多摩川散策日記2002年11月)

文:上田大志

 

 

11月2日 大丸用水堰付近(31〜33km付近/右岸)

晴れときどき曇り。堰上にキンクロハジロが到着した。中州の石河原には数百羽のカワウがひしめいている。カイツブリ、カワウ(数百)、コサギ、ダイサギ(多)、アオサギ(多)、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、キンクロハジロ、トビ、イソシギ、ユリカモメ、ハクセキレイ、ヒヨドリ、モズ、ジョウビタキ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、ハシブトガラス、ドバト。

 

11月3日 多摩大橋(44km付近右岸)/日野用水堰〜拝島橋上流(45〜47km付近/左岸)

晴れ、風あり。日本テレビから「多摩川で行われているサバイバルゲーム、ラジコン飛行機、モトクロスなどの実態と問題点を取材しているので協力して欲しい」と依頼があり、柴田さん、多摩川上流出張所の大石さんと現地へ。

これらの行為に対して僕は、“さまざまな利用者の憩いの場としての多摩川”、“動植物の生息の場としての多摩川”などの面から反対である。また、「川らしい自然や生態系を取り戻していこう」という昨今の風潮を考えても、相応しくない行為と言えよう。

しかし、彼らも多摩川での休日を楽しむ仲間。問題の解決のためには、考え方の異なる人どうしが情報を共有し、意見交換をすることができる場を設け、自由な発言と徹底した議論を通して、どうするのがみんなにとって、多摩川にとって望ましいのかを考え、合意形成を目指していく必要がある。

日野用水堰上流のワンドには、出水で土砂が堆積し、歩いて“中州”に渡れるようになった。

取材終了後さらに上流へ。水際の踏み跡はすぐになくなり、猛烈なヤブコギをして土手に上がる。国道16号をくぐり、拝島自然公園を横切って水辺に出る。水量が少ないので、夏には川底になってしまう“ナメ”と丸石の川原を歩いて行ける。ハリエンジュ林の中にある沼は干上がりかけている。ここの水は本流の増水時に補給されるだけなのだろうか。ワイワイ言いながらドジョウを捕まえている人たちがいる。水たまりではたくさんの小魚がピチピチ跳ねているが、生き延びることができるのだろうか。水鳥たちにとっては最高の餌場だろうが。この秋はじめてのカシラダカ。ツグミの姿はまだ見ない。街道に上がって立川行のバスに乗る。

カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、トビ、カワセミ、コゲラ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、モズ、ジョウビタキ(多)、ホオジロ、カシラダカ(1)、スズメ、カワラヒワ、ムクドリ、ハシブトガラス。

 

11月4日 大丸用水堰付近(32〜33km付近左岸)

晴れ。多摩川ふれあい教室へ。郷土の森前の土手は、またまたキレイに草が刈り取られてしまった。9月に刈ったばかりで、草丈もそれほど伸びていないのに、これほどの頻度で行う必要があるのだろうか。カラスの執拗な攻撃に苛立ったトビがユリカモメに襲いかかる。日中もかなり寒くなってきたが、まだナキイナゴがシャカシャカ…と鳴いている。カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、キンクロハジロ、トビ、イソシギ、ユリカモメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ジョウビタキ、スズメ、カワラヒワ、シジュウカラ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ドバト。

 

11月7日 狛江水辺の楽校(22km付近左岸)

曇り、寒い。狛江市立第六小学校の2年生68人が、生活科の時間で狛江水辺の楽校に出かけ、“植物図鑑”をつくるので、その手伝いに行く。

朝、六小に行く途中、水辺の楽校を通って行くと、もう1年生が元気に活動している。“楽器”をつくるので、気に入った木の枝を拾いにきたそうだ。“くるみ村”の脇に、ブルーシートをかけた自転車やパイロンなどの粗大ゴミが積まれている。水辺の楽校スタッフの竹本さんたちが集めてくださったのだ。行政が早く回収してくれるとうれしいのだが。

六小から水辺の楽校までは10分ほど。子どもたち68人は6グループにわかれて、水辺の楽校を探検。植物を観察しながら、各自のお気に入り(実、種、花、葉…)を見つけ、少しずつ取ってくる。

メインは“ひっつき虫”コセンダングサ、アメリカセンダングサ、オオオナモミ、ヒカゲイノコヅチなどの種。セイタカアワダチソウ、コセンダングサ、メマツヨイグサなどは、まだ花が咲いているもの、実になっているもの、もう種が熟しているものが見られておもしろい。また“すすき”銀色のオギ、“ねこじゃらしの親分”チカラシバ、“ばくだんどんぐり”クヌギなども大人気。赤いノイバラやとげとげのアレチウリの実なども。

