多摩川散策日記2002年3月)

文:上田大志

 

 

3月2日 井の頭公園

春の陽気、微風が心地良い。コブシのつぼみが大きくふくらむ。カイツブリ、オシドリ、カルガモ、オナガガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ、コゲラ、ヒヨドリ、シジュウカラ、ハシブトガラス。

 

3月3日 秋川合流点〜五日市線鉄橋(48〜50km付近/右岸)

一変して真冬の陽気、曇り空で寒い。ピンクのヒメオドリコソウが目を引くようになってきた。ノイバラが芽吹きはじめ、セキレイの囀りも賑やかになってきた。

秋川合流点付近の上空を、今日もラジコン飛行機が我が物顔で飛び回っている。この冬の減水で水際線は大きく後退し、昨秋の洪水時にできた副流路や水たまりの多くは干上がっているが、高水敷の小川(湧水?)からは、きれいな水がさらさらと音をたてて流れ込んでいる。

洪水で洗掘された睦橋下流左岸の水際は、丸太や石で補修されている。橋の真下にある池“釣り堀”には、今日もバンとオオバンの姿がある。

やけに釣り人が多いなと思ったら、そういえば今日から渓流釣りが解禁。お祭騒ぎだったひと頃の賑やかさはないが、流れがある瀬の部分には数メートル間隔で釣り人が立ち並ぶ。さすが解禁日。そこら中から大小のニジマスが釣り上げられる。上空にはトビが何羽も弧を描いている。弱ったマスを狙っているのだろう。

観察できた野鳥は、カイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、トビ(多)、ノスリ、チョウゲンボウ、バン、オオバン、ドバト、コゲラ、ハクセキレイ、セグロセキレイ(多)、タヒバリ、ヒヨドリ、モズ、ツグミ、ホオジロ(多)、アオジ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシボソガラス、ハシブトガラス。

 

3月6日 永田橋〜羽村取水堰(52〜54km付近/右岸)

日本野鳥の会奥多摩支部の「羽村堰周辺定例探鳥会」に参加。昨晩遅くに降り始めた春の雨は朝のうちに上がり、暖かな一日になった。ウグイスのまだたどたどしい囀りが、いかにも早春らしい。梢ではホオジロも歌い出した。

羽村取水堰の魚道設置工事と床止めの補修工事が続けられている。その下流の水は土砂で茶色く濁っている。そのためか水辺の鳥があまり見られなかった。永田橋上流右岸の“石河原再生”工事も進行中。途中のハリエンジュ林ではアカゲラを観察することができた。幹にぴったりくっついてじっとしているかと思えば、ささっと上下にすばやく動く。遠くからちょっと見ただけでは、木のこぶにしか見えない。最初に見つけた人の観察力はすごいなと思う。冬の川原ではホオジロとアオジに出会うことが多いが、ホオジロが明るく開けた原っぱや林縁に多いのに対して、アオジは薄暗いブッシュや潅木の茂みの中に多い。

僕が確認できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、マガモ、カルガモ、トビ、キジバト、ドバト、カワセミ、アカゲラ(1)、コゲラ(多)、セグロセキレイ、ヒヨドリ、モズ、ウグイス、ツグミ、ジョウビタキ、ホオジロ(多)、カシラダカ、アオジ(少)、スズメ、カワラヒワ(多)、シメ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシボソガラス、ハシブトガラス。

 

3月8日 多摩川源流写真展はじまる

今年は春の訪れが早い。ヤナギが一斉に芽吹いてきた。

今日から多摩川源流研究所と小菅村の主催で「多摩川源流写真展」が始まる。調布市文化会館たづくり(11F/みんなの広場)で会場設営のお手伝い。写真展のテーマは“知られざる源流の四季”。研究所長中村文明さんの想いがぎっしり詰まった作品を、1枚1枚展示していく。僕自身もいつの間にか多摩川源流にワープしていた。心安らぐ、幸せな時間を過ごさせていただいて本当に感謝している。

