多摩川散策日記2001年2月)

文:上田大志

 

 

2月3日 秋川(沢戸橋〜十里木)

秋川は多摩川最大の支流だが、全川が東京都の管理委任区間になっていて、これまで多摩川流域懇談会などでは、浅川と比べて取り上げられることが少なかった。多摩川本流の上流部は谷が深く、切り立った地形のところが大部分であるのに対して、秋川は開けた場所が多く、河原が広がり、キャンプ場も多数ある。水質も良く、夏は水遊びの天国となっている。しかし、僕が小学生の頃にオイカワやウグイが群れていた淵は、改修工事によってなくなり、河原にバーベキューランドのようなものが整備されたり、魚が上れそうもない堰や魚道が多数あったりと、目の離せない川でもある。沢戸橋付近からは城山が良く眺められる。西秋川橋の脇から小道に入るが、ヒノキとスギがうっそうと茂っていて薄暗い。以前3月に来た時には、花粉の飛散がすごく、目も開けられない状態であった。道の両側に寄せられた雪は、30〜40cmの高さで続いている。有用樹として栽培されているものか、桐の木も目立つ。十里木の料理屋の横には小橋が掛けられていて、以前は河原へ下りる良いルートになっていたのだが、関係者以外の利用はできないようにされていた。落合橋の下では、冷たい川の水で洗い物をする人の姿もあった。観察できた野鳥は、トビ、キジバト、コゲラ、ヒヨドリ、ジョウビタキ、ホオジロ、カワラヒワ、シジュウカラ、ハシボソガラス。

 

2月4日 平瀬川(宮前区)

平瀬川流域まちづくり協議会、川崎・水と緑のネットワーク、多摩川市民フォーラムの3者が共催して、多摩川市民アクションPart11が多摩川下流部の支川、平瀬川で行われた。午前中のフィールドワークは、川崎市宮前区の平4丁目公園から、生田緑地内のとんもり谷戸、蔵敷親水公園、水源の森などを、平瀬川流域まちづくり協議会のメンバーに案内していただいた。歩いた距離は2km強であったが、両岸が切り立ったコンクリート護岸、谷戸地形、湧水、親水施設、水源、里山管理など、残したい面と改善したい面の両方がぎっしりと詰まった地区であった。午後の意見交換でも、生物、水量、水質、河川構造、バリアフリー化、環境学習、水源保護などさまざまなテーマで話が盛り上がった。観察できた野鳥は、マガモ、コガモ、カルガモ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、ヒヨドリ、ツグミ、スズメ、ハシボソガラス。

 

2月9日 下奥多摩橋〜鮎美橋(59〜61km付近/右岸)

青梅付近の多摩川を、多摩川の自然を守る会の柴田さんに案内していただいた。鮎美橋は橋梁塗装中。釜の淵公園下流には大きな岩が多く、いくつも乗り越えて進むが、あとちょっとで石河原に出られるところで行く手をはばまれた。引き返す途中、崖を強行突破したら思いのほか急だった。調布橋の下流には京浜工事事務所の水位観測所があった。多摩川もこの辺まで来ると、川沿いに歩ける場所は限られてしまうので、どうしても車道を歩きながら河原に下りられるところを探すことになってしまう。数年前に下奥多摩橋脇にマンションが建設されたことで、右岸沿いの林や藪はほとんど切り開かれ、すっかり殺風景になってしまった。この付近は僕にとっても思い出深い場所で、橋下の岩から淵に飛び込んだことや、夏休みに釣りに出掛けると、決まって夕立にあったことなどが思い出される。今日とても気になったことは、歩いた区間すべてで水が異常に汚れていて、下水のような悪臭がずっとしていたことである。河原の様子から、数週前くらいに汚水による増水があったことがわかる。柴田さんの考えでは、小作堰付近で浚渫工事をやっている関係で川幅が狭くなっているところに例の大雪が降って水がせき止められ、たまった水が腐ったのではないかということである。僕が確認できた野鳥は、カワウ、コサギ、アオサギ、マガモ、カルガモ、トビ、キジバト、カワセミ、コゲラ(声)、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、ヒヨドリ、ツグミ、ジョウビタキ、ホオジロ、カシラダカ、スズメ、カワラヒワ、メジロ。

 

2月10日 羽村堰〜下奥多摩橋(54〜59km付近/左岸)

