多摩川散策日記2001年5月)

文:上田大志

 

 

5月2日 白丸ダム(80km付近)/万年橋(62km付近)/日野用水堰(45km付近)

京浜工事事務所多摩川上流出張所長大石さんの案内で、多摩川の自然を守る会のメンバーと白丸ダムの魚道見学に行った。白丸ダムは発電用に建設された高さ30.3mのダムで、数年前から「魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業」の一環として、魚道の新設工事が進められ、通水を開始するまでになった。高低差、全長(351m)、事業費、急峻な地形など、これまでに類を見ない大規模な魚道工事として注目を集めてきた。渓谷の景観にマッチするデザインと、魚道内の流量を一定にするために苦労したそうである。アユやサクラマスがこの魚道をのぼる光景を早く目にしたいものだ。周りの岩場にはウツギの白い花が目立つ。

青梅の万年橋は、東京都が下流側橋梁の架け替え工事を予定している。

日野用水堰上流左岸には、昭島の市民団体がワンドの造成を計画している。以前この付近に点在していた自然のワンドや砂利穴などの水辺空間を再現したいと聞いている。計画は、生態系保持と「水辺の楽校」を目的とする2つの池の部分をつくり、それぞれをつなげるという、全長400mにわたる大規模なもの。観察できた野鳥は、カワウ(日)、コサギ(日)、ダイサギ(日)、アオサギ(日)、コガモ(日)、カルガモ(白/日)、キジ(声:日)、トビ(日)、アオゲラ(声:白)、イワツバメ(白/万)、ツバメ(万/日)、セグロセキレイ(万)、キセキレイ(白)、カワガラス(白)、ウグイス(声:白/万)、オオルリ(声:白)、スズメ(万/日)、シジュウカラ(万)、ハシブトガラス(万/日)。

 

5月3日〜5日 岩手県安代町

毎年冬にスキーで通いつめている岩手の安比高原にイワナ釣りに行った。今年は残雪が少なく、昨年もまったく同じ日付に出掛けたが、その時には胸まであった雪が、まったく残っていない。5月に入ったばかりだというのに雪代がほとんどない。安比川本流は砂防指定地とはいえ、あまりにひどい光景で、支流の黒沢川を釣り上る。この辺のイワナは白い斑点ばかりのアメマスで、頭部にまで模様がある個体が多い。カタクリ、スミレサイシンの花、あちこちにミズバショウの群落も見られる。リスがキキッと鳴きながら、木を上り下りしている。3日にはまだうつむいていたキクザキイチリンソウのつぼみが、5日に一斉に開いたのが印象的だった。目立った野鳥は、ノスリ、カワガラス、ミソサザイ、ヤブサメ、ウグイス、エゾムシクイ?、アカハラ、キビタキ、オオルリ。

 

5月8日 多摩川エコミュージアム推進委員会

 二ヶ領せせらぎ館の主催行事について打ち合わせがあった。さまざまなテーマ(環境、歴史、丘陵、水循環、情報、管理、リバーミュージアム、水辺の楽校、まちづくり…)で、もりだくさんの活動計画が出された。今後が非常に楽しみだ。

 

5月10日 多摩川市民フォーラム第3「いきもの・学習」研究会

植物研究者の畔上能力さんを講師に迎えて、多摩川の植物について勉強会を行った。多摩川らしい植物、帰化植物、希少植物などについて、スライドを交えながらお話を伺った。専門家の鋭い観察力、研究に対する厳しい姿勢をお話の随所に感じた。はじめて聞く内容も多く、とても貴重な時間だった。また、先月14日に稲城大橋下の河原で見たカワヂシャは、「オオカワヂシャ」(外来種)であることがわかった。

 

5月11日 狛江水辺の楽校〜二ヶ領上河原堰(22〜26km付近/左岸)