写真展は14日まで。ひとりでも多くの方が多摩川源流の魅力を知り、源流へ出掛けるきっかけになればと思う。

 

3月9日 多摩川水流解明キャラバン&セミナー(野川)

「多摩川水流実態解明プロジェクト」は、多摩川に望ましい水質と水量を取り戻すために、まずそれを明らかにしようというもので、その具体的な取り組みとして、現地見学会(キャラバン)と自由な討議(セミナー)を流域各地で行っていくことになった。その1回目は、水涸れ、湧水の保全、水路の再生などの課題が山積みの支流、野川で行われた。

前半のキャラバンでは、くじら山下原っぱ、武蔵国分寺の真姿の池、姿見の池、砂川用水などをマイクロバス2台で移動しながら見学した。

後半のセミナーは国土交通大学校に移動して行われ、プロジェクトの趣旨説明、自治体や河川管理者の挨拶、学識者の研究報告、「水網緑網」のまちづくりを目指す市民団体の提案などがされた。キャラバンの感想や問題提起など、意見交換も活発に行われた。

キャラバン、セミナーともに、参加者が問題点を共有するという意味で大変充実したものになったと思うので、次の機会には具体的な解決策や作業目標などについて、もっとつっこんだ話し合いになることを期待したい。それは今日のように市民、行政、学識者など、さまざまな立場の人が集まった場で行うことが何よりも重要だろう。

暖い。ハクモクレンと桃が満開。どこもジンチョウゲの芳香でいっぱい。何故か初冬を思わせるジョウビタキのヒッ、ヒッ…という声があちこちから聞こえる。

 

3月10日 四谷本宿用水堰周辺(38km付近/右岸)

明治大学の倉本先生と多摩川の自然を守る会のメンバーで、カワラノギクの種まき。当該地区へのアクセスは、多摩都市モノレールの開通でぐっと便利になった。

昨秋の洪水で崩壊した四谷本宿用水堰はそのままで、無残な姿を横たえているが、近々復旧工事が始まるらしい。空高くヒバリが歌い出した。

地面に埋もれかかっている丸石を掘り起こして“浮石”状態にし、冠毛(綿毛)のついた種を風に飛ばされないように気をつけながら砂と混ぜ、石の周りに置いていく。そして水をかけてなじませる。

昨年3月、対岸の府中四谷地区にまいた種は、春の乾燥のために発芽せず、大切に育てていた実生も、洪水のためにすべて流失してしまった。今度こそ丈夫に育ち、群落再生の一歩となることを信じて…

観察できた野鳥は、カイツブリ、カワウ、コガモ、カルガモ、トビ、セグロカモメ、キジバト、カワセミ、ヒバリ、セグロセキレイ、ツグミ、ホオジロ、アオジ、スズメ、シジュウカラ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ドバト。

 

3月14日 多摩川流域懇談会第25回運営委員会

17日に迫った第11回多摩川流域セミナー「みんなで育てよう!多摩川流域リバーミュージアムPARTU」の内容や進行、資料などの確認を行った。セミナーでは、リバーミュージアム(TRM)をみんなで魅力あるものにしていくにはどうしたら良いのだろうか?という雰囲気をつくることが何よりも大切だと思う。

 

3月16日 東久留米

暖かい。家の前の桜(ソメイヨシノ)が開き始めた。

 

3月17日 多摩川原橋〜是政橋(28〜32km付近/左岸)/第11回多摩川流域セミナー

多摩川の自然を守る会の定例自然観察会。朝から穏やかに晴れ、日中は少し風があったが暖かな一日となった。

集合地南多摩駅前を流れる大丸用水の水量が増え、コイが元気に泳いでいる。駅前の桜は、日かげの木はまだつぼみだが、日なたの木はかなり開いてきた。ウグイスがまだ不安そうにおっかなびっくり鳴いている。ハルノノゲシ、カラスノエンドウ、オオカワヂシャ、スカシタゴボウなどが咲き出した。土手にはセイヨウタンポポ、カントウタンポポ、両者の雑種と思われるタンポポのそれぞれが咲いている。ひらひらと飛びながら、ときどき停空飛行(ホバリング)をみせるチョウゲンボウの飛び方は独特だ。原っぱのあちこちから、ヒバリがピチクリ…と鳴きながら飛び立つようになった。そしてツバメも帰ってきた。

