多摩川散策日記2001年9月)

文:上田大志

 

 

9月1日 大丸用水堰〜一ノ宮公園(32〜36km付近)

多摩川はすっかり穏やかさを取り戻した。たまらずマスクを着けて水に飛び込む。こんなに透き通った水は普段では考えられない。川底の汚れがきれいに流され、砂利や砂は磨いだ米のようだ。目の前をオイカワの群れが通り過ぎていく。生まれて間もない稚魚たちは、流されないように必死で身を震わせている。石にへばりつくヨシノボリ。さらさらの砂の上では、シマドジョウの赤ちゃんが口をもごもごさせている。台風がもう少し早く来ていれば、先日の水中観察会でこの水の中を子どもたちに見せられたのに、と思ってしまうが、今日はとても得をした気分。

夕方からは、多摩川の自然を守る会の「鳴く虫を聞く会」。集合場所の聖蹟桜ヶ丘駅まで歩いて行った。左岸側33km上流で自然石護岸が切れる辺りは、普段から流れが速く、流れが大きく二分している場所だが、今回の増水で水際が3mほど削られており、今まで歩いていた小道は水の中。読売新聞社前のワンドは水裏に位置するのか、今回も無事でホッとした(1月29日参照)。カワラナデシコの花が2本。京王線鉄橋上流右岸は、春まで大掛かりな根固め工事が行われていた場所だが、盛り土の上に少しずつ植生が回復してきた(3月24日参照)。駅からみんなで歩き始めたときはまだ明るかったが、暗くなるにつれ、秋の虫たちの演奏が賑やかになってきた。薄暗い中でセンニンソウの白さがひときわ引き立っている。カネタタキ(チッ、チッ…)、モリオカメコオロギ(ジー、ジー…)、ミツカドコオロギ(チチチチ…)、カワラエンマコオロギ(リリ、リリ…)、カンタン(ルルルル…)。リーダーの篠さんには、ヒゲシロスズ、クマスズムシ、ヒメギスなど、僕にとっては名前も知らない虫たちをたくさん教えていただいた(でも鳴き声はもう思い出せない!)。  

お目当てのマツムシの声は聞けないのかな、とみんなあきらめかけた頃、「チッチリ、チッチリ…」と高く澄んだ声が響いた。河川敷の草原はとても広いのに、マツムシはその中の限られたごく狭い範囲で鳴いていた。これは毎年のことらしく、マツムシの棲息条件というものが関係しているのかもしれない。

 

9月4日 宿河原堰(22km付近右岸)

 先日の増水で、堰直下に砂利の小さな中州が2つできた。下流の瀬では、コサギ、ダイサギ、アオサギなどが多数観察できる。雨が上がったばかりで、ツバメの群れが水面ぎりぎりを飛び交っている。カルガモ、シギsp。カワウの姿は見られない。今日はせせらぎ館で多摩川流域懇談会の運営委員会があり、今月28日にリバーミュージアムをテーマに開催する「第10回多摩川流域セミナー」の打ち合わせを中心に、今後の活動について話し合った。

 

9月11日 是政橋(31km付近)/大丸用水堰上流(32〜33km付近左岸)

台風15号が関東地方を直撃した(11日昼前に東京を通過)。

多摩川の増水状況も前回をはるかに上回った(8月22日参照)。数地点の水位観測所で警戒水位を超えたのをはじめ、正午ごろには下流部の大田区や川崎市で、氾濫のおそれがある危険水位も突破した。また奥多摩の小河内では、降り始めからの総雨量が649mmに達したという(京浜工事事務所のホームページを参照)。

是政橋付近の状況を見に行ったのは午前8時ごろ。濁流が高水敷に溢れ出し、オギ原やオニグルミ林が水に浸かっている。1日に「鳴く虫を聞く会」で歩いた大丸用水堰上流の原っぱは、完全に流れに呑みこまれてしまっている。河原植物や虫たちの安否が気遣われる。今回の出水が流域各地にどのような影響を及ぼしたのか、水が落ち着きしだい、その把握に努めたい。一面ピンクのツルボに彩られた土手が対照的だった。

