多摩川散策日記(2001年3月)
文:上田大志
*3月3日 二子橋〜宿河原堰(18〜22km付近/右岸)
3月に入り、多摩地区の梅は満開、河原にはオオイヌノフグリの青に加えて、ヒメオドリコソウやホトケノザのピンクの花も目立つようになってきた。しかし、今日は雲が厚く垂れこめ肌寒い。宿河原堰下流の石積み護岸がやっと少し風景に馴染んできた。付近には多くの種類のカモがいる。500mほど下流に行くと石河原に伏流水が湧き出して流れができており、クレソンが青々と茂っている。一方河川敷にモトクロッサーが数人侵入していて気になる。その先の石河原は、何故かカラスの溜まり場となっている。白バイ練習所前の左岸は、98年の増水で、水際が遊歩道のところまで大きく洗掘された。今は蛇籠の護岸をつくり直している最中で、工事の様子がよくわかる。東名高速の下にも以前から湧水の流れがあり、100mほどで本川に合流している。こうした場所は、他と異なる動植物が見られ、観察会や子どもたちの水遊びの場としても大変貴重だと思う。余計な手を加えずにうまく付き合っていきたい。東名高速を過ぎると、宇奈根の森と呼ばれる河畔林があるものの、河川敷のほとんどはグラウンドやワイルドフラワーばかりでつまらない。パークゴルフ場まで造成中である。水際を下流に歩いていくと石河原やヨシ原が細く帯状に続いている。平瀬川との合流点では、カンムリカイツブリを見ることができた。新二子橋付近から下流は、緊急河川敷道路も整備されていて、より人工的な景観になる。二子橋を渡って、帰りがけに兵庫島に寄った。兵庫橋ではカワセミを見ることができた。ここでは何回も見かけるので、近くに巣があるのかもしれない。観察できた野鳥は、カンムリカイツブリ、カワウ、コサギ、アオサギ、マガモ、コガモ、カルガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、ハシビロガモ、キンクロハジロ、イソシギ、セグロカモメ、ウミネコ、ユリカモメ、キジバト、ドバト、ヒメアマツバメ、カワセミ、ハクセキレイ、キセキレイ、タヒバリ、ツグミ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、ハシブトガラス。
*3月4日 秋川(秋川橋〜小和田橋/左岸)
朝起きたらひどい雨降りだったが、午後からは日が差してきたので、秋川へ出掛けた。川は午前中の雨の影響か、かなり濁っている。5年前に来たときには、小和田橋下流の小庄用水堰に、とても魚がのぼれなさそうな魚道がつけられていたので、どうなっているか気になっていた。行ってみると、ちょうど東京都労働経済局による魚道整備工事が行われている。今月いっぱいで完成することになっているので、また来てみたい。左岸の土手沿いには桜の古木が20本ほどあり、花の時期が楽しみだ。右岸の水際(崖)は以前から護岸工事をしていたが、今日も重機が入っている。少し下流の右岸の河原は、秋川橋河川公園というバーベキューランドになっていて、夏は大変な賑わいである。さらに、現在「交流のかけ橋」の架橋工事が行われており、人工的な景観に拍車をかけている。小和田橋上流の落ち着いた眺めとは対照的である。左岸側は秋川橋の上流200mほどのところに崖と小川があって、直進はできない。今日はあまり時間がないので切り上げたが、景観、利用、生物などについて、いろいろ考えさせてくれる場所である。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、マガモ、カルガモ、トビ、イカルチドリ、キジバト、カワセミ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ツグミ、ホオジロ、カシラダカ、スズメ、カワラヒワ、ハシブトガラス。
*3月5日 多摩川市民フォーラム第3「いきもの・学習」研究会
研究会の4月以降の取り組みについて話し合われ、勉強会各回ごとにテーマを決めて議論しようということになった。
*3月6日 大丸用水堰上流(32〜33km付近/左岸)
