多摩川散策日記2002年4月)

文:上田大志

 

 

4月3日 永田橋〜羽村取水堰(52〜54km付近/右岸)

初夏を思わせる陽気。ちょっと歩くと汗が出てくる。羽村堰〜玉川上水周辺の桜はほとんど散ってしまったが、恒例の「さくらまつり」が行われていて、平日にもかかわらず大勢の人。堰では魚道新設工事が続いている。

日本野鳥の会奥多摩支部が主催する「羽村堰周辺定例探鳥会」に参加。今日は60名ほどの方が集まり、残っている冬鳥と帰ってきた夏鳥を探しながら、多摩川の春を満喫した。ハリエンジュ林の中にはヤマブキ、カキドオシ、クサノオウ、タチツボスミレなどが咲き乱れる。タンポポはほとんどがカントウタンポポ。土手にはフデリンドウ、シロバナタンポポなども。この辺の土手は、いつ来てもいろんな草花を見ることができる。と、林の奥から聞き覚えのある涼しげな声が聞こえてきた。誰も姿を見ることはできなかったけれど、きっと山に帰る途中のルリビタキだろう、との事。カジカガエルが鳴きはじめた。

 解散後、ちょっと足を伸ばして奥多摩の「もえぎの湯」へ…

僕が観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、カルガモ、オオタカ、イカルチドリ、イソシギ、キジバト、カワセミ、アオゲラ(声)、アカゲラ、コゲラ、ツバメ、イワツバメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、ヒヨドリ、モズ、ウグイス、ツグミ、ルリビタキ?(声)、エナガ、ホオジロ、スズメ、シメ、ムクドリ、シジュウカラ、メジロ、オナガ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ドバト。

 

4月7日 大丸用水堰上流(33km付近左岸)

 雨上がりの朝、ひんやりした空気がおいしい。ふれあい教室を開けるまで多摩川観察。

鮮やかな夏羽に着替えたカンムリカイツブリが石河原でじっとしている。セッカが「ヒッヒッヒッ…チョチョン、チョチョン…」と鳴きはじめた。オオヨシキリの声はまだ聞こえない。郷土の森園内はツツジの花とケヤキの新緑が美しい。日中は晴れて暖かくなった。

観察できた野鳥は、カンムリカイツブリ、カワウ、ダイサギ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、キジ、コジュケイ、キジバト、カワセミ、ヒバリ、ツバメ、イワツバメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、ウグイス、セッカ、ツグミ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシブトガラス、ドバト。

 

4月10日 宿河原堰上流(22〜23km付近/右岸)

曇り空で肌寒い一日。多摩川流域リバーミュージアムのスタッフ研修があり、せせらぎ館へ。日常業務やパソコンの取扱いなどを学ぶ。稲田中学校の生徒たちがせせらぎ館の見学に来た。これから河原で弁当を食べるそうだ。魚道カメラを見に来たという方と多摩川の魚について話し込む。せせらぎ館にはボランティアスタッフの方や、今月から新しく入った専任職員の方もいる。コミュニケーションを第一に考え、多くの人に多摩川の魅力を伝えていきたい。

帰り道、堰上流の観察。水際にはオオカワヂシャの花が目立つ。あとから下流側の観察をしなかったことを悔む。冬鳥のカモたちがどの程度残っているのか気になったからだ。

観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、アオサギ、マガモ、カルガモ、コチドリ、セグロカモメ、ユリカモメ、ツバメ、イワツバメ、スズメ、ムクドリ、ハシブトガラス、アヒル、ドバト。

 

4月13日 第四回シンポジウム「どうする?放流魚と多摩川らしさ」

放流魚をテーマとしたシンポジウムが、主催:多摩川四ヶ領用水400年の会、共催:多摩川市民フォーラムにより、世田谷区のGEカレッジホールで行われた。

この冬、多摩川中流部の関戸橋上流では、今まではいなかったニジマスを放流して管理釣り場化する試みが、多摩川漁協によって行われた。禁漁期間中に身近な場所でニジマスが釣れることを歓迎する人もいれば、生態系や適正、限定的な河川利用などの面から反対する人もいる。また近年、多摩川にはコイが増えすぎているといわれている。

参加者は目算で70名以上、漁協、行政担当者、自然愛好者、フィッシャーマンなど様々な立場の人々が集まり、それぞれの考え方を述べ、活発な意見交換がされた。

多摩川は都会に住む人々にとって身近な自然であり、オアシスである。年間の利用者は2000万人にも達するといわれ、そこには釣り人もいれば、自然観察をする人もいれば、スポーツを楽しむ人もいる。よく「多摩川には市民と行政がパートナーシップで川づくりをしてきた輝かしい歴史(と現在)がある」という賛辞を耳にするが、現実はきれいごとばかりではない。僕が普段多摩川を歩いていて痛感することは、様々な価値観を持つ市民どうしの深刻な対立である。お互いに異なる考え方を排除しようとする傾向は根強い、いやむしろ利用者の過密状態にある多摩川にとって、それはどこよりも深刻だ。

