2002.02.12
(有)数理解析研究所(代表 一色 浩)

IMAニュース(2002年2月号:第2巻,2号)

モットー:果敢にリスクに挑戦し,素早く結論を出し,新しいビジネスを創出し,日本経済再生に寄与する。

IMA (Institute of Mathematical Analysis:数理解析研究所)ニュースをお届けいたします。同じ内容のものを,ホームページ (http://www.hi-ho.ne.jp/isshiki/) にも掲載します。

ION NTM 2002に出席して
 今年のION (Institute Of Navigation) のNTM (National Technical Meeting) が米国カリフォルニア州のサンディエゴで,1月28日から30日まで開催された。筆者も地下GPSに関する発表を行ったが,同じセッションの最初の発表にはびっくりした。スタンフォード大学のドクターコースの学生の発表であったが,火星上で無人車のポジショニングをGPSの技術を使って行うものである。火星を周回するGPS衛星はないので,その代わりに観測地点にpseudoliteというGPS信号(測位信号)の発信源を設置する。実にスケールが大きい。
 地上で同じ問題を考える場合には,信号源であるpseudoliteの位置は予め与えられるものとするが,火星上では未知である。pseudoliteの位置を高精度に決める方法を開発しなければならない。スタンフォードのグループはこの問題を解決して,地球上の実験で実証している。
 筆者はここ数年GPSの研究を続けているが,残念ながらいつも一歩遅れてしまい,悔しい思いをしている。工学の世界では,なんらかの現実のニーズがないものは研究対象としては無意味である。先進的な社会でなければ,先進的なテーマは出てこない。
 今まで火星などの地球以外の惑星に対して,ほとんど関心を持たなかった。しかし,スタンフォードの人たちがやっていることと,筆者らのやっている地下GPSが意外に近いことを知って,一気に身近に感じられるようになった。視野が一気に広がった気がする。
 火星の上で正確なポジショニングができるようになったら,つぎはどんなことが研究対象になるだろうか?スタンフォードの人たちの論文を精読したら,改良提案を出せるかも知れない。しかし,それでは面白くない。もっと大きな提案をしたい。実際に自分の手でやる機会は恐らくないであろうが,せめてアイデアの世界ででも,斬新な提案をして,アメリカの連中をあっと驚かせて見たいものである。そんなことができたら,痛快至極であろう。

1月の仕事
(1) 地下GPS実用化提案(信号源に関する提案)
(2) 高感度GPSのデモ実用化提案
(3) 高精度GPSの開発提案(米国で情報収集)
(4) 日本造船学会春季講演会(2002/05)の論文作成
http://www.snaj.or.jp/
(5)ION NTM 2002シンポジウムで論文講演(1月/サンディエゴ)
http://www.ion.org/meetings/ntm2002abstractlist.html

2月以降の予定
(1) 地下GPSの実用化提案
(2) 高感度GPSの実用化提案
(3) 高精度GPSの開発提案
(4) 通信変復調実験装置の提案
(5)UT2002シンポジウムで論文講演(4月/東京)
http://underwater.iis.u-tokyo.ac.jp/ut02/Welcome.html
(6)OMAEシンポジウムで論文講演(6月;オスロ)
http://www.asmeconferences.org/omae02/Author/NewAbstract.cfm
(7)日本造船学会春季講演会(2002/05/東京)で講演
http://www.snaj.or.jp/

雑感:物差しの違い
 ION NTM 2002に参加した後で,ロサンゼルス近郊のRedonndo Beachという所にあるNavCom Technologiesという会社を訪ねた。この会社は,ウォーター・フロントに点在するしゃれた建物をオフィスにしている。窓の外を眺めると,ヨットが何隻も係留されている。実にうらやましい環境である。GPSを初めとする先端技術のR & D会社である。15年ほど前に設立されたベンチャーであったが,現在は1838年に設立されたJohn Deereという巨大農業会社の100%子会社になっている。社長のLitton氏のご子息のクリスさんがセールスを担当されていて,学会や展示会を通して親しくなっていたので,訪問したわけである。
 クリスは大変気のいい人物で,大いに歓迎してくれた。昼食ばかりでなく,夕食にも招待してくれたので,かなり長時間一緒にいて,いろんな話ができた。ION (Institute Of Navigation) の会長をされているMr. Hatchはこの会社のVP (Vice President) で,この人とも2時間ほど話ができた。Mr. Hatchは気さくな人で,大変親しみやすい人である。こちらの話をよく聞いてくれるし,質問にも率直に答えてくれる。Mr. HatchはGPSの世界では有名なHatch Filterの発明者でもある。クリスから聞いたところによると,Mr. Hatchは大変ユニークな人物であるらしい。
 Mr. Hatchは熱心なバプテスト派の信者で,13人の子持ちだそうである。しかもご子息の教育を全部ご自分でされたと言うのである。日本では絶対に考えられないことである。日本では9年間の学校教育が国民の義務となっていて,これに従わないと法律違反になってしまい,公権力による強制力を行使されてしまう。しかし,米国では違うらしい。要するに,日本と米国とでは,いわば物差しが違うのである。
 いくら物差しが違うからといって,それを実行するには大変な信念が要る。Mr. Hatchの強い信念も大変な驚きである。筆者の属している社会では,こんなに強い信念を持つ知識人は皆無と言ってよいであろう。そういう意味でも物差しの違いを感ずる。日本と違って米国の政治的指導者は強い指導力を持っているが,同じようなことに根付いているのであろう。
 Mr. Hatchはアインスタインの相対性理論に懐疑的で,反相対論の著書があるそうである。クリスによるとこの本はあまり売れていないそうである。米国に来ると,ときどき日本では信じられないことに遭遇して驚くことが多い。筆者にとって,米国はいつも魅力にあふれた国である。

関連URL:http://www.teruya.co.jp

終わり


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