大阪府池田市の中学校から、修学旅行で多摩川に来たいので場所やメニューなどのコーディネートをして欲しい、という依頼が多摩川センターに入った。先生が下見に見えたので、多摩川ふれあい教室と周辺の多摩川を案内しながらアイデアを出し合った。子どもたちの興味に合わせてテーマごとに班を分け、実験や観察をしてはどうでしょうかと提案した。その後、大丸用水堰付近で観察をしていると、コイ釣りをしている人が、白くて獰猛な鳥がいて、サギを襲って食べたりしていると言う。双眼鏡で見ると、カラスの群れの中に1羽、オオタカが枝に止まっていた。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、カルガモ、ヒドリガモ、オオタカ、ユリカモメ、セグロセキレイ、ツグミ、ホオジロ、スズメ、ハシブトガラス。
*3月10日 琵琶湖(大津市)
瀬田川の改修100周年を記念して、国土交通省琵琶湖工事事務所が呼びかけて結成した市民ネットワーク「リバプレ隊」の総括集会が、琵琶湖のほとり大津市で行われた。僕は多摩川での、市民と行政のパートナーシップによる川づくりの取り組みを紹介するために参加した。少し早めに着いたので、ちょっと琵琶湖を見学してきた。市街地沿いのためか、親水公園や遊歩道が整備され、駐車場や自然石護岸なども目立つ。今回訪れた大津市は琵琶湖の南端にあたるが、東西南北、それぞれに湖岸の風景はまったく異なっている。前回琵琶湖を訪れたのは8年前のことで、沖の島に渡り、十日間ほどバスフィッシングに明け暮れた。バスが在来魚に及ぼす影響については、当時から深刻な問題となっており、地元の漁民が地引網でバスの駆除をするところに出くわし、小学校の給食では「ビワバスのソテー」なるものを食べているという話を聞いたものである。さてシンポジウムは、参加者(市民)一人一人がとても個性的で、素朴な疑問や意見がどんどん出てくる。「学ぶ」、「実践する」、「広報する」の3つのテーマで討論が進められたが、みんなやる気は充分で、今後のリバプレ隊の活動には大きな期待が持てる。僕も様々な質問や意見をいただいたが、中でも「多摩川の住民は自分の命よりも川の環境を選ぶのか?」という質問が印象に残った。瀬田川は琵琶湖から流れ出す唯一の河川であり、古くから治水が大きな課題であったと聞く。身近な自然を守ろうという多摩川の市民活動との違いについて考えさせられた。
*3月16日 多摩川市民フォーラム第7回セミナー
多摩川市民フォーラムがつくっている「市民行動計画」は、3月中にまとめることを目指しており、それに向けて内容確認と意見交換を行った。市民行動計画(案)は、流域行動計画に源流や支川の提案が加わり、研究会で議論してきたテーマ別行動計画もかなり充実してきた。この日はさらに加筆・修正をすべき点について具体的な議論ができた。また今後の多摩川市民フォーラムの活動に関しては、テーマ別研究会を継続・発展させよう、多摩川流域の市民団体が実施している自然観察会に積極的に参加しよう、などの意見が出された。
*3月18日 釜の淵公園付近(60〜61km付近/右岸)/和田橋上流(64km付近/右岸)
2月に水辺で見つけた柳が見頃だと思い出掛けた。渓流釣りが解禁になり、青梅付近の多摩川は朝からかなりの人出である。鮎美橋下の二次流路跡には、伏流水が湧き出して流れができているが、水量は少なく、水がたまっているので、あまりきれいではない。本流の水質は2月に来たときよりもかなり良くなっているが、郷土博物館横の排水路から非常に汚れた水が流れ込んでいて気になる。河原に下りると、ちょうどネコヤナギの可愛らしい花が盛りだった。丸石河原に紫の小さな花がたくさんあり、一瞬在来のイヌノフグリかと思ったが、葉の鋸歯の数は多く、オオイヌノフグリであった。雨上がりで、花がまだ閉じていたので見間違ったようである。ほかに目立った植物はフキノトウ、キブシの花房。
