Ms Packer からのメッセージ



トウレット症候群のお子さんをもつ親御さんへ
 
 ごく最近お子さんがトウレット症候群だとお知りになったばかりの親御さんは,さぞかし,困惑とストレスに満ちた日々をお過ごしの事とご推察申し上げます.病院から病院へと暫く渡り歩いての結果でしたら,以前から何か変だと思っていた事もあながち間違ってはいなかったのだと,診断がついたことに少し安堵を感じられておられるかもしれません.しかし,一抹の安堵と共に,お子さんの病気を受け入れる過程で親御さんが経験する様々な感情...悲しみ,不安,罪の意識を感じられる方もいらっしゃるかと思います.自分自身に言い聞かせ,病気や現状を受け入れられるようになるまでにはどなたにも時間がかかります.どうかご自身に時間をお与えになってください.
 
 過去の,いや現在の私と同じ心情ならば,あなたも可能な限りの資料を見つけ,そこからあらゆる知識を得たいとお思いになるでしょう.最初は戸惑うだろうと思います,でも少しづつ資料を読み始めると,徐々にこのホ-ムペ-ジ(*)の他の部分の資料を見る前に,読んだものを少しづつ自分自身の物とする時間が必要だと思う様になると思います.また,インタ-ネット上での支援組織の活動や投稿板の書きこみを見たとき,もっと重症の人達を抱えた親御さんに出会われることもあるでしょう.自分たちの生活に忙しかったり,病気のことを気にする必要もないほど軽症で,けっこううまく生活している人達もいることもお知りになるでしょう.
 
 トウレット症候群という言葉を聞いたとたん,お子さんが汚言症(不謹慎な言葉や卑猥な言葉を不随意的に言ってしまうこと)になるのではないかとすぐに心配される方がいらっしゃいます.これがトウレット症候群をして,かって悪魔に取りつかれた病気というイメ-ジをいだかれた原因ですが,実際に汚言症を示すお子さんはそんなに多くはありません.このように,この病気の一般的なイメ-ジは極端な例や稀な例を報道するマスコミに多分に作られているように思われます.私のホ-ムペ-ジにも書きましたように非常に軽症な例もたくさんみられます.
 
 新たにお子さんがトウレット症候群だと診断された親御さんとして,最初に浮かぶ疑問に,次のようなものがあると思います.「うちの子の病気が重症なのか軽症なのか見分ける方法があるのでしょうか?」その答えは「ありません」.症状が悪くなったり、良くなったりするたびに一喜一憂することはありません,というのは,ロ-ラ-・コ-スタ-のように症状が揺れ動くのがトウレット症候群の特徴だからです.あなたがご心配なさることがお子さんのストレスを増し,症状を悪化させることになります.ご自身の精神の健全化を計ってください,そうすることでチックをはじめとする病気から生ずる様々な障害を経験し,それを克服するには時間が必要だということをお子さん自身が体得することをサポートできるのです.お子さんの具合が悪いとき,いつもあなたの気持ちが揺れ動くロ-ラ-・コ-スタ-のようであれば,あなた自身が疲れ果ててしまい,お子さんに必要なサポ-トや躾が出来なくなってしまいます.
 
 残念なことに,親御さんが抱えている多くの疑問にたいする確実な答えは現在まだありません.トウレット症候群の研究の中心は,科学的または医学的な面に向けられています,そして,親御さんに関心のある問題...お子さんの症状にどのように対応したらよいのか,また学校で困っているお子さんにどのように援助の手を差し伸べたらいいのか...にはほとんど注意が払われておりません.その上、これらの問題に関する資料を読むにつれ,そこには定説がないことに気づかれるでしょう.しかし,ご自身の経験に基づいて,しっかりしたアドバイスが出来るたくさんの良識ある人達がいることも思い起こしてください.貴重な経験はあなただけのものではないのです.長いマラソンレ-スにおいて,お子さんをどのようにサポ-トしていくかは試行錯誤だと思います...先輩の経験をお聞きになる事は参考になります,でも結局,あなた自身の試行錯誤が必要です.そして,それが子育てということではないでしょうか?
 