多摩川沿いには梅の香りが漂い、春を感じさせるようになってきた。一方スギ花粉の飛散も始まっているようで、僕にとっては、外出すると頭の重くなる季節でもある。昨日の汚水の原因が気になるが、羽村堰付近の水は非常に澄んでいる。宮下運動公園前の河原は、バーベキュー広場と化しており、あちこちで石の竈が焼け焦げている。阿蘇神社の脇を流れる羽用水の余水吐を渡り、冬でなければ入ることのできなさそうな中州を歩く。小作堰が近くなったところで、用水に小橋が掛かっていてほっとする。これで引き返さなくても大丈夫だ。小作堰下流の中州は、昨年の6月に来たときには、浚渫工事で直線的にカットされていて不自然な眺めだったが、今日見てみると風景になじんできている。砂利が自然に堆積したようだ。多摩川橋のすぐ上流には友田水管橋が掛かっていて人は渡れる。これまでのところ水は澄んでいる。その300mほど上流で、圏央道の工事が大掛かりに進められており、青梅市運動公園の前からその上流側に出た。すると、汚水が流れた形跡があることに気付いた。そこから上流に歩いていくにつれ、水際の石の汚れが目立ち、悪臭も強くなってきた。どうやら汚水の原因はこの付近にありそうである。今日歩いて見た限りでは、この付近で浚渫をしている様子はなかったが、ある地点より上流側で水が汚れているということは、柴田さんの言うように、たまった水が腐ったのかもしれない。この周辺には、最近建てられた「リバーサイドマンション」がずらりと並んでいる。運動公園の上流は、すばらしく広い石河原で、素人目には河原植物がたくさんありそうに思える。暖かくなったらまた来てみよう。キササゲの群落を見たり、野鳥の群れを観察しながら河原を1kmほど歩くと、流れが崖にぶつかっていて通れなくなった。戻るのは癪だと崖を攀じ登ると、途中で滑って土だらけになってしまった。住宅街に出てさらに1kmほど行くと、昨日も来た下奥多摩橋の脇に出た。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、マガモ、キンクロハジロ、トビ、キジバト、カワセミ、コゲラ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、モズ、ツグミ、ジョウビタキ、ホオジロ、カシラダカ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシボソガラス。

 

2月11日 御岳渓谷(70〜72km付近)

ここには20年近く前から毎年訪れているが、冬に来たのは初めてである。沢井駅前の楓橋(釣り橋)から、右岸側の遊歩道を上流に向かって歩いていく。厳冬であるというのに、カヌーを楽しむ人がたくさんいる。御岳小橋手前で川に張り出しているテラスは通行できなくなっていたので、鵜の瀬橋を渡って、反対側を歩く。左岸側は茶店などが多く、日も当たっていて、散策している人も多い。釣り人も数人いたので、何を狙っているのか聞いてみると寒バヤだということだ(ヤマメやマスは禁漁中)。ここまで来ても汚水が流れた形跡があり、水際の河原は汚れていた。また、観光地であるにもかかわらず、ゴミはほとんど落ちておらず、何箇所かあるトイレもきれいに保たれていて喜ばしい。観察できた野鳥は、マガモ、カルガモ、トビ、キジバト、コゲラ(声)、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ツグミ、ホオジロ、カシラダカ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、シジュウカラ、ハシボソガラス。

※マガモではなく、アヒルでした。

 

2月16日 多摩川市民フォーラム第3「いきもの・学習」研究会

 「多摩川市民行動計画」のテーマ別行動計画に生物について盛り込むにあたり、課題の整理だけではなく、これまでに議論した成果をもとに、今後の取り組みのガイドラインも出そうということになった。

 

2月17日 二ヶ領用水(中原区)/宿河原堰付近(22〜23km付近/右岸)

二ヶ領用水の下流部(川崎市中原区)で多摩川市民アクションPart12が行われ、二ヶ領用水の再生を考える市民の会と二ヶ領用水・中原桃の会の方に現地案内をしていただいた。桜や桃をはじめ、さまざまな草木が両岸に植えられ、空き缶などのゴミは少ない。水量、水質はまだまだ満足とは言えないものの、二ヶ領用水が地域の住民に愛され、親しまれていることが良くわかった。代表的な意見や提案は次のとおり。@もっと水を流して欲しい。A多摩川から取水した水はきれいにして多摩川に返したい(二ヶ領用水は現在平間で下水道に落ちている)。B二ヶ領用水を軸にしたまちづくりを考えたい。C二ヶ領用水の歴史を子どもたちに伝えていきたい。D二ヶ領用水沿いに桃や桜の並木を続けて地域の市民で守っていきたい。

その後、夕方から登戸で用事があり、それまでの時間、宿河原堰付近(右岸)の観察をした。堰上流の低水敷には、水たまりが多数あり、湿地状になっている。水は夏の間しかないだろうと思っていたが、冬になっても枯れる気配はない。水たまりと本川との間のカゴマット上の覆土は流失しており(99年夏の洪水の影響だろう)、本川の水際には巨石護岸が続いているので、水は地下でつながっているのかもしれない。面白い空間だと思うが、地元の住民はどう感じているのか興味深い。今後の推移を見守っていきたい。堰下は夏と比べてかなり減水していて、河床の岩盤がかなり露出しており、普通の長靴でも対岸まで渡れそうに見えた。観察できた野鳥は、カイツブリ(宿)、カワウ(宿)、コサギ、アオサギ(宿)、コガモ(宿)、カルガモ、ヒドリガモ(宿)、オナガガモ(宿)、トビ(宿)、セグロカモメ(宿)、キジバト(二)、ドバト(二)、ヒメアマツバメ(宿)、ハクセキレイ(二)、キセキレイ(二)、タヒバリ(宿)、ヒヨドリ(二)、ツグミ、アオジ(宿)、スズメ(二)、ハシブトガラス。

