![]() あーなんか、暖かいなあ…と思いながらうつらうつらとしていた。 すごくすごく楽しい夢を見ていたんだ、さっき観ていた映画のビデオそのままの登場人物の中にオレもいるって感じの夢。 アクションコメディーって言うの?二枚目俳優がやってる刑事と謎の美人が犯罪組織と戦ってるんだけど、オレなんでかその二人のこと知ってるんだよ。友達みたいな口ききながらさ、なんか街中で走りまわったり、良くわからない敵と追っかけたりしてるんだよね。 ま、夢だから辻褄なんかあってないも一緒だし、でも夢ん中で自分でも、映画の役者そのまんまになりきってるのはわかるんだよな。 でなんでか知らないけど、急に謎の美人に迫られてさ、キスしてるんだよ…焦りながらも喜ぶ気もあってさ。夢ん中でどきどきしてたんだよ、オレ。 でさ…そのうち、息苦しい上に暑苦しくなってきたんだ。 あーいいところなのに…とどっかで思うのは別のオレ。 夢にしがみついていたいのに、目が覚めちゃうっていうのわかる? やめてくれ、寝てたいのに!!って思いながらも、目が覚めちゃうんだよな、そんなときって。 で、醒めちゃったんだよ…これが。 あー、その先は…言いたくない。 一瞬、頭が現実を認められなかったもんな。え?なんで???って目が泳いじゃったよ。 でさ、泳いでも視界が余り利かないんだよ。と言うか頭が動かない。 「む・・・」 ついでに声もでなかった。 なんでなんでなんで――――――――――――――――――!!! オレ、たしかあの美人女優とキスしてるんじゃなかったっけ?え、なんだよこれ。美人のはずが、オレひげもじゃの親父とキスしてるよ・・・おい。うわー、サイテー。って言うか、泣きたい気分?あー、舌まで入ってるし! とここまで一気に思考が回って、でオレは猛烈に暴れ出した。 当然じゃん。 だって、ベッドで昼寝よろしく寝てたのに、なんでオヤジが圧し掛かってきてるわけ?しかも、なんだか下半身が妙に涼しいような気がするのは気のせいじゃないだろう。 「おう、やっと起きたのかよ」 くそー暴れてるこっちの身になれっ。そんな暢気な声だすなー。 と、叫び出したかったんだけど頭に血が昇っているときって、そんなに文句言えないんだよな。 しかも、上に乗っかてるのが重いのなんのって。 暴れるにしたって、顔は押さえこまれてるは、身体はウエストのところで体重かけられてるわ。足をばたばた蹴り上げても、ベッドのスプリング軋ませるだけ…。なんとか肩を掴んで圧し掛かってくる身体を押し上げたら、ひょいと身体を起こされて、逆に腕を捕まえられちゃうし…。 「はなせよっ!」 腰を捻ってなんとか逃げをうとうにも、体重かけて乗られてる上に、腕掴まれて思うに任せないじゃないか。 普段から強引だわ、好き勝手だわで結構オヤジのしたいようになんかさせててやるもんかと思うけど、今日は更にそれに怒りが加わってる。夢と現実の落差のあまりにひどさに眩暈すらしそうだ。 すごく幸せだったんだぞ!あーもうっ、なんでいいとこで起こすかね、このクソオヤジ。 しかもオレ、下着まで脱がされてるじゃん! 「どけ!重い!!」 くそう、自分の部屋で寝ててどうしてこんな目に会うんだ。絶対にあとでドアに鍵とりつけてやる。 「ここまで来て、そりゃねえだろう」 ニヤニヤ笑う顔に張り手をお見舞いしたい気分。さっきの夢ん中のキスも、このオヤジのおかげかと思うと、すごく情けなくて、腹が立つ。 「なんだよ、これ!冗談じゃねぇぞ!」 腹が立ちすぎて目頭が熱くなってくる。ここで泣いたら更に、このエロオヤジを喜ばせるだけだとはもう学習してるから、絶対に泣くわけにはいかないだろうけど。 「まったく…世話が焼けるぜ」 「聞けよ、こら!」 と言って、聞き入れる奴だったら、今ごろオレ達はこんな関係なんかに堕ちてなかったと思う。 堕落も堕落、実の息子の寝こみ襲ってSEXしようとする奴がどこにいるんだよ。 「いいじゃねえか、ここまで準備してやったんだし…」 あー、そんな風に恩着せがましく言われて誰が感謝すると思うんだろう。 しかも、逃れようとして、足ばたつかせて気付いた。この変態オヤジ…人の身体に、いつの間にかジェル塗ってやがる。 あーもう、気付かないオレもオレだっ! ここまでされて、安穏と寝こけてたことに、更に頭に血が昇った。 