多摩川散策日記2002年5月)

文:上田大志

 

 

5月3日 一之瀬川本谷(125〜127km付近)

多摩川源流のイワナ釣り。

作場平に車を止め、まだ薄暗い山道を登っていく。「ピッ コロロロ…」、コマドリの囀りがあちこちから聞こえてくる。今年もやってきたな、とうれしくなる。

多摩川もこの辺までくると最源流。竿はせいぜい3mほどしか伸ばせないが、地形はなだらかで遡行は楽である。「ヒツキ ヒツキ…」とエゾムシクイの透明な声が谷間に響く。

釣果は3匹。彼らの素性(放流魚か天然魚かそれとも…)はいつもながらわからないが、一番大きな個体(23cm)は着色斑点の色が濃いタイプ。他の2匹は着色斑点が目立たない。当初それは放流魚だからだと思っていたが、この場所でイワナを何匹か釣るうちに、魚体が小さくなるほど目立たないことに気付いた。どうもここのイワナは成長するにつれて、着色斑点が濃くなるようだ。これは多摩川のイワナの特徴として、『多摩川誌』にも書かれている。ところで“釣り”を楽しむために魚を釣ることに関しては賛否あると思うが、僕の場合、釣ったイワナは原則として全部逃がしてしまう。

午前9時、納竿。谷を釣り遡っていたときは涼しかったが、尾根に上がると暖かい。歩くとじきに汗が出てくる。カラ類の群れに混じって、ソウシチョウが飛び回っている。新緑のカラマツ林が眩しいが、ミズナラの芽吹きはまだ。

さすがG・W。山道を歩いて戻る途中、笠取山に向かう大勢の登山客とすれ違う。作場平に戻ってみると、そこにはすごい数の車がひしめいていてびっくり。

林道を落合まで下り、パンをかじって休憩していると、多摩川源流研究所の中村文明さんが通りかかり、2日前にできたばかりという『多摩川源流絵図・小菅版』をくださった。その情熱にはいつもながら頭が下がる。滝や淵、その他の地名は、放っておけばやがて忘れ去られてしまうものも多いだろう。それらをその由来とともに記録し、残しておくことは、自然に親しみ、自然を慈しむ心を育むとともに、源流域の魅力を伝える上でもとても大切なことだと思う。

目立った野鳥は、ミソサザイ、ウグイス、メボソムシクイ、エゾムシクイ、センダイムシクイ、コマドリ、コガラ、ヒガラ、シジュウカラ、ソウシチョウ。

 

5月5日 大丸用水堰上流(33km付近左岸)

 晴れ、暑い。多摩川ふれあい教室勤務。郷土の森前のハリエンジュ林は、バーベキューをする家族連れや若者グループなどで超満員!周りの原っぱや土手上にも人が溢れ、子どもたちは水に入ってはしゃいでいる。水際にカワヂシャ(在来種)とオオカワヂシャ(外来種)が仲良く?並んで咲いている。雑種ができてしまうようなことはないのだろうか。ハリエンジュは散り、代わってノイバラが満開になった。キツネアザミ、アカバナユウゲショウ、甘酸っぱい実が楽しみなナワシロイチゴの花など。今日はふれあい教室に250人を超える来場者があった。

観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、カルガモ、キジ、コジュケイ、コチドリ、コアジサシ、カワセミ、ヒバリ、ツバメ、ヒヨドリ、ウグイス、オオヨシキリ、セッカ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシブトガラス。 

 

5月6日 宿河原(22km付近右岸)

 風が涼しく、まるで秋を思わせる陽気。多摩川流域リバーミュージアムのスタッフとして二ヶ領せせらぎ館へ。

宿河原堰では魚道の溯上調査が行われている。成果はアユ、コイ、ギンブナ、ニゴイ、ウグイ、オイカワ、ヨシノボリなど。若アユ(6cmほどの大きさ)の溯上がまだまだ続いている。水際の転落防止柵が頑丈なものに付け替えられた。堰下ではコアジサシがキッ、キッ…と鳴きながら小魚を狙っている。化石掘りを楽しめるとともに、水辺の鳥の楽園になっている第三紀露頭の河原は、ここの大きな財産だ。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、コガモ、カルガモ、トビ、コチドリ、キアシシギ、イソシギ、コアジサシ、カワセミ、ヒバリ、ツバメ、ハクセキレイ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、ハシブトガラス、ドバト。