和田橋の300mほど上流(右岸)には、人家の脇から河原に下りられる小道があり、高校時代からのお気に入りである。浅瀬では、カワウや鷺が小魚を狙っている。日が差してきて、暖かくなってきた。今日は吉野梅郷に出掛けた人も多いことだろう。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、コジュケイ(声)、キジバト、コゲラ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、ヒヨドリ、ツグミ、ジョウビタキ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、シジュウカラ、ハシボソガラス。
*3月22日 京王線鉄橋〜浅川合流点上流(35〜37km付近)
明治大学の倉本先生のカワラノギク種まきの手伝いに行く。よく晴れて暖かくなり、柳の芽吹きが眩しい。ヒバリがあちこちから飛び立ち、とても賑やかだ。京王線鉄橋上流右岸の護岸(根固め?)工事は終了したようだが、対岸の関戸橋付近はまだ施工中である。一の宮公園前の土手に、新たにスロープを付ける工事をしている。府中四谷橋の手前にあるワンドには伏流水が湧いているようで、水はとても澄んでいる。オオフサモがびっしりと繁茂しているが、地元の子どもたちが靴を脱いで水に入り、魚とりに夢中になっている。僕らが小さい頃もこうした「秘密の場所」を見つけては遊んでいた。守っていきたい場所だ。浅川下流部の「災害復旧」工事はまだ進行中で、根川合流点付近で重機がうごめき、茶色く濁った水が府中四谷橋付近まで流れてきている。橋を渡って浅川合流点の対岸に出る。カワラノギクの発芽率は数パーセントということで、昨年まいたところも見せていただいたが、丈夫に育っているのは数えるくらいであった。種まきの手順は、草と土を除いた丸石河原に石を増やし、大き目の丸石の横に砂と混ぜた種を置いていって、最後に水をかけてなじませる。初めて知ることばかりで、大変貴重な体験をさせていただいた。本当に芽が出るのかとても心配だ。ハクモクレンが満開、ウグイスの囀りも。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、カルガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、コジュケイ(声)、トビ、チョウゲンボウ、ユリカモメ、キジバト、ヒバリ、イワツバメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、ツグミ、カシラダカ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、ハシブトガラス。
*3月24日 大丸用水堰上流(32〜33km付近/左岸)
一気に春めいてきて、昨日咲き始めた桜が一日でかなり開いた。コブシの花は五部咲きといったところ。今日は多摩川ふれあい教室勤務なので、仕事の合間の昼休みで多摩川観察。大丸用水堰は、中央部のゲート5門中3門を開けて流している(先日までは5門とも閉まっていた)。そのため堰の上流側はぐっと水が減って浅くなり、陸化した部分も多く見られる。堰の際では、水に入って遊んでいる親子連れも目立った。観察できた野鳥は、コサギ、コガモ、カルガモ、キジバト、ドバト、カワセミ、コゲラ、ヒバリ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス(声)、ツグミ、スズメ、ムクドリ、ハシブトガラス。
*3月25日 狛江水辺の楽校〜五本松(21〜24km付近/左岸)
多摩川の自然を守る会の自然観察会。水辺の楽校の下流にある早瀬では、マルタウグイが産卵の真っ最中だ。ウグイの産卵を見たことはあるが、マルタウグイは初めてである。50cmほどの大物が何百とひしめきあって産卵する光景は、コイの産卵とはまた違った迫力がある。水辺の楽校付近は、ゴミがなくなってきれいになった。また、土手から川に下りるスロープが工事中である。車椅子でも水辺に近づけるようにという配慮だと思うが、多摩川中がスロープやトイレだらけになってしまったらどうであろうか。多摩水道橋は4車線化工事が終了し、ちょうど記念イベントが行われている。