多摩川散策日記2001年12月)

文:上田大志

 

 

12月1日 一之瀬高原

落合から一之瀬高原へ。

犬切峠を過ぎると視界が開け、唐松尾山や飛龍山など、多摩川の水源をなしている2000m級の奥秩父の主脈が間近に望まれる。作場平に近づくと、あちこちで道が凍っている。

空気がぴいんとさえ渡り、物音ひとつ聞こえない。多摩川源流に冬がやってきた。木々はすっかり葉を落としているが、林の中には陽が奥まで射しこみ、暖かだ。今の季節、雪の少ないこの地方では、厚く積もった落ち葉を踏みながら静かな山歩きが楽しめる。

白樺林を見つける。地元の方が落ち葉集めをしていたので、「工作に使いたいのでシラカバの枝を少しください」と声をかける。金色の“針”が降り積った落葉松林には、かわいいまつぼっくりがいっぱい。

 

12月4日 「総合的な学習の時間in多摩川プロジェクト」情報交流会

多摩川をテーマに総合学習を実践している(しようとしている)流域の小中学校の先生方と多摩川センターとが情報共有と意見交換をする場で、今回で4回目。先生たちのネットワークである「(仮称)多摩川総合的な学習連絡協議会」をつくろうという提案があった。また「多摩川流域リバーミュージアム」と総合学習とのつながりについて、京浜工事事務所の担当者を交えて議論した。

 

12月8日 宿河原(22km付近)

午後から多摩川市民フォーラムの主催で、多摩川「水辺の楽校」交流会があり、その前にせせらぎ館前の河原で昼食をとりながら自然観察。

 今朝はかなり冷え込んだ。風はないが、水辺でじっとしていると寒い。今日は歩いている人も少ないが、対岸の狛江水辺の楽校には、親子連れの姿が見える。第三期露頭(7月7日ほか参照)を流れていた流路は干上がったようだ。シダレヤナギ大木群のうち1本(の葉)が変に黄色い。洪水が原因で枯れてしまったのだろうか。

観察できた野鳥は、カイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、マガモ、コガモ、カルガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、キンクロハジロ、イソシギ、ウミネコ、ユリカモメ、ドバト、ハクセキレイ、セグロセキレイ、スズメ、ハシブトガラス。

水辺の楽校交流会には40人ほどが参加し、マイクロバスで狛江水辺の楽校に移動して現地見学をした後、せせらぎ館に戻り情報交換会を行った。まず、日野市の潤徳小学校や滝合小学校の事例や、せせらぎ館周辺をフィールドに活動している狛江と川崎の取り組みが紹介された。続いて、魚らん川付近の自然環境(2月18日参照)を活かそうとしている等々力や、ワンド再生構想が水辺の楽校運動に発展した昭島(5月2日、11月21日ほか参照)など、これから水辺の楽校を立ち上げようとしている地区からPRがあった。「水辺の楽校プロジェクト」を推進している国土交通省からコメントもあった。

交流を通して、お互いに良い意味で刺激し合い、元気付けられ、新たな展開が期待できる催しになったと思う。

「水辺の楽校」がきっかけとなって、多くの人がありのままの多摩川の自然に親しむようになることを願わずにはいられない。

 

12月13日 多摩川市民フォーラム運営委員会

12月19日に行われる「水流実態解明プロジェクト」の実行に向けた第1回準備会では、多摩川市民フォーラムとしての取り組みについても議論することになった。その他、8日に行われた「水辺の楽校交流会」の反省と今後の展開、TRMへのかかわり方などについて話し合った。

 

12月16日 中央線鉄橋〜睦橋(41〜49km付近)

多摩川の自然を守る会の自然観察会。今朝は冷え込んだ。集合場所の日野駅から多摩川に出ると、土手一面に白く霜が降り、水たまりには氷が張っている。

谷地川合流点上流一帯の原野は広く、生態系保持空間にも指定されている動植物の楽園だ(3月31日参照)。緑のジャングルが一面の枯野になり、季節の移り変わりを感じる。見通しが良くなり、枯れ木に止まっている小鳥の姿もはっきりとわかる。子どもたちがダンボールで土手を滑って遊んでいる。礫間浄化施設からは水がほとんど放流されていない。ラバーダムが“パンク”でもしているのだろうか、水面に気泡が上がっている。新旭橋を渡って対岸を少し戻り、多摩川(右岸)沿いを上流に。

多摩大橋下流の“釣り堀”(1月2日参照)には今日も大勢の釣り人、八王子排水樋管には洗剤の泡が。水際に出ると、第三紀露頭の河原が広がる。多摩大橋下にはサバイバルゲーマー数十人(6月10日参照)。橋をくぐって日野用水堰へ。ラジコン飛行機を飛ばす人10人、モトクロッサー5人ほど(6月10日参照)。

堰はこの渇水期に改修・魚道新設工事が行われるとのことだが(1月2日参照)、まだその気配はない。年明け早々に始めるのだろう。土手の陽だまりで昼食。朝はとても寒かったが、風がないぶん今は暖かい。中州の枯れ木にはノスリ。対岸でもラジコン飛行機を飛ばしている。堰上流の原野も広く、自然豊かなところ。ゆっくり観察したいところだが、目的地の睦橋まではまだ遠い。清掃センターの脇に出ると、ここにもサバイバルゲームの一団が(6月10日参照)。いつものメンバーだ。サバイバルゲーム、ラジコン、最近は減ったがモトクロス…自然が多く残されているところでは、大抵こんな問題を抱えている。自然保護の立場から反対するのは当然だが、彼らも多摩川で休日を楽しむ仲間。何とか良い解決策はないものか、いつも考えているのだが…

