立ち去っていくので、すっかり疑心暗鬼になっているKasayan。
港湾案内で場所を確認すると、Kasayanが考えていた船だまりの隣のさらに小さな船だまりを教えてくれました。
もし、そこへ行ってみてダメなら当初考えていた場所にシフトすればよいのでそのまま離岸。
一気にエンジンを後進に入れて回転数3400。船は強風にさからって見事に離岸。フェンダーをそのまま引き
ずって一旦船だまりの外へ。そこは、2重の防波堤の内側にもかかわらず白波ビュンビュン。錨泊している大きな
イカ釣漁船が走錨しているらしく、必死に風上にむかってプロペラを回しています。
八戸大橋のたもとにある例の船だまりへ。岸壁は横付けしている漁船や警戒船で一杯ですが、波は本当に静かで
横抱きなら停泊は可能なようです。すると、さっきこの場所を教えてくれた漁師さんが車で先回りしていて、大粒の
雨と強風の中、大きく手を振って警戒船の上で舫いをとってくれました。地獄に仏とはこのことかもしれません。
夫婦二人で心の底からお礼!!!!!。
オイルスキンとカッパのズボンを履いていたのですが、二人ともパンツまでずぶ濡れでした。
教訓、「停泊時の安全風向は360度で考えよう」「予備の停泊地を2つ以上探そう」「多少はずうずうしくなろう」

午後になると、風、雨とも少し穏やかになったので、クリートの様子をチェック。デッキはなんの問題も無し。
クラックすら入っていません。
バックプレートも残っているので新しいクリートを取り付けるだけ。同じクリートは多分漁港の船具屋で手に入らない
と思うので、できるだけ2つの穴の間隔が同じクリートを購入するか、念のために積んでおいた厚いアルミプレート
か木の板に電気ドリルで穴をあけて、クリート台を作り、その上にクリートを設置する方法で対処することにしました。
八戸には船具屋はいたるところにあるので、心配無用。明日もこの強風が続くので、一日仕事で片付ける予定。

夕方、一旦凪になりましたが、日が落ちるころから再び北東の風が吹き始めました。
この場所なら、昨夜のようなことはなさそうです。早めに寝て、ゆっくりと疲れをとることにします。
でもクリートだけとはいえGoldenWistaria号をはじめて壊してしまって、船に申し訳ない。
これからの台風遭遇のための良い勉強をさせてもらいました。



クリートが無くなって寂しいデッキ まがった皿ネジが・・・・


9月4日(月) 青森県 八戸港 日和待ち
昨日の強風は収まっていますが、相変わらずヤマセの東風。1000ヘクトパスカルを切っていた気圧計の数字は
ぐんぐん上がって1010ヘクトパスカルを上回っていますが、頭の上の高気圧は北に中心を持っているので、吹き
だしの湿った冷たい東風がまだ吹き続いています。そのため、今日の気象庁予報は、昨日の低気圧のうねりと東風
の波が2.5メートル。湿った風なので、重い雲が垂れ込めて、時々霧雨を降らせています。出港するのはまず無理
と判断。ただ、昨日の夕方に発表された高潮注意報は解除されました。

午前6時半。抱かせてもらっていた警戒船の船長がやってきたので、無断で横抱きさせていただいた旨を伝えると
快く、「この時化じゃしょうがねーよ。ここ2、3日はダメだろうからここでじっとしていた方がええ」。感謝!!!
一旦船を放して、警戒船を出港させたあと、教えてもらった「動かない警戒船」に再び横付け。
身体を動かしたついでに1時間ばかり、昨日飛ばしてしまったクリートを買う船具屋を探しに散歩。
散歩から帰ると、先ほどの警戒船が早くも帰っていて「うねりがヒデー。仕事になりまっせん」とのこと。
外防波堤は押し寄せるうねりで手のつけられない状態になっているとのことでした。
ついでに船長、八戸港の川奥にある、現在よりももっと安全な「十和田湖のような停泊地」を教えてくれました。

朝食の後、街中の探検へ。昨日、大きな八戸港の第1漁港区から第2漁港区へ移っているので、電車の駅にして
2駅移動したことになります。すっかり周りの様子は異なっていて、一つ新しい港に入港した感覚。
まずは、警戒船の船長が教えてくれた停泊地を視察。確かに丘に囲まれた十和田湖のようなところ。
地元の漁船や釣り舟が多く停泊していますが、頼み込めば、なんとか横抱きで安全に停泊できそうな感じ。

