多摩川散策日記2003年7月)

文:上田大志

 

 

7月1日 宿河原堰

曇りときどき雨。カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、イソシギ、コアジサシ、ツバメ、ドバト。

 

7月3日 野川(くじら山下原っぱ周辺)

曇りときどき晴れ。野川流域連絡会と小金井市立南小学校が連携して「野川のちびっ子先生あつまれ!〜小学生による野川の通信簿」が実現した。4年生81人が4つの班に分かれ、水生生物、水量・水質、野鳥、植物の4テーマの観察をローテーションしながら体験した。

南小学校の目の前には野川が流れ、「くじら山下原っぱ」が広がっている。子どもたちは小学生時代のことを一生忘れないだろう。

 

7月5日 大丸用水堰上流

晴れ、多摩川ふれあい教室へ。読売新聞社前の護岸工事がようやく終わった。土手には草刈りを免れたノカンゾウとヤブカンゾウの花が咲き、オギ原ではキリギリス、サクラ桜並木ではニイニイゼミが鳴きはじめた。カワウ、ササゴイ、コサギ、カルガモ、キジ、コジュケイ、コゲラ、ツバメ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス、オオヨシキリ、セッカ、スズメ、シジュウカラ、メジロ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ドバト、ガビチョウ。

 

7月6日 大丸用水堰

曇り、多摩川ふれあい教室へ。

中州の草陰からカモの親子が2組出てきた。一方の家族を見てびっくり、北国へ旅立ったはずのマガモではないか。野生化したアイガモなのかもしれないが、本州で繁殖するマガモもいると聞いたことがある。

堰下の平瀬で“ガサガサ”。ゲットしたのは、アブラハヤ、タモロコ、モツゴ、ギンブナ、ドジョウ、シマドジョウ、ナマズ、ウキゴリ。

観察できた野鳥は、カワウ、ササゴイ、コサギ、ダイサギ、マガモ、カルガモ、イソシギ、ツバメ、ハクセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス、セッカ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、ハシボソガラス、ハシブトガラス。

 

7月12日 大丸用水堰上流

曇りときどき晴れ、多摩川ふれあい教室へ。カワウ、ササゴイ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、イソシギ、キジバト、コゲラ、ウグイス、セッカ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、シジュウカラ、ハシブトガラス、ドバト。

 

7月13日 大丸用水堰上流

曇りときどき雨、多摩川ふれあい教室へ。

今日は定例自然観察会「多摩川の魚を観察しよう!」。堰下の平瀬で“ガサガサ”の予定だったが、昨晩上流でスコールがあったとのことで、本流は増水して流れも速く、子どもたちが水遊びを楽しめるような状態ではない。そこで「一本クルミ」前の石河原に湧き出している伏流水の水たまりで遊ぶことにした。朝から雨が降ったり止んだりの天気で、それも微妙だったが…。

幸い雨は昼前に上がり、よろこび勇んで多摩川へ。本流は濁っているが、水たまりは澄んでいる。あちこちからしみ出した水が集まって緩やかに流れ出し、“ワンド”となって本流につながっている。ゲットしたのはオイカワ、ムギツク、モツゴ、コイ、ギンブナ、ドジョウ、シマドジョウ、ナマズ、オオクチバスなどなど。

“ワンド”は魚たちにとって大水のときの避難場所、稚魚の生育場所などとして貴重な空間。「よみうりワンド」は流失してしまったが、この場所はそれによって生まれた。自然とはうまくできているものである。

 

7月15日 大丸用水堰上流

曇り。夏の生きものは生命力に溢れている。先月刈り取られた土手の緑がいっせいに伸びだし、丈は低いながら再びヒメジョオンが満開に。草刈り直後は壊滅状態だったレンリソウも少しずつ芽吹いてきたが、花が終わってさあこれからというときに刈られた影響は大きいのではないだろうか。草刈りの時期とその回数など、土手の自然を守るためには、どんな管理をしていくのが望ましいのだろうか。護岸工事の終わった河川敷。早くこの荒地が緑に覆われてほしい。カワウ、ササゴイ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、コジュケイ、イカルチドリ、イソシギ、キジバト、ツバメ、ウグイス、セッカ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ハシブトガラス、ドバト、ガビチョウ。

 

