多摩川散策日記2002年8月)

文:上田大志

 

 

8月1日 宿河原(22km付近右岸)

晴れ、猛暑。カワウ、コサギ、アオサギ、ウミネコ、ツバメ、ドバト。ビロードモウズイカの葉。

 

8月3日 大丸用水堰上流(33km付近左岸)

晴れ、暑い。多摩川ふれあい教室へ。昨日の夕立の影響か、多摩川の水は若干濁っている。初夏の土手を彩ったカワラサイコやコゴメバオトギリなどの花が終わり、辺りは緑一色になった。「チョンギー…」、オギ原のあちこちでキリギリスが元気に鳴いている。コサギ、ダイサギ、アオサギ、ツバメ、イワツバメ、ホオジロ、カワラヒワ、シジュウカラ、ハシブトガラス。

 

8月4日 小作堰下流(55〜56km付近右岸)

曇り。リバーサイドゴルフパーク前に広がっていた丸石河原は、昨秋の洪水でそのほとんどが流失し、大荷田川合流点下流とともに小さく残っているだけ。昨年はあんなにたくさんいたカワラバッタも、限られた場所で見られるのみ。炎天下の川原にブルーの羽が飛び交う…夏の楽しみのひとつである。ダイサギ、トビ、キジバト、ツバメ、イワツバメ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス、ホオジロ、スズメ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ドバト。

 

8月5日 東久留米

ツクツクボウシ初聞き。

 

8月7日 宿河原(22km付近右岸)

晴れ、猛暑。TRMでせせらぎ館へ。宿河原堰下流の自然観察。アユ、オイカワ、コイ、ニゴイなどが、それぞれ群れになって泳いでいる。カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、イソシギ、ウミネコ、ツバメ、ハクセキレイ、ムクドリ、ハシブトガラス、ドバト。せせらぎ館前にある屋外公衆トイレの汚れが目立つ。夜間利用する人のマナーが悪いようだ。できるなら早朝に掃除をして、来館者をさわやかに迎えたいところだ。

 

8月10日 丸子橋下流(13km付近右岸)

快晴、猛暑。夏休み恒例となった大田区立嶺町文化センターの魚とり講座を手伝いに行く。家族連れなど40人ほどの参加があった。南西の風が強く、グラウンドの砂埃がひどい。昨年と同様に大潮の干潮時にあたったが、水際線はそれほど後退せず、コンクリートブロック、倒木、桟橋の周りなどで、ウナギの子(6cmほど)、カワアナゴ、マハゼなど、みんな、たくさんの魚を捕まえることができた。と、シマドジョウとウキゴリが手網に入った。気が付くと、コンクリート護岸の隙間から水が湧き出していた。

 

8月11日 大丸用水堰下流(32km付近左岸)

快晴、酷暑。多摩川ふれあい教室の定例観察会「多摩川で水あそび!」。堰下の瀬で、ササ(オギ)舟をつくって流したり、流れの中で腹這いになってみたり、手網で魚などをとって楽しんだ。オイカワの子、タモロコ、モツゴ、シマドジョウ、ヨシノボリ、スジエビ、コオニヤンマのヤゴ、カワゲラやゲンゴロウの仲間など。

 

8月12日 北浅川(南浅川合流点上流)

曇り。心持ち涼しく感じる。8月20日に行われる八王子市小中学校初任者教諭研修の下見で北浅川へ。当日は「総合的な学習の時間」などで、子どもたちと実際に野外学習をする際のポイントを考える。

八王子市役所前の鶴巻橋を渡り、中央自動車道橋の上流まで歩く。まず目に付くのは海成層の河原。そしてそのあちこちに古い木の根?が埋もれている。そういえばこの辺はメタセコイアの化石群で有名なところ。川自身も自然の中を気持ち良さそうに流れ、アブラハヤやシマドジョウの子が群れになって遊んでいる。しかし、あちこちから悪臭とともに生下水が流れ込んでいることに気付き、川底の石裏にヒルがうじゃうじゃいてゾッとするのも時間の問題だったが…

下水道の普及が進めば、水遊びの子どもたちで賑わう素晴らしい川になるだろう。

 

8月14日 宿河原(22km付近右岸)

晴れ、TRMでせせらぎ館へ。猛暑続きで河原の草が枯れてきた。アユ、オイカワ、コイなどの群れ。投網打ち、コロガシ釣りの人たち。カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、イソシギ、シギsp、ウミネコ、ツバメ、ハクセキレイ、スズメ、ムクドリ、ハシブトガラス、ドバト。今日は京浜工事事務所元所長の栗原さんが来館され、せせらぎ館のできるまで、できてからのことを語り合い、楽しいひとときを過ごした。

 

8月17日 東久留米

曇り、涼しい。アブラゼミ、ミンミンゼミ、クマゼミ、ツクツクボウシの声が同時に聞こえる。今年はセミが多い気がする。日暮れが早くなった。そしてリーリーとアオマツムシの声。もう夏も終わりなんだな…。

 