 

9月15日 宿河原堰(22km付近右岸)

多摩川市民フォーラムの「代表者会議」(8月9日参照)が、13:30からせせらぎ館で開かれ、その前にわずかな時間だったが、宿河原堰付近(右岸)の観察をした。堰直下には、11日の増水によって流されてきた砂利が堆積して、大きな中州が形成されている。また、両岸ともに水際の手すりが壊れ、下流側10mほどは流失している。対岸は双眼鏡で確認しただけだが、洗掘によって地形が大きく変わっていることが窺える。柳の高木にも、多量のゴミが引っかかっているようだ。

代表者会議には20数名が参加し、多摩川市民フォーラムのビジョンや、運営委員の拡充について話し合った。今後の活動方針について出された意見を僕なりにまとめてみると、「河川整備計画の実施に際して見直しやフォローを行うことと、多摩川を“いい川”にするために市民が自主的に活動することの2つに取り組んでいこう」という意見と、「個々の市民団体などが行っている活動やプロジェクトを支援したり、結び付けながら、流域全体の課題に取り組んでいこう」という意見に代表されるように感じた。また、新たに4名の方が市民フォーラムの運営に協力してくださることになった。

 

9月16日 宿河原堰下流〜多摩水道橋(22〜23km付近)

多摩川センターの自主事業「リバースクール」の第2回講座。今日のテーマは、「多摩川への親しみ」。洪水を安全に流すために改築された「二ヶ領宿河原堰」や、いい川づくりの拠点を目指してスタートした「二ヶ領せせらぎ館」、川の自然に親しむきっかけづくりを目指す「水辺の楽校」などにふれながら、親しみやすい水辺とは何かを考えることが目的だ。

 午前中はせせらぎ館で三島次郎さん(桜美林大学名誉教授)の講義。生態学の立場から、「多摩川の自然への親しみ」についてお話していただいた。自然はさまざまな動植物が複雑に関わりあって成り立っている。自分たちの好き嫌いで自然保護を考えていないか。ありふれた自然の存在こそ大切にしたい…。参加者からは、本当の「自然」とは何かを考え直すきっかけになったという感想が多く寄せられた。地球上の自然そのものを大きく捉えながら、多摩川の自然に当てはめたときに、自分たちは何をしたら良いのかを考えさせてくれる講義だった。

宿河原堰の前にある舟島稲荷の境内で昼食。「この水は地下水につき飲めません」という注意書きが何とも残念。一刻も早く清流を取り戻し、下流部でも地下水のおいしさを自慢できる多摩川にしたいものだ。

午後は宿河原堰から上流へ。壊れた手すりのすぐ内側では、今日も白く濁った水がどうどうと音を立てている。大きな水たまりになった“できちゃったビオトープ”(2月17日参照)では、たくさんの人が釣り糸を垂れている。4車線化された多摩水道橋(3月25日参照)を狛江側(左岸)に渡る。小田急線鉄橋下の河原は、バーベキューの若者たちで満員。水道橋から鉄橋までの区間に限って、車が乗り入れられるようになっているが、そこに入りきらない車が溢れ出し、堤防上の道路に路上駐車の列が延々とできている。

ここからは横山十四男さんを案内人に、左岸を下流に歩いて行く。「自由広場」では、地元の市民団体「乗馬ボランティアの会・キャラバン」のイベントが行われており、乗馬やふれあい動物園、フリーマーケットなどを楽しむ人で賑わっている。

1974年9月、多摩川は台風16号による大洪水に見舞われ、宿河原堰付近(左岸側)の堤防が決壊し、19棟の民家が流されるという悲劇が起きたことはあまりにも有名。この「多摩川水害」と、河川管理者である国の瑕疵をめぐって長く続いた水害裁判について、その意義を後世に伝えるために1999年に建てられたのが「多摩川決壊の碑」。何を隠さん、横山さんの家は流された19棟の中に含まれていたのだ。それにもかかわらず、永年多摩川の自然保護運動に身をささげてきた横山さん。その一言一言に説得力がある。

