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【8月2日(水)〜8月8日(火)】

8月2日(水)  山形県 飛島漁港 ⇒ 秋田県 男鹿半島 戸賀港
午前3時、ぱらぱらとデッキを叩く雨音で目を覚ましました。昨夜、山形県の各地で大雨洪水警報が発表されて
いたので、その名残の雨雲が海を越えて飛島まで流れてきた模様。レーダーを見ると佐渡から飛島にかけて
日本海には所々に雨雲がちらばっています。5時まで様子を見たところ、雨雲は次第に弱まる方向。
天気図を見ると、午後から山添を中心に不安定性の降雨が予想されますが、おおむね晴れ。風は陸風のち
海風といったところ。

いつものように5時15分出港。飛島の迷路のような防波堤を出てセールアップ。今日もまた014度一本のまっすぐ
な航海。西から1.5メートル程度のうねりがあって船は久しぶりにエレベーター状態。
陸風と思われる南東の風が2〜3メートル。ジブを一杯に開いてセーリング開始。多少息があるので、エンジンの
手助け1500回転。対地速度6ノット前後で快調に前進。2時間ほどで飛島の姿はもやの中に消えてゆきました。

しばらくは前後左右海だけの航海。前方にもくもくと積乱雲が湧きあがっています。多分、そのあたりが男鹿半島
なのですが、積乱雲に向かって進むのはあまり良い気がしません。
戸賀港沖まであと18マイル。航程の半分以上を過ぎた頃、突然ジブセールに裏風が入りました。
風向きが南東から一気に北北西に。風が変わる前に一旦無風になるものですが、今日はいきなり風向変化。
慌ててジブを返して体制立て直し。男鹿半島に近づき、半島ならではの風が吹いていそうです。
男鹿半島の姿が現れ、山の緑がわかるようになった頃、北西からの波が高くなり、風も次第に上がってきました。
男鹿半島の南側には一部、水深の浅いところがあり、そのためにうねりが増幅され、さらに秋田の砂浜から一気に
日本海へと飛び出している半島の影響で、複雑な波や風が発生するのかもしれません。

風は真向かいに周り8メートル前後、波も左前方から。久しぶりにスプレーを浴び、めがねを吹きながらの前進。
残り14マイルを切っているのでワンポンのメインセールのみで機帆走。
今日も猛暑なので、、スプレーもむしろ心地よく感じられます。
男鹿半島南西端の塩瀬崎にとりついたころから波、風ともに次第に収まって戸賀港沖ではそよそよの西風。
恐るべし男鹿半島。
戸賀港の入り口には2箇所ほど、ブイの無い暗礁があるので、進入角度に気を使いながら入港。
漁協前で作業をしていたおっさんの指示に従い、漁協まん前の新らしい岸壁に横付けすることができました。
でもおっさんの指示、秋田弁で理解できたのは20パーセント以下。

戸賀港は男鹿半島の先端、入道崎の南にある湾の中の港。弓のような砂浜の湾に沿って海水浴場、民宿がありますが、
夏休みとはいえ平日の今日は人影もまばらな閑散とした漁村でした。

日差しは強いものの、空気が乾いていて風も心地よく、エンジンの点検ついでにエンジンのエアフィルターの洗浄。
エンジンオイル150cc追加。先日、水漏れが心配されたインペラのオイルシールは、一回ばらして組み上げなおしたあとは
一滴も水漏れなし。小樽で、予備のオイルシールを購入する予定。

風呂はタクシーで2000円のところに300円の「湯っこ」があるとのことですが、タクシー代が往復4000円。
男鹿温泉までバスで30分ですが、バスも一時間に一本あるか無いか。
時間と交通費がもったいないので、ビニール袋でできている太陽熱簡易シャワーで女房ともどもさっぱりと。

