多摩川散策日記2003年1月)

文:上田大志

 

 

1月1日〜3日 安比高原

 岩手の安比高原で2003年を迎える。クリスマス過ぎから雪の日が続き、ゲレンデのコンディションは最高。

 

1月5日 上河原堰下流(25〜26km付近左岸)

晴れ、寒い。ワンドはすっかり浅くなってしまったが、水際のあちこちから湧水が湧き出している。今日は全般に野鳥が少なく、送電線のカワウもゼロ。風が冷たく早々に退散するが、クルミの樹上から辺りを鋭い視線で睨んでいるオオタカを見つけたのは大きな収穫だった。

 

1月7日 秋川合流点〜平井川合流点(48〜50km付近右岸)

晴れ。日陰では3日に降った雪が凍っていて、つるつると滑る。睦橋は橋梁の塗装工事中。右岸河川敷は大小の沼が点在し、河畔林と広大な原野が広がるすばらしい場所だが、今日は電化製品や機械部品などの粗大ゴミが目立つ。ノスリが目の前のオニグルミに舞い下りる。それにしてもここは野鳥の楽園だ。ホオジロの雌に似て、頬が赤茶色の小鳥が1羽。ホオアカではないだろうか。

カイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ(多)、マガモ、コガモ、カルガモ、トビ(2)、ノスリ(2)、チョウゲンボウ(1)、イカルチドリ、イソシギ、キジバト(多)、カワセミ、コゲラ、ハクセキレイ(1)、セグロセキレイ(多)、キセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、ツグミ(多)、ホオジロ、ホオアカ?(1)、カシラダカ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、シジュウカラ(多)、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ドバト、ガビチョウ。

 

1月10日 大丸用水堰上流(33〜34km付近左岸)

晴れ、風もなく暖か。多摩川ふれあい教室へ備品の整理に行く。一昨年9月の出水で“よみうりワンド”が流失し、洗掘の進む水際にはロープが張られている。対岸では、やはり当時の出水による災害復旧工事が行われており、高水敷にはコンクリートブロックが並べられている。郷土の森では、車椅子でも通りやすいようにと、石畳の園路沿いにフラットな歩道が整備されつつある。カワウ、コサギ、アオサギ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、ノスリ、イカルチドリ、セグロカモメ、ユリカモメ、キジバト、カワセミ、コゲラ、ヒバリ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、モズ、ウグイス、ツグミ、ジョウビタキ、ホオジロ(多)、アオジ(少)、スズメ(多)、カワラヒワ、ムクドリ(多)、シジュウカラ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ドバト。

 

1月11日 大丸用水堰上流(33km付近左岸)

晴れ、多摩川ふれあい教室へ。暖かな陽射しに包まれた冬枯れのハリエンジュ林に、コゲラ、アオジ、ツグミ、ヒヨドリなどが代わる代わる立ち寄って行く。カルガモ、ヒドリガモ、ノスリ、セグロカモメ、キジバト、カワセミ、コゲラ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、ツグミ、ホオジロ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、シジュウカラなど。

 

1月12日 大丸用水堰上流(32km付近左岸)

晴れ、ポカポカ陽気。多摩川ふれあい教室へ。郷土の森の山茶花にメジロが集う。今日はスーパーのビニール袋とオギやメドハギの茎を使って凧をつくり、河川敷の原っぱで凧揚げをした。よく揚がる子もいれば、凧がクルクル回ってしまって、なかなか揚がらない子もいる。風がなくバランスをとるのが難しい。骨材の茎は軽いものほど良かったようだ。

 

1月13日 大丸用水堰上流(32〜33km付近左岸)

晴れ、暖かい。多摩川ふれあい教室へ。一昨年9月の出水でできた丸石河原を歩く。春になったらどんな植物が育ってくるのだろうか。堰上のカモ類は、この冬もヒドリガモが中心だ。他の場所の傾向はどうなのだろうか。カイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、マガモ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ(多)、オナガガモ、ノスリ(2)、イカルチドリ、セグロカモメ、キジバト、カワセミ、ヒバリ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、モズ、ツグミ、ジョウビタキ、ホオジロ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、メジロ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ドバト。

