多摩川散策日記2002年2月)

文:上田大志

 

 

2月2日 是政橋〜大栗川合流点(31〜33km付近/右岸)/上河原ワンド(25〜26km付近/左岸)

フィールドスコープを担いで大丸用水堰上流のカモたちの楽園へ。ヒドリガモの群れの中に、今日はキンクロハジロの姿がなく、代わりにコガモが多く見られる。少し離れたところに真っ白な水鳥を1羽発見。ミコアイサだ。その潜水の活発なことといったらカイツブリ以上。1〜2秒顔を出しては10秒潜るという具合で、なかなかじっくりと観察させてくれない。最近、堰上流一帯の土砂堆積が目立つようになってきた。そのうち浚渫でもするのだろうか。そうなった場合の自然環境への影響が心配される。観察できた野鳥は、カイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、コガモ、カルガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、ミコアイサ(1)、トビ、セグロカモメ、キジバト、ドバト、カワセミ、コゲラ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、ヒヨドリ、モズ、ツグミ、ホオジロ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシブトガラス。

上河原ワンドへ。ワンドの上流部分に堆積した土砂を取り除く工事は終了しており、埋まっていた上流側の流路がワンド本体とつなげられた。土砂を掘り返したことで湧水が増えたのか、水はとても澄んでいる。ノスリやハヤブサなどを観察して、帰宅。

 

2月9日 永田橋〜羽村取水堰(52〜54km付近/左岸)

羽村取水堰は魚道新設工事中。魚道が設置されるのは右岸だが、車両や資材は左岸から搬入されるので、多量に土が盛られて、堤防上から流れを横切る長い斜路がつくられている。堰下流の床止めや玉川上水の第二水門でも改築工事が行われている。

今日は日本野鳥の会奥多摩支部の「羽村堰周辺植物観察会」に参加した。玉川上水沿いを歩きながら、木々の冬の姿をじっくりと観察した。樹木を冬芽や樹皮の特徴で見分けるというのは、僕にとってはほとんど未知の世界で、「葉や花を見れば簡単に区別できるのに…」と新鮮な驚きの連続だった。

新堀橋を過ぎると武蔵野らしい雑木林が広がる。コナラやクヌギに加えてイヌシデやモミなども見られる。アオハダ、ヤマコウバシ、ウグイスカグラ、ヤブニッケイ、カマツカなども教えていただく。梢の上では、シジュウカラの群れに交じってオレンジ色のヤマガラが1羽、ツィーツィーと鳴きながら枝から枝へと飛び移っている。エナガの群れもやってきた。

 かに坂公園。対岸では「河道修復プロジェクト」による石河原の造成工事が大規模に行われており、大型ユンボや10トンダンプが小さく見える。昨秋の洪水によって丸石河原が広がったり、水際が大きく洗掘されたこと。また“あるべき”姿を人工的につくり出すということ。「多摩川らしい」自然とはいったい何なのだろうか…

 永田橋まで歩いて解散。

観察できた野鳥は、カイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、マガモ、カルガモ、トビ、ユリカモメ、キジバト、ドバト、コゲラ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ツグミ、ジョウビタキ、エナガ、ホオジロ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、シメ、ムクドリ、シジュウカラ、ヤマガラ、オナガ、ハシボソガラス、ハシブトガラス。

 

2月10日 柳沢渓谷

今年も“氷のシャンデリア”を見ようと早朝から源流に出掛けたのだが、この冬は暖かい。僕の住む東久留米では雨はよく降るが、これまでに雪が積ったことはない。源流部でも暖かなのだろう。奥多摩湖の湖面は凍っていないし、標高1000メートル以上の柳沢渓谷に来ても、氷柱(つらら)は日陰にしか見られないし、両岸に薄氷が張っているということもない。ただ積雪は結構あり、膝まで埋もれながら沢に下りる。

撮影を終えて車に戻ると、粉雪が舞い始めた。

 

2月12日 多摩川流域懇談会第24回運営委員会

 せせらぎ館で多摩川流域懇談会の今後の活動について話し合われ、3月に「第11回多摩川流域セミナー」と、「水流実態解明キャラバン」を開くことが決まった。「キャラバン」は4月以降、流域各地で展開されていくことが期待される。

 

2月15日 大丸用水堰(32km付近左岸)

よく晴れたが風は冷たい。東京の冬らしい一日。府中本町と多摩川ふれあい教室に行ったついでに多摩川に寄る。1羽のオナガガモが、ヒドリガモの群れを押しのけて給餌のパンを独り占めしようとする。じっとしていると川風ですぐに耳が痛くなる。早々に退散。

 

2月17日 東海道本線鉄橋〜丸子橋(6〜13km付近/左岸)

多摩川の自然を守る会の定例自然観察会。

今日歩く区間は運動場や人工の公園ばかり。何しろ『多摩川水系河川整備計画』でも、自然系空間は一箇所も設定されていないのだ。よく“大都市の中のオアシス”と称され、自然が比較的多く残されている多摩川ではあるが、かつて河川敷開放計画の中で、その多くがグラウンドとして“開放”されてきたことも忘れてはならない。

京急線、東海道線、京浜東北線がひっきりなしに通る鉄橋をくぐって上流へ。六郷橋の下流ほどではないが、水際にはホームレスホームが建ち並ぶ。ひょうたん池と称する釣り堀がある。対岸は高層マンションが建つスーパー堤防、そして洪水時の浸水被害が深刻な戸出地区。テトラポッドの間からヨシガモのペアが2組登場。陽が当たるとオスの頭が七色に輝く。