ふと見ると、アシの茎にエンマコオロギが突き刺さっているではないか!“モズのはやにえ”にみんな興味深々。でも「学校に持ってかえる?」と聞くと、「怖いからやだよー」「のろわれちゃうよ!」。キリキリキリ…「ほうら怒っているよ!」。クェケッ!寒い北の国からツグミもやってきた。

くるみ村に戻って図鑑づくり。取ってきた“宝物”をボンドで色画用紙に貼って自由にデザイン。そのままでも、絵を描いても、思ったことを書いても…オリジナル図鑑のできあがり。重たいものがなかなかくっつかない。セロテープも持ってくれば良かったな。

こんなに寒くて大丈夫かな、という心配は杞憂に終わる。子どもたちはとにかく元気。楽しかった2時間はあっという間に過ぎ、もう六小に帰る時間。「ここは自然がいっぱいだ!」「今度は鳥をみてみたい!」

最後に、30年前に多摩川の自然を守る会の自然観察会に参加した六小の3年生(当時)の感想文を紹介する。「僕が生まれる前から、多摩川をみんなで大切にしてきたんだ。六小のお兄さんお姉さんたちもみんなここで遊んだんだよ。」

みんなの家は多摩川の近く。子どもたちはこれまでにも多摩川に来たことがあるだろうが、今日の体験が多摩川の自然に興味を持ち、そして自然は大切にしなくちゃいけないな…と思うきっかけになることを願わずにはいられない。

帰り道、横山十四男さんが、新聞記者に水辺の楽校を案内しているところに出会う。また、せせらぎ館でやっている、航空写真による「かわさきの場所と変遷展」を見ていく。

 

11月9日 大丸用水堰上流(33km付近左岸)ほか

晴れ、風が冷たい。多摩川ふれあい教室へ。

気がつくと、ガガイモの実があっちにもこっちにもぶら下がっている。黄緑色でぶよぶよしている。押すと白い乳液も出てきたので、まだ熟していないんだな、と割ってみると、中にはすでに銀色の綿毛をまとった種がぎっしり詰まっていた。

昼休み、子どもたちと芝生広場でお弁当。カメのお散歩。「大きくなったらここで働きたいな!」…この仕事をしていて、最も嬉しい瞬間である。

* * *

夜は永田へ。野鳥標識調査のベースキャンプで自然環境アカデミーのメンバーと星空を見上げる。冬鳥情報なども教えていただく。

プレアデス星団(すばる)が輝いている。オリオン座が昇りつつあるが、夏の大三角もまだ見えている。アンドロメダ銀河はちょうど真上。首が痛くなる。

それにしても寒い。とても11月半ばだとは思えない。まだ9時だというのに、周囲には霜が降りていた。

 

11月10日 大丸用水堰上流(33km付近左岸)

快晴。多摩川ふれあい教室へ。

今日は「たまリバーアート〜秋の野草でネイチャークラフト」。多摩川の草の実や落ち葉などを色画用紙に貼って工作。7日にやった狛江六小の「植物図鑑づくり」のようなものだが、今日は自然の材料で何ができるかを考え、動物や虫、顔などを自由につくってもらった。

参加者は親子連れなど10名。土手の陽だまりで楽しい時間を過ごした。「今日が楽しみで昨日からドキドキしてたんだ!」下敷きにしようと段ボールを持っていったら、(期待通り?)子どもたちは土手すべりに夢中!

 

11月16日 拝島水道橋〜睦橋(47〜49km付近左岸)

曇り、寒い。

最近の冷え込みで季節が一気に進み、雑木林のケヤキやコナラの紅葉が美しい。川原のオギやカワラサイコも鮮やかに色づいている。花期の長いカワラニガナの花ももう見られない。エノキやムクノキにはツグミが群れ、大騒ぎをしながら実をついばんでいる。ハクセキレイとセグロセキレイに交じってタヒバリが1羽。河川敷のあちこちから湧き出している水をぬるく感じる。

突然ガビチョウがのんびりと歌いだす。この寒空には何とも不似合いだ。

拝島水道橋から昭和用水堰にかけての河川敷には、電化製品などの粗大ゴミが多数散乱していて気分が悪くなる。

堰が改修されて味も素っ気もなくなった昭和用水の取り入れ口、つい先日まであった古い水門(一町二箇村用水樋管)が懐かしい。今は草むす九箇村用水取水口跡も見る。

秋川合流点。流れは出水の度に変わっているが、辺りは広い広い丸石河原。

 

