多摩川散策日記2001年11月)

文:上田大志

 

 

11月1日 宿河原

午後6時、せせらぎ館に着いたときにはもう完全に夜。ホットケーキのような、赤く真ん丸い月が出ている(帰るときには曇っていた)。ときどきドボーンというのは、大きなコイが跳ねる音だ。多摩川流域懇談会第23回運営委員会が開かれ、懇談会の位置付けや今後の活動について話し合われた。

 

11月3日 是政橋〜大丸用水堰上流(31〜33km付近)

多摩川ふれあい教室勤務。家を少し早く出て、南多摩駅から是政橋を渡って、府中市郷土の森まで歩く。朝から厚い雲が垂れ込め、今にも泣き出しそうな空模様。是政橋下流左岸の低水敷は、9月の洪水で見事な石河原になった。多摩川の流れは完全に落ち着き、水量が減ってきたので、10月7日に来たときに浅瀬だった場所の一部は、再び中州になっている。南武線鉄橋下のキクイモ群落は、夏に一度枯れてしまったせいか(7月20日参照)、草丈は低く、“芋”も小さい。コセンダングサの実がいよいよ“いが栗”になり始め、服に刺さって痛い。多くのバードウォッチャーと出会う。「もうすぐカモが渡ってくるぞと思うとぞくぞくするよ」と笑顔で話してくれた。僕が観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、イカルチドリ、ユリカモメ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、モズ、カワラヒワ、ハシブトガラス。

今日は定例観察会「種の宝箱をつくろう!」。午後1時、出発するときになって、とうとう雨が降り出す。1時間ほどだったが、多摩川の河川敷を歩きながら、秋の草木の種を集めた(僕は留守番)。ふれあい教室に戻ってきて“宝箱”づくり。スタッフ小谷さんのユーモラスな解説に、みんな「うーん、なるほど」と聞き入る。雨は残念だったが、参加者には満足していただけたのではないだろうか。

 

11月10日 根川合流点〜四谷本宿用水堰(37〜38km付近/右岸)

昨日から冷たい雨が降り続き、真冬を思わせる一日になった。日野クリーンセンター前の水たまり(10月2日ほか参照)の水は、少し減ったがきれいに澄んでいる。水際に近づくと、ザリガニが一斉に“後ろ跳び”で逃げ出す。カワセミが1羽、水面をじっと見つめている。

堤防を下り、本川と根川との合流点へ。根川の水は黒っぽく、分水路を流れてくる浅川の水は茶色く濁っている。

もう11月半ばだというのに、カワラナデシコは新鮮な花を、まだたくさん咲かせている。赤紫といっても良いくらい濃いピンクの花が、冷たい雨に打たれている。ヌルデの紅葉が美しい。テリハノイバラの赤い実。紅く色づいた草原にコゴメヤナギの大木がある風景はどこか高原風だ。

この辺りは「生態系保持空間」にも指定されていて、自然観察には最高のところだが、一方でサバイバルゲームやラジコン飛行機などを楽しむ人たちも多い(1月14日参照)。今日は誰もいなかったが、白い“BB弾”がそこら中に散乱しており、草の刈り込まれた“ラジコン基地”も痛々しい。

台風15号によって崩壊した四谷本宿用水堰(10月6日参照)はそのままで、相変わらず“工作物”のなくなった中央部を水が音をたてて流れている。

観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、ユリカモメ、カワセミ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、モズ、カシラダカ、カワラヒワ、シジュウカラ。

 

11月11日 宿河原(21〜22km付近右岸)

