栽培の基本

田辺 直樹

<栽培環境>              

 食虫植物は他の植物と違い特殊な環境に自生しているものが多く、一般的な園芸植物の栽培方法をそのまま真似てもうまく行きません。殆どの食虫植物は、日当たりの良い、湿度の高い、じめじめとした湿原に自生しておりますので、そのことを念頭に置いて栽培する場所と環境を整えます。        

 栽培場として日当たりの良い南向き、または東向きの庭やベランダが良いでしょう。出来れば朝日が十分当たり、午後は日陰になるようなところが最適です。魚屋から発泡スチロ−ル製のトレ−を貰ってきて、水を張れば準備完了です。特に特殊な設備は必要ありません。苗は園芸店や通信販売、研究会の交換等で比較的簡単に入手出来ますが、初心者はあまり高価なものや、珍品を追い求めずに一般的な品種、しかも親株から始めましょう。

苗を入手したら鉢に植え、腰水にします。春と秋はよく日光に当てて、夏は30%程寒冷紗で日除けをしてやります。耐寒性のあるドロセラ、サラセニアなどはそのまま戸外で栽培出来ますが、熱帯産ドロセラ、ウトリキュラリアやピンギキュラ、ヘリアンフォラ、ネペンテスなどは保温や保湿する工夫が必要です。 

<栽培設備>              

(温室)                

 0.5坪から2坪のアルミ温室なら一般のホ−ムセンタ−で購入できます。出来れば床を10cm20cmほど掘り下げます。そうすることにより十分な湿度が保持できます。温室内部に棚を作り、水盤を置いて鉢を並べます。

棚は2段から3段設置し、日光がよく当たる場所、朝のみ当たる場所、半日陰になる場所等の色々な環境を作り、その環境に適した品種を管理していきます。夏は天窓等を開けて通気を図り、それ以外の季節は日中締め切りでも特に問題なく育つものですが、蒸れる様であれば、天窓、側窓を開けて通気を計ります。地面に置いた温室の場合は、床を掘り下げなくてもけっこう湿度がありますので加湿器は不要ですし、換気扇もなくても大丈夫ですが、ベランダに置く場合は、結構乾燥しやすく、温度も真冬の日中でも30度を超えますので、加湿器の設置や、換気扇の自動化をお薦めします。暖房設備は、ホ−ムセンタ−で吊り下げ式の電気温風機が便利で安全です。サ−モスタットで室温を自動管理します。

(ワ−ディアンケ−ス)         

 秋になるとホ−ムセンタ−でよく販売される家庭用の室内アルミ温室です。組立て簡単、費用も手頃で、洋らんやセントポ−リアの栽培にも適しています。プレ−トヒ−タ−やパネルヒ−タ−で加温し、サ−モスタットで制御します。室内のよく日の当たる場所に設置しますが、日照不足であれば、ビタルクスランプ(植物育成灯)を取り付けます。また、本来室内用ですが、戸外に設置しても問題ないでしょう。             

(水槽)                

 熱帯魚用の水槽を利用して保温、保湿の環境をつくります。水槽内部に水を10cmほどいれます。そして4号から5号鉢を水槽の4隅に逆さまに置きその上に金網を敷きます。 

 あとは金網の上に鉢を置き、透明のアクリル板で蓋をすればできあがりです。いわゆる簡易温室になるわけですが、戸外に置かずに屋根があるベランダとか、室内の南向きのよく日の当たる場所が最適です。冬はサ−モスタット付きのヒ−タ−を水の中に入れて、温水加温するので、鉢が水に漬からないように注意しましょう。こんな簡単な設備でも、冬は20度、 湿度 100% の環境は簡単につくれますので、ネペンテス、ドロセラ、ピンギキュラなどは結構幅広く、かなりの種類が栽培出来ます。                

(冷房設備)              

 ダ−リングトニア、ヘリアンフォラ、温帯高山性のムシトリスミレ、高地性ネペンテスなどは夏の暑さに弱いので、冷房が必要です

 1坪程のアルミ温室に家庭用のク−ラ−を取り付けるのが簡単ですが、場所と費用がかかりますので、中古の冷蔵庫を改造するのが一番です。電気屋さんに頼んで、25度になったら冷蔵スイッチが入るように冷蔵用のサ−モスタットを改造してもらいます。ドアは、ガラス戸を取り付けて、朝日を受けるように室内の東向きの窓際に設置しますが、やはり日照不足となるのでビタルクスランプを設置します。また、そのほかにも熱帯魚用として開発された冷水を循環させる器具を設置したり、冷水を加湿器で噴霧させる方法が考案されています。             

