多摩川散策日記2002年10月)

文:上田大志

 

 

10月1日 台風21号襲来(直撃)

今回の台風は速度が速く、その接近に伴って夕方から風雨が急に強まり、特に浅川橋(八王子市)では17時〜18時の1時間に46mmの猛烈な雨が降った。この傾向は水位グラフにもよく表れ、急激な増水により、石原(調布市)、田園調布(大田区)、浅川橋で警戒水位を突破した。ただ幸いにも雨は短時間で止んだので、その後水位は順調に下がっていった。

台風は20時半ごろ川崎市付近に上陸した後、2日0時には仙台市付近に進んだ。東京では夜半前には晴れ間が広がり、翌日は台風一過の青空。

多摩川流域の累加雨量は、小河内138mm、多摩川上流出張所180mm、多摩出張所104mm、浅川橋199mm、田園調布出張所69mm。

 

10月5日 永田橋〜羽村取水堰(52〜54km付近/左岸)

晴れ、汗ばむ陽気。多摩川を飲める水にする会と全水道東京水道労働組合の主催で「多摩川クリーン&ウォッチング(第12回)」が行われ、主催団体や多摩川市民フォーラムのメンバーなど50名ほどが参加。

福生駅に集合し、田村酒造へ。田村分水や酒蔵などを案内していただく。台風の通過から4日、玉川上水の水はまだ白濁している。

道端のゴミを拾いながら、玉川上水沿いに羽村堰へ。郷土博物館の前で昼食。水量豊かな堰上の多摩川はやはり川らしい。台風時に払われた投渡堰は“仕付け”作業中。本流から玉川上水を取水する第一水門の上まで案内していただく。

堰下流の河川敷でゴミ拾いをして解散。水たまりでキチョウの群れが吸水している。

ここに多摩川の水流に関係するみんなが集まり、多摩川に望ましい水質と流量を取り戻すにはどうしたら良いのか、自由に語り合える機会が持たれることを願っている。

 

10月6日 大丸用水堰(32km付近左岸)

晴れのち曇り。多摩川ふれあい教室へ。多摩川は水量豊富。堰のゲートは開いているが、川幅いっぱいに流れている。でも、もう濁りは見られない。今回の出水で、堰上の中州(上流側)の侵食が進んだ。コサギとダイサギの群れ。コマツヨイグサとアカバナユウゲショウがまだ咲いている。

 

10月9日 万年橋上流(62km付近左岸)

曇り、涼しい。丸石河原のカワラニガナは元気に、レモン色の花をたくさん咲かせている。花期が長いこともあって、周りに散らばった種が発芽し、群落が広がりつつある。残念ながらカワラバッタは見つからない。

 

10月10日 宿河原(22km付近右岸)

晴れ、風の冷たい一日。TRMでせせらぎ館へ。

青空にセイタカアワダチソウの黄色が映える。カワウ、コサギ、ダイサギ、イソシギ、キジバト、コゲラ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、ヒヨドリ、ハシブトガラス、ドバト。冬鳥の姿はまだ。

川崎市立玉川(ぎょくせん)小学校の4年生(95人)、宿河原小学校の4年生(45人)がやってきた。田中さん・梶谷さんと、多摩川の自然や歴史、せせらぎ館やTRMの活動などを紹介する。川原を走り回ってきた子どもたちの服には、コセンダングサの種がいっぱい!

 

10月12日 野川(世田谷)

さわやかな秋晴れ。野川流域連絡会(生き物分科会)の生き物観察会が、上流部(野川公園周辺)と下流部(神明の森みつ池周辺)の2班に分かれて行われた(僕は下流部に参加)。

小田急線の喜多見駅から5分ほどで野川に出る。メタセコイアの天辺でモズが縄張り宣言をしている。流れが一部、赤茶色に濁っている。これは鉄バクテリアの色で、汚染物質が流入しているわけではないとのこと。ここから神明橋まで、500mほどの距離を野鳥のラインセンサス調査をしながらゆっくり歩いて行く。出水時に根元が洗掘され、治水上危険なので撤去したいという樹木も、野鳥をはじめいきものにとっては大切な生活の場。今日もカワセミが何度も飛んできては止まり、ゴイサギが休み、その木陰にはカルガモが憩う。