「にっかつ前ワンド」下流は、水際にホームレスが大勢住んでおり、犬がうるさくてゆっくり歩けない。狛江五本松下流の中州は自然豊かで楽しいが、これから夏にかけてオギなどが茂ってきたら、歩きながら観察できるのだろうか。多摩水道橋下のワンドは、平日ながらも大勢の釣り人で満員状態。水道橋から小田急線鉄橋にかけては、複々線化を含めたさまざまな工事が進行中である。「自由広場」付近では、近々東京消防庁が大規模な演習をするそうだが、その準備のためか、河川敷を消防車が何台も走り回っている。今日は、河川管理者や沿川自治体、地元の市民団体らによって、「リバーミュージアム」の打ち合わせがあり、先月開校した「狛江水辺の楽校」の視察と、携帯電話(iモード)を使った利用の試行を行った。その後二ヶ領せせらぎ館で話し合いがあったが、僕は別件があり欠席した。先日教えていただいたカワヂシャとオオカワヂシャの両方がたくさん見られる。アカバナユウゲショウ、ノイバラ、キショウブの花が満開。他に目に付いた花は、ミゾコウジュ、ハナウド、コマツヨイグサ、アメリカフウロ、カキネガラシ、マメグンバイナズナ、ナガミヒナゲシ、イチハツ?。観察できた野鳥は、カイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、キジ、トビ、イソシギ、コアジサシ、キジバト、ドバト、ヒバリ、ツバメ、イワツバメ、ハクセキレイ、オオヨシキリ、セッカ、スズメ、ムクドリ、オナガ、ハシボソガラス、ハシブトガラス。

 

5月12日 永田橋〜羽村堰上流(52〜54km付近/右岸)

 永田地区では、ニセアカシアの抜根工事が大掛かりに続けられており、永田橋から、かに坂公園前にいたるまでの右岸高水敷には、柵が張り巡らされている。河川敷に増えすぎたニセアカシアを除去することで、植生がどのように変化していくのかを調査しようということである。実験的な試みとして大変興味のあるものだが、いま目の前で河川敷がグラウンドのようにされ、重機が唸りながら、土埃を巻き上げている光景は異様である。すぐ脇に生態系保持空間の看板が立てられているのが皮肉に感じる。柵沿いに工事の主旨説明板をきちんと立てるべきだ。さて、そのニセアカシア(ハリエンジュ)が満開で、花の蜜を楽しみながら歩く。河原に近いところではカワラヨモギが目立つ。カワラノギクの芽も見られるが、秋にどのくらい花が咲くだろうか。今年は4月に雨が少なかった影響で、実生の定着が悪いと聞いており、大変心配である。羽村大橋下も橋脚補強工事後で、周辺の風景は殺伐としている。丸石河原ではイカルチドリが営巣中、ヨシ原ではオオヨシキリがとても賑やか。カジカガエルの声も。観察できた野鳥は、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、キジ、コジュケイ(声)、トビ、イカルチドリ、イソシギ、キジバト、ツバメ、イワツバメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス、オオヨシキリ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシボソガラス。

 

5月13日 是政橋上流〜大丸用水堰上流(32〜33km付近/左岸)

多摩川ふれあい教室勤務。野球場前ハリエンジュ林付近は、バーベキューをする家族連れや若者などで、9時半時点ですでに満員状態。やはり大駐車場、トイレ、水場、木陰が揃っているだけはある。大丸用水堰のゲートは1門が開いているだけで、先月末に来たときより少し水位が上がった。昼休みにまた来たら、午前中ふれあい教室に遊びに来た親子が、水に入ってはしゃいでいた。多摩川と親しむきっかけを提供することができて本当にうれしい。今日はからりと晴れて汗ばむくらいの陽気に恵まれ、水遊びをしている子どもや親子が大勢いる。仕事柄、毎日「いい川」について考えるが、「みんなが気持ちよく水遊びのできる川」は大きなキーワードとなるに違いない。この辺りの多摩川も、以前と比べてだいぶきれいになってきたが、水遊びにふさわしい水質にはまだ程遠い。それに水際には、たくさんのゴミやビンのかけらが散乱している。今日は多摩川センター主催の植物観察会で、南武線鉄橋付近まで歩いた。付近の河川敷は、澪筋側が河川整備計画でもF情操空間に指定されている自然豊かな場所で、植物の種類は多い。参加者も熱心な方ばかりで、大変有意義な観察会だった。鉄橋下のホームレス村がなくなった。また、水際の段差からは冷たい伏流水が湧き出している。カワヂシャ、オオカワヂシャ、コゴメバオトギリ(咲き始め)、カワラサイコ(花はまだ)。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、キジ(声)、トビ、ドバト、イワツバメ、オオヨシキリ(声)、セッカ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシブトガラス。

