多摩川散策日記2001年6月)

文:上田大志

 

 

6月2日 深大寺周辺/宿河原(21〜23km付近右岸)

大田区嶺町文化センターの講座「多摩川の水みちをたずねて」に補助員として参加。調布市深大寺周辺の湧水群や、農業高校の神代農場などを見学した。雑木林の若葉がすばらしく、こちらまで緑に染まりそうだ。神代農場は緑につつまれ、僕にとっては名も知らぬ草木がいっぱい。来るたびに、ここが東京であることを忘れさせてくれる。アオイトトンボ多数。オニヤンマ、ギンヤンマなども。柏野小の裏に残された水田は、ちょうど田植えが終わったところ。佐須用水は両岸がコンクリートで固められてしまっているが、澄んだ水が流れ、子どもたちが水に入ってザリガニとりに夢中になっている。

登戸での会議に行く途中、京王相模原線の鉄橋から多摩川を眺めると、上河原堰上流でウインドサーフィンを楽しむ人が大勢おり、まるで蝶の群れのように見えた。右岸21km付近の低水敷には、今日もこんこんと伏流水が湧き出しており、小川となって本流に流れ込んでいる。多摩川のこうした自然の財産を、地元の子どもたちや学校がどんどん利用するようになって欲しい。この辺はいつ来てもモトクロスをやっている。加えて今日は、対岸の「狛江水辺の楽校」にもオフロードバイクの姿が見え、大変気になる。新設されたスロープから入ったのだろうか。コアジサシが飛び回っている。カワヂシャ、ミゾコウジュ、キキョウソウの大群落を見かけた。

 

6月3日 奥多摩大橋〜数馬峡橋(75〜81km付近)

「西暦2000年の多摩川を記録する運動」では、河口から青梅万年橋までの多摩川利用実態調査を行った。今年はその上流部−奥多摩の調査をしようということで、今日はその2回目。このところぐずついた日が多くて心配したが、今日は絶好の行楽日和になった。川井キャンプ場には、10年ほど前まで毎年のように来ていた。当時は今よりも水温が低く、朝夕には川霧が立ち込め、水に長く浸かっていると夏でも足がしびれた。川井駅から吊り橋の梅沢橋を渡って行くのも楽しみだった。しかし、巨大な斜張橋の奥多摩大橋が架けられ、周囲は開けてつまらなくなってしまった。河原にはバーベキューを楽しむ若者のグループや家族連れがいっぱい。多摩川上流部は急峻な谷が続き、水際に下りられるところは少ない。仕方なく古里までひっきりなしに車の通る国道を歩く。万世橋を渡り、右岸沿いの林道に入る。途中の急斜面を下りて昼食。岩場にニッコウキスゲが咲いている。寸庭から越沢のハイキングコースを歩く。ホタルの出そうな沢だと思ったら、「生息地」の看板があった。繊細なコアジサイの花が美しい。オオルリの声も聞こえる。鳩ノ巣渓谷に出ると、散策の人が急に増え、すぐに100人を超えてしまった。白丸ダムで、上流出張所の大石さんが魚道の案内をしているところに出会う。遡上調査も行うそうで、ダム直下には、背中に印をつけられたヤマメが多数群れていた。魚道調査のためか、ダム上の水位が非常に高く、いつもは下りられる岩場はほとんど水の中。数馬峡橋を渡って、白丸駅へ。

 

6月5日 多摩川エコミュージアム推進委員会

宿河原堰付近の多摩川は、来るといつも処理水のにおいがして気になる。さて、7月の「多摩川流域リバーミュージアム」試行運用を控え、その拠点となる二ヶ領せせらぎ館が果たす役割は非常に大きい。リバーミュージアムは、せせらぎ館の普段の活動を「支援」するものであるというのが、行政側の認識のようである。市民サイドとしてはどうだろう。数十年に及ぶ市民活動の成果だと言えるのか、それとも別物であるのか。市民がやりたいと思っていることを実現できる、絶好の機会であることには違いないが。

 

6月6日 関東甲信越地方〜東北地方南部で梅雨入り

 

6月7日 第2回昭島環境フォーラム

 昭島環境フォーラムは、市民と行政が同じテーブルで問題点を共有し、対策を話し合う環境会議で、今年4月に発足した。今日のテーマは「昭島の用水(路)とホタル保護運動」。ホタルの幼虫は冬に成長するそうで、昭和用水にホタルを呼び戻すために、用水の年間通水を訴えてきたという話が印象に残った。

 