「この変態!」 無理矢理腕をとり返そうとして強引にひくと呆気なく腕は開放された。 「しょうがねえだろう、帰ってきたらオメエはこんなところで一人で寝てるしよう。可愛い顔して寝てんだから、したくなったってしょうがねえだろう」 同意を求めるな!オレがうんと言うとでも思ってるのか?更に、可愛いとか言うな! だのに顔が遠慮なく近づいてくる。あー、両手が頬に当てられちゃってるってことは、あれか、あれ。 と気付いた瞬間、正直鳥肌立っちゃったよ。時と場合によっては、こんな風に反応するんだってちょっと自分の身体の反応に、感心したりして。 オレに覆い被さるように動いたせいでオヤジの腰が浮いた。 オヤジには腕力ではかなわないけど、瞬発力ではオレも負けないと思う。 だって腰が浮いた瞬間に、オレは身を捻っった勢いでオヤジを突き飛ばしていた。腕を自由にされていたのが更に良かったのか、不埒なことを考えていたオヤジの自業自得か、肘が横っ面に見事に入ったから結構痛かったと思うよ。 ついでに勢い余って、ベッドの下にまで転がったオヤジを嘲笑する間もなくオレは、そのままオヤジの反対側にベッドから飛び降りてた。幸いなことにオレの方がドアに近い。 脱兎のごとく駆け出したさ。下半身真っ裸のまま。 情けない…。 感情のままに叩きつけるようにドアを閉めて、オレは帰宅した直後にシャワーを浴びたときに脱ぎ捨てた洋服一式を拾いに脱衣所にダッシュで向かった。よかったよ、さすがにあの部屋に戻る気になんないし、この格好は、あまりにも恥ずかしすぎるもん。 「ったく…絶対許さない」 これってオレにとっては当然の宣言だったと思うよ。 で、とにかくオレは家を飛び出して、ブリッツのチームメイトの家とかを泊まり歩いた。 いやもう、オヤジの顔見たくなくってさ。同じチームじゃなくって良かったと心底思う。試合で顔を合わせる予定も今んところないのが救いといっちゃあ救い。 ああ、でも今日は向こうが試合だったんだなあ…と思い出したのは夕方になってから。となると断然顔を見る確立が高くなる。ジェクトが出る試合が放送されないなんてことはないだろうし、街を歩けば結構どっかしらでモニターに映ってるしさ。 で逃げるようにチームの持っているプールで自主練を決め込んだ。 スフィアプールではないけど、そこそこに水深の深く作ってある水の中にもぐっているだけでも気分が違う。 深く水の中にもぐるとさ…音がまったくなくなってしまうんだ。水のせせらぎも何もなくてただ身体を包む重みだけを感じるようになる。それは深く潜れば深く潜るほど強くなって、身体すら自由に動かせなくなるほどの水圧は、なんだかきつい抱擁のようにも思える。 天井の強いライトは、ただの柔らかい光の揺らめきでしかなくなって、それもすべて青く染まる。 ひとしきり泳いではそうやって身体を休ませた。時間を浪費するためだけの練習だから、もしかしたら潜っているだけの時間の方が長かったかもしれない。 まあ、そろそろ守衛が苛つくころだろうと思い始めてようやく水から上がってシャワールームへと移動する。 ブリッツ選手で良かったよなあ…その気になれば寝る場所だけ確保すれば今んところほかに困ることないもんな。 ちょっとした着替えなんかはチームオフィスのロッカールームの中に突っ込んでおいてあったから、外泊の初日から利用した。金はとにかく必要だと思って、カード持って出たからその気になれば一生家に帰らなくとも大丈夫そうだし。 ロッカールームで着替えて、汚れた服を一まとめにバッグの中に突っ込んだ。あとでコインランドリーにでも行って洗濯してしまえば、あと数日は暮らすに困らないだけの着替えのできあがり。なんだか根無し草のような暮らしも、自分に向いてるような気がするから困りモノだよな。 なんとなく勝手がわかっちゃってるし・・・ここ。 異界らしいのに、オレ達が住んでる場所はザナルカンドとほとんど変わらない。 すでにここにきて半年以上、なんだか異世界での生活のほうが夢のように思えてきた時期。 だからよけいに思うんだろうなあ。慣れてきちゃったんだよ…あの存在に。 とにかく10日間外泊し続けて思ったのは、自分の流されっぷりのすごさを自覚したことだった。 