最近、「多摩川らしい生態系や自然の川の姿を取り戻していこう」という考え方が広まってきている。そうした考えの中では、サバイバルゲーム、モトクロス、ラジコンなどは、“相応しくない”行為なのかもしれない。しかし、それもひとつの考え方や、一部の人だけで決めてしまってはならない。多摩川流域懇談会の目標でもある“緩やかな合意形成”は、様々な立場の人々の自由な発言と徹底した討論を経てこそできるものだからだ。

今回のシンポジウムをきっかけとして、様々な考え方の人どうしが情報を共有し、意見交換をすることができる機会を設けていくことと、「多摩川にとって望ましい河川環境とは?」、ひいては「僕らにとって本当に望ましい社会とは何なのか?」と考える人が増えていくことが重要ではないだろうか。

 

4月14日 四谷本宿用水堰周辺(38km付近/右岸)

すっかり日が長くなった。用事を済ませた後、夕暮れまでちょっと時間があったので、浅川合流点上流の多摩川へ。昨秋の洪水で決壊した四谷本宿用水堰の復旧工事が始まると聞いていたからだ。

工事はすでに始まっていた。日野バイパス橋付近の高水敷は、コンクリートブロックなどの資材置き場になっており、橋上流の土手から堰の中央部にかけて土砂が盛られ、工事車両用の通路がつくられていた。環境調査は行われたことと思うが、河原や土手の自然への影響は大丈夫なのだろうか。また、田植えまでに用水の取水ができるようになるのだろうか。

土手下でけたたましくドラムを叩いている若者が2人いる。ラジコン飛行機愛好者とサバイバルゲーマーたちは帰るところだ。クサボケ、セリバヒエンソウなどの花。新緑が眩しいハリエンジュの梢では、シジュウカラがのんびりと囀っている。きれいな夏羽のアオジなども。

暑くも寒くもなく、実にさわやかな夕方だった。

観察できた野鳥は、カワウ、カルガモ、キジ、コチドリ、イソシギ、キジバト、コゲラ、ヒバリ、ツバメ、イワツバメ、ハクセキレイ、ウグイス、セッカ、ツグミ、ホオジロ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシボソガラス、ハシブトガラス。

 

4月15日 数馬峡橋〜昭和橋(81〜83km付近)/奥多摩湖

多摩川と語る会の観察会(第23回多摩川ウオッチング〜奥多摩湖から山のふるさと村へ)に参加。みんなが奥多摩駅に来るまで多摩川を歩こうと、家を早めに出る。

白丸から数馬峡橋を渡り、右岸の遊歩道を上流へ。ヤマブキが見頃を迎え、新緑の山にアクセントを加えている。ニリンソウの群落、クサイチゴ、ミヤマキケマンなどの花。奥多摩駅下の日原川は、再び石が積まれて、流れが人工的に区切られている。

みんなが奥多摩駅に到着。大勢の人が乗るということで、貸切りバスを出してくれた。

小河内ダムで小休止。貯水率は79.4%を指している。コンクリートの水門で、イワツバメたちが忙しく巣づくりをしている。しばらく観察していると、岸壁の泥や枯れ草などを集めては巣に運んでいる。

峰谷橋の先でバスを降りる。麦山の浮橋を渡って、南岸の散歩道を山のふるさと村へ。アケボノスミレ、ナガバノスミレサイシン、エイザンスミレ、オカスミレ?など、様々なスミレが咲いている。ジュウニヒトエ、ラショウモンカズラ、モミジイチゴ、ネコノメソウ、イカリソウ、ヒトリシズカなどの花も。

今日は八王子で30℃を超えたというほどの陽気。時折吹いてくる風がうれしい。

観察できた野鳥は、カワウ、カルガモ、トビ、コゲラ、ツバメ、イワツバメ、ハクセキレイ、キセキレイ、ヒヨドリ、ヤブサメ、ウグイス、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ヤマガラ、シジュウカラ、メジロ、カケス、ハシボソガラス、ソウシチョウ。

 

4月18日 宿河原(22km付近右岸)

 曇り時々晴れ。多摩川流域リバーミュージアムのスタッフとして、せせらぎ館に入るのは初めて。

 宿河原堰では、水際の転落防止柵の工事が行われている。既設の柵は洪水が来るたびに壊れて危険なので、丈夫なものにつくりなおすとのこと。ヘラオオバコ、シロツメクサ、コメツブツメクサ、カラスノエンドウ、カタバミなどの花。堰下の水たまりにはクレソン。ユリカモメの頭が黒くなった(夏羽に衣替えした)。堰下の冬ガモ類はすっかり減ったが、まだコガモとヒドリガモが数組泳いでいる。目の前をコアジサシらしき影が横切ったが、見失ってしまった。カワウ、コサギ、アオサギ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、ユリカモメ、コゲラ、ツバメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、スズメ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシブトガラス、ドバト。

 せせらぎ館の来館者から寄せられた意見をいくつか書いてみよう。

・いつも思うんだけど、外の大きなモニターは一体何に使うの?ワールドカップの中継でもやったら?