 

5月14日 多摩川流域懇談会第18回運営委員会

5月26日に行う、第9回多摩川流域セミナーの打ち合わせを中心に、「みんなでそだてる未来の多摩川」パンフの内容確認、運営委員の改選などについて話し合った。

 

5月15日 府中市南部

多摩川の中だけでなく、周辺の地域についてもっと知ろうという、多摩川センタースタッフの「自主研修」第二弾。今回は多摩川ふれあい教室のある府中市郷土の森周辺を歩いた。分倍河原駅から、旧鎌倉街道の遊歩道、古戦場碑、新田川緑道を通り、水路や田んぼ、親水公園などをチェックしながら関戸橋へ。河原で昼食後、多摩川沿いを大丸用水堰まで歩いた。高水敷土手際にはツボミオオバコ、水際にはカワヂシャとオオカワヂシャの群落やミゾコウジュなどが見られる。今日もよく晴れて初夏の陽気になり、ハリエンジュの木陰がうれしい。日曜には数百人が繰り出した野球場前は、人影もまばらで静か。多摩川ふれあい教室に寄り、展示の改善や、来場者への対応について話し合う。その後は、健康センターを通って、南武線沿いに歩き、大国魂神社を見学して、府中駅に出た。全体を通して一番気になったことは、水田と用水路の宅地化である。15年ほど前と比べても、本当に少なくなったように思う。先日、府中の市民団体の方が、住宅地に住む人が田んぼや水路を残したいと思っても、その持ち主である農家がそのために協力してくれることは少ない、と言っていたのを思い出す。難しい問題だ。いま目の前で、田んぼをつぶして住宅を建てているのだから。途中確認できた野鳥は、ダイサギ、カルガモ、キジ(声)、キジバト、ヒバリ、ツバメ、セッカ、スズメ、ムクドリ、オナガ、ハシブトガラス。

 

5月16日 東久留米

五月雨の朝、カッコウの声が響く。

 

5月19日 東久留米

午前2時頃、突然夜空からホトトギスの声。きっと渡りの途中なのだろう。

 

5月20日 多摩川橋下流〜万年橋(56〜62km付近)

多摩川の自然を守る会の自然観察会。よく晴れて暑い一日になった。柳淵橋上流の淵には、ヤマメやアユが群れている。河原には家族連れや若者が大勢繰り出し、橋の脇にある駐車場は午前10時過ぎですでに満車。釜の淵公園に来るのは3月以来で、付近はすっかり緑に覆われた。調布橋から下奥多摩橋までは左岸河川敷を歩くが、イヌコリヤナギやツルヨシなどが繁茂していて、もう一月もすれば通り抜け困難になりそうな感じだ。下奥多摩橋下で昼食。右岸に高層マンションが建てられたのがつくづく残念。セリバヒエンソウ多数。カワラニガナはもう花が終わって、綿毛になっている株が目立つ(先月来たときには見頃だった)。一旦車道に上がり、友田小学校の脇からまた川沿いに歩く。今いる右岸から対岸を見ると、青梅市運動公園前の車の数と、林立する“リバーサイドマンション”にあらためて驚く。運動公園上流(左岸)には広大な河原が広がっているが、右岸の丸石河原(ちょうど公園の向かい)もおもしろい。近くにイカルチドリの巣があるらしく、親鳥が警戒の声を上げて飛び回っている。建設の進む圏央道橋をくぐって、友田水道橋を渡り、小作堰手前まで歩いた。観察できた野鳥は、カワウ、アオサギ、カルガモ、キジ(声)、トビ、イカルチドリ、キジバト、ドバト、コゲラ(声)、ツバメ、イワツバメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、モズ、ウグイス(声)、オオヨシキリ(声)、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ。