夕方、漁港を散策。以前、「オールドヨットマンのソロ航海記」という本で、戸賀港では、今でも丸木舟が使われていると
いう話を読みましたが、驚いたことに本が書かれて10年以上経った今でも丸木舟が現役で使われていました。
何十年と使い込んだような古い船でしたが、非常に丈夫そうで、少々岩場にぶつかっても平気な感じがします。
今の日本で、こんな原始的な船が使われていることはまさに驚きでした。

晩御飯には、七尾で買っておいた「もみイカ」を焼いてビールで一杯。日本海の夏の夕焼けを見ながら日本海のイカを肴に
飲むビールは格別。冷蔵庫はこのために買ったようなもの。ついに目的を達成。

今日は一気に47マイル。明日も47マイル先の深浦港を目指そうか?津軽海峡も目前です。
走れるときに走るをモットーにしていますが、こう毎日走れるとちょっと疲れる。うまい具合に日和待ちの調整ができると
よいのですが、天気の神様はまとめてクルージング日和をプレゼントしてくれるようです。

 
男鹿半島塩瀬崎を行く                        戸賀港の丸木舟 今でも現役

8月3日(木) 秋田県 男鹿半島 戸賀港 ⇒ 青森県 深浦港
さわやかな風が一晩中そよそよと吹いて、キャビンの中は快適空間。本当に熟睡し、体力も回復。
昨日、対水距離で50マイル以上を走っていたので、少々気弱になって能代まで30マイルの航程も考慮していましたが、
天気も上々、体力万全、一気に47マイル、青森県の深浦まで前進することにしました。

朝焼けの戸賀港を出港5時15分。戸賀港を出て右へ曲がるとすぐに入道崎。
岬の常ですが、風は弱くても波高し。それでも1時間ほどで入道崎クリアー。あとは今日も一本017度で舮作崎を目指します。
意気揚揚と、進路を定めたとたん、プロペラに魚網の切れ端をからめて潜水。
北の海ですが、今は夏。すっかりぬるんでいて気持ちよいくらい。

北北東の風2〜3メートル。真登りの風になるので機帆走やむなし。
右手前方には能代の火力発電所の煙突が見えるのみ。
この煙突がやがて後ろに見えるようになってくると、舮作崎の姿がくっきりと浮かび上がってきました。
それと同時に白神山地の山々も姿をあらわし、原生林に包まれた緑がとても鮮やか。
雄大な山の姿に見とれていると、前方から大きな巡視船が出現。GoldenWistaria号の真横で180度変針して近寄ってきます。
臨検?まさかあんな大きな巡視船に横付けするわけにも・・・・・と思っていると、ブリッジから人がでてきて大きく手を振っています。
こちらも手を振って挨拶。のどかな日本海のひと時。巡視船「おいらせ」はすぐに水平線に消えて行きました。

舮作崎通過午後1時。ちょうど対水ログが2000マイルを記録。今航海、水の上を2000マイル。およそ3600キロ航海したことに。
少しずつ前進しているつもりでしたが、積み重ねれば思いもかけない距離を走っているもの。

風力発電の風車がゆっくりと回る舮作崎を右に回りこむと深浦港。
入り口付近の暗岩に気をつけながら14時40分入港。市場で作業していたおっさんに指示され港内の夕陽公園前の岸壁に横付け。
山口県角島から始まった日本海の船旅は、いよいよ青森県に達しました。
この岸壁、目の前に綺麗な水洗トイレと水呑場。条件としては完璧。
徒歩5分でスーパーと商店街。

いつもの点検と片付けを終え、かつて北前船の船員が航海安全を祈って船絵馬を奉納した円覚寺へ参拝。
そのまま徒歩15分で公営の温泉「ゆとり温泉」へ。300円で打たせ湯から泡風呂まである至れり尽せりの施設。
ゆったりと風呂につかり、ロビーのテレビで天気予報確認。Kasayanが、昔、仕事で企画した某ローカル局の天気番組。
思えば自分の企画した天気予報番組を見て航海するのはかなり贅沢。鳥取もそうでしたが、これから岩手、宮城、北海道と
楽しめそう。

