多摩川散策日記2001年8月)

文:上田大志

 

 

8月3日〜5日 柳沢峠〜笠取山〜将監(しょうげん)

多摩川源流研究所主催の「源流古道・水源林体験の旅」Bコースに参加。

小菅村の民宿に一泊し、翌朝は柳沢峠から三窪高原、倉掛山を経て、笠取小屋まで8時間を歩いた。ハンゼノ頭は展望が良く、雲が多いものの富士も眺められた。大菩薩嶺がどっしりと根を張っている。三窪高原には紫、黄、白など、色とりどりのお花畑が広がっている。倉掛山にはいくつも小ピークを越えて行く。防火帯が続き、草原が広がっているので花は多いが、日が差してくると暑い。これから行く笠取山、唐松尾山、将監峠方面が見渡せる。白沢峠から笠取小屋までは、小屋の軽トラックも通る広い山道を、何度も休みながら登る。高度を増して針葉樹林が目立ってくると、メボソムシクイの声、谷に近づくと、沢音とコマドリの声が涼しい。やっと笠取小屋に到着。みんな疲れた顔をしていたが、とても満足そうだ。2分ほど下ったところに湧く水場がうれしい。夕食後は小屋の前の広場で語り合い、そしてぎゅうぎゅう詰めになって寝た。

夜明けはホトトギスの声で始まり、次いでアカハラが歌い出した。心配された雨は大丈夫そうだ。シラビソの林を散策する。小屋の人にお礼を言って出発。雁峠分岐に来ると視界が開け、お花畑が広がるが、マルバダケブキの黄色ばかりが目立ち、ヤナギランなどの花はほとんど見られない。最近はほとんどがシカに食べられてしまうのだそうだ。分水嶺の先にザックを置いて笠取山頂を往復。残念ながら霧が出てきて、あまり展望はきかない。多摩川最初の一滴が生まれる水干の先から登山道に入り、黒槐(くろえんじゅ)山、唐松尾山を目指す。コメツガの原生林がすばらしい。尾根の両側からルリビタキの囀りが響く。僕らのほかには誰一人会うことのない奥深い山だ。岩場のあちこちにアズマシャクナゲの見事な群落を見る。花の頃にまた来てみたい。唐松尾山山頂はまったく見通しがきかないが、多摩川水系の最高峰に達して感慨深い。辺りは霧に覆われ、多摩川源流随一という御殿岩の展望を楽しめなくて残念。また今度、ということだろう。牛王院平から平坦になり、ホッとする。草原のお花畑で昼食。将監小屋でCコースも歩くメンバーとはお別れ。バスの待つ三ノ瀬まで、足場のよい広い道を1時間半ほど下る途中、Cコース隊が登ってくるのに出会う。声援を送って、たすきをつなぐ。

この3日間一緒に歩いたメンバーは、初めて会う方ばかりだったが、実に和気あいあいとしたすばらしい山旅になった。僕個人としても初めて歩くコースがほとんどで、新たにいくつもの多摩川源流のすばらしさにふれることができた。案内をして下さった源流研究所の中村さんをはじめ、スタッフの皆さんの努力と苦労は大変なものだったと思う。心から拍手を送りたい。

目に付いた花(麓は除く)は、ヤマハハコ、ウスユキソウ、ハンゴンソウ、キオン、コウリンカ、マルバダケブキ(多い)、ヒヨドリバナ、ヨツバヒヨドリ、ヤナギタンポポ、ヤマホタルブクロ、ツリガネニンジン、ソバナ、マツムシソウ、ヒメトラノオ、クガイソウ、クルマバナ、オカトラノオ、クサレダマ、ギンリョウソウモドキ、シシウド、ヤナギラン、ミヤマタニタデ、ツリフネソウ、タチフウロ、チダケサシ、トモエソウ、オトギリソウ、ヤマオダマキ、キバナノヤマオダマキ、エゾカワラナデシコ、フシグロセンノウ、センジュガンピ、ノハナショウブ、コオニユリ、タマガワホトトギスなど。観察できた野鳥(麓は除く)は、ホトトギス、イワツバメ、ビンズイ、ミソサザイ、ウグイス、メボソムシクイ(多い)、アカハラ、コマドリ、ルリビタキ(多い)、ホオジロ、アオジ、ウソ、ヒガラ、カケス、ソウシチョウ。

 

