多摩川散策日記2003年5月)

文:上田大志

 

 

5月3日 浅川合流点上流(37〜38km付近右岸)

晴れ、汗ばむ陽気。

「石田大橋」が開通した。橋を通る車はまだ疎らだが、日野バイパスの建設が進むにつれて増加することだろう。四谷本宿堰の改修工事が行われており、周囲にフェンスが張り巡らされている。土手下の沼は澄んでいるが、3月と比べてかなり浅くなっている。白い花が咲きはじめたハリエンジュ(ニセアカシア)林の中をコミスジが舞う。オオでもコでもメでもないただのマツヨイグサの花、ハナウドの花も。ホオジロがセンダイムシクイの声を真似ている。

カワウ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、キジ(多)、コジュケイ、キジバト、コゲラ、カワセミ、ヒバリ、ツバメ、イワツバメ、ハクセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス、オオヨシキリ、セッカ、ツグミ、ホオジロ(多)、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ(多)。

 

5月4日 大丸用水堰付近(32〜33km付近左岸)

晴れ、汗ばむ陽気。多摩川ふれあい教室へ。

郷土の森前のニセアカシア林は、予想どおり朝からすごい人出。テントを張って前日から泊り込んでいるキャンパーも目立つ。この時代、遠方に旅行などせずに身近な多摩川で連休を過ごす人も多いことだろう。護岸工事は一休みのようだが、流れは茶色くよどんだまま。土手ではカシャカシャ…とナキイナゴ。水際では外来のオオカワヂシャが在来のカワヂシャを圧倒しつつある。

カワウ、コサギ、ダイサギ、カルガモ、キジ、コジュケイ、トビ、コチドリ、イソシギ、キジバト、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス、オオヨシキリ、セッカ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ(多)、シジュウカラ、ハシブトガラス、ドバト。

今日の来室者は255人にも達した。

 

5月10日 府中市郷土の森

曇りときどき晴れ、多摩川ふれあい教室へ。植栽されたシランが満開。

カワウ、チョウゲンボウ、キジバト、コゲラ、ハクセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ。

 

5月11日 大丸用水堰上流(32〜33km付近左岸)

曇り。多摩川ふれあい教室へ。オニグルミの実がふくらみはじめた。

今日は定例自然観察会「多摩川の鳥を見に行こう!(夏鳥編)」。カワウ、白サギ類、カルガモなど、お馴染みの野鳥に加えて、冬枯れの多摩川を賑したカモ類、ツグミ、タカ類などに代ってやってきたツバメ、コアジサシ、オオヨシキリなどの夏鳥を探した。

緑一色に染まった郷土の森園内を観察しながら裏門から多摩川へ。遊歩道沿いに立てられた木の意見箱にはシジュウカラが巣をかけている。“ものさし鳥”の話をしたら、ムクドリを見た子が「スズメとハトの間くらいの大きさで黒っぽかったよ」と教えてくれた。

多摩川に出ると、カルガモのペアが何組も泳いでいる。やっと全員でゆっくり観察できる。コアジサシのダイビングに息をのむ。一瞬、カワセミが過る。カワウとハシブトガラス、コサギとダイサギ、ハクセキレイとセグロセキレイなどを見比べる。ニセアカシア林は相変わらずバーベキューランド状態で野鳥の姿はない。と、残飯を狙ってトビが現れた。間近で見るとなかなか迫力がある。耳を澄ましてみると、中州の方からオオヨシキリやセッカの声も聞こえてきた。

カワウ、コサギ、ダイサギ、カルガモ、キジ、コジュケイ、トビ、コチドリ、イソシギ、コアジサシ、キジバト、カワセミ、コゲラ、ツバメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス、オオヨシキリ、セッカ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、メジロ、オナガ、ハシブトガラス、ドバト、ガビチョウ。

 

5月17日 大丸用水堰上流(32km付近左岸)

曇り、肌寒い。多摩川ふれあい教室へ。

朝、30分ほど川原のごみ拾いをする。ニセアカシア林の中は比較的きれいだなと思ったら、水際にはビールの空き缶やビニール袋などが、これでもかとばかりに散乱していた。花火の燃えかすも目立ってきた。

ツルマンネングサとコゴメバオトギリが咲きはじめた。ササゴイがやってきた。

ササゴイ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、キジ、キジバト、ツバメ、イワツバメ、セグロセキレイ、ウグイス、オオヨシキリ、セッカ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、メジロ、ハシブトガラス、ドバト。