はじめに一緒に暮らすと宣言されて、ついでにそのあとなし崩しの関係になっても、なんだかさ、抵抗するとかそんな考えがまったく思い浮かばなかった。今思い返すと、自分でもなんにも考えていなかったんじゃないだろうかって思うくらい、周りに流されつづけてて、自分の意見も言えなかったような気がしないじゃない。 うん、そのくらい現実に応じきれなかったんだ。たぶん。 ああ、今更愚痴ることじゃないんだろうけど。 本当は、一緒に暮らすって言われて――うわ…アーロンも一緒がいいなあ――と考えたのは口には出せないけど、本当のこと。なんだか生活って言う意味ではオヤジと暮らすのが想像できなかったんだよ。たぶんオレにとっての家族に近い存在はアーロンで、オヤジは家族とは多分ちょと意味合いが違うんだろうなあ、ってそのとき思った。 だからとどめを刺せたんだと思う、あの時。 そこまで思考が行き着いちゃったから、もうオレはなにも言えなくなった。なんかそれってオヤジ可哀相じゃん。って思ったのが、まずかったのかなって今では思うけど。 なんだか考えると妙な生活だよな…。実の父親とSEXまでしてるじゃん…って自分で更にとどめをさすようなことを考えてしまって、オレは誰もいないロッカールームで深い深い溜息をついた。 だってさ、なんだかそれでも今以外の生活が考えられない自分がちょっとなぁ、やばいじゃんって思っちゃったんだよ。 「毒され過ぎだよなあ…」 自立をしようと思えばできるだろうけど、一人で暮らすのはやっぱりちょっとなぁ…。かと言ってアーロンのとこに転がりこむのは、なんとなく気まずいし。 ほら、旦那と別居して実家に帰る奥さんの気分てこんなもんじゃないかなあと…そう思うこと自体、今の生活に毒されてるだろう? 結局、今日はどこに転がりこもうかって考えながら、暗い建物から外へと出た。守衛と挨拶を簡単に交わしてとぼとぼと街の中心へと足を向ける。 で、街へと続く道路の片隅、街灯の真下で腕組して立っているのを見つけちゃったんだよ。足が一瞬止まって、回れ右して戻ろうかと思ったときには腕を掴まれてた。オヤジの奴、コンパス長すぎ…。 逃げようにも周りは建物ばっかりだし、かと言って周囲に人影はまったくない。 いや声出せばさっきの守衛が来てはくれるかもしれないけど、相手は実の父親だもんなぁ、どうにもならないじゃん。 困り果てていたら、頭の上から低い声。 「―――ったくよう…いい加減にしろや」 「今日試合じゃなかったんだっけ…?」 なんでいるんだよこんなとこに。 よもやこんなところにいるとは思わなかったから、不意うちのためだろう心臓がはねあがってる。街灯が作る奇妙な影のおかげか、久しぶりに見た顔を間近で見たら、ひどく心が騒いでしまった。 「んなもん、テキトーに終わらせてきたぜ。ったく10日もふらふらしやがって、このままどうするつもりだったんだ、オメエ」 あ、機嫌悪いなあ。当然か。 「だって…戻ったら、またなんかされるじゃん…」 相手の機嫌が悪いんだったら先制攻撃…でないとこっちだって連絡入れずにふらふらしてたの、責められちゃうもん。 言ったとたんに、オヤジの視線がそっぽを向いたので、これは成功。 でも腕を掴んでる手の方はなかなか離れてくれない。逃げ出すとかそんなんじゃないんだけどさ…まだ守衛から見える位置なんだよ、ここ。 「あー、ありゃ、ただのおふざけみてえなもんだろう」 「で、すむと思ってんだ…」 たぶん、試合が終わってすぐにここまで来たんだろう。そのことをほんの少しばかり喜んでいる自分がいる。 だからよけいにオレの口調はそっけないものになった。知られちゃったら、よけいにオヤジを図に乗らせるだけだもんな。 「あれで、ここまで拗ねるかぁ普通…」 「オヤジにしてみりゃそうかもしれないけどさ…」 いやさ、あんな風に家を飛び出した手前戻りにくいって言うのもあったんだけどね。 「うっ…だから悪かったと思って、今までそっとしといたじゃねえか。悪かったよ」 ようやく腕が解放されて、頭ががしがし撫でられて、背後の守衛の存在がやけに気になる。 なんだかなあ、オレのことこんな風に子供扱い平気でしながらSEXに誘うしさ、何考えてんのかわかんないよ、この人。 「も、いいよ」 頭撫でられているのは気恥ずかしいし、首を振って逃げれば伺うように覗きこんでくる視線。