…誰?



これはいったい誰なのだろうとティーダは考える。
知っているのに、知らない彼。
ティーダの見知っている彼の面影はあるのだけれど、違うのだ。
長い髪を後ろで一本に結わえている。そこは同じ。戦うために鍛えられた逞しい腕と胸板。太い首。そこも同じ。
「お前は…?」と呼びかける低くて耳に心地よい声はほんの少しだけ違うけれど、同じ。
自分を抱きしめるこの温もりと匂いは知っているもの。
けれど…一番に違うものがあるのだ。

厳しさと優しさが混在している両の目。
顔を真っ直ぐに走る傷跡がなかった。
これは…ティーダの知っているアーロンではない。自分の知っているアーロンとは違う彼。
でも、この彼もまたアーロンなのだろう。
だって…と、ティーダは思う。
この肌の温もりと心臓の鼓動は自分の知っているアーロンそのものだから。
違うけれど同じ彼。同じだけれど、違う彼。

何故?
どうして?
愛おしさと辛さがティーダの胸の中で交差する。

アーロンであってアーロンでない無い彼が、不思議そうに尋ねてくる。
「お前は…誰だ?」
ああ…とティーダはふいに思い当たる。
目の前のアーロンは自分を知らないのだと。

そうなんだ。まだ自分達は出会っていないんだ。
「俺は…」と言いかけて、ティーダは思い悩む。
どこから言えばいいのだろうかと。何を、どこから。まだ出会えてすらいない自分達なのに。

アーロンの手がそっとティーダの頬に触れる。
「何故…俺をそんな目で見る?」
「そんな目?」
「辛そうで…今にも泣きそうだ」

狡いよ。そう…ティーダは思う。
どうして自分の事を知らない彼が、そんなふうに胸の内を悟ってしまうのだろうかと。
「うん…あんたに会えて辛いけど、でも嬉しい。あんたが俺を見つめてくれるのが嬉しいから」
「意味がわからん」
謎めいたティーダの言葉に、アーロンが眉をひそめる。
アーロンが探るようにティーダを見つめる。
「お前は…俺を知っているのか?俺の…何なんだ?」
アーロンなのに、アーロンでない彼。それでも、アーロンの顔をした彼に自分を知らないと言われる事に、ティーダは少なからず、衝撃を受けていた。

アーロンの胸にそっと手を付く。
「俺達はこれから出会うんだ。何故、今あんたに会えたのかなんて、分からない。きっと…多分、これは夢なんだろうね」
夢だというティーダの言葉に、アーロンが難しい顔をしている。
ティーダの説明に納得していないだろう。それでも反論もしてこない。彼自身、今の状況が飲み込めていないのか。

「アーロン…」ティーダが呼びかける。
「何だ?」
「あんたのこと…好きだよ」
ティーダの突然の告白に、アーロンが戸惑っている。
それでも彼ながらにティーダに何かを答えなければいけないのかと思ったのだろう。口ごもりながら答える。
「俺は…お前のことをしらん」
「いいんだ。言いたかっただけなんだから」

自分達はこれから出会う。
そして…物語が始まっていくのだから。

アーロンがティーダを抱きしめる。
「泣くな。お前に泣かれると、どうしていいのか分からなくなる」
「え?」
アーロンの言葉にティーダは驚いて自分の顔に手をやる。泣きたい気分ではあったけれど、涙は出ていない。
「俺…泣いてないよ?」
「分かってる。だが、俺の目には泣いているように見えるんだ」
そう言って、アーロンがティーダをきつく抱きしめる。
逞しくて、暖かい胸。
幼かった自分を抱いてくれた胸だった。この温もりは同じ。
包まれているとどんなに辛くても耐えられた。
アーロンの背中にそっと手を回す。
一瞬、アーロンがびくりとする。だが、直ぐにティーダをさらにきつく抱きしめてくる。
「ねぇ…」と、ティーダが問いかける。
「何だ?」
「あんたさ、俺のこと知らないんじゃなかったっけ?」
それなのにどうしてこんなに優しくしてくれるのか?そう、ティーダは問いかける。
「わからん」
困惑したように、自分の感情にすら追いついていないかのようなアーロンの答え。
だが…とアーロンは続ける。
「さっきも言ったが、お前に泣かれたくはないんだ」
「変なの」
アーロンに抱きしめられたまま、ティーダはくすりと笑う。
「そうだな。変だな」
「うん、絶対変だ」
ティーダを抱きしめたアーロンの手が、そろりとティーダの金髪を撫でていく。
「これは夢…なんだろう?だったらいいじゃないか。夢なんだから」
優しくティーダの頭を撫でながら、アーロンが囁く。
「夢………」

誰が見せてくれた夢なんだろうか。ティーダには分からない。
けれど、夢なら夢でもいい。
こんな幸せな夢ならば。
「アーロン」
呼びかける。
「何だ?」
答えてくれることだけで、ティーダは嬉しかった。


目と目がぶつかり合う。
不意にティーダは思いつく。
ああ…そう言えば、俺ってアーロンに両の目で見つめられたことって無かったっけ…と。
「あんたに会えて嬉しいよ」
「そうか?」
ティーダを抱きしめる腕に力が込められる。
顔が近づいて来る。
吐息が…が触れあう。

誰がこんな気まぐれを起こしたのだろうか?
何のために。何故?

分からない。分からないけれど…アーロンはアーロンなのだろう。
自分の知らなかった頃のアーロン。まだ若くて、これから起こる苦難も試練もまだ知り得ない彼。
まだ出会っていない二人。

抱きしめられる腕の強さ。
服越しに伝わる心臓の鼓動。
ティーダの唇にアーロンの吐息が触れてくる。


そして…ティーダは目を閉じて彼を受け入れる。

夢の彼を。


fin


ゲーム上ではありえないカップリングの若アーロンとティーダ。
ほんの出来心っていうか、ちょっとしたお遊びだと思ってくださいませ。
しかも小説も妙に変かもしれません。
いきなりだし、唐突で脈絡も無いし…。

文章の方はさら〜とすっ飛ばしてくださると幸いです。
絵も…突っ込まないでくれるといいな〜。



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