8月9日 多摩川市民フォーラムの活動に関する検討会

同検討会(第3回)が、せせらぎ館で行われた。検討課題をいくつかに分けて整理した。これまでの検討会では、多摩川市民フォーラムの基本的な性格、財源、規約などについてさまざまな意見が出されたが、必ずしも合意できたものばかりではなかった。出された意見はまとめて、公開セミナーである代表者会で議論するためのたたき台とすることになった。また、今後の取り組みについてのアンケートを、多摩川流域各地の市民団体に対して行った上で、全体の方向性を代表者会で決めよう、ということになった(9月15日午後、せせらぎ館にて)。

 

8月10日 釜の淵公園(61km付近/右岸)

世田谷九品仏の子どもたちが、バスハイクで釜の淵公園にやってきた。多摩川センターは水遊びの安全管理のお手伝いをした。この日は大変蒸し暑かったが、多摩川の水はひんやりと冷たい。川の中は、陸からだと浅く平坦に見えるが、実際に入ってみると流れが複雑で、特に岩の周りは深くえぐれていて危険だった。子どもたちが流されたり、深みにはまったりしないように、流れをロープで区切り、その中で遊んでもらった。河原は水遊びやバーベキューを楽しむ家族連れや若者グループ、アユの釣り人などで賑わっている。公園内の林はウバユリとキツネノカミソリの群落が目を引く。

また、雨不足が続いているため、この日から東京や埼玉、千葉など1都5県では、利根川水系での10%取水制限に入った。多摩川上流の奥多摩湖の集水域では、ヨウ化銀の煙で雨雲を刺激する「人工降雨」作戦が始まった。

 

8月12日 河辺(57〜58km付近/左岸)

青梅市運動公園上流の丸石河原へ。雨上がりの草露が美しい。ハリエンジュの葉を鳴らして遊ぶ。水たまりに近づくと、ハグロトンボが一斉に舞い上がる。30cmほどに育ったカワラニガナが、また花を咲かせている(5月28日参照)。フサフジウツギが数株、紫の花を付けているが、大柄な姿は河原の景色にはどうも馴染まない。メマツヨイグサがまだ花盛りだ。若い実が垂れ下がったキササゲの梢のあちこちで、ホオジロが囀っている。土手の草地にはメハジキも咲いている。観察できた野鳥は、カワウ、ササゴイ、コサギ、アオサギ、トビ、キジバト、ツバメ、ヒヨドリ、ホオジロ、スズメ、ガビチョウ。

 

8月15日 多摩川市民フォーラム運営委員会

 9月15日に行う代表者会(セミナー)に向けて、市民(個人および団体)に対する呼びかけ文やアンケートの内容を検討した。街角でエンマコオロギの声。

 

8月18日 丸子橋下流(13km付近右岸)

丸子橋下流の多摩川で魚とりを楽しむ、大田区嶺町文化センターの講座に補助員として参加。家族連れを中心に50名ほどの参加者があった。遠浅になっている右岸から川に入るが、大潮の干潮時だったので、かなり沖まで歩くことができた(丸子橋のすぐ上流にある調布取水堰まで潮がくる)。ただ、魚が隠れていそうな草の際やブロックなどの障害物は、ほとんど陸地になっていたので、みんな捕まえるのに苦労しているようだった。ゲットできたのは(手網&投網)、ウナギ、マルタ、カマツカ、ボラ、カワアナゴ、ヌマチチブ、マハゼ、テナガエビ、ウシガエルのおたまじゃくしなど。

 

8月19日 高麗川(東吾野)

中学校の教師をしている友人が、生徒を連れて高麗川で水中観察をするというので(毎年やっている)、仲間たちと誘い合って出掛けた。高麗川の水は清く、瀬と淵がきちんと残されており、「巾着田(きんちゃくでん)」のカワセミやヒガンバナでも良く知られている。僕も幼稚園の頃(20数年前)から、毎年夏が来ると家族で水遊びやヤマベ釣りを楽しんできた。今日は秋を思わせる陽気。水温はまだ温かいが、ずっと水に浸かっていると体が冷える。出水が少ないためか、水中を歩くと底にたまった泥が巻き上がって、すぐに濁ってしまう。マスクとシュノーケルを着け、水中の世界を覗いてみる。目の前をたくさんのオイカワやウグイたちが通り過ぎていく。最近数も型も落ちているような気がするが、今年もシマドジョウ、ギバチ、ジュズカケハゼ、カジカなどに出会えた。高麗川は魚にとってもいい川なんだなと思う。アキノタムラソウ、オオイヌタデ、キツネノカミソリ、コバギボウシ、ツユクサなどの花が盛り。

 