で、結局場をつなぐだけの言葉を吐きながらオヤジの腕をとって、オレは歩き出した。やっぱ人目のあるところでしたい話じゃないし、なんか頭撫でられてるのって、ガキみたいじゃん。 「で、よう、どこ行ってたんだよ、今まで。アーロンのとこにはいねえしよ」 とにかくできるだけその場から離れようとして大股で歩いていたら、かけられた声に思わず足が止まっていた。 「アーロンのところ行ったの?」 「一昨日か、お前が試合出てたからよ、てっきりあそこにいるもんだと思ってたし…」 家から数ブロック離れた場所に、アーロンは住んでいる。良く顔は出してたし、泊まりにだって行ってたけど、こんな理由で家出してきましたなんて、オレがアーロンに泣きつくわけないじゃん。 「言ったの?なんでオレが家出したかって?」 「おう」 ああ、なんて明快な返事なんだ。そのままずぶずぶと道路に沈みそうになる。 そりゃアーロンには、オヤジとのことばればれだけどさ…でもあっけらかんとそんなこと肯定しないでほしい…。こう青少年の微妙な心の機微を、わかれよクソオヤジ。 「サイテイだな…あんた」 がっくりと肩を落とした。もうなんか怒る気力が失せてしまったと言うのが正しい。 「なんでだよ…言っとくがなにも言わずに出てったオメエも悪いんだぜ」 行き先告げて出ていったら、それこそなんにもならないじゃないか。と言うか、そんな状況だったか?あのとき。 「そう言うことを言うか…」 それ、責められるのってなんか違うと思うよ。 「大体よう、なんでアーロンに言っちゃあまずいんだよ」 うっ、聞かれて言葉に詰まる。と言うか、言葉にできない。 「おい、なんで黙りこむんだよ」 複雑なんだよ!雰囲気でわかれよ! と叫びたいものの、叫んだら更に突っ込まれるような気がしないじゃない。オヤジそういうところ鈍いと言うか、手厳しいと言うか、納得しないと引かないんだもん。 で、だんまりを決め込んだ。 「オメエさぁ、怪しいとは思ってたけどさ、アーロンともできてんのか?」 このせりふを聞いた瞬間に、この前寝込みを襲われたとき以上に頭に血が昇ったね。 昇った瞬間には手が出てた。でもそれはあっさりとオヤジに阻まれる。 「変なこと言うな!」 腕捕まえられて、取り戻そうにも腹が立つことにびくともしない。 「怒るっていうのは、そうなのか?」 真顔で聞くな、そんなバカなこと! 「あんたじゃあるまいし、アーロンがそんなことするもんか!」 「なんだよそれ」 大体、なんでそんなことを勘繰られなくちゃならないんだよ。あるわけないだろう、親みたいなもんだぞ。ぜんぜん親らしからぬオヤジが絶対に言うことじゃないと思う。 「アーロンはあんたみたいにスケベーじゃないし、もっときちんとしてるぞ。オヤジ達の代わりにずっとオレの面倒見てくれたのに、なんだよその言いぐさは!」 できることなら今目の前に正座させて、こう、親の心得を説教してやりたい気分。 「へえ、尊敬されまくりじゃねえか、アーロン」 説教どころかオレの腕は未だに殴りかかる体勢のままオヤジに捉えられたまんまだし、しかも目の前のクソ憎たらしい顔はなんでかにやにやと笑っている。 「こりゃ、無理だな…」 「なんだよっ」 「そういやそうだよなあ…お前俺が初めてだったみたいだし」 一瞬にして絶句。 なんてことを、なんて場所で言いやがるんだ…しかもニヤニヤ笑われて、一瞬にして顔が赤くなったのが自分でもわかる。 「バ…バカっ!」 からかわれてるんだってわかってても、一瞬にして脳裏に浮かんでしまった映像に、羞恥心の方が先に立った。 逃げようとする身体に従うように必死で腕を引いたものの、オヤジはやっぱりそれを解放してくれない。どころか引っ張る腕の反動で身体の力が抜けた瞬間を見計らったように引き寄せられてしまった。 厚い胸板に肩がぶつかる。 「なっ…」 腰に腕が回されて、身動きができない。抱きしめられちゃってるよ、オレ、こんな公共の場所で…。 もう夜も更けているとはいえ、人目が気になるのは子供のころからジェクトの息子と言われ続けてきたオレの性分。 「やだっ…放せ」 言って聞いてくれるような性格じゃない。 当然のごとく、顎に指が触れて上を向かされたかと思うと、唇を塞がれていた。 