6月9日 永田橋〜羽村堰(52〜54km付近/右岸)/西川

河川生態学術研究会多摩川グループでは、永田橋上流右岸のハリエンジュ林を伐採して、河原植物の復元実験地を造成している(5月12日参照)。今日は研究グループのカワラノギクの種まきを手伝わせていただいた。カワラノギクが育つには、どのような条件が好ましいのかを調べるために、大小の石と砂、大きい石ばかり、砂だけ…とさまざまな条件が用意された方形区に、冠毛を取った種をまいていった。実生が定着したら、乾燥した時期には上流出張所に水撒きをしてもらうそうだ。野鳥調査をしている福生の市民グループにも出会った。テリハノイバラの白い花が美しい。ツルマンネングサ、ノアザミの花。ホトトギスの声も聞こえる。羽村堰下流左岸の駐車場は満車で、開放された河川敷に車が溢れ出ていた。

その後、鳩ノ巣の西川(1月13日参照)へホタルを観に行った。生憎霧雨が降ってきて10匹前後しか観られなかったが、そのうちの一匹が僕の腕に止まり、ゆっくりとした間隔で光り続けていた。保護をしている地元の方が、蒸し暑い日には30〜40匹は舞うよと教えてくれた。

 

6月10日 多摩大橋〜拝島橋(44〜46km付近/両岸)

多摩大橋下右岸には、迷彩服を着たサバイバルゲームの一団が30人ほど。多摩大橋の交通量は半端じゃないのに、歩道の幅は40cmほどしかなく、とても景色を楽しみながら歩ける状態ではない。多摩川上流処理場から流れてくる水路には、サンカクイが茂り、カルガモの親子が見え隠れしながら泳いでいる。今日は昭島の市民グループによる日野用水堰上流ワンド予定地(5月2日参照)の見学会があり、30人以上の人が来ていた。水辺に草が生い茂ってきたので、ヤブコギをしながら予定地へ。途中ウキヤガラの大群落が見られる。ここにもラジコン基地があった。一行と別れてさらに上流へ。拝島橋下流一帯の不法耕作地がなくなって、橋までまっすぐに行けるようになった。最近までは柵がつくられていて、強引に通ろうとすると、そこの人に怒鳴られて堤内地の車道を歩く羽目になった。拝島橋を渡って右岸へ。清掃センター前の河畔林には、ここにもサバイバルゲーマー30人ほど。若者だけでなく、中年の人や、家族連れ(小さな子どもまで迷彩服!)もいる。僕が横を通ろうとしたら、リーダーと思われる人に、迷惑をかけてすまないと挨拶された。望ましい河川利用のあり方を考えるには、彼らともきちんと話し合っていく必要がありそうだ。右岸を八高線鉄橋の先まで戻ると、ぺレーンという音とともにモトクロッサーが5人ほど現れた。土手にはミヤコグサの黄色い花が点々と見られる。観察できた野鳥は、カイツブリ、カワウ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、キジ、トビ、コゲラ、ヒバリ、ツバメ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス、オオヨシキリ、セッカ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシブトガラス。

 

6月12日 宿河原(22km付近右岸)

この数年、多摩川の中・下流でアユを釣る人が増えてきた。今日も見ている前で2匹釣り上げた人がいた。聞けば、昨年の今ごろの方がずっと釣れたと言う。中・下流ではコロガシ釣りが主流だが、友釣りをする人も見かけるようになった。春先のマルタウグイの産卵(3月25日、4月12日参照)といい、多摩川が徐々に良くなってきたことが実感できて、本当にうれしい。今日はせせらぎ館で2つ会議があった。リバーミュージアム検討懇談会では、せせらぎ館や多摩川センターの役割が示され、7月24日の試行イベントの内容も具体化してきた。多摩川流域懇談会運営委員会では、第9回多摩川流域セミナー(5月26日参照)を受けて、リバーミュージアムや水流実態解明プロジェクトをテーマにセミナーを開こうということになった。地先や個々の問題に対して、流域懇談会がどこまで関わっていけるのかも話題になった。

 

6月14日 宿河原(22km付近右岸)

昨晩から雨が降り続き、多摩川は久しぶりに増水している。宿河原堰はゲートを上げ、茶色く濁った水が音を立てて流れ落ちている。多摩川市民フォーラム第3「いきもの・学習」研究会は、多摩川の自然保護運動の歴史や、ゲームフィッシングなどを話題にした座談会。

 

6月17日 南武線鉄橋〜中央線鉄橋(32〜41km付近)

多摩川の自然を守る会の自然観察会。梅雨は一休みで、薄日が差し、午後は晴れて暑くなった。今日は長距離コースなので、あまりゆっくりとは観察できなかったが、この辺を歩くには1年でもっともいい季節だったと思う。大丸用水堰から府中四谷橋にかけては、カワラサイコとコゴメバオトギリの大群落があちこちに見られ、まさに花真っ盛り。テリハノイバラやネジバナなどが咲き乱れ、ナワシロイチゴは熟し、土手はとても華やかだ。コマツナギが咲き始め、オニグルミはもうたわわに実をつけている。ウツボグサやノジトラノオを発見した方もいた。カワラノギクの苗は、昨年種まきをした場所では元気に育っているが、今年まいた(3月22日参照)ところには残念ながら1本も見られない。やはり4月にほとんど雨が降らなかったためだろうか。四谷本宿堰上流では、日野バイパスの架橋工事が進んでいる。観察できた野鳥は、カイツブリ、カワウ、ササゴイ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、キジ(声)、コジュケイ(声)、トビ、チョウゲンボウ、キジバト、ドバト、カワセミ、ツバメ、セグロセキレイ、ウグイス(声)、オオヨシキリ、セッカ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、オナガ、ハシブトガラス。