8月20日 小作堰下流(55km付近右岸)/浅川合流点上流(37km付近右岸)

青梅リバーサイドゴルフパーク前…先月は枯野が目立ったが、また緑に覆われてきた。石河原にイヌコリヤナギ、オノエヤナギ、タチヤナギが並んで生えていておもしろい。河原植物を探したが見つからなかった。イヌ?キクイモ、コマツナギ(多い)、ヤブランなどの花。野鳥はコサギ、アオサギ、トビ、ツバメ、セグロセキレイ、モズ、セッカ、ホオジロ、スズメ、シジュウカラ、ガビチョウ。

浅川合流点上流…河原植物の観察。カワラナデシコが見頃を迎えた。薄い羽のようなピンクの花は何とも言えずゆかしい。カワラサイコがまだ咲いている。浅川から根川へ掘られた分水路(6月26日参照)には、水量が少ないためか、まったく水が流れていない。クリーンセンター前の水溜り(7月7日参照)に水はあるが、水面をびっしりと浮草が覆い、水中はまったく見えない。土手にはツリガネニンジンが咲いている。

 

8月22日 是政橋(31km付近)/大丸用水堰(32km付近左岸)

台風11号の接近に伴い、多摩地区では21日昼頃から、断続的に激しい雨が降リ続いた。台風が関東地方を通り抜けた22日午後3時過ぎになって、ようやく雨が上がったので、是政橋付近の多摩川を見に行った。増水のピークは過ぎたようだったが、茶色く濁った濁流が川幅いっぱいに流れ、水際には多くのゴミが打ち上げられていた(特に500mlサイズのペットボトルが目立つ)。それにしても、多摩川の河川管理者である国土交通省京浜工事事務所のホームページはすごい!流域各地の流量や雨量を24時間チェックすることができるのだ。しかも30分毎に新しい情報がどんどん入ってくるので、刻々と変化する川の流れや天候の様子を、誰もがリアルタイムで感じることができる。すばらしい!その速報によると、多摩川流域では、22日夕方までに上流の小河内で累加雨量が237mm、是政橋近くでも206mmに達している。警戒水位を超えた地点はないようで、一昨年8月14日ほどの規模にはならなかったようである(もし間違っていたら本当に申し訳ありませんが…)。しかし、日野や調布では、流されて行方不明になったり、中州に取り残されたりした方が出たようで、気が引き締まる。一方で、長引く雨不足が解消されるといいなという思いや、この場所は水が引いたら一体どんな環境になっているんだろう、という興味もある。

京浜工事事務所のホームページは http://www.keihin.ktr.mlit.go.jp まで。

 

8月24日 大丸用水堰上流(32km付近左岸)

多摩川ふれあい教室のイベント準備で大丸用水堰付近を観察。22日に来たときから1日半経って、水位は1m近く減ったように見える。陸地や中州も現れてきた。しかし、水は茶色く濁ったままで、流れもまだ速い。堰直下にはコサギやササゴイが多数群れ、下流を向いて、上ってくる魚を狙っている。その眼差しは真剣そのものだ。コサギが銀色の小魚を捕らえる瞬間を見ることができた。こんな濁った水の中で魚を見つけ(それとも気配を感じ取り?)、捕まえてしまうのだから、野性動物は本当にすごい。観察できた野鳥は、カワウ、ササゴイ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ。

 

8月25日 鮎美橋(61km付近/右岸)

多摩川センターが主催する「リバースクール」では、多摩川に興味を抱いている方々と、源流から河口まで様々な表情を見せる多摩川にふれながら、川に対してのマナー、自然、歴史、文化、生活など、様々なテーマを通して“多摩川らしさ”を考えていく。今日の第1回講座のテーマは、「川での安全・危険」。青梅市釜の淵公園付近の多摩川に入って、川での安全対策や、もしもの時の対応について体験し、川との付き合い方や望ましいレクリェーション利用について考えることが目的だ。

多摩川はまだ増水していて、白っぽく濁り(上流で合流する日原川の石灰成分も含まれているのだろうか)、鮎美橋上流でカーブした流れは、右岸の二次流路側に大きく分流している。流れも結構速い。河原や中州は平常の半分ほどの広さしかない(7月12日参照)。ゴミはあまり見られないが、小さな流木がたくさん打ち上げられている。それでも河原は、夏休み最後の週末をバーベキューや水遊びをして楽しむ若者や家族連れで賑わい、大変な人出。

