多摩川散策日記2002年9月)

文:上田大志

 

 

9月1日 大丸用水堰(32km付近左岸)

快晴、残暑厳しい。多摩川ふれあい教室へ。台風13号の通過から2週間、多摩川の水は透き通っている。川幅いっぱいに流れているのは、堰のゲートが閉じられているからだろう。

郷土の森前の河川敷は市民の憩いの場。ここにはハリエンジュ林の木陰と、堤内に水道・トイレ・駐車場が揃っている。賛否はあるだろうが、大勢の人々が多摩川に親しむこと自体は喜ばしいことだ(さすがに“臨時ビアガーデン”の出現には呆れたが…)。付近にゴミ籠や自販機が設置されていないことの意味をよく考え、利用者ひとりひとりがゴミの持ち帰りと、マナー厳守を徹底して欲しい。もしそのことで、ここが“バーベキュー禁止”になってしまったら、あまりに残念だ。

 

9月3日 多摩大橋下流(43km付近左岸)/河辺(57〜58km付近左岸)

快晴、厳しい残暑が続く。

東中神駅から多摩川まで、店先の果物や庭先の花などを楽しみながらゆっくり歩く。田んぼの稲穂が実ってきた。香ばしい香りに包まれる。ダルマガエルがあわてて水に跳びこむ。コナギの花も。多摩大橋下流の“ワンド”へ。台風がいくつも通ったので心配したが、水は澄み、湧き水も確認できる。シマドジョウやヨシノボリがあわててブロックの間に隠れる。スーイスーイと大きなオイカワなども泳いでいるので、箱メガネで観察したらおもしろそうだ。キクイモ、ヘクソカズラ、ガガイモ、ヤブガラシなどの花。オニグルミの実がたくさん落ちている。クワの葉には木によって、楕円形に近いものから深くくびれたものまで、いろいろな形があっておもしろい。チカラシバ、エノコログサ、メヒシバなど。

河辺駅から青梅市運動公園上流へ。やはり羽村、小作堰より上流は水量が豊富だ。河原の小石を拾って遊ぶ。クサギは葉をもむと、なるほどくさいが、花はとても良い香り。広大なクズの叢。赤紫色の花もあちこちに咲いている。他にもカラスウリ、ノブドウ、センニンソウなど、つる植物が目立つ。きれいな水たまり、小川を跨ぐ。お目当てのカワラニガナは?随分増えている。1年間でここまで回復するとは…開花している株が見られなかったのは残念だが、まだつぼみもたくさんついている。しかし、ここの石河原は狭い。綿毛で種が飛ばされても周りは全部砂地。この後うまく広がっていくだろうか。

 

9月5日 多摩大橋下流(43km付近左岸)

 曇り、やや涼しい。7月11日に行う予定だった玉川小学校の体験学習。台風による2度の延期があって、今日やっと実施することができた。

5年生62人が、化石・植物・魚の3つのグループに分かれ、前回(7/2…水質・野鳥)とは別のテーマで多摩川の自然体験をした。僕が担当したのは魚グループ。箱メガネで水中の世界を覗いたり、手網で生き物を捕まえたりして観察した。

最初「えーこんなところに入るの?くさくてやだよー!」と言っていた子も、みんなが川の中ではしゃいでいるのを見ると、おそるおそる入り、やがて夢中に。帰るときには、「もう一度入っちゃだめですか?」

みんなでゲットした生き物は、オイカワ、アブラハヤ、タモロコ、ジュズカケハゼ、スジエビ(かっこいいー!)、ヌカエビ、ヒラタドロムシ(かめのあかちゃんかな?)、コオニヤンマのヤゴ(葉っぱみたい!)など。大きなカニ(モクズガニ)を見つけて大騒ぎ。こわごわ裏返してみると両はさみがもげて死んでいた。「ここと海とを行ったり来たりしているのかもしれないよ」と言うと、「疲れて死んじゃったのかな…」

捕まえた生き物たち。みんな「もってかえるんだ」と言っていたが、「ここの川の環境がつくれるかな?」と言ったら、みんな黙って水際へ。

 

9月7日 調布取水堰(13km付近左岸)/玉川浄水場/シンポジウム「多摩川の水質と流量」

曇りときどき小雨。

シンポジウム「多摩川の水質と流量」。これは多摩川に望ましい水質と流量を取り戻すために、まずはみんなが現状と課題をきちんと認識できる場を設定しようと、多摩川市民フォ−ラムのメンバーを中心とする実行委員会が企画・運営した。「水流解明キャラバン」は行政が主催し、支川から取り組み始めたが、こちらは市民の企画・運営で、本川から取り組み始めたという違いはあるが、みんなの思いは同じだ。