堰下流の水際は、11日の洪水で大きく崩れている。川の自然を活かした環境学習の場として、今年4月に開校した「狛江水辺の楽校」(5月11日ほか参照)だが、完全に水に浸かって泥まみれである。シダレヤナギにゴミや流木、手すりの残骸などが絡まり、一面に広がっていたオギ原は流失した。水辺に出れば、そこは広大な“砂浜”と化している。印象的だったのは、第3期層の河床(7月7日参照)から土丹が剥がれ、辺りに茶色のかたまりが散乱していたことだった。

このような光景を前に、横山さんは付け加えた。「これが自然の川の姿。ここは片付ければすぐによみがえる。水辺の楽校は自然に親しむことが目的なのだから」。

 

9月17日 数馬峡橋〜昭和橋(81〜83km付近)

多摩川と語る会の観察会(第20回多摩川ウオッチング〜初秋の数馬峡を氷川へ)に参加。今日の参加者は43名。平日なのに羨ましい(5月28日参照)。

白丸駅から山沿いに歩いて数馬の切り通しへ。江戸時代に大岩を切り開いて道を通したという「数馬の石門」を見る。山を下ると、現在の青梅街道の脇に、大正期に岩盤をくりぬいてつくられた数馬トンネルが口を開けている。付近の岩場には濃い紫のイワタバコがまだ咲いている。多摩川(白丸湖)に出ると、11日の洪水から6日が経って、水量こそ落ち着いてきたものの、流れはセメントを溶いたように白く濁っている。上流域で600mmを超える降雨があった影響は相当大きいようだ。エメラルドグリーンの湖面が戻るまでにはまだ時間がかかるだろう。数馬峡橋を渡ったところで昼食。野外総会では、これまでの活動を振り返り、今後の活動を話し合った。午後は右岸の遊歩道を上流へ。あちこちに落石や斜面の崩れた跡が見られ、手すりが壊れているところもある。海沢の東京都水産試験場奥多摩分場では、“三倍体”ヤマメやニジマス、イワナなどの養魚池を見せてもらい、多摩川にサクラマスを呼び戻す取り組みのお話も伺った。昭和橋(上流側)から渓谷を見下ろすと、黄土色の本流に真っ白く濁った日原川が合流している様子がよくわかる。日原川の上流域は石灰質の地層で、水は普段から少し白っぽいが、今日はものすごい。水際にはヌルヌルしたセメント状の泥が溜まっており、何日か経ったら固まってしまうのでは?と思えるほどだ。

目に付いた花は、イワタバコ、ヤマゼリ、ツリフネソウ、ヤブマメ、キンミズヒキ、ミズヒキなど。観察できた野鳥は少なく、カルガモ、コゲラ、ハクセキレイ、ヒヨドリ、カワガラス、カケス。

 

9月19日 大丸用水堰上流(32〜33km付近左岸)

夕暮れの多摩川で虫の音の鑑賞。9月11日の洪水で高水敷まで水に浸かり、影響が心配される。僕は鳴く虫の勉強を始めたばかりで、気になる声色をCD図鑑で確かめながら歩く。

丈の低い土手の草地では、ジジ、ジジジジ…とハラオカメコオロギ。エノコログサなどが茂る膝丈の草むらからは、ジリジリジリジリ…とササキリ?の声が聞こえてくる。エンマコオロギのコロコロコロリー…とよく通る声はやはり抜群だ。どこで鳴いているのか、ジー、ジー…とマダラスズ。ジー…と長い声は、子どもの頃よく指に噛み付かれたクサキリだ。一方、土手を越えた堤内地の桜並木から、アオマツムシのリーリー…と甲高い声が響いてくる。最近は外来種であるこの虫が増えすぎて、日本にもとからいる虫の音が聞こえなくなっているという。