 安全実習では、最初に室内で川へ行くときの心構えや服装を簡単にチェックした後、増水した川を体験した。“着衣泳”では、川に落ちて流されてしまったときの状況を体験。服の重みで、思うように体を動かすことができない。“ヒューマンチェーン”は、数人が協力して水中の人に手を差し伸べて助ける方法だ。昼食後は、実際に流されてしまった人を救助する方法として、「スローバック」の投げ方や、ペットボトルとロープを使った即席のレスキュー用具づくりに取り組んだ。

すると突然、消防庁の救助用ヘリコプターがプロペラを唸らせながらすぐ上に飛んできて、川沿いに移動して行った。ヘリコプターはすぐに戻ってくる。すぐ近くで水難事故がおきてしまったようだ。みんなの顔がこわばる。乗組員が水上を捜索しているのがはっきりとわかる。風圧で河原に張ったテントやタープが飛ばされる。後でわかったことだが、数km上流の和田橋付近でチュービング(タイヤチューブを浮き輪にした川下り)をしていたグループが深みにはまり、亡くなった方も出たということである。自分たちが安全実習をしているすぐ傍で、実際に水難事故はおきているのだ。

参加者(11名)の皆さんからは、水に流される体験は初めてだった、実際に人を助けることは難しい、川の怖さが理解できた、子どもたちと川遊びに来るときの参考になった、等の意見をいただいた。

今日の実習では、知っているだけと実際に体験していることは決定的に違うということと、まず自分たちがレスキューされる立場にならないためにどうすれば良いのかを伝えることができたと思う。

 

8月26日 大丸用水堰上流(32km付近左岸)

今回の台風は、多摩川の底にたまったヘドロやヌルヌルを洗い流した。久しぶりの出水だっただけに、濁りが取れたらどんなにきれいになっているか、とても楽しみだ。

今日は多摩川ふれあい教室の「水の中の観察会」。夏休み最後の日曜日ということもあって、親子連れを中心に多くの方が来てくださった。多摩川はまだ濁っているものの、流れは穏やかさを取り戻してきた。とはいっても、マスクとシュノーケルを着けて水中観察、というわけにはいかなかったので、ライフジャケットを着けて、水に浮いて流されてみたり、手網で水際の草陰に隠れている魚を捕まえたりした。子どもたちは大はしゃぎで、川の中を走り回る(川底も見えないのに危ないよ…)。講師の“えのきん”も大人気。増水後はいろいろな魚が上流から流されてきたり、岸際の浅くて流れの緩やかな場所に避難したりしているので、大漁のチャンス。みんなでゲットした魚は、オイカワ、タモロコ、モツゴ、カマツカ、コイ、ギンブナ、ドジョウ、シマドジョウ、ナマズ、オオクチバス、ヨシノボリ、ジュズカケハゼ。その他スジエビ、ヌカエビ、アメリカザリガニ、コオニヤンマやハグロトンボのヤゴ、ウシガエルのおたまじゃくし、などなど。

 

8月27日 多摩川市民フォーラム第2「飲める水にする」・第3「いきもの・学習」研究会

「多摩川水系河川整備計画」における利水面の取り組み(水流実態解明プロジェクト)については、まだはっきりしていない面も多い。多摩川市民フォーラムでは、市民としてどんな取り組みや提案ができるか、第2研究会の場を中心に話し合っている。今日は、「市民行動計画」に示した、@玉川浄水場の再開を目指す(多摩川を飲める水にする)A雨水循環を回復し活用するB湧水・地下水を再生し玉川上水を活用する、という検討テーマの確認をした。今後はその実現に向けて具体的な取り組みに移る。早く行動を開始したい。

3研究会では毎月勉強会を行っているが、今日は先月に引き続き、環境ホルモン(内分泌撹乱物質)について話し合った。環境ホルモンについては、まだ解明されていないことが多いが、いろいろな立場の人と検討を重ね、市民としてのガイドラインが出せるようになったら素晴らしいと思う。くれぐれも手遅れにならないことを願う。

 

8月29日 一之瀬川本谷(125km付近〜128km付近)〜笠取山一帯

4月8日以来、久しぶりに多摩川源流のイワナ釣りに出掛けた。作場平から15分ほど登った丸木橋から入渓して、1kmほど上流の丸木橋まで釣り上ったが、今回は笠取山付近の観察もしようと三脚や双眼鏡、それに山登りの準備などをしていったら、予想以上に荷物が多くなってしまった。野鳥の囀りを耳にしては双眼鏡を覗き、美しい流れを見ては三脚を立てる。でも藪や枝にはすぐに引っかかるし、岩を飛び越そうとすればバランスが崩れる。ちょっと欲張りすぎかなと思った。釣果は18〜21cmが4匹、10cm前半の“チビイワナ”が5匹。急流の中で掛けた大物をバラしてしまったのが悔やまれる。同じ型でも着色斑点の濃淡には個体差があって興味深い。釣ったイワナが放流ものか、天然ものか、両者のハイブリッドなのかは、僕には断定できないが…