 

1月18日 第12回多摩川流域セミナー

12回多摩川流域セミナー「みんなの夢を実現しよう!水流実態解明プロジェクト」が東京農業大学・グリーンアカデミーホールで開催され、市民、行政、学識者など74名の参加があった。多摩川流域懇談会の主催行事としては、実に10ヶ月振りである。

じめに多摩川流域懇談会会長の高橋裕氏より「多摩川に健全な水循環を取り戻すための着実な一歩としたい」と挨拶があり、続いて行政と市民から話題提供が2つずつされた。

* * *

「試行開始から1年半、TRMの中間報告」では、国土交通省京浜工事事務所(TRMの主催者である多摩川流域協議会の事務局)から、今後の展開(案)として、「多摩川情報センター」を設置して、流域各地の現地情報拠点を支援し、ネットワークを図っていくことが提案された。

「水流実態解明プロジェクトについて」では、同じく京浜工事事務所(多摩川流域協議会事務局)から、多摩川に望ましい水質と水量を取り戻すために調査・研究を進める「水流実態解明プロジェクト」の目的には「水流実態の解明」と「流域の意向把握」の2つがあり、そのための5つの取り組みが紹介された。これまでに4回実施されている現地見学会「水流解明キャラバン」は、「アンケート調査」、「水流実態フォトレポート」とともに、市民と行政の共同作業である「流域の意向把握」のための具体的なアクションになる。水流に関する問題について、写真を主体にわかりやすくまとめる「水流実態フォトレポート」の公募は、1月20日から始まる。

続いて「水流解明キャラバンに参加して〜野川・平瀬川・二ヶ領用水・浅川」として、それぞれのキャラバンに参加した市民から、当日の感想やその地域の魅力、課題などが報告された。

多摩川市民フォーラムからは、「シンポジウム“多摩川の水質と流量”を行って」。多摩川市民フォ−ラムのメンバーを中心とする市民有志によって、昨年9月7日に開催されたシンポジウムには、市民、漁協、行政など様々な人々が集まり、多摩川の現状と課題を確認し、多摩川をもう一歩グレードアップして、泳いだり水道水源とするためにはどうしたら良いかということの出発点になった。多摩川市民フォーラムでは、今年5月下旬を目処に下水道をテーマにしたシンポジウム「PARTU」を企画している。

* * *

これらの話題提供を踏まえ、ディスカッション「多摩川らしい水流とは?」では、

・多摩川市民フォーラムが『市民行動計画』(P47)に示した、多摩川を飲める水にするための14項目について検討したい。

・水流について考えるには、地下水と河川の交流関係に眼を向ける必要がある。

・特に丘陵地帯の地下水は重要な要素であり、流域を視野に入れたマクロな捉え方が必要である。

・「水辺の楽校で泳ごう」、「みんなで多摩川を良くしていこう」と世論を盛り上げていくことが重要である。

・みんなの当事者意識を高め、ひとりひとりが身近なところでできることから実践していきたい。

・もっとお金をかければ下水処理能力をさらに高めることはできる。それを実現するには、コスト面についての合意が必要である。みんなが下水道に対する意識を高めるとともに、下水道にかかる負荷を減らす努力をすることも重要である。

・世論を盛り上げるためには、景観やコミュニティーなどの要素にも目を向けたい。行政も河川だけでなく、環境やまちづくりの担当部局などと連携していくことが重要である。

・ゴミ問題改善のように、多摩川をより良くするために住民と自治体が積極的に協力して取り組んでいきたい。行政のネットワークである多摩川流域協議会の役割は大きい。

・源流は川らしさの源である。みんなの意識を高めるためにも、その恩恵を享けている住民が源流域を守るために負担をする必要がある。行政が取り組みづらいのなら、市民から行動を興していきたい。