午後から多摩川市民フォーラムの運営会議があり、その前にせせらぎ館周辺(下流側)の自然観察。

9月11日の洪水で宿河原堰直下に現れた砂利の中州はすっかり小さくなった(9月15日参照)。茶色の頭にクリーム色のおでこをした、かわいいヒドリガモが戻ってきた。今日は風もなく、小春日和の一日。みんな陽だまりでのんびりしている。野鳥観察をしている若いカップル2組。対岸の「狛江水辺の楽校」を望むと、石河原には、まだ“茶色のかたまり”が散らばっている(9月16日、10月7日参照)。“砂浜”との間の段差(10月6日参照)は緩やかになってきた。砂利が拡散したのか、砂だけの部分が狭くなったように感じる。右岸21km付近の低水敷は一面の石河原になったが、伏流水の小川(6月2日参照)は残っており、今後どうなるか楽しみだ。東名高速道路上流(右岸)の河原は、一面のモトクロス場と化しており、人が通るだけでも危険な状態。一方左岸の水際は、洪水が来るたび洗掘されて“崖”になる場所。今年の春にも蛇籠をつくり直していた(3月3日参照)が、今回の出水でまたまた大きく削られ、蛇籠の列はかなりのダメージを受けている。「立入り禁止」の柵も見える。

観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カルガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、イソシギ、ユリカモメ、ドバト、セグロセキレイ、タヒバリ、カワラヒワ、ハシブトガラス。

多摩川市民フォーラムの運営会議では、同フォーラムの位置付けや、12月に行う「水辺の楽校交流会」について話し合った。

 

11月18日 睦橋〜羽村大橋(49〜53km付近)

多摩川の自然を守る会の自然観察会。朝はどんよりと曇っていて寒かったが、陽が射してくると暖かい。

睦橋から左岸を上流へ。土手沿いの桜並木が紅く色付き美しい。散歩やサイクリングの人に加え、今日は中学校の駅伝大会も行われており、堤防上はとても賑やか。河原に下りるとヘドロ臭く、水際の石は緑色に変色している。9月の洪水と、その後濁りがなかなか取れなかったことと関係しているのだろうか。

五日市線を越えると多摩川中央公園。駅伝大会の本部になっていて大変な人出。公園前には以前から丸石河原が広がっていたが(7月29日参照)、洪水で植生が流され、すっかり見通しが良くなった。

多摩橋をくぐり、サク、サク…と落ち葉を踏みつつ柳山公園へ。土手の陽だまりで昼食。

午後は永田橋を渡って右岸の河道修復実験地へ(10月20日ほか参照)。カワラノギクの実験地に着くと、何と花が咲いている。しかも何株も。半分泥に埋まりながらも、晩秋の青空に向かって薄紫の花をいっぱいに開いている。カワラノギクの実生はふつう2年目以降に花を付ける。種まきをしたとき(6月9日参照)には、まさか5ヶ月後に花を見ることができるとは思いもしなかった。一方、野生のものは本当に少なくなってしまったが、10月15日に来たときよりは多くの開花個体を見ることができた。

水際に出て石河原を上流へ。洪水で大きく削られた羽村大橋下(10月2日参照)を見て、解散となった。

観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、マガモ、キジ、トビ、ケアシノスリ?、イカルチドリ、キジバト、ドバト、コゲラ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、モズ、ツグミ、アオジ、スズメ、カワラヒワ、シジュウカラ。

 

11月19日 奥多摩むかしみち(83〜90km付近/左岸)

毎年11月18日〜19日は「しし座流星群」を観るチャンス。特に今年は大発生の期待が大きかった。しかし午前0時、寝るときには曇っていて星ひとつ見えない状態だった。どうせだめだろうとあきらめながらも午前4時、目をこすりながらベランダに出ると、雲ひとつなく透明な空に星がまたたき、冬の王者オリオン座は、はや西に傾いている。シリウス、ベテルギウス、リゲル、プロキオン、アルデバラン…冬の明るい星たちに加えて、木星と土星がすばらしい輝きを見せ、何と豪華な眺めであろうか。流星の方も期待を裏切らなかった。左でサッと流れたかと思えば、右でもスーッと。自宅に居ながらにして、赤や緑の火球が目の前を横切り、「流星痕」まで確認できるという夢のような世界。何しろ東久留米の自宅から南の空を見ていただけで、1時間ほどの間に100を超える流星を見ることができたのだ。もし光害のない澄みわたった山奥の空を見渡していたなら、どんなに素晴らしい眺めであったことだろうか。