午前10時、竿をしまって山道を歩き出す。ミズナラの大木があちこちに見られる。一休坂を休みながら登り、笠取小屋下の水場へ。カラマツ林の木漏れ日が眩しい。小屋の前の広場で早めの昼食をとり、シラビソ林の小道を進む。沢の源流を何回も渡る。シラベ尾根手前でヤマドリの親子連れに出会う。周りはコメツガの原生林になり、チュリチュリ…とメボソムシクイの涼しげな囀りが響く。でも今月初め(8月3〜5日参照)にはあんなにたくさんいたルリビタキの声はまったく聞こえない。左の坂を登って水干へ。台風の後なので期待したが、岩が湿っている程度だった。2分ほど下ると、100mほど下で岩の間からこんこんと清水が湧き出していて、多摩川138kmの始まりを実感することができる。

ところで、多摩川の長さは「幹川流路延長」138kmというのが一般的である。しかし測り方によってその数値は異なるようで、120kmから138kmまで様々な数値が見られる。このページでは、国の直轄管理区間である河口から万年橋までの0〜61.8kmは、堤防上にある距離標識に従った。それより上流については、延長を128kmとする資料を参考にしたので、およその距離と考えてほしい。

多摩川、富士川、荒川3河川の分水嶺となっている小高い丘からは、燕山、古礼山が間近に眺められる。気が付けば周りをツバメの群れが飛び交っている。風が吹くと、辺り一面にススキの波が立つ。雁峠付近には高原が広がり、休憩するには最高だが、最近は笹の繁茂が目立ち、花はめっきり少なくなってしまった。また、笠取山の中腹一帯はソウシチョウだらけ。紅い嘴に派手な色をした見慣れない小鳥が、笹薮に群れてチッチッと鳴いているかと思えば、沢沿いのミズナラにとまって朗らかに歌っている。今日目撃しただけでも50羽以上はいた。どうしてこんなに増えたのか。また在来の野鳥にはどんな影響を与えるのだろうか。とても気になる。

下山後、丹波山村の温泉「のめこい湯」につかって疲れをいやす。立派な温泉館は昨年春にできたばかりで、広々とした和風風呂とローマ風呂が、週ごとに男女が入れ替えられる。肝心の湯は温泉らしく白濁して硫黄味があり、僕は奥多摩で一番気に入っている。特に和風風呂にある岩の露天風呂がおすすめだ。湯から上がって、村を歩いて涼んでいると、すれ違った人みんなから「こんばんは」と声をかけられた。山里に暮らす人々の温かさを感じる。

目に付いた花は、アキノキリンソウ、ヤマハハコ、キオン(多い)、コウリンカ、サワギク、マルバダケブキ、ヒヨドリバナ、ヤマホタルブクロ、ホソバコゴメグサ、カメバヒキオコシ、アカバナ、キツリフネ、ツリフネソウ、ダイコンソウ、ワレモコウ、シモツケソウ、クロクモソウ、ダイモンジソウ、ヤマトリカブト、キバナノヤマオダマキ、フシグロセンノウ、センジュガンピ、ツレサギソウ属?など。オオカメノキが赤い実をつけている。観察できた野鳥は、ヤマドリ、ツバメ、メボソムシクイ、コマドリ(1羽:目視のみ)、ウソ、コガラ、カケス、ソウシチョウ。

 

8月30日 是政橋(31km付近)

土手にツルボの桃色の花が目に付くようになってきた。もう秋がやってきたのだ。是政橋下流右岸はスーパー堤防になってしまったところだが、河道側の土手法面には自然が残されている。今日は22日の出水後の変化を調べるため、是政橋付近を観察した。水量は平常時に戻った。橋の上流、下流ともに地形の大きな変化は感じられないが、中州に繁茂していた植生は一部を除いて流失し、そこには丸石河原が広がっている。ある程度予想していたこととは言え、石河原が洪水によってつくられることを確かめることができた(7月20日、31日も参照)。水もきれいに澄んでいる。カワセミが1羽、チーと鳴きながら水面ぎりぎりを飛び去った。