8月18日 大丸用水堰上流(33km付近左岸)

曇りときどき雨、涼しい。多摩川ふれあい教室へ。台風13号の接近に伴い、雨が降ったり止んだりの天気だが、土手の草むらからは、エンマコオロギ、ハラオカメコオロギ、マダラスズなどの声が聞こえる。華やかではないが、ヘクソカズラ、ガガイモ、ヤブガラシなど、つる植物が花をつけている。メドハギの茎が伸びてきた。小さな葉がびっしりついている。ナガコガネグモの網が雨露を受けて美しく輝く。カワウ、コサギ、ダイサギ、カルガモ、ツバメ、セグロセキレイ、セッカ、スズメ、ドバト。

 

8月20日 北浅川(南浅川合流点上流)

八王子市小中学校初任者教諭研修で北浅川へ。

台風一過の青空。まずはHPで雨量と水位のチェック。多摩川流域の累加雨量は、小河内226mm、多摩川上流出張所195mm、多摩出張所165mm、浅川橋197mm、田園調布出張所123mmと、各地点でかなりの量になった。水位は、台風6号時(7月10日)ほどの増水はなかったようだ。

とは言え、水に入って活動をするのは、まだとても無理。水質調査や魚とりなどは室内での紹介にとどめ、現地では土手や水辺の観察を通して、左右岸・堤防・護岸・河川敷などの話、流れ着いたゴミからわかること、植物の化石や河原の石、水たまりに取り残された生き物、コオロギやバッタ類、ススキ・オギ・ヘクソカズラなどの草遊び…川には水に入らなくても、たくさんのテーマや発見があることを伝えた。

その後室内に戻り、若い先生方74人が12班に分かれてグループワーク。自分たちが「総合的な学習の時間」で北浅川の野外授業をするとしたら、こんな授業をやりたい!というプログラム案を作成、発表していただいた。初めて川に行ったときに、子どもたちの興味を引き出す工夫を考えたもの、総合学習ということで、きっかけづくり→テーマごとの調べ学習→まとめ、というように、プロセスと発展性に重点を置いたものなど、ユニークな発表がたくさんあった。

各グループの表題は、浅川ビンゴ/北浅川の生き物を調べよう/川と仲良くなろう/川の生き物を見つけよう/川で発見した秘密をもってかえってこよう/知ってるつもり?北浅川/北浅川生き物マップ2002夏/川をのぞこう!!/目指せ!!石ころはかせ/北浅川の実態調査/浅川を知ろう/身近な環境について。

 

8月21日 豊川

愛知県豊橋市で行われた「第5回豊川流域圏一体化検討準備会」に出席。多摩川流域の市民団体や多摩川センターの活動を紹介した。

終了後、郊外の農村地帯に車を走らせる。豊川の幹川流路延長は77km、流域には豊かな自然環境が残され、“きれいな川全国ベスト10”に入る清流は、水道・農業・工業用水として、東三河の人々に豊かな恵みを与えてくれる。

高水敷は広大な原っぱ。どこまでも緑が続いている。リーン、リーン…スズムシの声が響く。水辺にアオサギがじっと佇んでいる。水面をボラたちがピョーン、ピョーン…と元気良く飛び跳ねている。きっと海の水がきているのだろう。気が付くと河口から10.6kmの標。対岸は河畔林。上空をノスリがゆっくりと旋回している。土手の上を部活帰りの高校生が自転車で通っていく。赤とんぼがたくさん舞っている。川も時間も、ゆっくりと流れている。

風が吹いてきた。草原が一斉に波立つ。サギが次々とねぐらに帰っていく。そして夕闇が迫る頃には、チッ・チロリッ…マツムシの演奏が始まった。

 

8月22日 宿河原(22km付近右岸)

 晴れ。風が涼しく、もうすっかり秋という感じ。宿河原堰の引上げ式ゲートは、まだ上がっている。水色は灰緑色。堰下の瀬にコサギ、ダイサギなどが群れ、小魚を狙っている。

 

8月24日 大丸用水堰上流(33km付近左岸)

曇りときどき晴れ。多摩川ふれあい教室へ。多摩川は水量豊富。大丸用水堰いっぱいに流れている。コオロギの声が賑やかになってきた。モンキチョウが飛んでいる。クズの葉をパン!と鳴らして遊ぶ。センニンソウが咲き出した。

 

8月25日 大丸用水堰(32km付近左岸)

晴れ。多摩川ふれあい教室へ。真夏の太陽が戻ってきた。水遊び、魚とり、釣り、バーベキュー…みんな夏休み最後の日曜を楽しんでいる。ササゴイ、コサギ、ダイサギ、アオサギなど。教室に戻って、河原から拾ってきた小石を並べて“石にお絵かき”コーナーをつくったら、これが大人気。50個ほどの小石は、すぐになくなってしまった。

 

