多摩川散策日記2001年4月)

文:上田大志

 

 

4月1日 大栗川合流点〜関戸橋(33〜35km付近/右岸)

中河原に所用があったので、帰りに関戸橋を渡って右岸の多摩川観察。関戸橋周辺で行われていた一連の工事はようやく終わり、重機類や柵がなくなった。石河原は人工的な眺めだが、植生の回復や出水とともに、風景に馴染んでくるだろう。昨日の雪で、奥多摩の山々は薄化粧をしている。土手は定期的に草刈りがされているが、カワラサイコは今のところ順調に育っているようで、花が咲くのが楽しみだ。堤防の先端付近では、今日も多くのバードウォッチャーが熱心にスコープを覗き込んでいる。土手下では、親子連れや若者が数組バーベキューをしている。また、モトクロス2台、サバイバルゲーム5人、ラジコン飛行機1機が出現。本流の一部は右に分かれ、河川敷の草原の中を通って、ワンド状になって大栗川に流れ込んでいる。水は澄んでいて、伏流水も含んでいるようだ。ヨシ原にオオヨシキリが帰ってきた。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、キジ(声)、コジュケイ(声)、トビ、セグロカモメ、キジバト、ドバト、ヒバリ、イワツバメ、ハクセキレイ、キセキレイ、ウグイス(声)、オオヨシキリ(声)、ツグミ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシボソガラス、ハシブトガラス。

※オオヨシキリはまだ早い。モズの声ではないか、との意見もいただいています。

 

4月7日 万世橋下流〜寸庭橋(76〜78km付近)

晴れて暖かくなったが、春霞がたち、遠くの景色はぼやけている。万世橋下の谷は深く、水面まで52mもあるという。古里駅から橋を渡り、右岸の人家の脇を通って河原に下りる。畑で家の人が作業していたので一声かける。ここも高校時代からお気に入りのルートで、この辺では数少ない石河原が広がっている。川岸の岩場のあちこちに、真っ白なユキヤナギが咲き乱れ、タチツボスミレも咲き出した。キセキレイが盛んに囀っている。ここは7月のヤマユリも楽しみなところで、強い芳香が辺り一面に漂い、遠くからでもそれとわかる。入川谷上流の採石場は、南側の山肌がすっかり削られて無残な姿だ。特に数年前に青梅線の貨物列車が廃止されてからは、日原で採掘している石灰石までがすべてダンプで運ばれるようになった。街道を通るダンプの数は異常で、歩道があっても、とても歩く気にはならない。観察できた野鳥は、カルガモ、コジュケイ(声)、キジバト、アマツバメ、ヤマセミ、コゲラ、イワツバメ、ハクセキレイ、キセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス(声)、スズメ、カワラヒワ、シジュウカラ、カケス、ハシボソガラス。

 

4月8日 一之瀬川(124〜126km付近)/多摩川源流研究所設立記念式典

 午後からは小菅村で「多摩川源流研究所」の設立式があったので、朝から一之瀬川に出掛けてイワナ釣り。今年はまだ雪が深く、犬切峠から先の林道はあちこちでアイスバーン状態。作場平から山に入ると、平均して30cmくらいの積雪がある。15分くらい登った丸木橋から釣り始める。しばらくして小さな落ち込みでイワナがヒットした。20cmに満たない小型だが、今シーズン初めての魚はやはりうれしい。その後は23.5cmを筆頭に5匹のイワナが次々とヒットし、3時間ほどの短時間の釣りだったが大満足。アタリがあったのは、すべて流れの緩やかな落ち込みで、やはり魚はまだ瀬には出ていない。また、全体に模様が薄く、着色斑点の色が濃い個体が、ここの在来種のように思えるのだが、どうであろうか。確認できた野鳥は、キジバト、ウグイス(声)、エナガ、ホオジロ、シジュウカラ、カケスのみ。僕は山の鳥をほとんど知らず、釣りをしながら声を聞いただけでは、それが誰なのかほとんどわからない。これから少しずつ覚えていきたい。