水中と陸上に分かれて観察。僕は“えのきん”たちと川の中へ。流れの緩やかなところにはメダカの群れ。でもよく見るとグッピーが何匹か交じっている。水際の草陰にはヌカエビがびっしりいて、湧水の流れる野川を特徴づけている。他にはモツゴ、タモロコなど。コイはでかいのばかりで、どじょっこ、ふなっこの姿はなし。メダカは遺伝子鑑定をすると純粋な“野川産”ではないらしいが、ここに定着しつつあり、住民にも“メダカの棲む川”として親しまれているそうだ。陸上の観察の様子はわからないが、セイバンモロコシなど外来種の植物が目立ったようだ。

みつ池の湧水群と雑木林を(柵の外からだが)見て、解散。

 

10月13日 大丸用水堰上流(33km付近左岸)

今日もさわやかな秋の一日。多摩川ふれあい教室へ。多摩川の水は透き通っている。オギの穂が出てきた。銀色の光沢があって美しい。コサギ、ダイサギ、カルガモ、イカルチドリ、イソシギ、セグロセキレイ(多)、ヒヨドリ、モズ、ホオジロ、スズメ、カワラヒワ、シジュウカラ、ハシブトガラス、ドバト。

午前中、滝山なかよし子ども会が来室。僕の母校、東久留米市立第七小学校の子どもたちの元気な顔を見ることができた。

 

10月14日 多摩大橋〜日野用水堰上流(44〜46km付近)

晴れ、汗ばむ陽気。

「多摩川と生きる昭島市民の会」の西山さんから、平井川に水辺の楽校をつくろうと頑張っている「川原で遊ぼう会」の方を、昭島の水辺の楽校予定地に案内するとのメールが届く。今日は体育の日。多摩川には、河川敷のグラウンドでスポーツを楽しむ人が、朝から大勢集まり、八高線鉄橋下(左岸)に入りきらない車が、路上に溢れ出している。川原で遊んでいる人は少ないが、子どもたちにとっては、水遊びや魚とりのできる澄んだ流れ、多くの化石も出土する第三紀露頭の川原、伏流水が流れ込む湿地…一日中遊んでいてもあきることはないだろう。

午後は、この渇水期に行われる日野用水堰の改築工事に伴う、生物調査兼現地検討会があり、カワラバッタを見ながら川をジャブジャブ渡って、右岸の集合場所へ。参加したのは「多摩川の自然を守る会」「八王子カワセミ会」「多摩川と生きる昭島市民の会」と、工事を担当する東京都農業事務所のメンバー。工事で“仮締切り土堤”をつくる際に、生態系保持空間にも指定されている堰上流の自然豊かな中州の一部を削るというので、事前に市民団体とその部分の植生などを調べようというもの。都が準備してくれたゴムボートで中州に渡る。エノキやムクノキなどが生えている。ノスリにでも襲われたのか、あちこちに鳥の羽毛が散乱している。ひと通り調査を終えて、中州のジャングル探検。やぶをこぎこぎ進み、浅瀬を見つけて川を渡る。小中学生の頃はこんな遊びばかりしていたなあ…

 

10月19日 浅川

曇り。「多摩川水流解明キャラバン(浅川パート1)」が行われ、浅川下流部における水流の実態を見学した。参加者は地元の市民団体、日野市、京浜工事事務所など53名。午後は日野市役所の会議室でキャラバン後の意見交換と、浅川勉強会が主催するシンポジウム「農と水循環」が行われた。

* * *

@八王子市元横山町ワンド…護岸工事の事前生物調査で希少種ホトケドジョウが確認され、伏流水を利用して掘ったワンドに“移住”させた。度重なる出水の影響を受け、ワンドの環境は変化してきている。ポイントは生き物に配慮した環境整備、治水と環境の調和、人工的に“自然”をつくることの難しさ、などだろう。

A長沼橋湯殿川合流点…浅川は河床勾配が急で水害がおこりやすく、いつもどこかで改修工事が行われている。また、工事にあたって湧水の流れを保全したこと、多摩川の支川浅川に流入する川の水の問題、農業用水の取水、などもポイントだ。

B百草農業地区…菜園が広がり、いろいろな野菜からりんご、ブルーベリーなどまでが栽培されている。谷戸田、炭焼き小屋なども見られ、周囲の住宅地とは別世界。里山の保全、雑木林や小川などと農業・人々の暮らしとのつながり、など。