帰りの道すがら、町の魚屋で、地元で取れたシマエビとウニ購入。
シマエビはボタンエビのように大きな子持ちのエビで、生のままむしゃぶりつきますが、その美味いのなんの・・・・・。
ウニはウニ丼。一気に腹の中に収まってしまいました。

夕食後、デッキで涼んでいると、目の前を笛や太鼓の音とともにカラフルなネブタ?が通過。
昨日は青森のねぶた祭りだったそうですから、ここ深浦もこのタイミングにお祭りがあっておかしくないはず。
遠くから、そして近くから聞こえる笛や太鼓の音を聞きながら、、すっかり日本の夏を満喫するKasayanでした。


  
 舮作崎を周って深浦へ                        深浦のお祭り


8月4日(金) 青森県 深浦港 ⇒ 青森県 小泊港
昨日とは打って変わって、朝からどんよりとした雲。オホーツク海の高気圧と、太平洋高気圧が津軽海峡でぶつかって
前線が形成された模様。東北北部は梅雨明けしましたが、ちょうど津軽海峡付近に梅雨前線があるのと同じ。
アメダスで降水量と、風向風速を見ると、津軽半島の降水は数箇所で1〜2ミリの小雨。前線の本体は北海道にある
とみられ、渡島、桧山地方でそこそこの降水が観測されています。また風向風速は津軽半島で東より2〜4メートル。
龍飛崎の通報では東の風5メートル。日本海北部に形成されている低圧部に吹き込む形ですが、1012ヘクトパスカル
の低圧部なので、それほど強くふいていないようです。
さらに東北北部レーダーをダウンロードして確認すると、津軽半島の西部にこまごまとした雨雲が点在しており、舮作崎
の西にいくつかと、鰺ケ沢付近に一つしっかりとした雨雲がかかっており、小泊方面には雨雲なし。

昨日、温泉に使ってすっかり疲れが取れたKasayan。25マイル先の鰺ヶ沢行きも考えていましたが、雨雲がかかっている
ので却下。雨雲のかかっていない37マイル先の小泊に目的地を決定。小泊ならば、日本海を北上し、津軽海峡に抜ける
海流に乗ることもできるので、かなり楽なはず。また、東風なので、アビームで前進することが可能。

決定に手間取って、いつもより15分遅い5時30分出港。今日も目的地032度の一本です。
深浦港外には底縦網といわれる網がいたるところに仕掛けられて、まるで迷路。普通、網には旗がついているのですが、
この網には丸いブイがついているだけ。この網、まっすぐ立てにロープがついているので当たっても大丈夫と聞いていますが、
近づくのは少々気持ち悪いので目をこらして慎重にスラローム。まるで海上に並んだバレーボールを避けているかのよう。

時折、頭上を小さな雨雲が通過してオイルスキンを着用。雨の降っている雲の下はグレーに煙っていて雨が近づいてくるのが
一目でわかります。久しぶりに見た海の雨。オイルスキンを着ても少々肌寒いくらい。

大戸瀬崎を越えて岩木山が雨雲の間から顔を覗かせるようになったころ、東から6〜7メートルの風が吹き始めました。
ジブをマスト付近まで開いて快調にアビームの走り。波が横から寄せてきますが、うまく乗り切り対地速度最高7.3ノット。
海流にもうまく乗ったようです。
みるみる距離を稼いで11時には小泊崎到着。灯台を回ったところで風はパタッと止んでべた凪の中、小泊港へ。
目の前には龍飛崎、そしてその左前方には北海道の山。ついに来た!!!!津軽海峡。