8月22日の増水で水際が数m洗掘された33.4km付近(9月1日参照)は、今回の洪水で景観が一変した。澪筋は右岸側に大きく寄り、中州の形状も大きく変わっている。また、今日聞くことのできた虫の数と種類は、9月1日のときと比べてずっと少なかった。出掛けた時間帯が早かったこともあるだろうが、洪水によって流されたり、棲む場所を奪われてしまった虫たちはどんなに多かったことだろう。

6時半過ぎ、辺りはすっかり暗くなり、郷土の森前まで戻ってくると、突然マツムシの高く澄んだ声が響き渡った。洪水を何とか逃れ、生き延びてくれたのだ。先日大合奏を聴かせてくれた原っぱでも、第一楽章が始まっているに違いない、と信じて多摩川を後にした。

 

9月20日 多摩川市民フォーラム「いきもの・学習」研究会

 メダカについての勉強会がせせらぎ館で行われた。どうしてメダカは絶滅危惧種になってしまったのか、その棲息環境を考え、また地域遺伝子の撹乱の問題を話し合った。検討の結果、「種を守るためには、それを取り巻く環境全体を守っていく必要がある」、「地域個体群を守るために、人為的な移植を極力防いでいこう」という方向性が示された。

 

9月23日 大丸用水堰上流(32〜33km付近左岸)

今日は多摩川ふれあい教室の定例観察会「秋の虫の音をきこう!」。事前の広報は努力したつもりだったが、参加者がなかなか集まらない。ふれあい教室の来場者は子どもたちや親子連れがほとんどで、この企画はちょっと地味だったのかもしれない。開催直前になって何とか10名近くが集まり、ホッと一息。

郷土の森園内で概要を簡単に紹介し、多摩川に出る。今日は連休のさわやかな一日とあって、ハリエンジュ林付近の人出は、普段の休日にも増して多い。観察会は「虫はなぜ鳴くのか」、「耳を澄まして聴いてみよう」、「どんな音が聞こえたかな」、「実際に捕まえて観察してみよう」という順序で進めようと思っていたが、最初に子どもたちに虫あみを渡したからもう大変!そこら中を駆け回って、飛び跳ねている虫たちを捕まえてきては、「これなあに?」。トノサマバッタ、ショウリョウバッタ、オンブバッタ、イナゴの仲間などを次々とゲット。でも周りではエンマコオロギ(コロコロリー…)や、ハラオカメコオロギ(ジジ、ジジジ…)が大勢鳴いているのになかなか捕まらない。「コオロギは草の下の地面にいるからかな?」。洪水によって原っぱが流されてしまったところには虫が少ない。「緑が多いところには虫がたくさんいるね」。

いつしか多摩川は穏やかな流れに戻り、夕焼けの向こうには、青紫の富士がはっきりと望まれる。新しく生まれた石河原には、水遊びをする親子や語り合う二人の姿が。そこには今までとは違った多摩川の自然と、それにふれあう人々の姿がある。

薄暗くなってきたので、土手下の原っぱをゆっくり戻る。辺りは次第に賑やかになってきて、まとめの時間にはアオマツムシの大合唱が始まった。最後に今日は聞くことのできなかった虫の音をCDでみんなに聞いてもらった。

子どもたちが中心のふれあい教室の観察会としては、「秋の河原の虫を観察しよう」というテーマで、虫あみでバッタなどを捕まえて観察することをメインとして、虫の音も聴いてみようという構成が良いのかもしれない。その方がお互いにとって満足できる観察会にすることができると思う。

また、ふれあい教室では、魚類や野鳥、植物などの観察会には力を入れてきたが、今まで昆虫についてはあまり取り組んでこなかった。子どもたちが多摩川の自然と親しむ上で、身近なところにいる虫たちは欠かせない要素だと思う。これを機に“多摩川の虫”をテーマとした企画を充実させていきたい。

 