7月16日 上河原堰上流

曇り。夕方、柴田さんとツバメの「集団ねぐら」を探しに行く。

昨年12月、多摩川をフィールドとしている市民団体や個人が集まり、多摩川流域のツバメの生態を解明し、多摩川の河川環境の保全を目指すことを目的として「多摩川流域ツバメ集団ねぐら調査連絡会」が設立された。現在、ツバメの集団ねぐらがどこにあるかを探す調査を行っており、私の所属する多摩川の自然を守る会では、調布、狛江市の多摩川左岸を調査している。

矢野口から多摩川原橋を渡り、左岸を下流に向かう。20日に行われる花火大会の準備が始まり、グラウンドは工事用の柵で仕切られ、堤防には臨時スロープが設置されている。付近の河川敷はいつも人通りの多いところだが、上河原堰上流にいくつかある中州にはヨシがこんもりと茂り、静まり返っている。ひょっとしたらここがねぐらになっているかもしれないと思い、夕暮れを待っていると、間もなく四方からツバメが集まってきて、沖合の中州付近で乱舞しだした。双眼鏡を覗くと、すでにヨシ原は鈴なりになっている。ツバメの数はどんどん増え、すっかり日が暮れて辺りが見えなくなるまでに、この中州には推定600〜700羽、少し下流の中州にも200羽ほどが塒入りするのを確認した。

 

7月18日 多摩水道橋上流

曇り、今日もツバメの「集団ねぐら」調査。狛江五本松の前にはオギとヨシがこんもりと茂った中州があり、ちょっと期待していたのだが、残念ながら空振りで、上空をアブラコウモリが群れで飛びまわっているだけ。この少し下流の水際は、オギとヨシが密生する低湿地になっていて、暗くなる寸前に40〜50羽ほどのツバメが飛び交っていたが、間もなく夕闇とともに見えなくなってしまった。ここに塒入りしたのか、それとも別の場所に飛んで行ったのか。ヨシ原に止まっている個体を見つけようと思ったのだが、窪地になっていて見づらいのだ。

 

7月19日 大丸用水堰上流/上河原堰付近

曇り、多摩川ふれあい教室へ。多摩川は水量豊富、澄んだ水がいきいきと流れている。「一本クルミ」前の伏流水と本流の水質を調べてみると、伏流水の水温は22.0℃、CODは1未満、本流の水温は20.0℃、CODは1程度。夏にも関わらず本流の方が2℃も低いのは、多量の雨水が流れ込んでいるためだろうか。ササゴイ、コサギ、カルガモ、トビ、キジバト、ハクセキレイ、ウグイス、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ハシボソガラス、ハシブトガラス。アブラゼミ初聞き。

夕方はツバメの「集団ねぐら」調査へ。今日は連絡会の一斉調査日になっているのだ。

いよいよ明日は調布の花火大会。高水敷および堤防一帯にテントや観覧席などがつくられ、土手には早くも場所取りのブルーシートが広げられている。そして驚いたことに、16日に600〜700羽ほどのツバメが塒入りした堰上流の中州のヨシ原は、その上流側半分が刈り倒されている。仕掛け花火でもやるらしく、左岸からその中州に向かって、川の中に砂利山がいくつもつくられている。また、堰下流の中州の地面は掘り返され、そこに花火の発射台となる筒が多数立てられている。ツバメにとっては、「朝家を出て仕事に行き、夕方疲れてみんなで帰ってくると、平和だった自分たちの町が突如として焦土と化し、侵略者によって占領され、その戦略基地になっていた」というわけだ。

さて調査の結果だが、堰上流の中州にやってきた数百羽のツバメたちはパニックになったようで、狭くなったヨシ原に止まるもすぐに飛び立ち、「ジュピチュピ…」と激しくわめきながら辺りを飛び回っていた。16日に200羽ほどが塒入りした、そのすぐ下流の中州のヨシ原には、暗くなるまでに250羽ほどが入り、市街地方向に戻って行く群れも確認したが、残りのツバメたちはどうしたのだろうか。

翌朝、対岸で調査していたグループの報告が届き、堰上流の中州に500羽ほどが塒入りするのを確認したという。ヨシが刈り倒された中州ではないと思う(こちら側からは1羽も確認できなかった)が、この後、残りのツバメたちも落ち着くことができたということだろうか。しかし、ホッとなどしていられない。“大空襲”は今夜であり、おそらくツバメたちはこの地を追われてしまうことだろう。問題はその後、戻って来るか否かである。とにかくここで調査を継続していくことにしよう。