観察できた野鳥は、カイツブリ、カワウ、コサギ、コガモ、カルガモ、トビ、チョウゲンボウ、イカルチドリ、キジバト、カワセミ、ヒバリ、ツバメ、ハクセキレイ、ヒヨドリ、ウグイス、ツグミ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、オナガ、ハシブトガラス、ドバト。

午後から開かれる第11回多摩川流域セミナー(主催:多摩川流域懇談会)の準備のため、稲城大橋でみんなと別れ、急ぎ足で多摩川原橋を渡る。矢野口からJR南武線に乗り、セミナー会場の府中勤労福祉会館へ。テーマは“みんなで育てよう!多摩川流域リバーミュージアムPARTU”。みんなで“流域まるごと博物館”を実現していく。

まず京浜工事事務所から、多摩川流域リバーミュージアム(TRM)計画の中間報告があり、「最終的には地域・市民の主体的な活動でTRMを運営していきたい」という目標が示された。

TRM狛江・宿河原地区検討懇談会の市民メンバー(5名)からは、

・「新年度より本格化する総合的学習に対する支援を充実させたい」

・「ワールドカップ開催の機会を活かした取り組みをしよう」

・「器械よりも多摩川の自然や人間どうしがふれあう機会を増やしたい」

・「問題点や必要性を共有することが重要だ」

・「試行期間の目標をきちんと定めて取り組みたい」

・「TRMを市民活動の救急箱のような存在に」

・「子どもたちが自分の肌で生命の大切さを感じ取ることができる体験活動を充実させたい」

等の提案があり、京浜工事事務所からも「皆さんの活動をネットワークしてより活発にしていくためにTRMを活用していきたい」との考えが述べられた。

ディスカッションは“TRMへの期待”をテーマとして行われ、

・「講師への謝礼等、人件費の財源をきちんと確保しなければならない」

・「その目安や助成制度が必要だ」

・「経費は流域自治体や民間も負担していくことが必要だ」

・「TRMに関わる様々な立場の人々からなる推進委員会を設けて、真にパートナーシップで運営していくべきだ」

・「市民ボランティアの力でTRMを支えていくことが重要だ」

・「川に関わる様々な分野から協力者を集めて、早く人材ネットワークを築きたい」

・「学習活動や観察会のときにリーダーとして活躍できるような人材を育成することが重要だ」

・「いつまでも行政に頼らず、市民が自立していくことが重要だ」

・「TRMでも合流式下水道の改善に取り組むべきだ」

・「理想郷づくりを考えるだけではなく、多摩川の姿を次世代にきちんと伝えていくことが重要だ」

・「流域というからには本川だけではなく、支流や堤内地にも活動の輪を広げていきたい」

・「京浜工事事務所だけでなく、関係する行政全体が主体的に参画することが重要だ」

・「多摩川流域懇談会を単なる議論の場としてではなく、話し合ったことをきちんと反映させることができる存在にすることが重要だ」

・「みんなの生活に還元していくためにも、税金をTRMの財源として使うべきだ」

・「TRMを市民の玉手箱に」

等、多くの意見が出された。

 その他、京浜工事事務所から、「水流実態解明プロジェクト」の説明や人材登録のお願いが、多摩川市民フォーラムから、行事の提案や放流魚問題のシンポジウムの案内などがあった。

TRMを今後流域各地に展開し、盛り上げていくためには、しっかりした基本方針を持ちながら、これらの意見や提案を検討し、取り入れていくことも不可欠だと思う。

 

3月21日 大丸用水堰上流(33km付近左岸)