 

5月18日 浅川合流点上流(右岸)

曇り。多摩川の自然を守る会、定例自然観察会。今年度のテーマは「折々の多摩川〜定点観察」。浅川合流点上流と河口を交互に訪れる。

四谷本宿堰の改修工事が続いており、高水敷のグラウンドはそのブロック置き場。ハリエンジュの花は散り、代ってノイバラが満開に。高原を思わせるハナウドはまだ見頃。土手の石垣にはツルマンネングサがびっしり。普通のヒメジョオンとヘラバヒメジョオンを見比べる。最近増えているヘラオオバコとツボミオオバコ。コゴメバオトギリも目立ってきた。林に入ると甘い香りが漂う。振り向くとスイカズラがあちこちに。イボタノキも小さな白い花をたくさんつけている。銀色の綿毛に包まれたカワラヨモギ。来月にはカワラサイコが咲くだろう。この夏もカワラナデシコを見に来よう。復元活動に取り組んでいるカワラノギクも数株。しかし、3〜4年前に河原植物の大群落があった場所にその面影はない。土砂が堆積して石が埋もれてきたからだろうか。他の植物が繁茂しつつある。

オギが茂ってきたので、ヤブコギをして合流点へ。水際にはカワヂシャ、オオカワヂシャ、コマツヨイグサ、アカバナユウゲショウ、アメリカフウロ、ナガミヒナゲシ、ケキツネノボタン、ノミノフスマ、いろいろな園芸植物・・・と実にさまざまな花が咲いている。出水時に上流から種が流されてきたのだろう。

金色のニガナが緑の土手にアクセントを添えている。そしてコウゾリナ、ツリガネニンジン(葉)、ミヤコグサ、カスマグサ、レンリソウ(一部つぼみも)、ワレモコウ(葉)、ハタザオ、スイバなど、懐かしい野山の草花たちとの出会い。来月頃行われるであろう草刈りが心配だ。数少なくなった多摩川らしい土手を守るにはどうしたら良いだろうか。

 浅川合流点上流、ここはいつ来てもすばらしい自然を味わえる場所。ラジコン飛行機の“轟音”とサバイバルゲームの“銃声”さえなければ!今日も彼らが休憩しているわずかな時間を惜しんで大空高くヒバリが舞い上がり、梢でホオジロが歌っていた。

観察できた野鳥は、カワウ、ダイサギ、カルガモ、キジ、コチドリ、イソシギ、カワセミ、ヒバリ、ツバメ、ヒヨドリ、ウグイス、オオヨシキリ、セッカ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ。

 

5月21日 一之瀬高原

山道沿いのあちこちにスミレ(ふつうのタチツボスミレ?)の大群落を見る。トウゴクミツバツツジが咲きはじめた。純白のオオカメノキの花も美しい。

ウグイス、メボソムシクイ、エゾムシクイ、センダイムシクイの四重奏。「オー、オアオー・・・」新緑の森にアオバトの歌が流れる。その他、ミソサザイ、アカハラ、コマドリ、コルリ、コガラ、キバシリ、カケス、ソウシチョウ。

帰り道、大きなニホンザルが一頭、道路上の電線を渡っているところに出会う。車を止めると、彼は立ち止まってこちらをちらっとにらんでから、おもむろに山に姿を消した。

 

5月22日 浅川合流点上流(右岸)

妙に胸騒ぎがしたので、仕事を早めに切り上げて多摩川へ。悪い予感は的中した…。

辺りの土手は堤内、堤外ともに五分刈りよろしく草が刈られてしまったのだ。レンリソウは草が帯状に残された天端直下のものを除いてほぼ全滅(したもよう)。

画一的な草刈りの問題点や草を刈る時期などについて、関係者や河川管理者と話し合おうと思っていた矢先の出来事であった。

 

5月24日 大丸用水堰上流

曇りときどき晴れ。多摩川ふれあい教室へ。

読売新聞社前の護岸工事は続いているが、水の濁りはなくなった。ツルマンネングサ、マメグンバイナズナ、ムシトリナデシコ、ニワゼキショウなどの花が満開。クワの実が熟してきた。土手にはツルボの葉。ウマノスズクサやカワラナデシコも。シオカラトンボが飛んでいる。