しばらく行くと、流れは“逆S字”に大きくカーブしている。岸辺散策路や多摩川大橋下流の緊急用船着場は工事中。橋の上流も運動場ばかりだが、水辺には帯状に自然の緑が残されている。

ラジコンボートが騒々しい(1台だが)。ガス橋の下でエアガンを乱射している集団がいる。橋桁に跳ね返っているところを見ると、かなりの威力がありそうだ。

ヒドリガモの群れが陸に上がって青草を食べている。僕らが脇を通ると一斉に水面に舞い降りる。「ピュー、ピュー…(早く行けよ!)」。高水敷はひたすらグラウンド、グラウンド、グラウンド!みんなの歩くテンポも速くなる。

 新幹線鉄橋の下流に多摩川最下流の石河原が広がる。秋にはアユの貴重な産卵場になっているそうだ。今日初めて川の流れる音を聞く(これより下流ではゆったりと流れていて瀬はないので)。古屋さんがカワラサイコを見つける。カワラサイコは多摩川の石河原を代表する植物のひとつ。これもまた最下流の株なのだろうか。

丸子橋まで歩いて解散。浅間神社の高台から多摩川を眺め、先月の出発点である多摩川駅へ。家に帰る途中、雨が降り始めた。

観察できた野鳥は、カイツブリ、カワウ、コサギ、コガモ、カルガモ、ヨシガモ、ヒドリガモ、キンクロハジロ、トビ、セグロカモメ、ユリカモメ、キジバト、ドバト、ハクセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、モズ、セッカ、ツグミ、ジョウビタキ、スズメ、ムクドリ(多)、シジュウカラ、ハシブトガラス、アヒル。

 

2月18日 多摩川市民フォーラム第3(いきもの)研究会

 外来種や遺伝子の問題について、多くの人に関心を持ってもらうためにはどうしたら良いだろうか。目的を明確にしたフィールドワークや討論会などを企画し、多くの人に参加を呼びかけていくことが求められる。

 

2月23日 丸子橋〜等々力(13〜15km付近/右岸)

 調布取水堰下には今日も大勢の釣り人。浅瀬を渡った砂利河原にヘラ釣りの人が並んでいる。水辺(右岸)を上流の等々力へ。

河川敷内に復元された小川“魚濫川”。危なげな板橋を渡って本川との間を歩く。昨年の洪水で水際が大きく洗掘されて“ヤセ尾根”状態になっているが、自然は豊かなところだ。草やぶの中からはチッ、チッ…とアオジの声が聞こえてくる。ヨシ原の片隅ではパチン、パチン…と音をたてながらオオジュリンが餌になる虫を探している。本川の河道は入り組んで変化に富み、多くのカモたちが羽を休め、小魚を狙ってカワセミが水に飛び込む。陽だまりでは“菜の花”(種は不明)やホトケノザが咲き出し、青々としたカラスノエンドウのじゅうたんも広がり始めた。

これらの環境を活かした「水辺の楽校」計画が、地元市民団体の手で進められている。この4月にも「開校」したいということである。付近の土手では、桜の植樹活動も盛んに行われている。

ここはちょうど1年前に歩いている。そのときと比べて他に気付いたことは、中州の植生が流失して砂利河原が広がり、木々に流されてきたゴミが引っ掛かったままになっていることと、水際線が後退して“魚濫池”が本川とつながり、上流側に開口した“ワンド”になったこと。

観察できた野鳥は、カイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、コガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、ハシビロガモ、イカルチドリ、イソシギ、セグロカモメ、ユリカモメ、キジバト、カワセミ、ハクセキレイ、ヒヨドリ、モズ、ツグミ、アオジ、オオジュリン、カワラヒワ、ムクドリ、ハシブトガラス。

 

2月24日 宿河原(22km付近右岸)

宿河原堰直下のコンクリートの“たたき”部分には、洪水で堆積した砂利の中州がまだ残っている。上空をヒメアマツバメの群れが飛び交っている。観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、マガモ、コガモ、カルガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、キンクロハジロ、イカルチドリ、イソシギ、セグロカモメ、ユリカモメ、ドバト、ヒメアマツバメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、ハシブトガラス。

今日はせせらぎ館で「特定非営利活動法人多摩川エコミュージアム」の設立総会が行われた。多摩川エコミュージアムの目標は、多摩川を軸に流域の歴史や文化を活かした地域づくりを進めることである。NPO法人格の取得によって、川崎市民の活動がさらに発展することを願っている。

 

2月28日 宿河原堰(22km付近右岸)

宿河原堰付近の観察。霧雨が降ったり止んだりしている。24日に来たときよりもマガモの数が増えた。今日もヒメアマツバメが30羽ほど乱れ飛ぶ。カワウ、アオサギ、マガモ、コガモ、カルガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、キンクロハジロ、イソシギ、セグロカモメ、ユリカモメ、ドバト、ヒメアマツバメ、ハクセキレイ、スズメ、シジュウカラ、ハシブトガラス。

今日はせせらぎ館で「TRM検討懇談会」、引き続き「多摩川市民フォーラム第6回運営委員会」が行われた。“流域まるごと博物館”を目指す多摩川流域リバーミュージアム(TRM)は、ここ狛江・宿河原地区で昨年7月から試行運用されてきたが、その進め方のプロセスや情報交流の方法などには少なからず問題があったと思われる。3月17日に開催される「第11回多摩川流域セミナー」のテーマは「TRMへの期待」。今後に向けた前向きな意見交換になることを願っている。