 あなたがこれからお子さんを本当に理解しようとする旅へと旅立とうとするときに,お話しておきたい4つのことがあります:
 あなたのお子さんそのものが障害だというわけではないのです.調子が悪いときも,どんなにイライラしている時にもそこにいるのは,我が子だという視点を失わないでください.
 必ずしも悪いことの全てがトウレット症候群のせいではありません.悪い行為はときどき病気とは無関係におこります.年相応の行動を知っていないと全てを病気のせいにしてしまうという罠にはまってしまいます.
 お子さんが何か良いことをした時には,微笑んで抱きしめてあげてください.
子供の頃というのは,毎日が難しい時期なのです.トウレット症候群の子供達も他の子供達と同じように人生の山や谷を経験するでしょう.いつもあなたのお子さんをトウレット症候群の症状が出ていないかどうかというように神経をとがらせてばかり見ていると,我が子として共に人生を楽しむ多くの機会を逃してしまうでしょう.あなたのお子さんにお子さんの非常識な行動は全てトウレット症候群のせいであると話しているとしたら,それはお子さんのためになりません.子供達には,確固たる終始一貫した愛情と物事の節度と自分への期待度を知るための躾が必要です.躾は罰するということではありません:教育するということです.あなたは,お子さんの鏡です.ご自身を大切になさってください.あなたが燃え尽きてしまってはいけません.不安を感じたり,うんざりし始めたら,学習の速度を落としてください.外に出てお友達と話したり,是非,気晴らしをしてください.
 あなたは一人ではないのです!サポ-トしてもらえる人達はたくさんいます.あなたのご近所のトウレット協会(#)の支部に連絡してください!共に話し合う必要性を感じたら協会に入会し,行事に参加しましょう!学校で困っている事があれば,協会に相談してみましょう.協会にはたくさんの資料があります.あなたの地域で利用できる物を見つけてください,そうすることがあなた自身が燃え尽きてしまうことを防ぐ方法です.
 
 トウレット症候群は様々な症状のルツボです.致命的な病気ではありません.あなたのお子さんはあなたの目を通して,自分を見ます.お子さんが恐れや不安を抱きながらあなたを見ていれば,そのことはお子さんに影響をあたえると思います.あなたが沈んでいれば,お子さんも不安になったり,沈んだ気持ちになります.あなたが微笑み,皆んなと仲良く,ユ-モアをもって日々を楽しく生活していれば,お子さんもそのようになるでしょう.あなたが手本となり,現実にどのように立ち向かっていくべきか,また,ユ-モアのセンスをどのように見出すかを教えてあげれば,お子さんは後々あなたに感謝するでしょう.
 
 気持ち良く,旅立ちしていただきたいと思います.私の旅は10年以上前に始まりました,そして,今も毎日続いています.私の子供達は私の最高の教師であり続けてきました,また,子供達も互いに啓発し続けて来ました,そして,想像できるほとんど全ての症状に対応してきました.私のホ-ムペ-ジをご覧になって,私の母として,心理学者として,トウレット症候群の支持者としての経験に基づいた資料をお読みになったことと思います.現在まで,これら全ての肩書きをこなしてきました.そして,その経験を通して,あなたに申し上げたいと思います:
 
 あなたのお子さんはあなたの理解と受け入れとサポ-トを必要としています.あなたにはお子さんの中に独自の世界を作り上げる機会が与えられているのです.是非チャンスを生かしてください,そして,最高のものを作り上げてください!

                             Leslie E. Packer, PhD



 Ms Packerはトウレット症候群(TS)のお子さんの母であり,心理学者であり,米国NYにあるCaptree Learning Center(TSの子供達のための特別プログラムをもった小学校)およびNesaquake Learning Center(中学校・高校)の設立・運営に参加されています.
 私は,彼女のホ-ムペ-ジ(TS+)の中にある「親御さんへ」というこの手紙を見て,米国と日本という環境の違いはあるものの,家族の心情には同じものがあると感じ,是非日本のご家族にもこの手紙をお伝えしたいと思い,Packerさんにお願いしたところ快くお許しをいただきましたので,ここに掲載します.

*:Ms Packerのホ-ムペ-ジへは「リンク集」のペ-ジの「世界のチック仲間」のTourette Syndrome "Plus"からリンクできます.
#:米国トレット協会については「チックに対する誤解!」のペ-ジおよび「トウレット症候群に関する質問」のページに概略を説明してあります.また,「リンク集」のペ-ジの「世界のチック仲間」の米国トウレット協会からリンクできます.