C多摩川への合流点…河川敷に“ワンド”を掘り、コンクリート張りの程久保川を蛇行させた。そこには瀬と淵ができ、生態系も豊かになった。親水や生態系など様々な視点から、ひとが自然を“復元”した場所だ。

D七尾中学校…豊富な地下水が湧きあがっている自噴井戸、その水を利用した“学校ビオトープ”、浅川へのせせらぎ。「水辺の楽校」をはじめ盛んになってきた子どもたちや学校の取り組み、湧水がもたらす環境と浅川の水質・水量への寄与、など。

* * *

このように、湧水・地下水の利活用、生き物・生態系を重視した環境整備、ひとが自然を復元すること、子どもたちや学校の取り組み、などのキーワードが出た。そして、これらすべてに流れているテーマは“市民参加”である。欲を言えば、日野周辺に数多く残されている農業用水と環境水路としての役割についてもふれたかったが…

「浅川パート2」は、11月17日に八王子を舞台に行われる。

 

10月20日 小菅村

曇りときどき雨、肌寒い。「小菅村・第5回大地の恵祭」に参加。

早朝に着いたので付近を散策。収穫したソバを干している。トチノキやコナラなどの葉が色付いてきた。ジョウビタキがやってきた。

祭は、流域の子どもたちの源流体験、そば・こんにゃくなど特産品の販売、大菩薩御光太鼓など郷土芸能の公演などが行われ、僕は“源流の森の再生”コーナーに参加した。間伐作業を体験できるはずだったが、残念ながら雨のためできず、北都留森林組合の作業所で工作などをした。

組合で取り扱っているのはスギが中心ということだが、これで家を建てる人は少なくなってしまい、作業所に置かれている材木は、木杭用の細いものが目立つ。小菅村でも林業だけで暮らしている人は、もういないとのこと。

ところで、猿回しのコーナーも人気があったが、源流の魅力を満喫しようという祭の目的にはそぐわないと感じた。

 

10月22日 宿河原(22〜23km付近/右岸)

晴れ。堰下流の“プール”にまだ冬ガモは来ていないな、と思ったら、堰上流(河川敷)の“ビオトープ”には、すでにコガモ、ヒドリガモ、オナガガモなどあわせて20羽近くが到着していた。それぞれのオスのほとんどが、まだ地味な羽色のエクリプスだ。カイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、イソシギ、セグロカモメ、ユリカモメ、カワセミ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、スズメ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ドバト。

 

10月27日 大丸用水堰付近(32〜33km付近左岸)

晴れ。朝は冷え込むようになってきた。ジョウビタキのヒッ、ヒッ…という声で目が覚める。多摩川ふれあい教室へ。

郷土の森上流の河原では、フライフィッシングの講習会が行われており、10人ほどの釣り人がロッドを振っている。カイツブリ、カワウ(多)、コサギ、ダイサギ、コガモ、カルガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、トビ、イソシギ、ユリカモメ、カワセミ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、モズ、ジョウビタキ、スズメ、カワラヒワ、シジュウカラ、ハシブトガラス、ドバト。

 

10月29日 三窪高原

快晴。風が冷たい。久し振りに甲州街道経由で多摩川源流へ向かう。

塩山バイパスの「ガキ大将」で、楽しみにしていたネギ味噌ラーメンを食べる。

柳沢峠に車を置き、山道を登っていく。黄金色のカラマツ林を抜け、小さなピークを越えると三窪高原。ここは初夏のレンゲツツジで有名な場所だが、僕は静かな晩秋に来るのが好きだ。

「ハンゼの頭」からの展望はすばらしい。笠取山から飛龍山にかけての奥秩父主脈。その手前が多摩川流域になるのだ。登ってきた道を振り返れば、大菩薩嶺がどっしりと腰をおろしている。南には甲府盆地が広がり、富士と南アルプスの高峰は薄っすらと雪化粧をしている。

わた雲に日が隠れた。向こうの山は黒く陰り、手前には日が当たっているという幻想的な雰囲気の中、もう落葉したダケカンバ、紅いモミジ、深緑のウラジロモミ、金色のススキ…何と色彩豊かな眺めであろうか。

日陰には霜柱。マツムシソウが1輪、誰かの忘れ物のように咲いていた。