小泊港入港直前、凪の水面に大きな魚がはねるのを見て、どうせ予定より早く着いたのだからと、ケンケンを流してジグザグ
走行。でも「釣れない」ことに関してはまさに「才能」があるKasayan。いつものようにまったく手ごたえなし。
と・・・・・・・・ウミネコがケンケンに急降下。アッというまにウミネコが釣れてしまいました。
かわいそうなことをした・・・といそいで針を外し、無事に羽ばたいて飛んでいくのをみて一安心。
実は、Kasayan、学生時代は、あの日本野鳥の会の会員(別に紅白歌合戦でカウントしたわけではない)。
手際の良い鳥さばき?に、妙に感心する女房。

小泊漁協で一番外の防波堤を指示されたもののスペースはまったく無し。多分開いているだろうと思われる漁具置き場
前の岸壁に舫い、人が来るまでのんびり。やがて午後からの出漁にやってきた漁師さんに聞くと「開いてるからえーよ」
とのありがたいお言葉。

キャビンで遅い昼食を取っていると、外から「どっから来た?」のいつもの呼び声。

この付近の情報を聞いていると、「魚やるからちょっとまってろ」と、採れたてのホッケ5匹、真イカ1匹、ソイ一匹を
頂きました。さらに、「おめーさばけるか?」といって、イカとソイを綺麗に刺身に。
こんなにいっぱいどうしたものかと思いましたが、ありがたくいただくことに。

夕飯は昨日に引き続き、採れたての海の幸。イカとソイの刺身は絶品。また、横浜では、開かれた一夜干しか冷凍
でしか手に入らないホッケですが、採れたてを塩焼きにするとこんなに美味い物だとは知りませんでした。

夕食後、徒歩5分の銭湯へ。銭湯のオヤジと日本海最北端の銭湯ということで歓談。

船に帰ると、午後に出漁した船が漁火をつけて入港。揚げたばかりの網から魚を外して陸揚げしています。
それを見ていた女房に、「持ってけ」と巨大なイカ二匹。夕食を終えたばかりと、丁重にお礼をして気持ちだけいただきました。

明日も前線が津軽海峡付近に停滞する模様。風が強くなければ、少々濡れてもいよいよ北海道松前まで進むつもりです。

 
夜の小泊港


8月5日(土) 青森県小泊港 日和待ち
久しぶりの日和待ち。新潟を出港して以来6日間走りっぱなしで、日本海最北端までたどり着いたので、ちょうど
よい休憩かもしれません。

北海道は目の前、松前はたったの19マイル先。でもその間には、難所の津軽海峡。
この海峡は風と潮がポイントなので、多少の雨でも出港するつもりで4時起床。

アメダスをダウンロードすると、雨は北海道の噴火湾あたりだけ。風も3〜4メートルで文句無し。
でも前線が停滞しているはずなので、念のためレーダーをダウンロード。
すると、津軽海峡の西側では、発達した雨雲が列を為して東進している最中。
これから津軽海峡では大粒の雨が降り出すのは間違いなし。風は強くならないと考えられますが、強い雨は視界
をさえぎるし、第一辛い。この雨雲が通過してからかな?と考えていると、外でゴロゴロという大きな音。
キャビンから顔を出してみると、西の空で稲妻がピカピカ。
風、波とも良くても雷だけは勘弁。マストに落ちたらひとたまりもありません。
前回の日和待ちから一週間、ちょうどよい休養日かと自分に言い聞かせ、女房に日和待ち宣言。
コーヒーを飲んでいると、デッキの上にバラバラと大粒の雨が落ちてきました。

まだ朝6時、もう一眠りしようと思いましたが、出港しないときまると妙に空腹感が・・・・・。
朝食には、昨日もらったイカのゲソを入れたイカの炊き込み御飯。
さらに、良く眠れるように、山口県の江崎で買っておいたワンカップの地酒を朝から一杯。
そのまま、11時まで爆睡。相当疲れが溜まっていたようです。