・SHD(高詳細画像表示システム)で、昔の地形図を見るのが楽しみだ。もっと上流や下流のようすもわかるとなお良いね。

・これから流域各地に、せせらぎ館のような施設がいくつもできると聞いている。その地域の情報を詳しく知ることができる拠点になると良いなあ。

 

4月20日 宿河原/狛江水辺の楽校ほか

曇り時々晴れ。ドイツの環境コンサルタントの方が3名、多摩川の見学にいらした。様々な要因が絡み合っている水循環系を解析するため、ドイツではその総合的なモニタリングシステムが確立されているという。

せせらぎ館で多摩川の概要を紹介した後、宿河原堰、二ヶ領用水(親水路)、狛江水辺の楽校、野川(次大夫堀公園、浄化施設)などを案内した。

宿河原、狛江水辺の楽校周辺で観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、アオサギ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、キジ、イソシギ、コアジサシ、ユリカモメ、キジバト、カワセミ、ヒバリ、ツバメ、ハクセキレイ、ヒヨドリ、セッカ、ツグミ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシブトガラス、ドバト。

 

4月21日 鮎美橋〜万年橋上流(61〜62km付近)

多摩川の自然を守る会の定例自然観察会。年間テーマは「多摩川・遊び所探検」。昨年度は多摩川を青梅から河口までひたすら歩いたので、今年度は各地の自然をじっくりと観察していく。

予報では雨は午後からだったが、朝から本降りの雨。それに肌寒い。万年橋上流左岸に張り出した岬から丸石河原に下りる。薄紫のフジの花が川霧に霞んでいる。夏には、河原でくつろぐ家族連れや泳ぐ若者たちなどで賑わう場所だが、今は誰もいない。白、緑、茶、黒など、いろんな色の玉石が見られる。カワラニガナの群落を見つける。雨が降っているので花は閉じているが、昨秋の洪水で全部流されてしまっただろうなと思っていただけに嬉しい。気が付くと結構たくさんの株。よく残ってくれた。万年橋架け替え工事の様子を見た後、柳淵橋を渡って釜の淵公園へ。高台の東屋で雨宿りをしつつ早めの昼食。板垣退助像の前を通り、新緑の雑木林を散策。鮎美橋の上から流れを観察する。右岸側に副流路が流れているが、水量は少ない。河原は石よりも砂が目立つ。オドリコソウやイヌノフグリなど、道ばたの植物を楽しみながら青梅駅へ。

帰りがけ、羽村取水堰へ。魚道設置工事が進んでいる。

雨のためか野鳥は少なく、カワウ、コサギ、カルガモ、コゲラ、ツバメ、イワツバメ、セグロセキレイ、キセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス、シジュウカラ、ハシブトガラス、アヒル、ソウシチョウ。

 

4月25日 多摩川流域懇談会第26回運営委員会

ハリエンジュの花が満開になった。

3月に行った第11回多摩川流域セミナー「みんなで育てよう!多摩川流域リバーミュージアムPARTU」を振り返り、また水流実態解明プロジェクトの進め方などを話し合った。

 

4月28日 山梨県大泉村

八ヶ岳山麓(といっても1700m近くある)の大門川でイワナ釣り。

夜明け、まだ暗い高原でアカハラが一斉に歌い出す。沢に下りると、コマドリとルリビタキが競い合うように囀っている。その美声もさることながら、黒い瞳がかわいい。それに負けじとミソサザイが声を張り上げる。アオジの囀り、遠くでツツドリの声も。

小さな落ち込みを見つけて、第1投を振り込むと同時に20cmのイワナがきた。イワナたちはこの小さな滝を溯れないのか、あっという間に4匹釣り上げる。そのうちの1匹にはイタチにでも捕まりはぐったのか、生々しい傷があり、また一番大きなものは24cmだった。どのイワナも多摩川源流の一之瀬川で釣ったものとほとんど変わらない姿をしている。着色斑点の色は濃いが、体側から背中にかけて白い点が広がっており、頭部に模様はないものの、ニッコウイワナ系といえようか。大門川はヤマトイワナが棲むといわれる富士川水系(釜無川)の源流の一つだが、尾根を一つ越えた向こう側は、ニッコウイワナの分布域である千曲川水系。多摩川源流も含め、分布の境目にあたるこの地域では、どちらともつかないイワナが釣れることは自然なことなのかもしれない。もっともここは藪沢とはいえ、観光地である清里から程近い。釣ったイワナには、恐らく放流魚の血が混じっているだろうが…

さて、7年前には尺上を釣ったこともあるこの落ち込みでは入れ食いだったものの、その後は渓相が悪いわけでもないのに、行けども行けどもアタリがなく、やがて巨大な砂防堰堤にぶつかった。ひょっとすると先ほどの小さな落ち込みが“魚止め”になっているのかもしれない。

 

4月30日 「西暦2000年の多摩川を記録する運動」総務会

5月11日に行う運動の総括総会の進め方を中心に、3月に発行した『活動報告書』の配布方法の確認、記録写真やビデオテープといったデータの整理と活用のしかた、実行委員会の今後などについて話し合った。