9月28日 第10回多摩川流域セミナー

多摩川の自然そのものを大きな博物館と捉え、誰もが多摩川の持つ価値を共有、学習できるようにしようという「多摩川流域リバーミュージアム」(TRM)をテーマとして、第10回多摩川流域セミナー(主催:多摩川流域懇談会)が開催された。国土交通省京浜工事事務所が中心になって、7月24日に狛江・宿河原地区でTRMのテストランがスタートしたのは周知のとおり。今後流域全体での実現を目指して、市民や自治体などが協働で取り組むプロジェクトとして期待がもたれている。

 さてセミナーは、京浜工事事務所からTRMのこれまでの経過について、多摩川市民フォーラムからTRMにかかわっている市民としての率直な感想が話題提供され、それが問題提起となって、「TRMに望むこと」を議論した。

参加者からは、「そもそもTRMとは一体何であるのかわからない」、「パートナーシップですすめるというが自分たち市民がどのように参加したら良いのかわからない」、「まちづくりにかかわっている市民がTRMに参加することはできるのか」、「川崎の“エコミュージアム”は構想段階から市民が活動の主体であったが、リバーミュージアムはこれまでのところ、そうではないように思える」といった疑問が多数出され、これまでTRMについての根本的な議論と意見交換が不足していたことが明らかになった。

 また、「多摩川の自然をそのまま学習の場にしようという考え方は、市民活動の歴史の中で20年以上前からあったもの、リバーミュージアムはそれを実現する絶好の機会である」、「環境面について楽しく取り組むだけではなく、治水や利水など多摩川がいま抱えている課題を、きちんと見据えた活動をするべきだ」、「初めての人でも多摩川がわかり、また様々な立場の人同士が情報交換できる多摩川の“情報センター”を目指していきたい」などの提案も多数あり、今後どのように活動を具体化していけば良いのか、出席者全員がイメージすることができたと思う。

みんなでTRMをつくり上げていくためには、早い段階から「流域」の多くの人々が情報を共有し、議論を重ねて、全体の方向性を決めていく必要があるだろう。

 

9月29日 多摩水道橋〜京王多摩川(23〜27km付近左岸)

川崎市立上丸子小学校の文化祭は、地域の歴史や文化、自然などを学ぶことを目的に、毎年地域の人々と一緒に企画、実施している。多摩川センターは、「多摩川探検隊」のコーナーをお手伝いした。最初に学年コーナーで、5年生児童(58名)に対して、多摩川の源流から河口までの解説をした。流れをイメージしたロープ、写真、川で汲んできた水などを使って、自分たちの住んでいるところは多摩川のどの辺りになるのか、そこに来るまでに多摩川はどんな旅をして来るのか、またどんな姿があるのかなどを紹介した。その後の自由コーナーでは、他学年の児童や保護者の方などに多摩川への関心を深めてもらうために、パソコン(多摩川探偵団)や展示解説を行った。多摩川の近くに住んではいるが、多摩川へは行ったことがない、多摩川へ行ったことはあるが、近所のことしかわからない、という子どもたちがほとんどで、今日の経験が「多摩川にはこんなにいろんなところがあるんだ、ぜひ行ってみたい!」というきっかけになってほしい。

帰りがけ、登戸から多摩水道橋を渡り、左岸を上流へ。台風が通り抜けてもう18日になるというのに、多摩川の水は白っぽく濁ったままで、水量もやや多い気がする。上流のダムで放水が続いているのだろうか。橋下のワンド“長バン池”には今日も大勢の釣り人の姿(5月11日参照)。ヘラブナが次々と釣り上げられる。土手は草刈りがされたばかりで、丈が短く揃っている。五本松の前にはコンクリートの水制が何本も突き出し、多くの釣り人で賑わっている。流れが複雑に変化しており、魚にとっても棲みやすそうな場所だが、足元のブロックの先は“ドン深”だ。落っこちて溺れる子がいないと良いが…。「万葉歌碑」に立ち寄ると、ちょうど市民グループ(万葉歌碑に集う会)が見学会をしており、多摩川を詠んだこの歌碑の由来を教えてくださった。周りの草木の手入れをしている方もいた。狛江と調布の市境付近はホームレスが多く、水辺に近づきにくい(5月11日参照)。メマツヨイグサの茎同士がくっついた“お化け”が数株。府中用水が流れ込む排水樋門は、普段は自転車などが沈んでいるコンクリート張りのつまらない水路だが、今日は水が澄みきっていて、すごい数のオイカワとフナの群れ。双眼鏡を覗くとコイやニゴイもいる。大きいの、小さいの、細長いの、平べったいの…いろんな魚が仲良く群れて泳いでいる。「竜宮城みたいだね…」。

