多摩川散策日記2001年7月)

文:上田大志

 

 

7月1日 永田橋〜羽村堰(52〜54km付近/右岸)

福生の市民グループの植物観察会が、永田橋上流草花の土手で行われた。梅雨明けを思わせる猛暑の中、約20名が参加。800mほどの距離を3時間近くかけてじっくりと見ていく観察会で、ひとつひとつの植物を詳しく観察することができた。参加者の地域に対する愛着も感じた。土手の植生管理について研究している東京農工大学の学生グループによると、草刈りの時期や回数によって植物相に大きな変化が見られるとの事。ノカンゾウ、テリハノイバラ、ノアザミ、コマツナギ、ナンテンハギ、ネムノキ、ヒロハノカワラサイコ、ウツボグサなどの花が満開。土手の斜面(石を組んだ堤外側)には、ツルマンネングサがびっしり(花は終わり)。堤内側(草地)には、ノジトラノオの群落が見られる。ナワシロイチゴ(実)、レンリソウ(葉)なども。羽村堰下流のカワラノギク保護地では、はむら自然友の会の方々が汗を流しながら作業している。牛乳がアブラムシの駆除に効くらしいので、試しているとの事だ。目に付いた野鳥は、コジュケイ、トビ、イワツバメ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス、オオヨシキリ、ホオジロ、ガビチョウ(声)。

 

7月3日 河口域の干潟(2km付近)/六郷橋下流(5km付近)/兵庫島(18km付近)/大栗川合流点上流(34km付近)

 河口域の干潟…10:00〜。干潮(9:28/中潮)になったばかりで、ねずみ島下流の水面には、中州(干潟)が大きく露出している。そこにカワウが100羽近くいる。コ?アジサシの群れ。中型のカモメも飛んでいるが、種類はわからない。スズガモが2羽。このまま夏も残るのだろうか。トビハゼ数匹、ヤマトシジミ。干潟に相変わらずコンクリート片が散乱している。広大なヨシ原に目立った変化は感じられないが、もう穂が出ている。土手法面にも似た植物がある。外来種のセイバンモロコシらしい。シマスズメノヒエも目に付く。土手下には、ヘラオオバコ、ムラサキツメクサ、オオニワゼキショウなど。

 六郷橋下流…11:30〜。橋の下流で水難事故?の処理が行われている。左岸の干潟にはフトイの群落。ヒメガマの花穂が出揃った。でも草の間にはビニール、ペットボトルなどのゴミがいっぱい(流されてきて溜まったのだろう)。タイヤやボートなど大型のゴミは、以前からずっと残っている(捨てられたまま移動していない)。6〜7cmのトビハゼ多数。干潟の水際に緑色のコケのようなものが目立つ。カルガモの親子が数家族いるが、野鳥は少ない。平日の暑い日中で、河川敷の広場には人影もまばら。ヨシ原のオオヨシキリの声が響く。

 兵庫島…14:00〜。二子橋下流の野川沿いに上流へ。本川から野川へつくられた分水路には、小さいながらも瀬と淵が生まれている。この水深は浅いが、わざわざ渡って植生の繁茂する中州に入る人は少ないだろう。牛枠に根付いた草が青々としている。以前は河原に接していた牛枠の列は川の中。流れが少し変わったのだろうか。石河原の植生回復が著しい。二子橋上流に不規則に存在する中州にも草が生い茂り、最近あまり水を被っていないようだ。泳いでいる若者7人。コチドリ、カワセミ。

大栗川合流点上流…15:30〜。多摩川右岸の交通公園、野鳥観察舎付近へ。オオブタクサ、ヨシ、オギの藪が、3m近くの高さまで発達している。大栗川の水辺にはツルヨシも。土手は草刈りがされたばかりで花は少ない。小段下の石の法面にはカワラサイコ(花は終わり)。橙色のヤブカンゾウが目立つ。トノサマバッタとキリギリス。

夕方からは、せせらぎ館に多摩川エコミュージアム推進委員会のメンバーが集まり、リバーミュージアムに関する緊急検討会が開かれた。エコミュージアムとの関係について議論が盛り上がり、ひとりひとりの「リバーミュージアム観」がにじみ出る会議だったと思う。

 