午後1時。隣の船の出漁の手伝いに来ていたお爺さんと岸壁でお茶を飲みながら、津軽海峡の潮と走り方をご伝授。
80歳近い高齢にも関わらず、腕は筋骨隆々。時折見せる笑顔にはたくましさと頼りがいがあふれ、いつか自分が老人
になったとき、あんな姿になりたいと思うKasayan。
午後8時の水揚げ時間に、魚を持ってくるとの事。またまたお世話になりっぱなし。何もお返しできない自分が辛い。

降ったり止んだりする雨の合い間を縫って、近くにある公共施設「漁火センター」へ。
展示室やホール、研修室の整った立派な施設で、小泊付近の歴史を示すパネルや、展示物を見学。
管理人さんにお願いすると、快く玄関の水道で水を汲ませていただけることになりました。

明日も似たような天気。でも、風と波はよさそう。レーダーで実況監視をして、タイミングを見計らって4〜5時間。
一気に津軽海峡を渡れるとよいのですが。


目前に見える龍飛崎 (昨日撮影)


8月6日(日) 青森県 小泊港 ⇒ 北海道 松前港
昨夜、午後8時過ぎ、出港の用意を終えてお茶を飲んでいると、昼間話し込んだ爺さんと、その奥さんと思われる
婆さんがメバルを5匹も持って登場。小泊のメバルは築地まで送られる高級煮魚。こともあろうに5匹もいただく
ことになりました。また、婆さん手作りの茄子を袋一杯。ただただお礼を言うのみ。
冷蔵庫にしまうわけにもいかないので、早速煮付けにすることに。Kasayanがうろこ取り、女房が手際よくモツを
取り、鍋の中へ。採れたてのメバルは煮付けると尾がピーンと逆立ってきます。
味見をすると、これはもう絶品。婆さんの言うには、最後に茄子を入れるとこれまた美味いとか。
翌日の昼メシのおかずにと、シャトルシェフに入れて保存。

そして今朝。昨日のような雷はありませんが、雲の多い空。基本的に前線が頭の上に停滞しているので、まずは
レーダーで雨雲の確認。小泊付近に雨雲は見当たりませんが、目的地の松前付近には小さな雨雲。
ただ、アメダスを見ると風はいたって穏やか。オイルスキンを用意して5時40分出港。

昨日、爺さんに教えてもらったように、一直線で松前を狙わず、301度で小泊崎方面に約2マイル進み、目的の
松前よりはるか西にある松前小島に向けて一気に海峡横断。海峡を東へ流れる潮が強く、コンパス方位は320度
ですが、GPSの示す方位は海図上で松前に引いた線の通り341度。まさに教科書どおりの潮流航法。さすがは爺
さんの言う通り。龍飛崎が斜め後ろに見えるようになると、所々で、潮で波が沸き立って船は大きくローリング。
でも連れ潮。対地速度は6ノット以上をキープ。

出港後2時間ほどで、みるみる白神岬が近づき、松前の町が眼前に姿をあらわし始めました。
でもレーダーに映っていた雨雲が頭上に。オイルスキンを着て、潮目を過ぎるたびにGPSの方位を目的方位に修正。
早くも9時過ぎには松前港の入り口に到着。このままなら江差まで・・・・という欲も沸いてきましたが、津軽海峡横断
の緊張のあと、さらに35マイル走る元気が沸かず、そのまま入港。
漁協が休みだったので、岸壁で作業をしていた漁師にお伺い。慣れたもので、岸壁の指示に加えて、水とトイレの場所、
スーパーの場所までまとめて教えてくれました。

九州博多を出て一ヵ月半、ついにやってきた北海道!!!!。

昼飯は、昨日作っておいたメバルの煮付け。二人で一気に5匹を腹に収めてしまいました。
爺さん、重ね重ね有難う。

早い到着だったので、午後、松前の町を探検に行こうと思っていると、いつものように声をかけてくるダンディーな50過ぎ
の男性。ついでとばかり、松前藩屋敷という観光地まで車に乗せてくださいました。
日光江戸村のような所で、復元された松前藩の武家屋敷や、北前船の取り調べをした奉行所などが展示されている所。
小高い丘の上にあるので、目の前に津軽海峡、そして遠くには龍飛崎、小泊崎、さらには大間崎まで望むことができます。
のんびりと、ついさっき渡ってきたばかりの海峡を眺め、北海道に渡ったことを実感。