・源流を守るための取り組みとして、広大な多摩川の水道水源林(羽村より上流の面積の44%を占める)は東京都の水道局が管理しており、明治34年から100年以上にわたって森林の保全、育成に取り組んできた。また、今後はボランティア「森林隊」を公募して、水源林を守る活動に取り組んでいく。

・水道局では水道水源となる河川の水質保全に関係機関と協力して取り組んでいる。多摩川の水質は、昭和45年に調布取水堰から上水道の取水が停止された頃と比較してかなり改善してきたが、取水再開のためにはまだ様々な問題がある。コスト面を含め、最終的には、その水を飲む都民のコンセンサスを得ることが鍵になる。

・子どもたちに多摩川で何をしたいかアンケートをとったところ、「川をきれいにして川遊びがしたい」という答えが圧倒的に多かった。子どもたちの夢をかなえるためにも「みんなで川を良くしていこう」という意識を高めていきたい。

・流域の市民みんなが源流の実態と人々の取り組みに興味を持ち、実際にふれて感性を揺り動かすことが必要である。行動はそこから始まる。

・地震の担当部局とも連携して地下水のあり方を考えていきたい。

など、多くの意見、提案が出された。

また、多摩川流域リバーミュージアム(TRM)に関連して、

TRMはみんなにとってたいへん夢のある構想なので、限られたメンバーだけで計画をつくってしまうのではなく、流域の市民団体など多くの人と議論を重ね、時間をかけて実現していくようにしたい。

・多摩川流域セミナー等で出た意見を活かして具体的なことに取り組んでいきたい。多摩川から発信して日本の教育を変えていきたい。

という意見も出された。

最後に京浜工事事務所長の海野修司氏より、「多摩川をより良くしていくためには、流域みんなの意識をどのように高めていくかが重要である。現場に接する機会を増やすとともに、この多摩川流域セミナーをもっと積極的に開催していきたい」と挨拶があった。

 

1月19日 多摩川原橋〜是政橋(28〜32km付近右岸)

曇り、寒い。多摩川の自然を守る会、定例自然観察会。昼過ぎから雪または雨との予報だったが、幸い日中は薄日も射し、雨が降り出したのは夜になってから。

矢野口駅前は交通量の多い鶴川街道だが、ほんの2〜3分我慢すれば多摩川の自然が待っている。多摩川原橋の手前には、僕が高校時代に多摩川の散乱ゴミについて取材させていただき、身近な環境を守ることの大切さを教えてくださったAさんの家がある。橋の工事用通路の脇を下りて河川敷へ。

グラウンドにはホオジロとヒバリの群れ。水際に出るとコンクリート護岸のあちこちから伏流水が勢いよく噴き出している。この水はどこから来ているのだろうか。毎年冬に行われている橋の工事と関係があるのだろうか。手を浸してみると、気温が低いので余計そう感じるのだろうが、生温かいというよりほとんど温泉だ。ツグミが気持ち良さそうに入浴している。水際で青々としているのはオオカワヂシャだろうか。ヨシ原でモズやアオジなどを観察したり、草原でツグミ?がついばんだノイバラの実を見たりして、ニセアカシア(ハリエンジュ)の林へ。

市民の憩いの場になっている広い林の中は、一見きれいに手入れされているように見えるが、シュロやユッカなどが残されている一方で、エノキやムクノキ、イボタノキなど多摩川在来の樹木が切られてしまったりしている。また、ぼろぼろの「東京府砂利採取区域」の石碑は、ぜひとも多摩川の重要な史跡として、きちんと保存しておきたいものだ。林床には、初冬に咲くというフユノハナワラビの花茎、ヤブランやジャノヒゲの実、苧環の仲間のヒメウズ(葉)などが見られ、エノキの落ち葉の裏で越冬しているゴマダラチョウの幼虫も発見。ニセアカシアの切り株の年輪を数えると40歳前後。となると、ここには昭和30年代からニセアカシアが生えていたことになる。当時のこの辺りの景観はどうだったのだろうか。突然、近くでラジコン飛行機が唸り出す。これだけの河畔林があるにもかかわらず、野鳥が少なく思える原因はここにあるのかもしれない。土の匂いが懐かしい散歩道が終わり、アスファルト舗装されたサイクリングロードに出る。

