あ と が き

 本書を執筆するにあたり,特色を出すためにいろいろと工夫した。流体力学(といっても完全流体の非回転運動であるが)上の変分原理にかなりペ-ジを割いたのもその一つであるが,境界値問題と変分問題との理論的関係についても,従来とは異なり,関数空間の概念をベ-スにした。
著者は力学分野の工学者であるので,境界値問題の内部構造を,運動学的条件を満足するものと、力学的条件を満足するものとに分けて,変分原理をこの二つの空間の直交性と考えた。しかし、本書を書き進むうちに,このような物理的概念に基づく分類は適切でないことに気付いた。
すなわち,ある問題の運動学的条件および力学的条件と同じ数学的構造を持つ条件が,別の問題ではそれぞれ力学的条件および運動学的条件になるのである。例えば,完全流体の非回転運動では,その運動学的条件は連続の条件であるが,膜のたわみの問題では,同じ数学的構造を持つのは力の平衡条件,すなわち力学的条件である。
そこで,§9ではこのような物理的な分類を止めて,数学的分類によることとした。完全流体の非回転運動の場合をベ-スにして,Kelvinの原理の自然条件と同じ数学的構造を有するものをKelvin条件と呼び,Dirichletの原理の自然条件と同じ数学的構造を有するものをDirichlet条件と呼ぶことにした。
完全流体の非回転運動の場合は,Kelvin条件は速度ベクトルと速度ポテンシャルの関係(これまでの力学的条件)であり、Dirichlet条件は連続の条件(これまでの運動学的条件)である。本書の改訂時には全面的に見直して統一する予定である。
本書では,§9において波の放射条件とその変分法的取り扱いを明らかにしているが,これは本書で採用した新しい考え方による独自の成果であると考えている。

変分法のペ-ジに戻る。
ホ−ムペ−ジに戻る。