そのまま、徒歩で丘を下り、松前の町中へ。温泉旅館が入浴のみOKということで入浴料600円也。魚が続いていたので、
スーパーで北海道名物ジンギスカンを買って30分かけて帰艇。
ジンギスカンで一杯飲みながら、ふつふつと嬉しさがこみ上げてきました。
でもこれからが天気の読みが難しいところ。低気圧の通り道であるばかりでなく、地形による複雑な出し風などが多い所。
気を引き締めて前進!!!!

 
龍飛崎が後ろに。津軽海峡のど真ん中。            松前港に横付け。北海道上陸。


8月7日(月) 北海道 松前港 ⇒ 北海道 江差港
朝5時の気象庁予報を見ると、いきなり午後から雨。昨夜の予報から少々変化が。
気象庁ガイダンス(数値予報のデータ)をダウンロードしてみると、日本海側から雨域が桧山地方に接近してくる
様子が示されています。こりゃ、面倒だなと思いながらいつものアメダス風向風速を確認すると、今日の航程付近
ではいずれも微風。オイルスキンをすぐに着れるように準備して5時25分出港。

松前港の前にある弁天島の沖には岩礁があるので、やや離して進路を西へ。
松前付近から江差にかけては、津軽海峡に流れ込む南流や、潮汐によって複雑な潮があるところ。
情報に従って沖へ3マイル出してから進路を北北西へ。
風は北東の2〜3メートル。帆走で4ノット前後、エンジン半開を足して5.5ノット。でも対地速度は3.9ノット。
いきなり逆潮につかまったらしく、このままでは、江差到着まで8〜9時間。
そこで、さらに沖出ししましたが、一向に潮は弱まらず。今度は、岸より1.5マイルに接近。それでもダメ。
これ以上岸よりを走るのは、魚網や暗礁が怖いので、しかたなくエンジン常用2800回転で、ひたすら前進。
ここまでしても対地速度は5ノット以下。午後から雨が降る予報なので、逆潮につかまるのは非常に気分悪く、
西の空を時折眺めては、ため息ばかり。

でも岸辺の山々の景色はやはり北海道。これまで見てきた岸辺の山々とは少々異なった緑に見えるのは気のせい?
遠くにはすでに奥尻島の姿。

いらいらしながら前を見ていると、いきなり久々のバスッという音。北海道初のペラ掃除。収穫はビニール袋一枚。
小泊の漁師に、北海道の西には鰐サメという体調5メートル前後のサメがいる話を聞いていたので、潜る前によ〜く
目を凝らして周りを観察。スイミングステップにつかまって水中眼鏡で水中を覗き込み、さらに慎重に観察。安全を確認し、
思い切って潜水。もうすっかり慣れたもので5秒で事を片付け、熱湯風呂から飛び出るように船上へ。
逆潮といい、ビニール袋といい、すっかり疲れてしまったKasayan。

さらに我慢すること4時間半。ラスタッペ岬(いかにも北海道らしい名前)を過ぎる頃から、少しずつ足かせが
取れて、周りの景色が変化。風も南西に回り、クオーターの風。江差の町と鴎島が見え始めると、ものの1時間半で
江差公共マリーナに到着。マリーナのすぐ脇には、江戸末期に江差で沈没した幕府の軍艦「開陽丸」の複製があって
雰囲気満点。