コサギ、カルガモ、キジ、コチドリ、イソシギ、ヒバリ、ツバメ、セグロセキレイ、ウグイス、オオヨシキリ(多)、セッカ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ。

 

5月25日 大丸用水堰上流

曇りときどき晴れ。多摩川ふれあい教室へ。“多摩川のスイート・ピー”レンリソウの花。辺りにオオヨシキリの声が響く。コサギ、カルガモ、コチドリ、キジバト、コゲラ、ヒバリ、ツバメ、ヒヨドリ、ウグイス、オオヨシキリ、セッカ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、メジロ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ガビチョウ。

 

5月31日 北多摩一号処理場(29km付近左岸)

今日は「多摩川の水質と流量PARTU〜キャラバン&シンポジウム・多摩川中流域の下水道を考える」(主催:多摩川市民フォーラム)。昨年9月の「PARTT」の成果を受け、多摩川をもう一歩グレードアップさせるためには…ということで、今回は下水道をテーマとした現地学習&意見交換である。しかし、台風4号の影響で激しい雨の一日に…。集合場所の武蔵野台駅(京王線)で、「雨天時汚濁の問題を話し合うには最高の天気だけれど、これじゃあ30人も来れば大成功だね」などと話していたら、何と60名を超える熱心な参加者が集まったのである。これは多摩川の水質と流量、そして下水道に対する市民の関心がいかに高いかを物語っている。

北多摩一号処理場へは駅から歩いて20分ほど。まずは多摩川への放流口を見る。主催者から「まだ降り始めたばかりなのでそれほど濁っていないが、これから1〜2時間もすると恐ろしいことがおきるよ!」と説明がある。

続いて担当職員の案内で処理場施設を見学する。流入下水は「沈砂池」→「第一沈殿池」→「ばっ気槽(生物反応槽)」→「第二沈殿池」という順序で処理された後、塩素消毒されて多摩川へ放流される。これらの処理では取りきれない窒素やりんを除去する高度処理施設も建設中である。また、汚泥は100%再利用されており、焼却灰から「メトロレンガ」が製造されている。

午後のシンポジウムの焦点は、@多摩川流域の下水道の現状について、A多摩川の水質・水量に及ぼす下水処理場の影響について、B下水処理場放流水の生き物への影響について、C放流水の水質改善にむけて、D雨天時汚濁と雨水流出抑制について。主催者からの問題提起に続き、東京都下水道局、東京都環境局、全水道東京水道労働組合、および国土交通省京浜河川事務所、東京都建設局から現状報告とそれぞれの取り組みについての紹介があり、これらを踏まえて意見交換が行われた。

この地区の下水道は汚水と雨水とを同じ下水道管で流す合流式であり、大雨が降ると、流入下水が処理場のキャパシティーを超えてしまい、未処理のまま多摩川へ放流されるという、「オーバーフロー」の問題を抱えている。また、何とか処理場内に入った水も、その多くは第一沈殿池を通しただけで「簡易放流」されてしまう。敷地内には、処理しきれない水を一時的にためておき、晴天時に処理施設に送る貯留池もつくられているが、すぐに一杯になってしまうのである。シンポジウム終了後の夕方、もう一度多摩川への放流口を見に行くと、処理場に入りきれなかった流入下水と、処理場からの放流水が合わさってどうどうと流れ、激しく濁った水が悪臭を放っていた。

近年の多摩川は、下水処理場の努力でBODが下がり、着実にきれいになってきている。2001年には、中・下流部の水質環境基準が上水道利用を目的とするB類型に指定され、BODに関してはそれも達成されている。では、すぐにでも水道水源として取水できるのかというと、そう簡単にはいかない。「PARTT」では、その大半が下水処理水である多摩川中・下流部の水を水道水源とすることに対する、住民の「コンセンサス」を得ることの難しさや、硝酸性窒素・大腸菌・原虫類などの問題があることが明らかになった。今回の「PARTU」では、合流式下水道に起因する雨天時の水質汚濁という現実に直面した。早急に「合流改善」を進めることはもちろんだが、雨水をできる限り浸透させてその流出を抑制すること、私たちひとりひとりが下水道への負担を減らすことも欠かせないのである。多摩川を「飲める水」にするために解決せねばならない課題はまだ多い。

なお、雨は夜半前に上がった。流域各地の累加雨量は70〜80mm。