対岸には多摩川最大の下水処理場、北多摩一号処理場の排水樋門が不気味にそびえている。稲城大橋の下は広い石河原。橋桁の周りが深く窪んでいるのは洪水の爪跡だ。高水敷との境目は巨石護岸になっており、テトラポッドやコンクリート護岸よりはましだが、どう見ても不自然な光景だ。土手上の道端は犬の糞だらけで閉口。橋の上流はタカ類がよく見られるところ。今日もノスリがゆっくりと舞っている。稲城北緑地公園で昼食。野鳥を観察している若者が3人。東京農大の野鳥観察サークルで、毎月この地域でラインセンサス調査をしているとのこと。

午後はさらに上流へ。オギ原の探検。子どもたちはガガイモの綿毛飛ばしに夢中だ。石河原でカモやセキレイ類を観察。今日の終点は是政橋。旧橋の取り壊しが進み、向い側半分ほどがなくなっている。

カイツブリ、カワウ、コサギ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、トビ、ノスリ、セグロカモメ、ユリカモメ、キジバト、カワセミ、ヒバリ(多)、ハクセキレイ(多)、セグロセキレイ、キセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、モズ、ツグミ、ジョウビタキ、ホオジロ(多)、アオジ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ドバト。

 

1月25日 大丸用水堰上流(32〜33km付近左岸)

快晴、多摩川ふれあい教室へ。

新雪を被った富士が美しい。サッと視界を過ぎり、ノスリのくつろぐクルミの木にとまったのは何とハイタカ。ノスリはピクリともしない。夕方同じ場所に行くと、まさに夕陽が富士に隠れるところで、土手には大勢のカメラマン。こんな日は一年に何日くらいあるのだろうか。オオタカが塒に向かって飛び立った。通りかかった人が、「この前オオタカがコサギを捕える瞬間を見た。そうしたら7羽のカラスに横取りされてしまったんだ!」と熱っぽく教えてくれた。

カワウ、コサギ、アオサギ、カルガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、キンクロハジロ、オオタカ、ハイタカ、ノスリ、イカルチドリ(多)、イソシギ、セグロカモメ、キジバト、ハクセキレイ、セグロセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、ツグミ、ジョウビタキ、ホオジロ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、ハシブトガラス、ドバト。

 

1月26日 大丸用水堰上流(32〜33km付近左岸)

晴れ、多摩川ふれあい教室へ。堰上(右岸側)の水鳥の楽園にカモの姿がない。近くに入った釣り人が騒いでいるためだろうか。上流の石河原ではフライフィッシング教室が行われており、大勢の釣り人がひしめいている。冷たさをものともせず、裸足になって浅瀬で遊ぶ親子の姿も。

 

1月29日 大栗川合流点〜府中四谷橋(33〜36km付近右岸)

快晴、寒い。北西の風が強く、じっとしていられない。野鳥観察舎前の藪が刈り払われている。関戸橋下流と一ノ宮公園前の2地点で流路が変えられ、護岸工事(2001年出水の災害復旧)が行われている。関戸橋下流の高水敷はブロック置き場と化しており、河原植物への影響が心配される。また当時の出水で、子どもたちの良い遊び場になっていた府中四谷橋下流のワンドは流失してしまった。一ノ宮公園の芝生はツグミたちのサロン。チョウゲンボウが2羽、いつまでも追いかけっこをしていた。カイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、トビ、オオタカ、チョウゲンボウ、イカルチドリ、イソシギ、セグロカモメ、キジバト、ヒバリ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、ツグミ(多)、ホオジロ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ドバト。