魚道の上に調査の網が待ち構えているためか、魚道カメラのモニターには大きなコイがうじゃうじゃ。時々きらきらっと銀色のアユが横切る。みんなも異口同音に今年ほど多くのアユが溯ってきたのは初めてだと言う。来館者の興味を惹くのは、やはり床面の多摩川流域図だ。自分の住んでいる場所がどこで、多摩川はどこから流れてくるのか。みんな10分、20分とじっくり見ていく。そして源流に行ってみたいという方がほんとうに多い。今日の来館者は340名にも達した。

 

5月7日 多摩川市民フォーラム運営委員会

“水流実態解明プロジェクト”に関して、多摩川市民フォーラムとしてどのように取り組んでいったら良いのか。「まずは市民フォーラム内で勉強会を行って共通認識をし、次にもっと多くの人に呼びかけてシンポジウムを開催しよう」「市民側が主催して水量・水質をテーマにしたフィールドワークを実施しよう」「そして早く本川でのキャラバンを行政や関係部局などと協働で実施しよう」など具体的な企画がたくさん出た。また、市民アクションをやった各地域にTRMを宣伝し、参加を呼びかけていくこと、放流魚問題に継続して取り組んでいくことなどを確認した。

 

5月11日 宿河原(22km付近右岸)/西暦2000年の多摩川を記録する運動・総括総会

昨日からの雨は朝のうちに上がったが、多摩川の流れは白濁しており、水際に立つとドブくさい。しかし雨後の増水時には、浅瀬で小魚を狙うサギ類が観察できておもしろい。対岸の自由広場では、消防訓練が行われている。カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、コガモ、コアジサシ、ユリカモメ、ハクセキレイ、ドバトなど。

午後はせせらぎ館で、西暦2000年の多摩川を記録する運動・総括総会が行われ、20名ほどの参加があった。これまで運動を推進してきた実行委員会は今日をもって解散し、「2000年多摩川・情報資料管理委員会」を再結成して、記録の整理とその利活用に取り組むことになった。

夕方は狛江の市民センターで、多摩川の自然を守る会の会報(『緑と清流』、『川のしんぶん』)の印刷・発送作業があった。

 

5月12日 宿河原(22km付近右岸)

 多摩川流域リバーミュージアムのスタッフとして二ヶ領せせらぎ館へ。

日が昇るにつれ、晴れ間が広がってきた。水の濁りは一晩でかなり取れた。対岸の狛江水辺の楽校で、親子がかくれんぼをしている。繁殖シーズンが終わりに近づいたのか、ダイサギは嘴が黒い個体と黄色い個体の両方がいる。ついに北へ旅立ったのか、昨日までは見られたコガモの姿がない。おもしろいのは、宿河原堰直下にいつの間にかたくさんのカルガモがいること。カルガモは留鳥、冬の間は遠くからやってくる他のカモたちに追われて、隅の方でおとなしくしているのかもしれない。クレソンの花にアオスジアゲハが飛んできた。すっかり緑に染まった河川敷で、オオキンケイギク(野生化した園芸種)の黄色が目を引く。カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、キアシシギ、イソシギ、キョウジョシギ?、コアジサシ、ツバメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、カワラヒワ、ムクドリ、ハシブトガラス、ドバト。

せせらぎ館の魚道モニターにはアユの群れ。大きなウグイも見ることができた。魚道調査員に話を聞くと、雨が降って水質が変わったことで魚の活性が上がったものの、網にゴミが多量に絡んでしまい、調査は大変だとのこと。魚道の調査については、こんな意見もあった。「こうして小さなアユたちが一生懸命溯ってきたのに、上でみんな捕まっちゃうんだよね。調査が済んだら水に戻すっていうけど、弱い魚なんか、それまでにたくさん死んじゃうんだよ。アユが溯ってくる時期に調査をやるのは仕方ないかもしれないけど、20日間もやることはないよ。多摩川は全国に先駆けて魚が上りやすい川づくりに取り組んでるって聞いている。それなら、魚を捕まえなくても種類や大きさを調査できる特殊なセンサーでも開発して欲しいね。」今日はサイクリングや散策の途中でちょっと一休み、とのんびりくつろいでいく来館者が多かった。