 

7月20〜21日 御岳山〜大岳山〜海沢三滝

多摩川の自然を守る会「夏の水源合宿」だが、筆者は20日の夕方まで仕事(多摩川ふれあい教室)。16:00に教室を閉め、分倍河原から南武線、立川で青梅線に乗り換え、17:53御嶽発ケーブル下行最終バスに間に合う。

山上に上がると、辺りはもう薄暗くヒグラシの合唱が谷間に響く。御岳神社を過ぎると雨が降りはじめた。学生時代は星のわずかな光を頼りに(星空観察なので月のない日を選んだ)夜の山を歩き回ったものだが、今日は何も見えない。山道はぬかるんでおり、真っ暗なのでジグザグ登りの折り返しも分かりづらい。懐中電灯だけが頼りだ。芥場峠を過ぎるとちょっとした岩場も出てきたので、谷側に落ちないように慎重に通過する。立ち止まって汗を拭うと、あちこちで陸生蛍が光っているのに気づく。やがて左手からボイラーの音が聞こえてきた。20:30大岳山荘着。ガラガラと扉を開けて中に入り、明かりの点いた土間に腰を下ろす。やがて現れた小屋の主人に一晩泊めてくれないかと頼む。2階に上がると、会のみんなはもう寝ていて、いびきがすごい。びしょびしょになったシャツを脱ぎ、布団にもぐりこむ。雨が激しくなってきた。

翌朝4:00。予定表では「大岳山頂往復」となっているが誰も起きてこない。雨が降っているからやめたんだろうと、ひとりで小屋の外へ。「キョキョキョ…」ヨタカが鳴いている。「ヒィー…」遠くでトラツグミも。少し明るくなりクロツグミが鳴きだした。雨は霧に変わった。小屋の前には展望デッキがある。霧に包まれた針葉樹林は幻想的だ。間もなくみんなが起きだしてきた。はじめて挨拶をかわす。やはり山頂へは昨日の夕方に行ってきてしまったとのこと。出発までにはまだたっぷりと時間があるので、ひとりで山頂へ。岩場の混じる急坂を一気に登って山頂に出る。東の空には晴れ間が覗き、西には御前山がどっしりと根を張っている。ところが小屋に戻ると間もなく雨が。7:30出発。来た道をゆっくりと下る。すっかり本降りになってしまった。御岳神社に到着。ここで2班に分かれ、健脚組は海沢三滝を見学して奥多摩まで歩こうとなっていたのだが、みんなすっかり弱気?になってしまい、篠リーダーと僕を残してケーブルで下山してしまった。

仕方なく二人で歩き出す。山道を快適に下って大楢峠へ。名前の由来になっている樹はミズナラではなくコナラの大木だった。海沢三滝の入り口は広場になっており、見物客の車が何台も停められ、バーベキューをしている人などもいたが、林に入ると心地良い。滝を巡る散策路は思いのほか険しかったが、三ツ釜の滝、ネジレの滝、大滝と個性的な三つの滝が続き、今度は晴れて暑い日に来てのんびりしてみたい。舗装された林道をだらだらと下って奥多摩駅へ。途中で土砂降りに遭う。川(海沢)がみるみる濁っていく。都の水産試験場を過ぎると急に青空が広がってきた。本当に久しぶりの陽射しだ。14:30奥多摩駅に到着。

観察した野鳥はアオバト、ホトトギス、ヨタカ、ミソサザイ、ウグイス、トラツグミ、クロツグミ、アカハラ、オオルリ、イカル、ヒガラ、コガラ、カケス、ガビチョウなど。

 

7月24日 大丸用水堰上流/上河原堰上流

曇り、多摩川ふれあい教室へ。カワウ、ササゴイ、コサギ、ダイサギ、マガモ、コジュケイ、キジバト、コゲラ、ヒバリ、ツバメ、セグロセキレイ、ウグイス、セッカ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、シジュウカラ、ハシブトガラス。ミンミンゼミ初聞き。