一日550円の停泊料は、タダを除いてこれまでで一番安い金額。驚いたことに、通常の停泊料金も
5メートル以上ならいくら大きい船でも年間4万円。陸置きでも海上係留でも同じ。さらに上架リフトの使用料金はタダ。
冬の間は船を出せない気候条件でも、この値段なら文句無し。横浜のヨットマンならよだれが出るようなところ。
さらに驚くことには、マリーナの岸壁で、たも網を使ってウニを取っている人が!!!。
暇つぶしにやってきた管理人の話だと、マリーナ内でアワビも取れるとのこと。この意味でもよだれが。

夕方から江差の町を探検。徒歩12分の松の湯はあいにくの月曜定休。

「江差の5月は江戸にも無い」といわれた、北前船の蝦夷地の終着駅の江差も、これまで訪れた北前船の港と同様、
昔ながらの廻船問屋の建物や、重厚な土蔵がいくつも立ち並び、往時の面影が今も色濃く残っています。
丘の上から見渡す日本海と江差港。この港に北前船の白い帆がいくつも並んでいる姿を想像していると、すぐ後ろの
商店街のスピーカーから江差追分が・・・・・。
北前船と同じコースで北上してきたKasayanですが、カンと経験だけで、エンジンも無い一枚帆の船を操ってきた昔の
船乗りたちの気持ちを、その100分の1でもわかったような気がしました。

帰艇後、バケツに水を汲んでコクピットで行水。18時過ぎからしとしとと雨が降り始め、急に涼しくなって行水した体に
は寒いくらい。盆を過ぎると秋の気配がただよってくると言われる北国の短い夏はもう終わりに近づいているようです。



開陽丸とGoldenWistaria号


8月8日(火) 北海道 江差港 ⇒ 北海道 奥尻島 奥尻港
昨夜の雨も止んで、西の空には青空が顔をのぞかせている朝。いつものアメダスチェックも問題なく、日課の
5時15分出港の準備。淡々と作業を済ませ、出港20分前のエンジン暖気運転開始。そしていつもの冷却水
チェック。・・・・・・・・水が出ていない・・・・・・・・・。エンジンを止め、冷却水取入れ口あたりを桟橋からデッキブラシで
ごそごそ。もう一度エンジン始動・・・・・・・・水が出ない。こりゃインペラの可能性があるな・・・・・と思いキングストン
バルブを閉め、レンチでインペラケースの蓋を開けるとグニャリと曲がったインペラが。
取り出してみると、インペラの軸金具と、ゴムの本体が剥離して、軸だけが空回りしている状態。これじゃ冷却
水がエンジンに流れ込む訳がないので早速インペラを交換することに。

予備に買っておいたインペラにグリースを縫って取り付け。
・・・・・・・どうしてもインペラが軸に刺さらない。おかしいなーと思って軸の穴径をノギスで測定すると、今まで着いていた
インペラと微妙に違う。袋の型番を見ると、最後に(S)の記号。これがクセモノかと思い、以前、半年だけ使っただけで
保存しておいたインペラを取り出して取り付け。バッチリOK。同じ型番のエンジンのマイナーチェンジ後の部品を購入
してしまったらしい。使えるものは全て捨てずにとっておくKasayanの性格が幸いしました。

一時間のテスト運転を終えて、今航海最も遅い6時53分出港。江差港は、西から北にかけての波に非常に弱いらしく、
港外は、たいした風が吹いたわけでもないのに、大きなうねりが押し寄せています。
セールを揚げるのにうねりを避けて一苦労。水深が50メートルを越えるところまで沖に出て、ようやく穏やかな水面が
現れました。
あとはひたすら奥尻海峡をまっすぐ312度。時々エンジンルームを覗き込みますが、動きはいたって順調。

15マイルほど走ったところで、北海道で初のヨットと遭遇。レーダーアーチを取り付け完全なクルージング仕様。
自然とお互いに接近。「ミンミン」と言う名前のヤマハ34ft。Kasayanと同じ夫婦のダブルハンド。
これから江差へ向かうとのこと。ほかに何も見えない海でほんの少し心安らぐ一瞬でした。