午前は現地見学会。まずは東急線多摩川駅から調布取水堰(調布取水所)を見学。“洗剤の泡もくもく”で有名になり、水質悪化による昭和45年9月の取水停止、後に工業用水の配水は再開されたものの、水質改善のすすむ現在でも未だに上水道の取水はされていないのである。堰柱には過去の洪水時の水位が記されている。

次は多摩川台公園を通り、田園調布の住宅街を抜けて、玉川浄水場へ。水のない“沈でん池”がすべてを物語っている。敷地内には、玉川浄水場の再開を見据え、安全でおいしい水の供給を目指す玉川水処理実験施設もあり、担当職員の案内で、オゾン反応槽、膜ろ過装置などを見学させていただいた。

九品仏駅前の商店街。大井町線で等々力に移動し、午後は駅前の玉川区民会館でシンポジウム。その前に等々力渓谷で昼食。

シンポジウムには漁協、市民(実行委員会メンバー)、東京都(水道局・下水道局・環境局)、川崎市(建設局・環境局)、国土交通省(京浜工事事務所)など、多摩川の水流に関係する方々が勢ぞろい。それぞれの立場で、多摩川の水質・流量の現状と課題をわかりやすく紹介した。その後のディスカッションも、「おいしい魚とは?」、「飲める水に!」、「みんなが泳げる川に!」…と前向きな意見交換になり、「まずはみんなが現状と課題をきちんと認識しよう」という目的は、達成できたのではないだろうか。

さあ、これからが大事だ。今回のシンポジウムをきっかけに、「自由な発言」と「徹底した討論」を通して、多摩川に望ましい水質と流量を取り戻すための合意形成をしていかなければならない。きわめてシビアな問題だけに、ひとりひとりがどれだけ広い視野をもって将来のことを考えられるか。また、この問題はみんなの問題なのに、ともすると行政に“お願い”するだけになりがち。僕らひとりひとりが問題意識を持って行動すること、わかりやすい目標を定めて取り組んでいくことが欠かせない。

 

9月8日 大丸用水堰上流(33km付近左岸)

曇りのち晴れ、蒸し暑い。多摩川ふれあい教室へ。

川は昨日の雷雨の影響で、増水して薄茶色に濁っている。土手は草刈りがされたばかりだが、ツルボが咲き出した。草むらではキリギリスがまだ鳴いている。モンキチョウ、ベニシジミ、セセリチョウのなかまがたくさん飛びまわっている。トノサマバッタも多い。あわてて飛びだして僕にぶつかるやつがたくさんいる。クルマバッタモドキはほとんどいない。ヒロハホウキギク、オオブタクサ、ヘクソカズラ、ガガイモ、クズ、センニンソウなどの花。アキニレが新しい葉のような薄べったい実をつけている。鳥はカワウ、ササゴイ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、キジバト、カワセミ、ハクセキレイ、カワラヒワ、スズメ、ハシブトガラス、ドバト。

ピーク時の水位は低水護岸を上回ったようだ。ふと気がつくと、護岸の裏側にできた水たまりに小魚がたくさん取り残されているではないか!3時間後、“救助”に来るも、時すでに遅し。ドジョウ&シマドジョウこそ一命を取りとめたものの、モツゴを中心に、オイカワ、アブラハヤ、ムギツク、カマツカ、ギンブナ、ブルーギル、スジエビなど、30匹以上が“犠牲”になった。これも自然の厳しさなのかもしれないが、頑丈な低水護岸がつくられたことで、出水時に越流した水がその裏側を洗掘して段差ができ、そこに取り残された生き物が川へ戻れなくなってしまったのだから、その意味では“人災”と言えなくもない。

 

9月10日 宿河原(22km付近右岸)

曇りときどき晴れ。朝の宿河原。多摩川は昨夕の雷雨で増水し、濁っている。魚道には流木が引っ掛かり、引上げ式ゲートも少し上げられている。カワウ、コサギ、ダイサギ(多)、アオサギ、イソシギ、ツバメ(1)。

 

9月12日 宿河原(22km付近右岸)

晴れ、さわやかな秋の一日。TRMでせせらぎ館へ。多摩川の水量は多めで、まだ引上げ式ゲートが開いているが、濁りはない。魚道カメラの前にゴミが引っ掛かっているが、オイカワやニゴイたちの“ゆりかご”になっている。イヌ?キクイモ花盛り。カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、イソシギ、シジュウカラ、ハシブトガラス。今日は団体見学の方(川崎市民アカデミー、住宅公団)や、エコミュージアムの研究で相談に来る学生さんなどが多く、「みんなで“多摩川まるごと博物館”を実現しましょう」と呼びかけた。