次は、徒歩30分のところに大きなショッピングセンターを見つけたので、まずは新しいメガネを作ることに。実は一
つ前のむつ小川原港で、メガネを壊してしまったKasayan。予備の古いメガネをしていたのですが、度が合わず、
困っていたところ。これからしっかりとワッチをするためにやむをえない出費と覚悟してレンズ、フレームで20000
円也。安く上がったとはいえ痛い。

そしていよいよ新しいクリート探し。3軒ばかり大きな船具屋を見つけましたが、このあたりに停泊している漁船はみ
な大型で、ただでさえ漁船ではあまり使わないクリートなどは取り寄せになるとのこと。こりゃ困ったと、船に帰って
KAZI誌の広告欄をひとつひとつチェック。YAMAHAの取扱店欄にどうにか八戸の地名を発見。
おそるおそる電話をしてみると、各種クリートを取り扱っているとのこと。事情を話すと、自宅が隣なので、店が閉まっ
ていたら、何時でも来てもらってかまわないとまで言ってくださいました。徒歩25分。

ホッとした後は、食料の買出し。漁港内には、大型漁船相手のスーパーが有って、漁師合羽、対油手袋に始まって
缶詰、レトルト、生鮮食料品、さては男性相手の大量の○○本から○○ビデオまで揃うようになっています。
その中で、期限切れの缶詰が100円均一になっているのを発見。某有名メーカーの大きなズワイガニ缶詰を4缶も
購入。かに玉を作る予定。

夕食後は、近くの銭湯「双葉湯」徒歩10分。一階がコインランドリー、二階が風呂という鉄筋エレベーター付きの立派
な銭湯350円也。洗濯をしながらのんびりとジェット風呂、電気湯、サウナ三昧。一階のコインランドリーには大型横長
テレビまであるので、久しぶりにゆっくりテレビを見ながら乾燥機を使って、船に戻ったのはもう21時でした。

18度の気温にトレーナーを着て、あきらめ半分で天気図をダウンロード。17時の予報は11時の予報より悪い方向へ。
日本の南岸に前線が形成される予想。さらに18時の実況天気図を見ると、前線上紀伊半島付近に低気圧が発生して
北東進しています。プログノ(コンピューターの計算結果の天気図)を見ると、この低気圧、明日の夜には茨城県付近ま
で北上し、低気圧の北の雨雲が青森県方面まで達する見込み。相変わらず東風は止まず、明日朝一旦弱まったにして
も再び夜にかけて強まってくる予想。久慈、あるは宮古へ進むのは、低気圧に向かって進むことになります。
気象庁予報では青森県三八上北地方の明日の波は2メートル。明後日は2.5メートル。目的地の岩手県沿岸北部の明
日は、うねり2.5メートルで東の風やや強くのおまけ付き。三陸沖東部には、海上風警報と海上濃霧警報継続中。

さらには、台風14号が発生していてゆっくりと北西に進んでいます。また、フィリピンの東に熱帯低気圧があって、こいつ
が台風15号に発達してしまう恐れが。この台風と熱帯低気圧、現在、日本上空にある気圧の谷に沿って一気に日本を駆
け上る可能性も出てきました。もし、久慈までしか進めずここで足止めをくらって台風に直撃されると、太平洋におもいっき
り面した久慈港では、クリートがもげるどころの話ではすまなくなりそうです。
八戸で久慈よりは安全と思われる停泊地をみつけた以上、たった一つの港に前進したばかりに大変な思いをしたくないの
で、ここは慎重に構えることに。まず、明日は八戸に滞在。
最も早く台風が北上した場合今週末が一番危ないので、それまでに、宮古までワンレグで進めるという本命ガチガチの状
況になったら湾の深い宮古まで進むことに。ほんの少しでも、宮古港への途中にある久慈港、あるいは八木港などに逃げ
込まなければならない恐れがあるのなら、八戸で次の台風をやり過ごすことにしました。

登山で言えば、森林地帯を抜けて頂上までの胸突き八丁。なかなか前に進めなくなりましたが、ここは辛抱のしどころと
考えて、明日はクリートの取り付け作業に専念するつもりです。