<植え方と用土>            

 栽培する場所、設備が整えば、後は植物を置くだけです。食虫植物は前述したとおり、じめじめした湿地に生えていますので、水苔で植えるのが無難です。乾燥水苔が市販されていますので、充分水を吸わせた後に使用します。鉢底に鉢片や細かく刻んだ発泡スチロ−ルを1cm 2cm ほど入れて、予め水苔を柔らかく詰めておき、1回水を通します。そこへ根の回りを水苔でくるんだ苗をピンセットで穴を開けて差し込む感じで定植させます。植え終ったら充分水を与え水盤に腰水にしますが、必ず水はけのチェックをしてください鉢の上から水を注入して1〜2秒で水がサ−ッと流れ出るぐらいが丁度よく、水が鉢に滞留しているようでは水苔が硬すぎますので植え直します。なお、水苔の他にも、ピ−トモス、バ−ミキュライト、パ−ライト、ケト、桐生砂、軽石、鹿沼土、赤玉土、川砂等を単用又は複数の用土をブレンドして使用する場合もありますので、詳しくは種類別の栽培方法を参照して下さい。          

<腰水>                

 水盤としては、発泡スチロ−ル製のトレ−が、最も良いでしょう。夏は水盤の水がお湯になるので、出来るだけ広いものがよく、間違っても一鉢づつに受皿をすることは止めましょう。水やりの手間も掛かりますし、水温上昇を避けられません。         

 また、熱帯魚用のエア−を水盤の水に送ってやるのも効果があるようです。水質が悪化すると、アオミドロなどが発生しますので、まめに取り除くか、水を入れ替えます。場所を広く確保できれば、木枠にビニ−ルを敷いて奥行1m3mほどの水盤を作成し、水道水を少しづつ流せば水温上昇も防げて、水質も安定します。            

<増殖法>               

(種子)                

 食虫植物に限らず殖やす基本は種子です。利点は一度に大量に殖やすことが出来る事で、欠点は親株になるまで時間が掛かること、発芽までの管理に注意がいることでしょう。用土はピ−トに細かく刻んだ水苔を混ぜたものがよく、播種後はよく日光に当てますが、雨や散水時に水がかからないように注意しす。2週間から1か月で発芽しますが、発芽後ある程度の大きさになったら、別の鉢に親株になったときの大きさを考えて、適度な間隔をあけて移植します         

(葉挿し)               

 食虫植物の魅力はその葉が変形した捕虫葉に鑑賞価値があるものですが、葉挿しで殖えるというのもまた、食虫植物の大きな魅力だと思います.ドロセラなどの葉を本体からちぎり取り、湿った水苔の上に並べて置くだけです。利点は短期間で容易に増殖できる事で、欠点は親株本体から葉をちぎりとるという事は、人間にとっての胃袋を取るようなもので、親株が調子を崩す事がありますので、あまり葉を取りすぎたり、調子を崩している葉からは止めたほうがいいと思います。ドロセラの葉挿しのコツは、小さい鉢に発泡スチロ−ルや鉢片は入れずに、刻んだ水苔を敷き、腰水にしてビショビショ状態にしておきます。そしてそこに葉を並べビニ−ルのコップをかぶせて湿度を高く保ちます。ビニ−ルのコップは通気をはかる為に2か所程穴を開けてやりましょう。時期は5月頃が良いようです。早ければ2週間で発芽、発根が始ります。根が充分出ていれば、移植して親株と同様に管理します。日光によく当てたほうが良いです。

 メキシコ産のムシトリスミレは冬芽をほぐして葉挿しすれば沢山殖やすことが出来ます。ポイントはドロセラよりも乾かし気味に管理することです。

セファロタス、ディオネア 、ドロセラのペティオラリス類は葉の付け根より外して、付け根の部分を水苔に差し込む様にします。            

(根伏せ)               

 ドロセラの一部やセファロタスで行なわれているようで、利点は葉挿しと同じで短期間で殖やせる事でしょう。欠点は特にありません。植え替え時に不要に伸び切った根を切り取り、水苔に埋めておくだけで2週間から1か月で発芽するでしょう。根伏せする鉢は普通に植え込む場合と同じ様に鉢ガラを入れ、水苔を敷き詰めて根を横にして埋め込みます。あまり過湿になると根が腐るので、注意します

(ムカゴ)               