狛江と対岸川崎との交流をテーマとしているようで、橋周辺は人出がすごい。けやき出版の出店があったので、多摩川絵図を買う。五本松前で見かけたダイサギは、すでに夏羽で、目の周りが鮮やかな青緑色になっていた。午後は西河原公園前の公民館で、総会とビデオ鑑賞をした。観察できた野鳥は、カイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、ハシビロガモ、コチドリ、イソシギ、セグロカモメ、ユリカモメ、キジバト、ドバト、カワセミ、ヒバリ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、ウグイス(声)、ツグミ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシブトガラス。
*3月26日 多摩川流域懇談会第17回運営委員会
宿河原堰付近の桜は5〜6部咲きになり、二ヶ領用水の水面に映って美しい。多摩川水系河川整備計画は間もなく策定されるが、多摩川流域懇談会の今後の活動について、活発に意見交換がされた。計画にうたわれている、水流実態解明プロジェクトやリバーミュージアムを実現していくためには、テーマ部会や、プロジェクトチームの設置が不可欠である。計画の実施状況は、流域セミナーなどできちんと公開して、議論していくことが重要である。市民と行政とが多摩川を共に歩き学ぶフィールドワークを続けていきたい、等。多摩川流域懇談会の目的は、河川整備計画づくりではなく、様々な立場の人々のパートナーシップによって、多摩川流域のいい川づくりを実現していくことにある。今後の活動の鍵は、その精神のもとに、どれだけ多くの人が行動し、盛り上げていけるかにかかっている。
*3月29日 府中
各地から桜満開との報せが届くが、今日は非常に寒く、冷たい雨の一日である。府中の桜通の桜は、間もなく満開になろうというところで、花を散す無常の雨にはならなかったようだ。
*3月31日 中央線鉄橋〜谷地川浄化施設上流(41〜43km付近/右岸)
桜の咲く頃は寒暖の差が激しく、またしても非常に寒い一日となる。昼過ぎには冷たい雨がなんと雪に変わった。そういえば1988年にも桜が満開のときに雪が降ったことがある。多摩川に出ると、春の吹雪の中を、渡ってきたばかりのイワツバメが川面を飛び交っているが寒そうだ。谷地川合流点上流には、植生豊かな原野が広がり、一帯は生態系保持空間に指定されている。その原野を横切って谷地川に出る途中、キジのオスに出会う。すぐ近くだったが、あわてる様子もなく悠然と歩いていて、その鮮やかな模様を存分に楽しませてくれた。タチヤナギの芽吹きと、カキドオシの花も目を引く。僕の大好きな「ワンド」は、ぱっと見た限りでは、昨年から大きな変化はなさそうだ。形状からして多摩川の旧河道だと思うが、本流とは増水時以外は分離している。もう一方は谷地川に流れ込むが、その水量の多さからすると、ワンド内には伏流水が湧いているのだろう。この辺の河川敷には伏流水が多く見られ、冬の冷え込んだ早朝にはもやが立ち昇ることがある。少し上流の多摩大橋には、それを狙って多くのカメラマンが集まる。谷地川の水質は決して良くないが、多摩川との合流点から浄化施設付近までは、くねくねと曲がって流れ、ワンドあり、河原あり、中州あり、実に自然豊かである。しかし、浄化施設から上流の東京都管理区間では、コンクリート護岸のまっすぐでつまらない川になってしまう。今日は天候が悪くて、さっと歩いて切り上げたが、この場所には自然が多く残されており、いろんな発見がありそうだ。晴れて暖かな日にゆっくりと歩いてみたい。観察できた野鳥は、カワウ、アオサギ、コガモ、カルガモ、キジ、セグロカモメ、カワセミ、コゲラ(声)、イワツバメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、モズ、ウグイス(声)、ツグミ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、シジュウカラ、ハシボソガラス、ハシブトガラス。