その後、ツバメのねぐら調査へ。20日の花火大会による影響が心配されたが、16日に200羽、19日に250羽ほどが塒入りした小さな中州のヨシ原には、19:00過ぎに何と800羽以上のツバメが塒入りした(柴田さんが確認)。筆者はそこから200mほど上流で観察し、やはり19:00過ぎに150羽ほどが塒入りするのを確認した。ツバメたちは花火大会後もこの地にとどまってくれたのだ。しかし、16日に600〜700羽が塒入りした中州には1羽も飛来せず。やはりヨシ原が刈られてしまったためだろうか。まずは一安心といったところだが、今後の経過を見守りたい。

 

7月26日 永田地区

曇りときどき晴れ。「カワラノギク・プロジェクト」の活動日。昨晩は70mm近い豪雨が降り、多摩川は増水している。実験区の開花株から飛ばされた種が下流の丸石河原で芽生え、10〜20cmほどに成長している。カワラバッタもたくさん飛んでいる。実験区内には足の踏み場もないほどのところもあって、秋になるのが楽しみだ。区内は先月、民間業者によって植生管理が行われ、メマツヨイグサなどが除去されたが、その後ヒメムカシヨモギやイタドリなどが伸びてきたので、それらを引き抜く。自生地は草に覆われつつあり、特に猛威を奮っているクズを刈り取る。この春に石を並べて種をまいたところは、実生が確認されていたのだが、その後何故かアリの都市と化し、残念ながら一本も見られない。

 

7月27日 大丸用水堰上流

曇りときどき晴れ、多摩川ふれあい教室へ。

多摩川はササ濁り。中州の草陰から現れたのは何とコガモ。色褪せた繁殖羽が痛々しい。きっと怪我でもして、みんなと一緒に北へ旅立つことができなかったのだろう。クスノキ並木をアオスジアゲハが乱れ飛ぶ。

夕方、ツバメのねぐらを探してみる。アブラコウモリの群れに交じって、ツバメたちが三々五々集まって来る。暗くなる寸前に堰上流の大きな中州の一画に100羽ほどが塒入りするのを確認したが、この周辺は広大なヨシ原など豊かな自然に恵まれた場所。近くにもっと大規模なねぐらがあることだろう。

カワウ、ゴイサギ、ササゴイ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、マガモ、コガモ(♂1)、カルガモ、コジュケイ、トビ、イカルチドリ、イソシギ、キジバト、ヒバリ、ツバメ、イワツバメ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス、セッカ、ホオジロ、スズメ、シジュウカラ、メジロ、ハシブトガラス、ガビチョウ。

 

7月29日 大丸用水堰付近/宿河原

曇り一時雨。八王子市の小中学校教員研修(参加者は30名ほど)。「地域の特色を活かした総合的な学習の時間…多摩川での学習」をテーマに、@多摩川で学習できる素材、A多摩川の魚・水生生物を使った活動、B多摩川の水質・構造物・川原の石など、C川で野外活動をする際の注意点、について室内講義と野外実習を行った(筆者は講師補助)。

“ガサガサ”は、大丸用水堰下流の平瀬で行った。魚:カワムツ、オイカワ、アブラハヤ、タモロコ、ムギツク、モツゴ、ギンブナ、ドジョウ、シマドジョウ、グッピー、ヨシノボリ。その他:スジエビ、コオニヤンマ、ヘビトンボ、ヒゲナガカワトビケラ、カワゲラの仲間など。

水質調査は、@“一本クルミ”前の伏流水、A本川(堰上流)、B本川(堰下流)、で行った。@水温:21.5℃、COD≒1ppm、クリーンメジャー>120cm。A水温:21.5℃、COD≒2ppm、クリーンメジャー>120cm。B水温:21.0℃、COD≒3ppm、クリーンメジャー≒115cm。

夕方からはせせらぎ館で会議。宿河原堰上空にハヤブサが現れる。明日は対岸の狛江で花火大会が行われる。

 

7月31日 浅川合流点上流

曇りときどき晴れ、蒸し暑い。ギンヤンマ池へ。梅雨が長引いているわりに水量は多くなく、水底には藻も発生している。ミクリの花と実がかわいい。僕にとって、ギンヤンマは夏休みの平和な一日の象徴だが、本人たちはそうでもないらしい。目の前を3匹のギンヤンマが飛び回っているが、それぞれがはっきりとしたなわばりを持っていて、他の個体(雄?)が入ってくると、猛然とダッシュして追い払う。それをずっと繰り返しているのだ。