7月7日 宿河原堰(22km付近左岸)/上河原ワンド(25km付近右岸)/府中四谷橋(36km付近左岸)/浅川合流点(37km付近右岸)/秋川合流点(49km付近右岸)/永田地区(52km付近右岸)

多摩川センターの主催により、「多摩川洪水撹乱後の河川環境モニター調査」が行われた。調査の趣旨は、1999年8月の出水による河川環境への影響とその後の変化を、市民の眼で継続的に観察・記録していき、今後の川づくりに生かそうというもので、流域の市民を中心に約20名が集まり、貸切バスで移動しながら上記箇所の環境調査を行った。

宿河原堰下流…第3紀層の露出する河床や高水敷のワンドの水がほとんど干上がっている。ひと雨欲しいところ。

上河原ワンド…ワンド上流端の植生の繁茂が著しい。ちょっとした出水でも水を被るところだが、最近その形跡はない(ようだ)。

府中四谷橋…99年に洪水が流れた跡は、すっかり目立たなくなった。洪水が河川敷につくった段差はまだはっきりしているが、石河原にはかなり植生が回復してきた。

浅川合流点…日野クリーンセンター前の堤防下にある水溜り(1月14日参照)を観察。澄んだ水が湧き出している。付近の生態系保持空間の高水敷は草木が生い茂り、ちょっとしたジャングルだ。かつて辺り一面が石河原だったというのは本当なのだろうか(信じられないくらいだ)。

秋川合流点…水際の植生回復が著しい(タデ類など)。石河原でも水際は適度に水分があるので、植生の回復は早いそうである。

永田地区…昨年の写真(6月)と見比べると、水量が少ないことがよくわかる。永田橋上流の石河原復元実験地も視察(6月9日参照)。自分たちのまいたカワラノギクの実生を見ることができて感動!

野外で一日汗を流した後で飲むビールは最高!

 

7月9日 宿河原(22km付近右岸)

対岸の狛江水辺の楽校の河原から自由広場にかけて、オフロードバイクが3台、土煙を上げながら猛スピードで走っている。散歩をしている人が慌ててよけているのが、こちらからもはっきりとわかり、腹立たしい。堰上流では、釣りに来ている若者が、50cmくらいのコイを取り込んでいる。今日はせせらぎ館で多摩川市民フォーラム第3「いきもの・学習」研究会があった。話し合ったテーマは、環境ホルモンの影響について。

 

7月10日 宿河原(22km付近右岸)

今日も日差しが眩しい。気が付けば6月14日(先月号参照)以降、まとまった雨は降っていない。このまま梅雨が明けてしまいそうだ。深刻な水不足にならないか、非常に不安である。今月24日に「多摩川流域リバーミュージアム」の開始を控え、せせらぎ館の改装工事が進められている。登戸駅から歩いて来る途中には、案内板も整備された。最近は左岸(狛江側)の河原を歩く機会も多かったが、右岸(川崎側)の水際を歩くと、宿河原堰下流の澪筋は、右岸側に寄っていることがよくわかる。今日もせせらぎ館で会議。多摩川エコミュージアム推進委員会が開かれ、リバーミュージアムのオープニングイベントへの対応や、OA機器の管理などについて話し合われた。

 

7月11日 関東地方梅雨明け

 

7月12日 鮎美橋(61km付近)/小作堰下流(55km付近)/谷地川合流点上流(42km付近)

鮎美橋上流右岸の二次流路は涸れて久しいが、流路跡にはタデ科を中心に草が帯状に生えていておもしろい。10cmも掘ると水がしみ出してくるし、橋下まで来ると次第に伏流水が増えて、流れになっている(3月18日参照)。水量は相変わらず少ないが、水は3月に来たときより澄んでいる。一方、本流の水際には植生がほとんど見られない。蛇籠の斜面に大きな変化は感じられないが、ハリエンジュがしっかりと定着している。中州に植生が増え、左岸はツルヨシの繁茂が著しい。アユを狙う釣り人13人、幼稚園の学級とその母親たちが水遊びに来ている。今日は八王子で39℃になったほどの猛暑。僕らも水に飛び込んで泳ぎたい!