 

5月16日 宿河原(22km付近右岸)

 午後からTRMでせせらぎ館へ。ただでさえ平日は来館者が少ないのに、今日は朝から厚く雲が垂れ込め、肌寒い。水面近くをツバメが、その上をヒメアメツバメの群れが舞っている。ドバトの群れに突然カラスが突っ込んできて大騒ぎになる。オオキンケイギク、キキョウソウ、ヒルザキツキミソウ、アカバナユウゲショウなど外来の花が目立つ。ミゾコウジュが昨年よりも少なくなったように感じる。カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、キアシシギ、イソシギ、コアジサシ、ヒメアマツバメ、ツバメ、ハクセキレイ、オオヨシキリ、セッカ、スズメ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ドバト。アユの溯上が続いている。オイカワなどの魚影も多数確認できる。

 

5月17日 川乗橋〜百尋の滝

曇り空、寒い。奥多摩に近づくにつれ霧も出てきた。川乗橋から林道を登っていく。霧が雨に変わったが、折角きたんだからと奥へ向かう。谷間にミソサザイの声が響く。鳴き方にも一羽一羽個性があっておもしろい。細倉橋から沢沿いの登山道に入る。丸木橋を何回も渡る。百尋の滝は落差30mの優美な滝。林道工事の影響で下流側の谷が荒れているのが残念だが、天気が良かったらのんびりしたいところだ。今日は川乗(苔)山まで歩こうと思っていたが、雨が強くなってきたので諦めて引き返した。白いガクウツギの花があちこちに咲いている。もう終わりだろうと思っていたフジの花がまだ見頃。トチノキは大木になるだけあって?花も立派だ。キセキレイ、カワガラス、ミソサザイ、ウグイス、センダイムシクイ、オオルリ、カケス。

 

5月18日 白丸湖(81km付近)

雨は昼前に上がった。夕暮れのひととき、白丸湖でルアー釣りを楽しむ。辺りは一面緑の渦。新緑から深緑へ移り行く山々とエメラルドグリーンの湖面。ノーヒットに終わったが、静けさの中、川霧の立ち込める湖面に向かってルアーをキャストするのは、実に気持ちの良いものだ。オシドリ、カルガモ、トビ、カワセミ、イワツバメ、キセキレイ(多)、ヒヨドリ、ウグイス、シジュウカラ、ハシブトガラス。

 

5月19日 大丸用水堰上流(33km付近左岸)

多摩川ふれあい教室へ。日中は晴れて汗ばむ陽気になった。多摩川は水量を増し、いきいきと流れている。大丸用水堰いっぱいに流れている多摩川を見るのは本当に久し振りだ。コゴメバオトギリが咲き始め、ツルマンネングサ、コウゾリナ、ブタナなど、土手に黄色い花が目立つ。カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、キジ、コジュケイ、コアジサシ、コゲラ、イワツバメ、ハクセキレイ、ウグイス、オオヨシキリ、セッカ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、オナガ、ハシブトガラス、ドバト。

 

5月21日 兵庫島(18km付近左岸)/東名高速多摩川橋上流〜狛江水辺の楽校(21〜22km付近左岸)

兵庫島河川公園の親水池には再び水が入れられ、コイがたくさん泳いでいる。昨秋の洪水でひどく洗掘され、でこぼこになっていた河原は、フラットに整備されているが、段差ができて“ワンド”状になった窪地は、ならされずに残されている。二子橋の真下と少し下流で、本川から野川に向かって分流がおきているが、跨いで渡れるほどの水量。数基残った牛枠の残骸を見ると、間もなく大きな分流が現れ、下流側の“中州”には渡れない。対岸(川崎側)の高水敷は黄色一色。そう“ワイルドフラワー”の花壇だ。

昨秋の洪水で蛇籠の護岸が壊れ、水際が洗掘されて崖のようになった東名高速多摩川橋上流(左岸)には、大きな土嚢がびっしりと敷き詰められ、応急処置が施されている。また付近の高水敷は、警視庁の白バイ練習場や目黒区のグラウンドなど、特定の目的のために広い面積が占用されているところ。