 

5月21日 多摩川市民フォーラム運営委員会

多摩川市民フォーラムでは、5月26日に開かれる第9回多摩川流域セミナーでの議論をもって、『市民行動計画案』の「案」をはずし、計画とする予定。他に話し合われたのは、運営委員の改選をどうするかなど。

 

5月26日 第9回多摩川流域セミナー

「多摩川のみらいプラン」として、国土交通省京浜工事事務所が3月に策定した『多摩川水系河川整備計画(直轄管理区間編)』と、多摩川市民フォーラムの『市民行動計画案』が紹介され、「今後の多摩川での取り組み」について議論された。充分とは言えないまでも、市民を含む多くの人が河川整備計画づくりに参画してきたことと、機能空間区分が法定計画に盛り込まれたことは評価できるのではないだろうか。また、市民行動計画を、単なる意見(要望)集ではなく、自分たちが多摩川の「いい川づくり」に主体的に関わり、どのように行動していくべきかを宣言するものにできたことは素晴らしいことだと思う。ただ、多摩川の将来像を考えるときに、これから多摩川をどのような川にしていきたいかという理念が大切なのは言うまでもないが、これらの計画が地先の護岸工事や、希少植物の保護などの具体的な問題に対して活かされなくては、意味がないのも事実である。今後は、リバーミュージアムや水流実態解明プロジェクトなどのテーマや、地域ごとの問題を議論し、市民行動計画で謳ったことを実現していかなくてはならない。多摩川流域懇談会は、これまでのような流域セミナーでの議論だけではなく、個別部会や現地フィールドワークなどのさまざまな活動を行い、それぞれの中で「緩やかな合意形成」を目指していく必要があるだろう。

※機能空間区分を設定するのは好ましくないという意見もいただきました。

 

5月28日 軍畑大橋〜杣の小橋(68〜72km付近)/河辺(58km付近左岸)

多摩川と語る会の観察会(第18回多摩川ウオッチング〜初夏の御岳渓谷を歩く)に参加した。同会は、多摩川の河口から水源まで歩いている川崎の市民グループで、隔月で第4月曜日に観察会を行っている。今日は30名ほどの方が来ていた。普段は40名前後の参加があるそうで、月曜日だというのに驚きだ。軍畑大橋上流から左岸の遊歩道に入る。2月に来たときにはそれほど気にならなかったが、楓橋から御岳橋にかけての遊歩道(左岸側)は、野性味あふれる渓谷に対して人工的すぎると思う。観光地として誰でも手軽に歩ける良さはあるが、もっとありのままの自然を活かす工夫が欲しい。御岳小橋手前で昼食後、ミニ植物講座や水質調査があった(毎回行っているとの事)。右岸のテラスは通行禁止のまま。カワトンボ、アオスジアゲハ、カジカガエル(声)。ユキノシタ(満開)、スイカズラ(咲き始め)、マタタビ(つぼみ)。また、植物に詳しい方からクサヨシ、ウスバサイシン、フユイチゴなどを教えていただいた。

帰りがけ、河辺駅から運動公園上流の広い河原へ。カワラニガナの大群落を見かけたが、開花している株は一本も見当たらず、すでに綿毛になっている。確か10月頃まで花が見られたと思ったが、これからポツリポツリと咲いていくのだろうか。継続して見続けていこうと思う。クワの実が黒く熟しておいしい。丸石河原には、巣からカラスを必死で追い払うイカルチドリの両親の姿があった。観察できた野鳥は、マガモ(御)、カルガモ、キジ(声:河)、イカルチドリ(河)、コゲラ、ツバメ、イワツバメ、セグロセキレイ、キセキレイ(御)、ヒヨドリ(御)、ウグイス(声:御)、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、シジュウカラ(御)、メジロ(御)、ハシブトガラス。

※マガモではなく、アヒルでした。