 ピグミ-ドロセラの専売特許で、日本では冬にムカゴをつくります。ムカゴができたらピ−トと砂を混ぜた用土に2cm 間隔でムカゴを並べます。覆土の必要はありません。親株と同様の管理で平気で、やがて発芽して1か月程で一人前になります。種子の一粒一粒を2cm 間隔で播く人はいないと思いますが、ムカゴを同様にすれば展示品として出せるくらい立派なピグミ−ドロセラのジュ−タンができますので一度試して見てください。       

(挿し木)               

 主にネペンテスで行なわれており、水挿し発根法が場所もとらずに手間もかからずに最も良い方法です。よく成長した親株で株元より新芽が出ているものを株を使用します。 

伸び切った茎をはさみで切断し、さらに葉を必ず2枚以上付け、挿し穂が5cm 以上になるように切断します。挿し穂の下部は発根するところですのでカッタ−などで切り整えます。挿し穂は水をすりきれ一杯に入れた茶色で口の広いビンに挿すだけです。挿し穂がぐらつかないようにセロテ−プで固定します。ビンはよく日に当てて下さい。真夏は多少遮光しますが、それよりも水が切れると枯死しますので注意しましょう。1週間から2か月で発根し、発芽も始まります。根が1cm 2cm ほどになったら水苔で植えます。

(株分け)               

 サラセニアは冬の植替え時に行ないますが、少し力を入れればすぐ外れるぐらいの時が株分けの適時で、むりやり分けると成育に悪影響を与えかねません。ヘリアンフォラも同様にすることができますが、根や株がもろいので、細心の注意を要します。                

ミミカキグサは鉢一杯に成育すると弱ってくるので、適当にちぎって増殖を計ります。 

                    

<肥料>                                           

 食虫植物に原則として肥料は不要です。またわざわざ虫を与える必要もありません。しかし、品種にもよりますが与えた方が成育の良いのも事実です。一般的なのはハイポネックスの千倍液を腰水に溶かしてやりますが、ネペンテス、サラセニア、セファロタス、ヘリアンフォラについては、捕虫葉の袋の中へ直接注入すると効果があります。また、球根ドロセラや、ドロソフィルム、ビブリスギガンテアなどへは、用土の中へマグアンプKを混ぜて与えると効果があります。この時、球根や根に直接肥料が当たらないように注意します。

 その他にも葉面散布剤(ヨ−ゲン等N:P:K=3:3:1の千倍液)をネペンテスやドロセラの葉面に与えるのも効果的です。しかし、肥料のやり過ぎは用土の腐敗を早め、藍藻等が発生し、成育に支障をきたしますので、ハイポネックスや葉面散布剤であれば、春と秋に2〜3回(1週間に1回程度)、マグアンプKは植え替え時に少量(4号鉢で10粒程度)を目安とします。   間違っても、油粕、鶏糞、骨粉等を使用しないようにしましょう。 

肥料ではありませんが、ムシトリスミレやドロセラ等の粘着式の食虫植物についてはチ−ズ片やプロテインの粉末を虫の代わりに与えると驚く程大きく成長する事がありますが、同時にそのエサを求めてナメクジやダンゴムシがよってきて、葉や新芽を食害するので注意します。    また、植物活力剤(メネデ−ル等)の500倍液を弱っている株や挿し木苗等に与えると効果があります。 

<害虫>                                           

                                               

 サラセニアの新芽にアブラムシがつき、葉汁を吸いますので、マメに手で取り除きます。また、ナメクジやカタツムリの被害が一番多いようで、微小な実生苗等は一夜にして食べられてしまいます。 ナメクジは夜行性なので夜に見回りして割箸等で捕まえるのが地味ですが確実です。また、おもしろい方法としては、平たい受け皿にビ−ルをすり切れ一杯に入れて一晩栽培場に置き、朝見るとナメクジが沢山溺れて死んでいる事があります。また、油粕の大きい粒を鉢の脇に置くとダンゴムシ、ナメクジ等が集りますので、まとめて殺します。

 その他にもヨトウムシ、毛虫、アリ等を薬品により誘って殺す方法等がありますが、間違っても農薬や消毒液等を植物に直接散布しないようにしましょう。    

                                               

<病気>                                           

 食虫植物特有の病気はありませんが、ウイルスに注意します。新芽が不自然によじれてきたら要注意です。他の鉢に感染するので隔離して新しい用土で植え替え、しばらく半日陰に置き、それでも新芽がよじれる様であればあきらめて捨てるしか方法はありません。    

 ミミカキグサ等はウドンコ病に注意します。葉や花茎に白い粉の様なものが付着したら他の鉢と隔離します。ダイセンの水和剤等を与えますが、余りひどい様であれば諦めて捨てましょう。