さて、今日は多摩川と語る会の「第21回多摩川ウオッチング〜錦秋の奥多摩(むかしみち)を奥多摩湖へ」。

奥多摩駅に早く着いたので、駅前の日原川の河原(7月21日〜22日参照)を散策。7月に来たときには、流れが人工的に何段にも区切られ、プールがつくられていたが、9月の洪水でみな流されてしまったらしく、渓流は自然の姿に戻った。澄みきった流れに木々の紅葉が映える。洪水で上流から流されてきたものか、直径が1m近くもあるような白くて丸い石(石灰岩)がたくさん転がっている。

 午前11時過ぎ、一行が奥多摩駅に到着。多摩川と語る会は川崎の市民グループ。ここまで来るだけでも大変だ。今日の参加者は47名。氷川大橋を渡り、車がひっきりなしに通る国道411号(青梅街道)から「むかし道」(旧青梅街道だという)に入る。落ち葉を踏みながら、奥多摩の良さをゆっくりと味わうことができる散歩道だ。白髭神社で昼食。こぢんまりとした境内は、みんなが座ったら満員。石灰岩の大岩壁が社殿に覆い被さる。いまこそ盛りと色付いたモミジが、向こうから陽を受けて、まばゆいばかりの金色に輝いている。国道を車で走っていては、見ることのできない惣岳渓谷。エメラルドグリーンの流れと、紅葉とのコントラストは筆舌に尽くしがたい。峡谷には、しだくら橋、道所橋と2本の美しい吊橋が架かっている。中山からはバスで奥多摩湖に向かう予定だったが、ちょうど行ってしまったばかりで、次のバスまでは1時間近くある。今は晩秋。山の夕闇は早いので、無理をせず、奥多摩駅に戻って解散となった。

目に付いた花として、リュウノウギク、アワコガネギク、シロヨメナ、ベニバナボロギク、ノハラアザミ、タイアザミなどを教えていただいた。野鳥は少なく、キセキレイ、ヒヨドリ、ヤマガラ、シジュウカラ。

 

11月21日 多摩川市民フォーラム第3「いきもの・学習」研究会

 昭島市民によるワンド・水辺の楽校構想を話題に、いろいろな意見をもつ市民どうしのパートナーシップについて考えた。

 

11月23日〜24日 筑後川

9回全国水環境シンポジウム&交流会に出席するため福岡県久留米市へ。

まずは市内を流れる筑後川を散策。西鉄久留米駅から、交通量の激しい国道を避け、閑静な路地を北へ歩く。道の両側に寺院が建ち並び、その名も寺町。由緒あるお寺のようだが、いずれも本殿が新しく建て直されている。程なく筑後川に出る。久留米大橋付近の高水敷は、両岸ともにそのほとんどがグラウンドやサイクリング道路(舗装路)になっている。こちらで言えば荒川下流部といったところだろうか。筑後川の長さは143kmと多摩川(138km)とほとんど変わらないのだが、その水量ははるかに多い。ここ久留米市付近で河口から40kmほどあるが、川幅一杯にゆったりと流れ、大河と呼ぶに相応しい。ヒドリガモの群れの中に、頭の後が緑色をしたアメリカヒドリ?が1羽。他にカイツブリ、ダイサギ、シギsp、セグロカモメなど。

シンポジウムには、九州をはじめ全国各地で「いい川づくり」に取り組んでいる市民や行政の方など100人ほどが集まり、記念講演に続いて、テーマごとに9つの分科会に分かれて議論した。僕は第7分科会「流域管理に市民はどう参加できるか」で、多摩川の市民活動やパートナーシップでの取り組みについて話題提供した。夜の交流会では、新たに多くの“なかま”に出会うことができた。2日目は各分科会の報告に続いて、韓国や中国の方をパネラーに、アジアどうしの交流をテーマとしたパネルディスカッションが行われた。今大会の総合テーマは「人は里(くに)を越え、水は地球を巡る」という壮大なもの。全国各地や他の国の取り組みと“ひと”を知り、交流することによって、全体的な雰囲気を共有し、劇的ではないものの、確実な一歩を踏み出すことができたのではないだろうか。