人工的だった小作堰下流の中州はすっかり周囲の風景に馴染み(2月10日参照)、緑に覆われてきた。堰左岸に設けられた魚道沿いに水草が茂っている。堰の段差のすぐ上には、産卵を控えてお腹のふくれたオイカワが多数群れている。また、上流から流されてきたものか、空き缶などのゴミが多数沈んでいる。青梅リバーサイドゴルフパーク前の高水敷には、ハリエンジュ林が発達している。石河原の起伏が目立たなくなり、水際の傾斜もかなり緩やかになった。ツルヨシの繁茂がめざましい。カワラバッタだろうか、石河原をグレー(青っぽい)のバッタが多数飛び交っている。

 谷地川合流点上流は、ともかく植生の繁茂がすごい。まず堤防上からほとんど水面が見えないことに驚き、水際に出ては、同じ場所が昨年石河原だったとは思えないほど。これほどまでに植物を生長させるものは何だろう?土壌が肥沃なのか、水分が適当なのか。ただこの日、全般に草木がうなだれて元気がなかったのは、猛暑のためばかりではない気がする(ずっと雨が降っていないからでは?)。

 

7月15日 万年橋〜神代橋(62〜65km付近)

多摩川利用実態調査(上流篇)の3回目。今日歩くコースは、本来4月にやるはずだったところだが、雨で2度の延期。国土交通省直轄管理区間の上流端である万年橋から左岸を上流に歩く。万年橋の上流側橋梁がよく見える。水際まで下りられるところは限られるが、そのような場所にはアユの釣り人や、水遊びを楽しむ人がいっぱい。多摩川もこの辺まで来るとまさに清流。河原で弁当を広げる家族、泳ぐ若者、岩から淵に飛び込む子どもたち…みんなの歓声が遠くからでも聞こえる。丸石河原にカワラニガナの大群落。和田橋上流の河原(3月18日参照)にも大勢の人。神代橋下の河原は、相変わらず「猫の額」の狭さだが、カヌーや水遊びの人たちがひしめき合っている。確かにここは駅からも道路からもアクセスしやすい。今日は奥多摩橋まで歩こうと青梅駅を出たものの、猛暑のためみんなここでダウン。神代橋の脇にある「紅梅苑」に駆け込み、梅のかき氷を味わった。

 

7月16日 狛江水辺の楽校(22〜23km付近/左岸)

リバーミュージアムのオープニングイベントを前に、多摩川子供の探検隊(狛江地区)として、狛江第六小学校の4年生70人が水辺の楽校にやってきた。河川敷を歩きながら、地形や植物、採取した魚などを観察したり、電子野帳に記録した情報やデジカメで撮影した画像をもとに、「デジタル版河川環境マップ」づくりの練習をした。

 

7月19日 多摩川市民フォーラムの活動に関する検討会

今後の多摩川市民フォーラムのあり方についての第2回検討会が、せせらぎ館で行われた。出された意見は/会費収入だけでは充分な活動はできないから、助成金を申請しよう。「多摩川流域懇談会」の市民部会として汗を流しているのだから、行政から支援してもらうべきだ。いや「多摩川市民フォーラム」は市民の自主的な集まりだから、行政に支援してもらうのはおかしい。「多摩川市民アクション」を行った流域各地から人を集めて、代表者会議をやろう、等々。

 

7月20日 是政橋周辺(31〜32km付近)

真夏の日差しがようやく西に傾き始めたひととき、是政橋に立ち寄った。橋を歩いて渡りながら上・下流の景観を観察。河原や中州は植生にすっぽりと覆われて、同じところが昨年の今ごろは石河原だったとは信じられないくらいだ。今年はほとんど増水する機会がないが、台風の後などどうなるのか。丸石河原が出水によってつくられることを確かめたい。河川敷は真夏だというのに枯野と化した。イネ科草本から、キクイモやオギまでもが茶色く変色して、カラカラに乾燥している。川は恵みの雨を待ち続けている…

 