昨日壊れたクリートの破片と、反対側にある同じクリート
下の黒い部分がプラスチック製(問い合わせのメールを多数頂いたので)。
このプラスチックが壊れたので、デッキがはがれずに済みました。


9月5日(火) 青森県 八戸港 日和待ち
昨日、久しぶりに夜更かししたにもかかわらず、午前4時半起床。昨日、出港しないことに決めていましたが、一応
天気図をダウンロード。実況天気図は昨日のプログ(数値予報天気図)とほぼ同様の形になっていて、八戸は、朝
の内、二つの低圧部にはさまれた弱い高圧部に位置することになって一旦は風も弱まり天気が穏やかに。ただ、昼
頃には本州南岸を北上する低気圧の影響を受け始めて東風が強まり、夜には雨の予想。Kasayanの貧弱な技量で
は宮古までたどりつけずに久慈入港になってしまいそうです。「正解、正解」とうなずきつつ、キャビンから外へ出ると、
青空が広がって、風も吹きだしの西風。しかもそよそよ。一時的なものとは分かっていても、出港すべきなのではと、
心を動かされるKasayan。そこをぐっとこらえて、徒歩10分。むつ湊駅前の市場の散策へ。

この市場は、観光色のまったく無い地元のための小売市場。東京では一匹数千円はすると思われるヒラメが5匹一
箱で4000円。牛乳ビン一杯の地元産の塩ウニが1000円。ツブ貝の刺身一パック200円etc.。何軒も立ち並ぶ
市場の中に、オバチャンが一畳ほどの板をテーブルにして採れたての魚や貝を威勢良く売っています。
あまりの安さと品ぞろいの豊富さに、心配している実家の両親にクール宅急便を一つ送ることにしました。

午前9時、風向きが180度変わって東へ。予想通りの展開に一安心。

その足で、昨日電話で連絡していたボートショップまでクリートを求めに徒歩25分。
自己破壊型の同じクリートは望むべくもありませんでしたが、アルミ製のどこにでもあるクリートを購入。一個2800円。
少々高いのもやむを得ず。船にとって返して取り付け方法の検討。当然ながらデッキのネジ穴と新しいクリートのネジ
穴の位置が合うわけもありません。仮のクリートを取り付けるためにデッキに新たな穴をあける気にもなれず、クリート
にネジ穴をあけることにしました。とはいっても手持ちの電気ドリルを使って、無垢のアルミのクリートに深さ50ミリの穴
をあけるのは至難の業。近くの鉄工所のボール盤で穴をあけてもらうことにしました。
幸いなことに徒歩3分の見える場所に鉄工所の看板。ものの10分で作業終了。タダでよいといわれましたが、仕事の
邪魔をしてしまったので、とりあえず1000円を渡し再び船へ。そしてあっさりとクリート取り付け完了。
今度はアルミの無垢のクリートなので、万が一の時はデッキがはがれる恐れがあります。悩んだ末に従来の6ミリのネジ
を使わずに、5ミリのネジで取り付けました。

デッキ裏に入るために、コクピットロッカーを空にしたので、整理を兼ねて再収納していると、朝出て行った警戒船が
早くも帰港。東風が強くなって作業中止になったとのこと。そのままコクピットで警戒船の船長と世間話。
このまま八戸で台風14号、15号を迎えることになった場合のことを考えて、過去の台風時のこの船だまりの様子と、
昨日目処をつけておいた避難場所の混雑具合、風、波の様子を情報収集。
さらには孫の話、昔乗っていたいか漁船であちらこちらを旅したことなどに話は進み延々一時間半。
袖触れ合うも多少の縁。ご近所付き合いも美味くいきそうです。

15時過ぎ、東風が次第に強まって、遠くからゴォ〜という音が聞こえはじめ、低気圧前面の高層雲が広がってきました。

17時、日課の天気チェック。明日朝9時には、八戸の頭上に低気圧の中心。東風がさらに強まりますが、午前中には
西に変わる予想。朝方を中心に雨で、午後には急速に回復しそうです。
しかし、八戸の9月は風が止まない!!!止めば霧!!!。ヨット泣かせの難所です。
そして、明後日・・・・・・・。台風の進み具合と前進すべきか悩むことになるかも?


警戒船の船長と世間話するKasayan

 


 

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