 

9月14日 大丸用水堰(32km付近左岸)

曇り、肌寒いくらいの陽気。多摩川ふれあい教室へ。メドハギとイタドリが花盛り。雨上がりの川面をツバメが飛び交っている。まだこんなに残っていたのか、それとも南への渡りの途中で立ち寄ったのだろうか。カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、イソシギ、カワセミ、コゲラ、ツバメ(多)、セキレイsp。

午前中遊びに来た小学生の女の子5人組が、午後も昼休み終了と同時に来室。野鳥ぬり絵やどんぐり・落ち葉工作などを、あわせて4時間近くも楽しんでいってくれた。

 

9月16日 宿河原(22km付近右岸)

曇りのち雨、肌寒い。TRMでせせらぎ館へ。休日だが来館者はまばら。堰下の瀬には、落ち鮎を狙う釣り人。多くの天然アユが溯上した今年の多摩川。「石アカ不足で型はイマイチ」との声も聞かれるが、釣果の方はどうなのだろうか。薄紫のヒロハホウキギクの花がかわいい。カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、ツバメ、シジュウカラ、ドバト。

展示室の水槽にカミツキガメ!?が。まだ小さいものの危険な移入生物。誰かがペットとして飼っていたものを川に放したのだろう。とりあえず隔離して蓋をし、来館者が手を触れないようにした。試しに昼食の残りのシャケをあげたら、ゆっくりと至近距離まで近づくと、突然パッと首を伸ばして(こんなに長かったの!)噛み付いた。オイカワ(成魚)の死体も丸呑みにしてしまった。コイツのエサにはなりたくないなと思う。アオミドロなど水中の微生物を電子顕微鏡で見たいという方がいらしたので、堰上流の“水たまりビオトープ=かわさき水辺の楽校”から水を汲んできたが、あまり良く見えなかった。

 

9月20日 宿河原(22km付近右岸)

快晴、実にさわやかな秋の一日。TRMでせせらぎ館へ。

魚道の掃除をしている。カメラにはオイカワ多数。アブラゼミとツクツクボウシがまだ鳴いている。14時過ぎ、中野島中の3年生23名が来館。魚、植物、地形などテーマごとのグループ学習とのことで、みんな熱心にパソコンや閲覧資料などを調べている。外に出たいという子たちと堰上流の“ビオトープ”へ。佐々木さんがモツゴの仔、メダカ、ハグロトンボ?のヤゴなどを捕まえる。せせらぎ館で僕が愛用しているもののひとつに500mlサイズのペットボトル(無色透明の)がある。子どもたちが川から水を汲んできて、「意外と透明なんだね」と気付いたり、捕まえた小魚を観察したりするのにちょうど良いのだ。

多摩川堤防沿いの抜け道と多摩沿線道路との合流点に、横断歩道ができた。大ニュースである。

ここは一応停止線はあるものの、抜け道を走ってきた車は、早く沿線道路に合流してしまおうとするので、横断しようとしている歩行者がいてもほとんど止まらないという、登戸方面からせせらぎ館へ行くときに通らなければならない、最後で最大の「難所」である。「せせらぎ館は多摩川のいい川づくりの拠点になっているというのに、そこに行こうという方が最後になって危険を感じるのはあまりにも残念だ」、「バリアフリーの川づくり、川とまちづくりの一体化をすすめよう」、「子どもたちの笑顔を奪うようなことがあってはならない」…地元の方々やエコミュージアム、僕らが何年も言い続けてきたことがついに実現したのである。

むろん横断歩道ができたとは言っても、これだけでは不充分である。横断歩道手前の路上に引かれている停止線で、どれだけの車がたとえ人が渡ろうとしていなくても、一時停止しているのか。これを早急に調べ、結果が思わしくないなら至急対策を講じなければならない。できるならば押ボタン式信号機を設置したいところである。また、二ヶ領用水沿いの遊歩道を歩いてきた人が、沿線道路を横切ることができないという現状も早急に改善しなければならない。しかし、何はともあれ一歩前進したのは事実である。バンザイ!