 源流研究所設立記念式典は、小菅村の中央公民館で行われ、ぱっと見渡しただけでも150人以上が参加。山深い村によくもこれだけの人が集まったものだ。これも中村さんをはじめ、小菅村や設立に尽力されてきた方々と、下流に住む市民の源流への熱い想いの表れだろう。各地の川で活動されている方々も応援に駆けつけてくださった。「上下流の交流を促進しよう」、「21世紀は源流の時代にしよう」、「源流どうしで交流をしよう」などの提案が出され、式は大いに盛り上がった。これからどれだけ人を引き付ける活動ができるか、本当に大変なことだと思うが、まずは大変喜ばしい日である。

 

4月12日 宿河原堰付近(22km付近/右岸)

毎年桜の散る頃になると、一気に季節が進む。薄緑のコナラの芽吹きが輝いている。夕方から二ヶ領せせらぎ館で、多摩川エコミュージアム推進委員会の設立総会があった。2年間活動してきた二ヶ領せせらぎ館運営委員会は、今後多摩川エコミュージアム推進委員会に発展継承される。多摩川流域のいい川づくりのために、館と委員会のより一層の発展を期待したい。さて、少し早めについたので、30分ほど宿河原堰付近の観察をした。堰下では、早瀬のあちこちで、マルタウグイの産卵が続いている。砂礫地には、コメツブツメクサの黄色い花。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、ハシビロガモ、トビ、イソシギ、ウミネコ、ドバト、ヒメアマツバメ、ツバメ、ハクセキレイ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、ハシブトガラス。

 

4月13日 鶴見

多摩川流域懇談会の進め方について京浜工事事務所で打合せ。桃色の八重桜(関山?)が満開になり、オオムラサキ(ツツジ)も咲き出した。日なたでは、早くも綿毛になっているタンポポが目立つ。

 

4月14日 多摩川原橋〜是政橋(28〜31km付近/右岸)

土手に密生しているカラスノエンドウの花が見頃。右岸30.〜31km付近に丸石河原が広がる。99年の洪水の影響を受けているようで、これからどんな植物が回復してくるのか興味深い。セッカの囀りも響くが、ラジコンヘリの音にかき消されてしまった。稲城大橋下流のハリエンジュ林がうっすらと芽吹き始めた。多摩川原橋上流の“緑地公園”は、整備された野球場やグラウンドが続くだけでつまらない。橋も工事が行われており、埃っぽい。目に付いた花は、トキワハゼ、カワヂシャ、キュウリグサ、カラスノエンドウ、ムラサキケマン、セリバヒエンソウ。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、キジ、トビ、コチドリ、イソシギ、ドバト、カワセミ、ヒバリ、ツバメ、イワツバメ、ハクセキレイ、セッカ、ツグミ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシブトガラス。

 

4月15日 河口〜六郷橋(0〜6km付近)

多摩川の自然を守る会の自然観察会。今年度のテーマは「多摩川を歩く」。1回目の今日は最下流部の観察。河口の干潟に来るのは、ほぼ1年ぶりで新鮮だった。京浜工業地帯の中に、こんな素晴らしい空間が残されているとは驚きだ。親子連れがカニと戯れている。

大小のカニ数種、ヤマトシジミを見かける。植物は、オオジシバリ、ハマダイコン、カジイチゴの花。ハマヒルガオの株も。河口域は自然豊かな場所と言えるだろうが、タンポポは西洋産のものばかり。観察できた野鳥は、カンムリカイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、マガモ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、キンクロハジロ、スズガモ、バン、コチドリ、タシギ、セイタカシギ、セグロカモメ、ウミネコ、ユリカモメ、キジバト、ドバト、イワツバメ、ハクセキレイ、オオヨシキリ(声)、ツグミ、オオジュリン、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、ハシブトガラス。