11月17日 浅川

曇り、肌寒い。八王子をフィールドに「多摩川水流解明キャラバン(浅川パート2)」が行われた。

大沢川・城山川合流点…下水道の普及が遅れている八王子市においても、特に未整備地域を多く抱えているのがこの大沢・城山川流域。どんよりと澱んだ流れは悪臭を放ち、洗剤の泡も浮かんでいる。多摩川→浅川→城山川→大沢川と、多摩川の水質を改善するには、支川、その支川、さらにそこに流れ込む水…をきれいにしなくてはならないことを思い知らされる。

泉町湧水群…住宅地の中にひっそりとたたずむ湧水池。「榎池」と呼ばれ親しまれている場所で、かつては子どもたちが飛び込んで泳いでいたが、その水量は30年前と比べると10分の1になってしまったそうである。「付近で緑と清流が残されている場所がここだけになってしまったなんて、あまりにむなしい。」という声もあった。

浅川渓谷…小仏層と上総層が露出している深い谷は、火口を覗いているようで大変印象的である。市街地から数kmのところとは思えない、不思議な光景が広がる。近くの堰からは農業用水が取水されている。

陵北大橋…山入川が北浅川に合流するところ。河床勾配が急で、治水上やむを得ないとは言え、コンクリートで何段にも区切られた川は痛々しい。しかも、最下段の落差工まで水がまったく流れていない。その下で伏流水が湧き出して流れが復活しているが、自然事象の“伏流”と人工物による“瀬切れ”は分けて考えるべき。

昼休み、八王子市役所前の河川敷を歩く。グラウンドゴルフ大会が行われている広いグラウンドと、階段護岸ばかりでつまらない。南浅川には水がほとんど流れていない。少し上流に架かる橋は“水無瀬橋”。流れが伏流するのはこの辺りの自然の特徴のようだが、それだけが原因だろうか。

北浅川化石群…海成層の河原では、メタセコイアの株やステゴドン象の足跡などの化石、琥珀などがたくさん見られ、子どもたちの遊び場、環境学習のフィールドとして最高の場所だ。しかし、残念なことに水質は決して良くない。あちこちから流れ込んでいる下水が悪臭を放ち、川底の石裏にはヒルがうじゃうじゃいてゾッとする。早く子どもたちが安心して水遊びが楽しめるようにしたいものだ。

中野明神様の湧水…子安神社の境内からこんこんと湧き出す泉。そこから流れ出す小川で野菜を洗っている人がいる。流れの行方はどうなっているのだろうか。こうした財産を浅川→本川の水質、水量の改善に活かしたいものだ。

元横山町ワンド…省略。

また、「最近はとにかく水量が少なくなった。源流、水源林に焦点を当てたキャラバンをやりたい。」という声もあった。

 

11月20日 上河原堰上下流(25〜26km付近/左岸)

曇り、肌寒い。

上河原堰上流の送電線には200羽を超えるカワウ。中州に2本あったヤナギの高木が1本だけになっている。洪水で流されてしまったのだろうか。ヒドリガモが堰の落差部分にしがみついて水草を食べている。水と一緒に流れ落ちてしまいそうだ。

“大ワンド”はすっかり浅くなり、大きな中の島が出現している。土砂堆積が進んでいるようだが、伏流水の量が減っていないか気掛かりだ。

府中用水の樋管の下流では、“災害復旧”工事が行われており、河川敷はそのブロック置き場になっている。

カイツブリ、カンムリカイツブリ、カワウ(多)、コサギ、ダイサギ、アオサギ、コガモ、カルガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、キンクロハジロ、オオバン、イソシギ、セグロカモメ、ユリカモメ、カワセミ、ヒバリ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、ツグミ、アオジ、スズメ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ドバト。

 

11月23日 大丸用水堰付近(32km付近左岸)

曇り、真冬の寒さ。多摩川ふれあい教室へ。マガモがたくさん渡ってきた。ガガイモの綿毛舞いだす。カイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、マガモ、コガモ、カルガモ、セグロカモメ、ユリカモメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、ヒヨドリ、モズ、スズメ、カワラヒワ、シジュウカラ、ハシブトガラス、ドバト。

 

11月30日 大丸用水堰付近(32〜33km付近左岸)

晴れ。風もなく小春日和の一日。多摩川ふれあい教室へ。カンムリカイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、マガモ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、イソシギ、ユリカモメ、キジバト、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、ヒヨドリ、スズメ、カワラヒワ、ハシブトガラス、ドバト。コマツヨイグサの花が咲きつづけている。