奥尻海峡は北から南へ流れる海流の通り道。今日も逆潮につかまって対地速度は5ノットを切ってのろのろの前進。
13時を回ってようやく奥尻港入港。津波で大被害のあった港ですが、現在の神戸と同様、新しい家が立ち並び、
新興住宅地のような雰囲気。
漁協の許可を得て、漁協対岸の防波堤に舫うことができました。

夕方から、久しぶりの外食。ちょっと贅沢に寿司。奥尻ではウニの解禁が7月から8月11日まで。ギリギリセーフで、
美味しいウニを堪能。また、地元で取れたタラの握りとアワビの握りを肴に冷酒で一杯。しこたま満腹になるまで
食べて二人で8000円也。横浜に比べたら、なんと安いこと。

銭湯は、すし屋から歩いて7分。奥尻町民浴場。たまたま今日は一人100円デー。ガラガラに空いた広い銭湯で
のんびり。湯上りに、北海道に転勤になった元職場の同僚が出ているテレビの天気予報を見て、元気そうでなにより
とうなずくKasayan。「誰が、おまえの解説など信用するもんか!!!」とブツブツ。

外はすっかり日が落ちて、気温は20度くらい。半そでと単パンでは少々寒いくらいですが、風呂上りには
ちょうど良い加減。船に帰って、防波堤の外を見ると、いたるところにイカ釣の漁火。
北の海はもう夏の終わりの気配でした。


・・・・・・・・・・・・・・能登半島、七尾を出てから2週間。たった2日の日和待ちだけで一気に北上してきましたが、実は
北上するにつれて気が重くなっていたKasayan。
北海道の東側では連日の濃霧注意報。根室付近の霧日数は水路誌で見る限り一ヶ月中20日。覚悟はしていたものの
進む速度が遅すぎました。もう20日早ければ、霧の晴れる日を待って尺取虫ですすめたのですが、今からでは、強風の
季節に突入してしまいます。これは、能登半島付近で、ほぼあきらめかけていました。

せめて利尻、礼文、稚内までと考えてがむしゃらに北上しましたが、今から稚内を往復するにはKasayanの技量で早くて
20日、遅くなれば一ヶ月はかかってしまいます。そうなると津軽海峡にもどってくるのは9月に入ってから。
9月ともなれば、太平洋高気圧が弱まって北海道には周期的に低気圧が来襲。
北海道東方沖で発達した低気圧の風の影響がなかなか収まらないことは、以前、北海道の予報をしていたときに十分思い
知らされています。ヤマセの吹き抜ける津軽海峡を航行するだけの技量はKasayanには無し。
おまけに台風シーズン。今でも太平洋上にはTSやTDがゴロゴロしています。

昨日、江差の丘から海を眺めながら断腸の思いで、今航海の北限を、ここ奥尻島とすることにしました。
ほとんどの北前船の終着駅であった江差の雰囲気と江差追分が北上をあきらめる気持ちにさせてくれたのかもしれません。

でもKasayanの日本一周は続きます。なぜなら、今航海で行くことのできなかった、四国の南部と九州のほとんど、そして
沖縄、北海道を回らなければ「日本一周」とは言えないのですから。
昔、北アルプスの奥穂高岳に登ったとき、雨と風のため、頂上直前のはしご場で引き返したことがありましたが、2ヵ月後、
Kasayanは頂上に立っていました。今回もまた数年後、ひょっとしたら数十年後になってしまうかも知れませんが、走り残し
た場所を、絶対に周ります。

江差では、9、10、11日の3日間、人口1万人が倍の2万人になる、大きな祭りが行われます。
あさってには江差に戻り、北国の短い夏の祭りを見物して、函館へ進み、一週間ほど、身体を休めたいと思っています。

 
すれ違ったヨット「ミンミン」 室蘭の船らしい            奥尻港に舫う


 

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