 

6月23日 落合川

地元「東久留米ホタルを呼び戻す会」の催し「ほたるの夕べ」が南沢の氷川神社で開かれ、落合川の魚たちを展示することになったので、地元のメンバーと川へ。落合川は全長3.5kmほどの小さな川で、15年ほど前までは、コイも棲めないほど汚れていたが、下水道の普及や豊富な湧水群のおかげで、水質は信じられないほど良くなった。豊かな湧水が流れる川の水は、ひんやりと気持ち良い。水中にはミクリが密生し、若い実がかわいい。カルガモ親子が3家族。さてゲットした魚(催しの終了後は川へ戻される)は、アユ2匹(東京湾からはるばる溯上したものだろう)、ヤマメ10数匹(数年前から誰かが放流しているようだ)、オイカワ、ウグイ、アブラハヤ(大勢)、ギンブナ、コイ、ホトケドジョウ、ヌマチチブ。「ミズガキ」が本当に増えた。ふるさとの小川が戻りつつある。まだフェンスはなくならないけれども…

 

6月24日 大丸用水堰上流(33km付近/左岸)

是政付近で「マス」が釣れたという情報があり、ルアーでチャレンジしてみた。結果は空振りだったが、釣り人や漁場監視員の方の話では、エサ釣り、ルアー、アユのコロガシなどで結構釣れているらしい。しかもサイズはどれも35〜36cmの良型だと言う。これはもしや海から上ったサクラマスでは?と思ったが、大雨の時に昭島の方にある養鱒池から逃げ出してきたものらしいとの事。やはり多摩川でサクラマスを釣ることは、まだ夢の世界であるのか。とにかく自分で釣り上げて確かめてみたいが、多摩川のあちこちでサクラマスが釣れる、そんな日がきっと来ると信じている。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、カルガモ、キジ(声)、コジュケイ(声)、トビ、チョウゲンボウ(3)、イカルチドリ、キジバト、ヒバリ、ツバメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、オオヨシキリ(声)、セッカ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ。

 

6月26日 宿河原堰(22km付近)/上河原ワンド(25km付近)/府中四谷橋(36km付近)/浅川合流点(37km付近)/秋川合流点(49km付近)/永田地区(52km付近)

宿河原堰下流(左岸)の高水敷は、ヤナギの巨木の根元に洪水の傷跡が見られるが、周囲はすっかり緑に覆われた。春先に植えられたヤナギの苗木が育ってきた。

上河原ワンド(左岸)の上流端は、伏流水も見られるが、植生の繁茂が著しい。ワンド内のオオフサモは目立たない。定期的に取り除かれているのだろうか。

府中四谷橋(左岸)は、ハルシャギクなど園芸植物の花が目立つ。石河原にはかなり植生が回復してきた。

浅川合流点一帯は、この春まで行われていた「災害復旧」工事で、景観が一変した。百草の床固下流の河床は平らにされ、根川への分水路もつくられていた(1月14日参照)。合流点上流の多摩川右岸は草木の繁茂がすごいが、通りかかった方が、以前この辺は一面の石河原だったと教えてくれた。

秋川合流点(右岸)は、水際までの道筋はしっかりしているが、オギなどの藪が発達している。出水時に流されてきたらしい、流木などのゴミがそのまま堆積している。

羽村大橋から下流の永田地区(右岸)を眺めると、改めてハリエンジュ林の繁茂に気付く。橋直下のツルヨシの回復が目立つ。

観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、キジ、コジュケイ(声)、トビ、コチドリ、キジバト、ドバト、カワセミ、ヒバリ、ツバメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス(声)、オオヨシキリ、セッカ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、オナガ、ハシブトガラス。

 

6月28日 宿河原堰(22km付近右岸)

堰右岸側の魚道では、魚の溯上調査が行われている。成果を見せてもらうと、ウグイやオイカワが中心だったが、スズキ(30cmくらいのセイゴ級)も1匹入っている。スズキは外海よりも汽水域に多い魚で、僕も東京湾や荒川の河口などに釣りに行っている。川の中流域まで上ってくることもあるらしいが、ここまで来ているとは驚いた(丸子橋付近では時々見かける)。今日はせせらぎ館で、今後の多摩川市民フォーラムのあり方全般についての検討会が行われ、流域全体が関わる課題に取り組むとともに、地先ごとのサポートも強化していくことが確認された。