「…っむ…やだって」 ひどく優しく唇を塞がれて、身体の力が抜けてしまう。 あの水の中に潜っているような奇妙な感覚。 ああ、こうやって抱きしめられている息苦しさのせいか…と頭でそんな思考がふと過った。 自分の身体が抱きしめられちゃう心地よさに、身体が動かなくなる。思えばこんな風に抱かれたことなんか子供のころからなかったんだ。だから一度経験しちゃうともう、逃げることなんか考えられなくなっちゃんうんだよ。 ずるいよなあ、オヤジ…。 何度となく弄ぶように唇を吸われて、そこに熱が集まってしまうような感覚。自分から舌を差し出しちゃったのは、結局はしばらくの間会わなくて少しばかり寂しいなあなんて思っていたためだったかもしれない。 ああ、人目が気になるのにさ…それなのについつい乗ってる自分て、まずいよなあ。やっぱり俺って流されてるよなあ…。 どっか頭の中のちょっとだけ冷静な部分でそんなことを考えた。 することはきちんとしてたんだけどね。 ようやく唇を解放されて顔が覗き込まれる。 「機嫌直ったかよ…ほら」 向けられた視線に気恥ずかしくなって俯こうとすると、すくうように顎に手が当たって、太い親指が濡れたオレの口元をちょっと乱暴にこする。 束縛していた腕が消えて、なんとなく物足りなさを感じながらも、半歩だけ下がる。このぐらいの位置が一番落ちつく。 「あんた強引過ぎ…」 まだジンジンする唇を愛撫するように指が何度もそこを撫でる。なんとなく屈してしまうのが悔しくて指の存在を無視しながら文句を言った。 「だってよう、オメエ、人が約束守って迎えに行っても、姿消したままじゃねえか…ちたぁ、詫びはもわらねえとよ」 ?約束…したっけそんなこと。 「忘れてたのか?」 真顔で聞かれて、頭の中を浚いに浚ってもでてこないものだから素直に頷いた。 「どっちかが先に10勝したら、遅れたほうが奢るって約束したじゃねえか。一昨日お前勝ったからよ…迎えに行ったらいねえし」 困り果てたような表情をされて、こっちまで困る。いつしたんだ…そんな約束。 「覚えてない…」 なんだかすごく悪いことをした気分なんだけど…いや、約束したんだったら悪いことしちゃったんだろう、きっと。 「ああ、だったらいいや、オメエが奢れ。忘れたバツだ」 「いつしたっけ…そんなの」 困り果てて尋ねれば、親父のほうが首を傾げる。 「あー、ほれ…いつだったっけ…風呂ん中でしたあとだ、たしか」 き…聞かなきゃ良かった―――。 多分半分寝てたんだろう、そんな状況だと…というかそれってかなり前の話のような気がする。ああ、思い出してきたぞ…うわー、スゲー恥ずかしい。 たまらなくなって、歩き出した。だめだ…顔見れないよ、今。 「おいっ…」 背後から声をかけられて、足が当然速くなる。と言うか全力疾走。 なんで、そんなこと覚えてるんだよ…。 しかも頭ん中、であのときのこととか、そのときのこととかぐるぐる回っちゃってるし…。 「待てよ、こらっ」 声が追っかけてくるから、逃げるしかない。 もう全力と言うか、限界突破?みたいな気分で走り続ける。 夜中に、こんなことする親子…いないだろうなあ。 でも、背後から聞こえる追いかけてくる靴音がが結構気分を浮上させてくれる…なんかいいよな。 …こんな関係も。 で、結局捕まっちゃった上に奢らされて…更にすることされちゃって前言撤回。 爛れすぎだ―――。 絶対いつか自立してやる…。 ベッドの隣のスペースで、だらしなく口開けながら寝てる親父の顔見ながら、決心しちゃったよ。ついでにちょっと思いっきり蹴飛ばして、意趣返しに下の床に叩き落してやった。 ああ、いい気味…ザマアミロ。 でもなぁ、こんな風に思う朝が初めてじゃないところが、やっぱりやばいと思うんだけどね。 ま、いいや、そこそこには幸せだから。 END |
| 山崎様から頂いたキリ番小説です。 キリリク内容は、「痴話喧嘩の後の二人、Hがあったらなお嬉しい」という、しょうもないものでした。 そーれーがーこんなに楽しくて素敵なものになるなんて。自分、幸せものです。 もうティーダがかわゆくて、ジェクパパ(最近、自分の中での呼び方はこう)がほどよくスケベーで大好きです。 ああ、嬉しい。 本当に、本当に有り難いことです。 |