※一緒に歩いた方から、カントウタンポポの群落も見つけたとの情報をいただきました。

 

4月16日 東久留米/多摩川市民フォーラム「いきもの・学習」研究会

僕の家の前に広がる芝生には、スミレ、セイヨウタンポポ、キランソウが咲き、カワラヒワがビーンと鳴いている。

研究会では、外来動植物の問題と対策についての議論を中心に、市民行動計画(案)の内容チェックもした。

 

4月19日 韓国よりテレビ取材

 韓国のTBCテレビが、はるばる多摩川の取材にいらした。テレビ局で川をきれいにしようというキャンペーンを行っており、番組で「汚れていた多摩川が、市民や行政の努力によってよみがえり、人々に親しまれる川になった」背景を報道したいとのことである。僕は現地ガイドとして、羽村取水堰、玉川上水、御岳渓谷、多摩川ふれあい教室、北多摩一号下水処理場などを案内した。多摩川の魅力を充分に伝えることができるか不安だったが、満足していただけてほっとした。カメラマンが、みんなが早く次に行こうと声をかけても、ひとり汗を流しながら黙々と撮影し続けていたのが印象的だった。

 

4月20日 登戸周辺

二ヶ領せせらぎ館周辺の地域や環境についてもっと知ろうと、多摩川センターのスタッフでまち(丘陵?)歩きに出掛けた。街の雑踏から一歩林の中に入ると急に静かになり、まるで別世界だ。枡形山の展望台には、府中市第一小学校の6年生が遠足で来ていた。この後、多摩川の河原で化石探しもすると聞き、うれしい。生田緑地はコナラを中心にすばらしい雑木林が広がっている。シャガの花が多い。ほとんどがカントウタンポポ。ケブカツルカコソウのような青紫の花、チゴユリの花も。長尾神社の境内で弁当を広げ、午後は丘陵から平野に下りる。この辺の二ヶ領用水(新川)は、典型的なコンクリート三面護岸の川で、水面までの高さがかなりある。自転車などが捨てられ、緑はほとんどなく、目を覆いたくなる。しかし、周辺には用水路跡と思われる暗渠や道路が数多く見られ、かつてこの一帯に水田が広がり、水路が網目のように通っていたことがよくわかる。ごく最近まで使っていたらしい田んぼも見つけた。田園風景の再現とはいかないまでも、地域の財産として二ヶ領用水を少しでも良くしたいものだ。一方、宿河原堰からの流れは、東名高速の手前まで2km近く親水整備がされている。桜並木が続き、市の緑化センターなどもある散歩道で、流れにはオイカワなどの小魚が多数群れている。ただ、多摩沿線道路を横切るところは歩行者にとって大変危険なので、至急対策が必要だ。せせらぎ館が今日の終点。対岸では先ほどの小学生たちが、決壊の碑を熱心に見学していた。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、アオサギ、マガモ(雑種?)、カルガモ、コジュケイ(声)、セグロカモメ、キジバト、アオゲラ、コゲラ、ヒバリ、ツバメ、ハクセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス(声)、セッカ、ツグミ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシブトガラス。

※ケブカツルカコソウ?の写真を見た方が、園芸種のアジュガ(アメリカジュウニヒトエ)だと教えてくださいました。

※マガモ(雑種?)はアヒルです。

 

4月22日 白丸湖(81km付近)/下奥多摩橋(59km付近)

数馬峡橋は、以前は緑の湖面と周囲の山に溶け込んだ風情のある釣り橋だったが、8年ほど前にコンクリートで掛け替えられてから風景は台無し。ヤマセミのペアが鳴き交わしている。カワセミがダイビングして小魚を捕らえる瞬間に出会えた。そのまま飲み込むのかと思って見ていると、なんと別のカワセミが飛んできて、ねだるような仕草をして嘴で受け取った。灰色のスマートな水鳥が1羽いたが、種類はわからなかった。ヤマブキの黄色が水面に映え美しい。ミヤマキケマン、ケマルバスミレ(写真ができあがってわかった)、クサイチゴの花。フジの花はまだ咲いていない。