拝島橋を左岸に渡る。コゴメヤナギの木立がある拝島自然公園では、「昭島環境フォーラム」のメンバーが“野外忘年会”を楽しんでいる。水道橋付近の河原は、第三紀層の不思議な地形、変化に富んだ河川敷、対岸の丘陵の眺め…一日いても飽きることはない。昭和用水堰の手前には「霞堤」の名残。水鳥公園先の小橋を渡り、人工的な福生南公園を突っ切り(2月20日参照)、睦橋に出る。

帰りがけ、石川酒造に寄って、みんなで地ビールを味わいながら語り合い、楽しい時間を過ごした。

今日はいろんな野鳥が観察できた。カイツブリ、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、マガモ、コガモ、カルガモ、ミコアイサ、トビ、ノスリ、チョウゲンボウ、バン、イソシギ、ユリカモメ、キジバト、カワセミ、コゲラ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、モズ、ツグミ、ジョウビタキ、ホオジロ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、シメ、ムクドリ、シジュウカラ、ハシボソガラス。

 

12月19日 是政橋(32km付近)/二子橋〜東名高速多摩川橋(18〜21km付近/右岸)

 川崎方面に2つ用事があり、その合間に多摩川観察。多摩川へのアクセスにJR南武線は便利だ。

是政橋(10:45〜11:15)…橋上から上・下流の観察。水量は秋口と比較してかなり少なくなり、多摩川らしい石河原が広がっている。カイツブリ、カワウ、コサギ、コガモ、カルガモ、オナガガモ、トビ、セグロセキレイ、ツグミ、スズメ、ハシボソガラス。

二子橋〜東名高速多摩川橋(15:00〜16:30)…二子新地駅から多摩川へ。高水敷は広大なグラウンド。新二子橋の下ではヒドリガモが多数、羽を休めている。平瀬川を越えても、ワイルドフラワー、パークゴルフ場、グラウンドばかりのつまらない高水敷が続く(3月3日参照)。しかし水際には、玉砂利の河原やオギ原が広がっており、河川整備計画でも「F情操空間」に指定されている。9月の洪水で流されてきたらしい巨大な流木が何本も見られる。イカルチドリが飛び交っている。東名高速下流にはモトクロッサーが2人。カワウ、コサギ、コガモ、カルガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、イカルチドリ、イソシギ、ユリカモメ、ドバト、カワセミ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、タヒバリ、ヒヨドリ、ツグミ、スズメ、ハシボソガラス、ハシブトガラス。

 夕方からは、せせらぎ館で「水流実態解明プロジェクト」の準備会があり、みんなで現地を歩き、多摩川流域の水量や水質について、情報を共有し意見交換をする「(仮称)水流実態解明キャラバン」を流域各地で行っていくことになった。

 

12月21日 東京に初雪降る

 昼過ぎから夕方にかけて氷雨に雪が混じり、芝生や車のボンネットはうっすらと白くなった。

 

12月22日 是政橋〜大栗川合流点(31〜33km付近/右岸)

快晴なるも北風強し。ふつうなら南武線の鉄橋下には冬でも釣り人がいるものだが、今日は水辺にまったく人がいない。大丸用水堰上流の湛水域には、ヒドリガモ、キンクロハジロ、コガモなどの群れ。9月の出水の影響か、堰の上流は全般に土砂の堆積が著しい。大栗川合流部付近では、以前の澪筋は埋まり、流れが左岸(中州)側に大きく寄っている。カラスがダイサギを追いかけはじめた。すると驚いたことにダイサギは飛びながら身を翻し、羽をいっぱいに広げて、カラスを迎え撃つ。その勢いに呑まれたか、カラスは逃げ出した。広大なオギの枯野(1月3日参照)のあちこちからチッ、チッ…とアオジの地鳴きが聞こえる。

観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、コガモ、カルガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、キンクロハジロ、コジュケイ、トビ、イカルチドリ、セグロカモメ、ドバト、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、ヒヨドリ、ツグミ、ホオジロ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、シジュウカラ、ハシボソガラス、ハシブトガラス。

 

12月23日 大丸用水堰上流(33km付近左岸)

今日は多摩川ふれあい教室勤務なので、昼休みに川原で昼食。今朝は路面の水たまりが凍りつく冷え込みだったが、日中風はなく、陽だまりにいると暖かだ。大丸用水堰上流は左岸側も土砂の堆積が著しく、全般に浅くなって、大きな中州も現れている。特に今は堰のゲートを倒して放流しているので、左岸側には湛水域がほとんどない。そのためか、カモ類の姿がまったく見られなかった。スズメが1羽、足元にやってきた。パンのかけらを投げたら元気に食べていたが、随分やせている。無事に冬を越すことができれば良いが…。ユリカモメ、ドバト、コゲラ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイ、ホオジロ、スズメ、ハシボソガラス、ハシブトガラス。

 

12月26日 「西暦2000年の多摩川を記録する運動」総務会

「西暦2000年の多摩川を記録する運動」は、市民の眼で見た多摩川の現状や市民の持つ情報を発掘し、市民の記録として集積、公表することを目的として行われた。今後に向けて運動の成果をどのようにまとめるのか、記録写真、河川利用実態調査の結果、ビデオテープなど、大勢の運動参加者によって集められたデータの活用のしかたについて話し合った。

 

12月29日〜31日 安比高原

『多摩川散策日記』とは関係ないが、僕は毎年、年末を岩手の安比高原で過ごしている。安比(あっぴ)とはアイヌ語で“安住の地”を意味するという。辺りは一面白銀の世界。開放感あふれるゲレンデで存分に汗を流し、ゆったりとした温泉で心ゆくまでくつろぎ、暖かなペンションで暖炉を囲み、ウイスキーを傾けながら仲間と語り合う…。1年間の疲れなど一遍に吹き飛んでしまう。よし、来年も頑張ろう!