狛江水辺の楽校のオギ原が茂ってきた。オオヨシキリのギョギョシ…という声のやむことはない。

今日は国土交通省(本省)の方が多摩川の視察にみえた。同省では全国の川の親しみやすさを評価するために、現在「川の通信簿(点検シート)」づくりをしているとのこと。今日はその“たたき台”をテストしてみようということで、多摩川の現地を歩きながら、水辺へのアクセス、自然度、施設、安全性などの現況をチェックするとともに、その設問内容を吟味されていた(筆者も京浜工事事務所の方とともに同伴した)。

甘い香りを感じて振り返ると、スイカズラが咲いていた。

 

5月23日 宿河原(22km付近右岸)

蒸し暑い一日だった。TRMで二ヶ領せせらぎ館へ。

河原で写生している人たちがいる。連日続けられていた魚道の溯上調査が終わり、今日は魚道内の水を抜いてカメラの周りをデッキブラシで掃除している。少し下流の低水敷に見られた伏流水の流れは干上がってしまった。コマツヨイグサ、アメリカフウロの花。最近急増しているコゴメバオトギリも咲いている。カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、キアシシギ、イソシギ、コアジサシ、キジバト、ヒバリ、ツバメ、ヒヨドリ、オオヨシキリ、セッカ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ドバト。

 今日は多摩川の調べ学習をしている子どもたちや、エコミュージアムの研究をしている学生などの来館者が多かった。

 

5月26日 万世橋〜数馬峡橋(76〜81km付近)

万世橋のたもとにオドリコソウが咲いている。右岸の林道を寸庭へ。何やら造成工事が行われており、谷は部分的に荒れている。川の向こう側は、見るといつも気持ちが暗くなる入川谷の無残な山肌(採石場)。

越沢のハイキングコース。大勢のハイカーに会う。みんな陽気だ。コアジサイが咲き出した。鳩ノ巣に下る途中の民家で飼われている子ウサギがかわいい。

鳩ノ巣渓谷。散策するカップルや河原で弁当を広げる家族などで賑わっている。日陰にはユキノシタ、岩場にはニッコウキスゲの花。

魚道が完成した白丸ダム。静かな湖面を見ながら一休み。カヌー型のゴムボートで遊んでいるグループがいる。ヤマセミがキョッ、キョッ…と鳴きながら飛んでいった。

今日は晴れて暑いなと思ったら、にわか雨とともに雷鳴が轟き、また晴れ間が広がったりと、忙しい一日だった。また、全般に観察できた野鳥は少なく、ガビチョウばかり(声・姿)が目立った。

 

5月27日 羽村堰/奥多摩湖(深山橋〜留浦ほか/98〜100km付近)

多摩川と語る会の多摩川ウオッチングに参加。今回は川崎から奥多摩まで、終日貸切バスで移動するということで、僕は福生からの参加者二人とともに羽村堰で合流。みんなが来るまで付近を散策。

堰の魚道新設工事が終わった。魚道は右岸寄りにつつましく?つくられており、予想していたよりも目立たない。堰全体の眺めも、遠目にはそれほど違和感を覚えない。一日も早く堰を魚がのぼれるようにという願いと、歴史的遺産である堰の景観を守ろうという願い。この魚道はお互いの想いがあって生まれた。オオヨシキリが競い合って鳴いている。ヒロハノカワラサイコが咲き出した。

会でチャーターした大型バスに乗り込み奥多摩湖へ。貯水率は76.5%で、先月よりもやや水が減っている。深山橋を渡ってバスを降り、南岸の遊歩道を歩く。全身が緑に包み込まれる。フタリシズカがたくさん咲いている。ホオノキの花が香る。ガビチョウの朗らかな声にクロツグミかと疑う。留浦の浮橋を渡って昼食。減水のため、橋の両端は傾斜が急になっている。入梅前ではあるが、水不足になりはしないかと気になる。峰谷橋までバスで戻り、坂を登って、湖に張り出した岬に建つ小河内神社を参拝、帰路についた。  

今日も晴れたり、激しい雷雨に見舞われたりの目まぐるしい一日。トビ、アオゲラ、イワツバメ、キセキレイ、ヒヨドリ、ヤブサメ、ウグイス、ホオジロ、ヤマガラ、ガビチョウ。