帰りがけ、東青梅から下奥多摩橋へ。ここでもヤマセミを目撃。対岸の崖には良い巣穴ができそうだ。林の中は一面カキドオシの薄紫。クサノオウの黄色がアクセントを加えている。カワラニガナはまだ5cmくらいの高さだが、もうたくさんの花をつけていた。観察できた野鳥は、カワウ、カルガモ、コジュケイ(白)、ヤマセミ、カワセミ(白)、コゲラ、ツバメ、イワツバメ、キセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス、ホオジロ、カワラヒワ、シジュウカラ、ハシブトガラス。

 

4月24日 多摩川市民フォーラム運営委員会

 5月26日に開催される第9回多摩川流域セミナーでは、この3月に策定された「多摩川水系河川整備計画」とともに、多摩川市民フォーラムが取り組んできた「市民行動計画」も発表される。それに向けて内容と作業分担を確認した。また、市民行動計画はマップ型の普及版も作成している。その作業経過を確認し、今後の方針について話し合った。河原ではコマツヨイグサが咲き出した。

 

4月28日 秋川下流(合流点〜東秋川橋)・睦橋上下流(48〜50km付近/右岸)

大型連休の初日は朝から晴れ渡り、初夏を思わせる陽気。東秋川橋周辺では、大規模な宅地造成工事が進行中。この辺ではいつも何らかの工事が行われている。今月は雨が非常に少なく、秋川はかなり減水している。堰左岸に設けられた魚道にはまったく水が流れていない。漁協の方がいたので話を聞くと、アユをたくさん放流したので、カワウ対策にも頭を悩ませているとの事。堰下流の伏流水ではクレソンが花盛り。右岸一帯にはのどかな田園風景が広がり、レンゲソウが田植え前の田をピンクに染めている。合流点上流左岸は、広いオギ原とオニグルミの林や小川などのあるおもしろい場所だが、一角にラジコン基地がつくられているのが残念。多摩川の水辺に出ると丸石河原が広がり、対岸はバーベキューをする人で賑わっている。ハリエンジュの梢でフィーフィーと囀っているのはヒレンジャクだ。睦橋をくぐって五日市線の鉄橋まで、自然の様々な表情を味わいながら、気持ちの良い散策を楽しむことができた。目に付いた植物は、カワラヨモギ、カワラニガナ、ムラサキサギゴケ、サギゴケ、カワヂシャ、レンゲソウ、カワラサイコ、オヘビイチゴ、クレソン、クサノオウ。観察できた野鳥は、カイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、キジ、コジュケイ(声)、トビ、キジバト、ドバト、ヒバリ、ツバメ、イワツバメ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、モズ、ヒレンジャク、ウグイス、オオヨシキリ、セッカ、ツグミ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシボソガラス。

 

4月29日 大丸用水堰上流(32〜33km付近/左岸)

今日は多摩川ふれあい教室勤務。昭島市立玉川小学校の野口先生が来訪。今年度1年間を通して多摩川をテーマに総合学習を進めていきたいというお話しを伺い、多摩川センターの役割やお手伝いできることについて相談した。野球場前ハリエンジュ林付近の河川敷は、連休中ということもあり、バーベキューをする家族連れなどで大変な人出。先月からの減水で大丸用水堰上流に現れた中州が緑色に染まってきた。水際に草が茂っている浅瀬では、コイがバシャンバシャンと大きな水音をたてて産卵している。目に付いた花は、カタバミとアカバナユウゲショウ。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、カルガモ、キジ(声)、コジュケイ(声)、トビ、キジバト、ドバト、カワセミ、ヒバリ、ツバメ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス(声)、オオヨシキリ(声)、セッカ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシボソガラス、ハシブトガラス。