「手の平の罠」

僕の名前は今井祐哉。
現在高校一年生、16歳です。
都内でも割と有名な私立の男子校に電車通学をしているんですが…。今、僕はとても大変な目にあっているんです。
大変っていうか…。あの…恥ずかしいっていえばいいのか。

えっと…。
実は僕、電車で痴漢にあっているんです。

あの、男で痴漢に遭うのっておかしいでしょうか?
それとも情けないんでしょうか。男なのに、同じ男に目を付けられて触られちゃうのって…。

…僕だって情けないと思ってるんです。恥ずかしいし、凄く嫌なのに…。

でも…僕って、昔からそうなんです。
小柄で華奢で、小さい頃からよく女の子に間違われていました。
それでも最近はそれなりに背も高くなったし、頑張って毎朝犬を連れてジョギングをしたりして何とか逞しくなろうって、努力してるんです。
でも、もともと華奢な体格らしくってあんまり筋肉も付かなくて…。
顔だって、今でも時々は女の子に間違われていますから。

それでも体を触れば男だって、分かると思うんです。
胸だって無いし、体だって女の子みたいに柔らかくはないから。

あの日もそうでした。
朝、電車に揺られて股間に変な違和感を感じたんです。
最初は満員でたまたま体に何かが当たっただけかなって思ってたんです。
満員状態で身動きが取れないまでも、視線を下げればそれが学生鞄だって気が付いたんで、誰かの鞄がそこにあるだけだなって。

でも…。
その鞄がずっと股間に押しつけられたままで、電車が揺れるたびにとか、たまに鞄が僕の股間を刺激するんです。
横へとか、まるで撫で回すように。

鞄をどけて下さいって言おうかなって、考えました。
だけど、手が当たっている訳じゃないし、触っているのは鞄だし、変に口にするのも気が引けちゃって…。
何より、僕は男で女の子ならともかく、男がそれくらいで騒ぎ立てるのって自意識過剰な奴って周りから変な目で見られるのが怖かったんです。
たかが鞄が体に当たってるくらいで騒ぎ立てる奴だって思われるのが嫌で。
それでなくても身動き一つ取れない満員電車なんですもん。鞄どころか、他人の体が目一杯押しつけられてますから。

きっと僕の気のせいだって、考えようとしました。
男の股間なんて触っても楽しくなんかないはずだもの。
世の中にはそういう趣味の人がいるのは知ってるけど、まさか僕がその対象になるなんて考えもしなかったから。

この電車が混んでいるのはいつものことだし、身動きが取れなくて鞄が動かせないだけ。それが僕の大事な部分に当たっているのもたまたま。
そう、思いこもうとしました。
ほんのちょっと我慢すればって。学校に着くまでのほんの少しだけ辛抱すればいいんだからと。

だけど…。

それがずっと続くだなんて…。
あれからずっと誰かの鞄が僕の股間を押しつけたり、刺激したりするんです。

最初はそれでも我慢しようとしました。
だって鞄だもの。
直接触られた訳じゃないから。
僕みたいな軟弱な子をからかっているだけだって、思いこもうとしたんです。

それなのに、今度は手が僕の股間に伸びてきたんです。
学生ズボンの上から股間を握りこまれて、危うく声が出そうなくらいに驚きました。
信じられなかった。
僕のモノを触っている事自体が。

どうすればいいのか分からなくて、暫くそのままでした。
そうしたら、更に手がもっといやらしい動き方をしたんです。
手の平を動かして、僕のあそこをぐりぐり撫で回してくるんです。
揉んだり、握りこんだりして、刺激してくるから。
その触り方も、触れるだけなんて生やさしいものじゃなくて、あからさまに目的があるみたいな触り方で…。

誰がこんなことをするんだろうって思いました。
恥ずかしくって、怖くって、確かめることも気が引けたんだけど、僕の周りにいる人を順繰りに見て回ったんです。
最初が鞄だから、きっと学生だろうと思いました。

ざっと周りを確かめて、ふいにある人と目線が会ったんです。

そうしたら…。
その人が僕を見て、ふっと笑ったんです。

嘘!
嘘だと目を疑いました。

だって、まさかこの人が?
信じられなかった。
この人が僕に触って来るだなんて。

驚いて、ずっと彼の顔を見詰めていたら、彼が僕の耳元でこう囁いてきたんです。

「お早う、今井祐哉君」って。