終了後、また筑後川へ。久留米大橋から5kmほど上流に行くと、一変して農村風景が広がり、河川敷はみな畑。利根川を小さくしたような感じと言えば良いだろうか。カイツブリとアオサギがいる。コイ釣り師が竿を並べて大物が掛かるのをのんびりと待っている。さらに上流へ向かう途中、杷木町で「道の駅」に寄り、名産だという柿や梨をたくさん買い込む。夜明ダムを過ぎると大分県の日田市。この辺の筑後川を「三隈川」と呼ぶそうだ。多摩川で言えば、羽村から青梅辺りのイメージ。支流の花月川合流点へ。水辺に近づくと、マガモやヒドリガモが一斉に飛び立つ。カワセミ1羽、トビ2羽。もう少し上流まで行くと、天ヶ瀬温泉があって河畔の露天風呂に入れるというので、次の機会にはぜひ行ってみたい。

 

11月27日 御岳渓谷(70〜72km付近)

ケヤキやサクラの葉はもう散ってしまったが、モミジとイチョウが名残を惜しむかのように紅(黄)葉し、渓谷の遊歩道は平日にもかかわらず賑わいをみせている。左岸側の遊歩道は日当たりが良く暖かいが、右岸側は日陰になるので寒い。杉林に入るとフユイチゴが青々と葉を広げているが、ここは大勢の人が通る道の脇。甘くておいしい実にはお目にかかれなかった。

観察できた野鳥は、カワウ、カワセミ、コゲラ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ジョウビタキ、シジュウカラ。

 

11月29日 大丸用水堰上流(32〜33km付近左岸)

多摩川ふれあい教室に用事があったので、帰りがけに多摩川へ。ハリエンジュ林は葉を落としてすっかり冬の装いだが、今日は風もなく暖かい。堰上流に広がる中州には多種多様な草木が生い茂り、野鳥をはじめ生き物たちの楽園になっている。水辺ではオナガの群れが気持ち良さそうに水浴びをしている。

観察できた野鳥は、カワウ、ユリカモメ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、ヒヨドリ、ツグミ、ホオジロ、スズメ、ムクドリ、オナガ、ハシブトガラス。

 

11月30日 河口〜東海道本線鉄橋上流(0〜6km付近)

“河口干潟”に着いたのは11時過ぎ。潮時表によると、今日は大潮で10:31が干潮(芝浦)ということだが、かなり潮が満ち始めている。右岸の堤防天端は、1kmの標柱より下流に行くと砂利道になる。間もなく多摩運河にぶつかって行き止まり。多摩川の河口を示す水準拠標を見て引き返す。殿町小学校に寄った後、大師橋を左岸に渡り、本羽田公園で遅い昼食をとる。六郷水門までは堤防上を歩けばすぐだが、高水敷につくられた「岸辺散策路」をゆっくり歩こう。“六郷干潟”は野鳥観察のホットスポット。コンクリートの低水護岸ぎりぎりまで潮が満ちてきて干潟はほとんど見えないが、ユリカモメとオナガガモが群れ、セグロカモメがクワッと叫んでいる。浅瀬にはたくさんのセイタカシギが歩いている。六郷橋周辺のホームレスの数は凄まじいの一言。橋と上流の“鉄橋群”の間には、シダレヤナギの大木が何本もある。

観察できた野鳥は、カワウ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、マガモ、コガモ、カルガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、キンクロハジロ、スズガモ、シギsp、セイタカシギ、セグロカモメ、ウミネコ、ユリカモメ、ドバト、ハクセキレイ、ヒヨドリ、モズ、スズメ、ムクドリ、ハシブトガラス。