上河原ワンドは、今回の洪水で景観が一変した。増水時に本流から越流してくる上流部分が土砂で埋まり、ワンド本体にも土砂が堆積して“中州”が出現している。最も変化したのはワンドと本流の間の“州”の部分。洪水で水際が大きく削られ、その面積は半分以下?になった。素人目には、もし上流側に蛇籠が入っていなかったら、州は完全になくなってしまったのでは?と思えるほど。本流への吐き出し部分は、これまで100mほどの“小川”になっていたが、ワンド本体の下流側がすぐに本流への合流部になっている。ワンドの水は透明で、今回は確認できなかったが、伏流水が涸れずに出ているようだ。これほどの変化にもかかわらず、オオフサモはしぶとく生き残っている。本流に目を移すと、中州の植生はすべて流されて丸石河原が広がり、澪筋は手前(左岸側)に大きく寄った。どこから流れてきたものか、大きな丸太(かなり古そう)も打ち上げられている。狛江水辺の楽校にもあったが(9月16日参照)、洪水で現れるこれらの流木はどのような由来の木なのだろうか。上河原堰に、投網で大きなコイを捕まえるおじいちゃんの姿あり。孫が歓声をあげている。堰上流に多数あった中州は、どれも小さくなったように見える。植生が流失したせいもあるだろうが、広い水面の向こう岸までよく見渡せるようになった(1月6日参照)。

目立った野草として、ヒロハホウキギク、イヌコウジュ、メドハギ、ママコノシリヌグイ、カゼクサ、シマスズメノヒエ、アレチウリやクコの実など。観察できた野鳥は、カイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、チドリsp、ドバト、カワセミ、ハクセキレイ、セッカ、スズメ、ムクドリ。

 

9月30日 大丸用水堰(32km付近左岸)

多摩川ふれあい教室の観察会(たまリバーアート)「わたしの多摩川七草」。河川敷を歩きながら、参加者それぞれが多摩川の“秋の七草”を見つけて、花たばをつくろうというもの。多摩川は夏の乾燥に加えて2度の洪水を経験し、河川敷の植生は大きなダメージを受けている。それでもキクイモは小さいながらも黄色の花を咲かせ、オギはふさふさした穂を出し始めている。つくづく自然の生命力はすごいなと思う。みんなで見つけた草花は、ヨモギ、ホウキギク?、セイタカアワダチソウ(咲き始め)、コセンダングサ、キクイモ、メマツヨイグサ、メドハギ、クズ、オオイヌタデ、イタドリ、ツユクサ、カゼクサ、エノコログサ、ムラサキエノコログサ、シマスズメノヒエ、オギなど。

これまで「たまリバーアート」は、材料(多摩川の自然素材)をこちらで事前に準備しておいて、参加者がするのはそれを使った工作のみという内容だった。今回の企画は、みんなで河原に出て材料を集める“自然観察”をメインにしたので、参加者に多摩川の自然への関心を深めてもらうことができたと思う。しかし、花たばづくりの事前準備が不充分で、ただ草花を集めてくるだけになってしまった感は否めない。また、反対に野外活動をするということでキャンセルされた方もいた。生け花ふうのアレンジをしてみるなど、アイデアを出し合って、参加者の希望に合わせた柔軟なプログラムを考えたい。