 

2月18日 丸子橋〜等々力(13〜15km付近/右岸)

調布取水堰付近には30人ほどの釣り人がおり、コイ釣りのほか、ルアーを投げている人も目立つ。聞けばオオクチバスの穴場だとか。上流に向かって歩いていくと、川は大きくカーブしている。この辺の河川敷には犬や猫を飼っているホームレスが多い。等々力緑地の前まで来ると、大きな中州が広がり、右岸側の河道はワンド状になっている。“魚らん池・魚らん川”も復元され、自然豊かなところである。昨夏に来たときには、ヨシ原が一面に広がっていて、とても水辺に近づける状態ではなかったが、今日は魚らん川と本川の間を歩きながら、地形やカモなどを観察することができた。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、ハシビロガモ、キジ、セグロカモメ、ユリカモメ、キジバト、ドバト、ヒメアマツバメ、ハクセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、モズ、ツグミ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、ハシブトガラス。

 

2月19日 多摩川流域懇談会・浅川部会運営委員会

 浅川流域市民フォーラムと、京浜工事事務所、東京都、八王子市、日野市によって多摩川流域懇談会・浅川部会運営委員会が行われ、筆者は見学者として参加した。浅川をはじめ支川には東京都の管理部分が多く、今後は直轄区間外の河川整備計画づくりが多摩川流域懇談会の大きなテーマになることは間違いない。話し合いを有意義なものにするためには、参加者全員が日頃からやりたいことをイメージしておくことが重要だと感じた。

 

2月20日 拝島橋〜睦橋(46〜49km付近/左岸)

2年前には、拝島橋上流左岸に副流路があって、ヘラ釣りの人も見かけたが、今は水が枯れて砂利河原になっていた。300mほど上流の右岸は洗掘を受けて崖状になっており、木の根が露出している。水道橋前の第三期露頭ではアオサギの群れが休んでいる。拝島第四小学校前の排水溝には工事用の仮橋が掛けられていた。昭和用水堰までの水辺は、あちこちで湧水が染み出していて、いつもじめじめしている。堰では工事をしていて、ハンマードリルのついた車両がコンクリートの堰堤を削っていた。ここから福生南公園前にかけては、非常に広い石河原となっているのだが、水鳥公園横の小橋を渡って、大きくまわりこまないとアクセスできない。河原に出て堰まで戻ると、かつての澪筋がよくわかる。秋川の合流点は、今は堰より500mほど上流だが、以前は堰のすぐ上流だったと聞く。流れが大きく変わったのは何年前なのだろうか。秋川合流点に来ると、そこより上流の本流の水量よりも、秋川の水量の方がかなり多いことに気付く。本川は川幅が数mしかないところもある。多摩川の水が支川に支えられていることを実感できる場所である。また、左岸の広い石河原と右岸の洗掘による「崖」の様子から、洪水時には相当な影響を受けていることが想像できる。福生南公園沿いには車道が整備されていて、河川敷の奥まで車が進入してくる。特にこの河原の前は駐車場になっているので、暖かくなればバーベキューをする人や水遊びの親子連れなどでいつも賑わっている。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、アオサギ、カルガモ、トビ、セグロカモメ、キジバト、ヒメアマツバメ、コゲラ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、アカハラ、ツグミ、ジョウビタキ、ホオジロ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシボソガラス。

※アカハラではなく、全体に褐色味の強いシロハラでした。

 

2月25日 荒川:平井大橋〜堀切橋

多摩川の自然を守る会の自然観察会。先週の暖かさが嘘のように北風の冷たい1日だった。堀切橋を渡って、左岸を下流に歩いていくと、河川敷はずっと先まで工事中で歩けるところは限られている。堤防の反対側には綾瀬川が流れていて、キンクロハジロやヒドリガモ、ホシハジロなどのカモ類が観察できる。中川水門から平井大橋にかけては多くの人工ワンドや池がつくられていて、潮の干満で水が出入りしている。今日歩いた他の場所は、工事中かグラウンドがほとんどで、多摩川下流部の方がずっと自然が多くて変化に富んでいるように思えた。観察できた野鳥は、カワウ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ、セグロカモメ、ウミネコ、ユリカモメ、ドバト、ハクセキレイ、ツグミ、オオジュリン、スズメ、ムクドリ、メジロ、ハシブトガラス。

 

2月28日 谷保

JR南武線谷保駅前の寒桜が満開。