8月26〜28日 十和田・八幡平

遅めの夏休みをとって北東北へ。毎年旧盆を過ぎると、どこの観光地も人が減って静かさを取り戻す。心配された雨もなく、爽やかな青空に恵まれた3日間だった。

北上川(花巻)…北上川はいつもながら水量豊かだが、今回はどうも様子がおかしい。北上川は先月の台風6号によって、戦後3番目という大洪水に見舞われ、花巻でも危険水位を上回る出水になったそうである。その傷跡も生々しく、川岸のヤナギの大木は根こそぎ倒され、高水敷のクルミの木にも、3mほどの高さまでゴミが絡んでいる。

盛岡を過ぎるとソバ畑が広がる。開放感あふれる安比高原へ。ハンゴンソウが咲いている。ブナ林の散策。

夜、満天の星を眺めながら露天風呂につかる。ルルルル…カンタンの声を聴いていたら、いつの間にか眠ってしまった。

翌朝、黒沢川でちょっと釣りをするが、期待はずれ。20cm前後のイワナが5匹。日が昇ってくると、ギィー…とエゾゼミが鳴き出した。そうだ、まだ夏なんだ。

米代川(鹿角市)。オオハンゴンソウが風に揺れている。アユを釣る人々。

十和田湖。発荷峠の展望台。藍色の湖面を見ることができたのは初めて。ここへは何度も来ているが、いつも雨や霧だったから。アオバトが目の前を横切った。遊覧船発着所、みやげ物店、ホテルなどが集中している観光の中心、休屋も人影はまばら。十和田ビジターセンターに寄る。

奥入瀬渓流。銚子大滝〜白銀の流れを散策。水量豊かな流れと、トチノキ、カツラ、ハルニレ(エルム)などの大木群。スケールの大きさに圧倒される。

八幡平。ウソが行く夏を惜しんでいる。メボソムシクイもまだ鳴いているが、どこが寂しげだ。オオシラビソ(アオモリトドマツ)の林。針葉樹林ならではの、ほのかな香りに包まれるが、山頂付近では4〜5mの高さしかない。1年の半分が雪に閉ざされ、寒風吹き荒ぶ八幡平の厳しい気候を窺い知る。何とも表現しがたい青紫のエゾオヤマリンドウ。〜「ああ、りんどうの花が咲いている。もうすっかり秋だねえ。」カンパネルラが、窓の外を指差していいました。…『銀河鉄道の夜』〜。ウメバチソウも咲いている。八幡平ビジターセンターと大沼の散策路が新しくなった。サワギキョウの花。

 

8月31日 平瀬川/二ヶ領用水/是政橋〜大丸用水堰付近(32〜34km付近左岸)

快晴、残暑厳しい。「多摩川水流解明キャラバン(平瀬川&二ヶ領用水)」が行われた。「多摩川水流解明キャラバン」は、多摩川に望ましい水質と水量を取り戻すために、まずはみんなで現状と課題をきちんと認識しようという現地見学会(主催:多摩川流域協議会)で、3月に野川で行われて以来、半年ぶり2度目の開催となった。

参加したのは、地元市民団体、川崎市、京浜工事事務所など、ちょうど70名。貸切バス2台に分乗して、それぞれの場所で活動の中心になっている方を案内人に、両川の“見所廻り”をした。

午前中は平瀬川…水源の林、地域住民が維持・管理している場所、とんもり谷戸、多摩川との合流点にある礫間浄化施設などを見学し、午後は二ヶ領用水…円筒分水、上河原線・宿河原線の親水整備区間、多摩川からの取り入れ口である上河原堰などを次々に廻った。

その後、せせらぎ館でまとめをし、平瀬川に関しては、水源地の保護や水量の維持・回復など、二ヶ領用水に関しては、環境用水としての役割や防災用水としての可能性などについて、活発な意見交換がされた。

参考までに、僕が気付いた点を整理してみると、

・大勢の熱心な参加者に恵まれた。

・市民活動が活発で、みんなが誇りを持って活動していることがよくわかった。

・平瀬川と二ヶ領用水の見所を数多く廻ったことで、両川の特徴を広く知ることができた。

・市民も行政も、多くの人々が準備段階から関わり、当日の案内・解説も環境面だけでなく、住民参加、地域づくり、歴史、文化など、さまざまな面から行われた。

・一方で、テーマを“水流解明”に絞ったとすると、若干欲張り過ぎだった感は否めず、やや焦点がぼやけてしまった。

・円筒分水より下流の二ヶ領用水を見学できなかったのが残念だった。

・いろいろな地点を見学するのなら、平瀬川と二ヶ領用水を2日に分けてはどうだっただろうか。

なお、次回の「キャラバン」は、10月19日に、浅川(日野市)で行われるとのこと。

閉会後は、多摩川の自然を守る会の「鳴く虫を聴く会」に参加。大丸用水堰前の河川敷で、心地良い風に吹かれながら夕涼み。アブラコウモリが無数に飛び交っている。コマツヨイグサの花が開く。「ジー、リュリュリュリュ…」、耳を澄ませばクマスズムシのかすかな響き。「チッ・チロリッ!」、マツムシの声は昨年よりも多く聴くことができた。