多摩川の水は澄み渡り、コイもツバメもシジュウカラも「多摩川へようこそ!」と僕らを歓迎してくれた。

 

9月22日 永田橋上流(52km付近右岸)

曇り。涼しい。永田地区のカワラノギク復元活動(第4回)。今年3月に種をまいた場所の実生(ロゼットおよび今秋に開花する個体)を数え、茎の直径(地際)を測った。これによって、できる種子の数が予測できるとのこと。

永田橋を渡って多摩川に下りると、オオブタクサが花粉を撒き散らしている。ヨモギもそうだが、風媒花の飾りっ気のなさときたら、とても薄紫の花を咲かせるカワラノギクと同じキク科だとは思えない。実験区の丸石河原は植生管理が行われており、メマツヨイグサやオオブタクサなど大型の外来植物は刈り取られているが、ムラサキエノコログサやマルバヤハズソウなどに覆われてきた。

カワラノギクの実生は、今秋に開花する個体よりもロゼット(開花は来秋以降)の方が多いが、それでも来月にはかなりの花が咲くことだろう。また、昨年6月に種をまいた場所では、2年目を迎えた個体が非常に元気に育っている。根元からいくつも分枝し、あまりの大きさにちょっと異様な感じもするが、早くも花が開き始めている株も見られた。

モズの高鳴き。作業終了と同時に雨が降り出した。

 

9月23日 大丸用水堰(32km付近左岸)

曇り、多摩川ふれあい教室へ。

教室の展示水槽が少し寂しいので、すぐ前を流れる多摩川から、タモロコ、シマドジョウ、ヨシノボリ、カワムツ、スジエビなどを2〜3匹ずつ捕まえてきた。ただ“教室を訪れてくれた人に多摩川に関心を持ってもらうため”とは言え、川で暮らしていた生き物にとって、水槽の中はあまりにも狭い。管理が不充分で死なすようなことがないように、みんなで大切に飼っていこう。

朝露に濡れたツユクサの新鮮な青。一瞬向日葵畑かと思うほどのキクイモの大群落。カワウ、ササゴイ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、イソシギ、ツバメ、コシアカツバメ、セグロセキレイ、スズメ、シジュウカラ、ハシブトガラス。

すっかり日が短くなった。夕方になると、どこからともなくキンモクセイの香りが漂ってくる。運動会の練習を終えて薄暗い中、家路についた小学生の頃を思い出す。

 

9月25日 浅川合流点上流(37〜38km付近/右岸)

晴れ、汗ばむ陽気。

土手ではツリガネニンジンが満開。ハリエンジュの林ではヒガンバナとヤブランが咲き誇る。カワラヨモギ、メドハギ、イタドリ、ツユクサ、ススキなども見頃。クズとツルボはそろそろ見納め。特にカワラナデシコの花はほとんど終わり、すでに枯れているものもある。昨年は11月半ばに、まだたくさんの花を見ることができたのだから、今年はずいぶん早い。ワレモコウ咲き出す。カワラサイコ返り咲き。“多摩川のエーデルワイス”カワラハハコは来年も見ることができるとは限らない。その姿を目に焼き付けて…

キアゲハ、モンキチョウ、コミスジ。トノサマバッタが大きくなり、飛ぶと迫力がある。残暑を思わせる陽射しの中、ツクツクボウシとキリギリスが元気に鳴いている。ダイサギとアオサギがけんかをしている。

土手下のきれいな水たまりには、“どじょっこ、こいっこ、まっかちん”。ギンヤンマやカワセミも。

 

9月26日 宿河原(22km付近右岸)

晴れのち曇り。セイタカアワダチソウが色づいてきた。カワウ、コサギ、ダイサギ、カルガモ、ハシブトガラス、ドバト。

 

9月28日 大丸用水堰(32km付近左岸)

曇りときどき雨、寒い。多摩川ふれあい教室へ。明け方にまとまった雨が降り、多摩川は増水気味。やや濁りもみられる。草陰でセセリチョウが雨宿りをしている。土手のヒガンバナとツルボは盛りを過ぎた。コセンダングサは殆どが花から実に移行中だが、もうトゲトゲになっている気の早い株もある。黄緑色のセイタカアワダチソウ(まだつぼみ)もなかなかきれいだ。ガガイモの若い実。ツユムシ1匹。秋の深まりを感じる。

 

9月29日 府中市郷土の森/浅川合流点上流(37km付近右岸)

曇りのち晴れ。府中市郷土の森へ(多摩川ふれあい教室)。ハギの咲き乱れる林の縁をキチョウが飛び交い、ケヤキの木陰ではアブラゼミとツクツクボウシが鳴いている。

 夕暮れの多摩川(浅川合流点上流)へ。河原植物の観察。マツムシの演奏を堪能する。スズムシの声も聞こえてくる。ゴイサギがグワッ、クワッと鳴きながら飛んでいった。