多摩川ふれあい教室の空き時間に自然観察。対(右)岸の崖線林は、薄桃色の桜と薄緑色の木々の芽吹きに彩られている。今日もよく晴れて暖かだが、昼前から強い南風が吹き荒れ、川原は砂埃がすごい。カイツブリとダイサギはもう夏羽に衣替え済み。背中の飾り羽がおしゃれだ(ダイサギ)。カワラヒワがあちこちで「ビュイーン」とさえずっている。土手にはヘラオオバコがたくさん出てきた。

観察できた野鳥は、カイツブリ(夏羽)、カワウ、コサギ、ダイサギ(1/夏羽)、アオサギ、カルガモ、トビ、チョウゲンボウ、イカルチドリ、セグロカモメ、キジバト、カワセミ、ツバメ、イワツバメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、ウグイス、ツグミ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、ハシブトガラス、ドバト。

 

3月23日 永田橋上流(52km付近右岸)

前日の午後から朝まで雨が断続的に降り続き、土埃はおさまったが、最近の暖かさに慣れた身には寒い。

今日は河道修復実験が行われている永田地区で、カワラノギクの種まきをした。メンバーは明治大学の倉本先生と学生、多摩川の自然を守る会に加えて、多摩川センターが主催するリバースクールの“卒業生”からも9名が参加。実験地は石河原の造成工事が終わったばかりで、粒の揃った丸石が整然と並んでいる。ひとつの石に10粒ずつ、花粉を運ぶ虫が気付きやすいように100礫ずつ6箇所、計600個の石の縁にまいたのだが、多くの参加者に恵まれて作業ははかどった。種は冠毛を取り除いてあるので風に飛ばされる心配はなく、雨上がりで土にもよく馴染む。リバースクールの卒業生が、多摩川の現地でこのような活動に取り組めることは願ってもないこと。みんな貴重な体験ができて満足そうだ。

 この“カワラノギク復元プロジェクト”は、種をまいたらそれで終わりではなく、今後も定期的に草刈りなどを行い、秋には“お花見”、冬には種を採取する…というように活動を続けていく。「わたしたちがお手伝いをしなくてもカワラノギクが絶滅する心配がなくなるまで、活動を続けることになります。短期間に無理をしてがんばるよりも、長く続けるつもりでお願いします。」倉本先生がおっしゃった。

観察できた野鳥は、カワウ、マガモ、コジュケイ、カワセミ、コゲラ、ツバメ、イワツバメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、タヒバリ、モズ、ウグイス、ホオジロ、スズメ、ムクドリ、シジュウカラ、オナガ、ハシブトガラス、ドバト。

 

3月24日 玉川上水/小金井公園

ソメイヨシノが満開。すでに散り始めた木もある。まだつぼみの硬い木も見られるが、種類が違うのだろうか。

 

3月31日 小田急線鉄橋〜上河原堰上流(23〜27km付近/左岸)

多摩川の自然を守る会の自然観察会。風弱く日中は陽射しあり。心配されたにわか雨は夕方になってから。

ヨシの若芽が伸び出した水際で、バシャンバシャンとコイの産卵が始まった。石河原では紫のオオカワヂシャの花が目を引くようになってきた。気が付くと低水敷一面に苗が出ている。そのすべてがオオカワヂシャなのか、在来のカワヂシャが混じっているのかは、僕にはまだ判断できないが、昨年よりも増えているように感じる。五本松周辺は、お花見の家族連れや若者グループなどで賑わっているが、まだ3月だというのに土手の桜はもうほとんど散った。ハルノノゲシ、カラスノエンドウが花盛り。ハハコグサ、ケキツネノボタンなどの花も。

午後は五本松の裏にある狛江市西河原公民館で総会があり、新年度(4月から)の自然観察会について話し合った。ビデオ作品やデジカメ写真の紹介などもあった。

観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、コガモ、カルガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、キンクロハジロ、キジ、トビ、シギsp、セグロカモメ、ユリカモメ、キジバト、カワセミ、コゲラ、ヒバリ、ツバメ、ハクセキレイ、キセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、モズ、ウグイス、ツグミ、ホオジロ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシブトガラス、ドバト、ベニスズメ。