7月21日〜22日 後山川・三条の湯

多摩川の自然を守る会、夏の水源合宿。奥多摩駅から日原川の河原に下りて昼食後、バスに乗車。奥多摩湖畔の「お祭」から、広い砂利道の林道を3時間歩く。山麓にはナナフシがたくさんいる。あちこちで谷が崩れており、復旧工事のため途中から一般車両通行止めになる。林道の終点から目指す三条の湯までは、30分ほどだが気持ちの良い山道。カツラ、シオジ、ツガなどの原生林が広がり、あまりの見事さにしばし言葉を忘れる。大木の息吹を感じる。夕暮れ近く、宿に到着。静かな山の湯で汗を流す。山に闇が広がるのは早い。雲が切れ、夜空が顔を出した。火星とさそり座のアンタレスが赤く、おとめ座のスピカは白く輝いている。夜明け、ミソサザイのボリュームのある美声が谷に響く。朝食後、周りの樹々や草花、野鳥の声などを楽しみながらゆっくり下山した。目に付いた花は、ヤマホタルブクロ、イワタバコ、ギンリョウソウ、タニタデ?、マルバマンネングサ、ヤマオダマキ、ヤマユリ、タマガワホトトギスなど。観察できた野鳥は、トビ(麓)、ツツドリ(声)、ヤマセミ(麓)、コゲラ(声)、キセキレイ(麓)、ツバメ(麓)、ヒヨドリ(麓)、カワガラス(麓)、ミソサザイ、ウグイス(声)、クロツグミ(声)、キビタキ(声)、オオルリ、コサメビタキ?、ホオジロ(麓)、シジュウカラ(麓)、カケス(声)。

 

7月24・25日 二子橋周辺(17〜18km付近/右岸)

毎年恒例の「夏休み多摩川教室」が二子橋上流(右岸)の河川敷で行われた。多摩川の環境について子どもたちがわかりやすく体験できるイベントで、今年で11回目になった。多摩川センターでは、川の安全対策と発見マップづくりの体験コーナーを開いた。多摩川でも、この夏すでに20日、21日と川遊びをしていた人がおぼれて亡くなるという痛ましい事故がおきている。発見マップづくりは、多摩川の自然そのものが博物館になる「リバーミュージアム」の一環。24日は大変な猛暑。ずっと雨が降っていないので、グラウンドの土埃もひどい。二子橋の下はゴミだらけで、水量は少なく、水底の石はヌメヌメとしている。ところが25日午後は、イベント終了間際に激しい雷雨に襲われた。多摩川はみるみる増水し、発泡スチロールやビニール、ペットボトルなどのゴミがたくさん流されてきた。観察記録は/水際の流れの緩やかな浅瀬にオイカワの稚魚やモノアラガイが多数。目に付いた花は、ハルシャギク、ノゲシ、メマツヨイグサ、コマツヨイグサ、アカバナユウゲショウ、シロツメクサ、ムラサキツメクサ、カワラサイコ、ツユクサなど。野鳥はカワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、コチドリ、コアジサシ、キジバト、ドバト、カワセミ、ツバメ、ハクセキレイ、セッカ、スズメ、ハシブトガラス。

 

7月29日 睦橋〜永田橋(49〜52km付近/左岸)

歩くとすぐに汗が目にしみるが、立ち止まると河原を渡る風が心地良い。睦橋上流(左岸)には、オニグルミの河畔林が続く。五日市線鉄橋下では、地元の子どもたちが泳いでいる。多摩川中央公園には、人工のせせらぎがつくられているが、丸石河原の広がる自然の川で遊んでいる人の方がずっと多い。多摩橋をくぐり、盛況の福生市民プールの脇を抜けると柳山公園。クヌギやケヤキの林が木陰をつくり、気持ちの良い散歩道だ。目に付いた花は、オオアレチノギク(多数)、カワラニガナ、フサフジウツギ?、コマツナギ、テリハノイバラ、ノカンゾウなど。観察できた野鳥は、ササゴイ、キジ、トビ、キジバト、ツバメ、ウグイス、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ。

 

7月31日 是政橋(31km付近)/宿河原(22km付近右岸)

是政橋から上・下流の景観をチェック。25日の増水による大きな変化は見られないが、中州で植生が疎らな部分では、植生の倒伏が見られる。また、流されてきたビニールなどのゴミが多数、草に絡まっている。今日はせせらぎ館で多摩川流域懇談会の運営委員会があったが、ちょうど狛江の花火大会の時間と重なったから大変。ドンドドーンという音が響き渡る中、次回の多摩川流域セミナーは、9月末頃にリバーミュージアムをテーマに開くことが決まった。ちなみに昨年の花火大会の日は、せせらぎ館の運営委員会だったが、打ち上げが始まる前に会議を終え、シートを広げてみんなで花火見物を楽しんだ。川を挟んで対岸から眺める花火は、見物人は少ないし、水面に映る様が涼しげで実に趣深い。