好きまでの距離感〜暴走編、三〜

何なんだ。そのガキくさい理屈は、と。
「他の男がってなぁ。触られるのが嫌だって言うんなら、他の奴らはどうすんだよ。同じクラスの三村とか福田とかも俺、結構肩とか組んだり触り合ってんだぞ?あいつらにも、お前ぶちぎれるのか?」
「先輩は違う」
「はぁ?」
「三村が和に触るのと、先輩のとは意味合いが違うような気がする」

ちょっと待てよ。そりゃどーいう意味だ?
「どこがどう違うっていうんだ。そりゃあの人ってば、スキンシップが過剰なような気もするけど…」
「過剰過ぎだ」

ああ…まぁ…そう言われれば、そういう気もしなくもないけど…。
「でも、だからってそれがお前に襲われる理由にはならないぞ。俺が先輩に何の感情も無いってこと、お前だって知ってるだろう?気を回しすぎだぞ」
「他の男に和が舐められるのが嫌だ」
「別に好きで舐められたわけじゃねぇぞ」
「俺だってあんまり和に触らせてもらってないのに、先輩が触るのが許せない」

うん?
今、どさくさに紛れてお前は妙な事を言い出してねぇか。
「つまり、お前は俺があんまり触らせてないのが不服だって言うんか?」
「…」

黙りやがったなこいつ。ということは、不服だって思ってるんだな。
今まであれだけ俺に散々色んな事を仕掛けている癖に、まだ物足りないって言い張るのかお前は。
「じゅ、十分触らせてるじゃないか。お前の部屋に来るたびに、キスとかその…色々してるわけだし。あれでどこが不満だって言うんだ」
「もっと触りたい。あちこち」
「あ、あちこちって…」

戸惑いながらあいつを見上げると、俺を見下ろす桂一郎とまともに目が合った。するとあいつがまたゆったりと体を重ねてきたんだ。
「和とキスをするのもいいんだけど、もっといっぱい触りたいんだ。首筋とか胸とか腰とか足とか、体全部を」
そう言いながらあいつが俺の体を確かめるように触れてくる。
それこそ胸から腹にかけて、撫で回すようにだ。…しかも触り方が何かいやらしい感じがする。

「ば、馬鹿。止せって。お前はまた…」
「和の肌は柔らかくって触り心地いいし、もっといっぱいしたい」
桂一郎の手が俺の脇腹をそっと撫でてくる。ぴくりと背中に電流が走ったような感覚を覚える。
「止めろって…。そ、そこは駄目だって」
「ここ、感じるのか?」

にゃろう。お前、確信犯だな。
あいつの手が俺の太股にかかった瞬間、俺の堪忍袋の緒はぶっつん切れた。
「てめ!調子に乗りすぎた」

どすっ!

今度は桂一郎の腹に良い感じのパンチが入ったと思うんだ。
あいつが腹を押さえて呻く声が真上から聞こえてくる。その拍子に体の上の重量がちょっと脇に逸れたんで、その隙に桂一郎の体の下から抜け出られたのだ。
「和」
あいつが俺の名を呼ぶ。
「なんだ」
わざと素っ気なく答えてやると、桂一郎が恨みがましい目で俺を見ていた。
「腹を殴られたら痛い」
「当たり前だ。痛くなくちゃ、殴った意味が無いじゃないか。言っておくけどな、俺は謝らないからな。お前が調子に乗るから悪いんだぞ」
人差し指を桂一郎に向け、言い放ってやる。するとあいつが口元を少し緩め、しょうがないなというような顔をしていたのが見えたんだ。
何か言いたいんだけど、あえて何も言わないみたいな感じに見えたんで、気になって桂一郎に問いかける。
「何だよ。何か不満なのか?」
「いや…いい」と、言いかけた桂一郎だったが途中で気づいた事があったのか、不意に真顔になり、俺の真正面に向き直ってきたのだった。
「でも…和に一言だけ言いたい事がある」

言いたいこと?
やけに真剣そうなあいつの表情。それにちょっとばかりびびってしまう自分が情けないとは思うのだけど、それでも腰が引けそうになるのは自分でも誤魔化しようがなかった。でも、情けない姿を見せるのはどうしても嫌だから、あえて口だけは強がって見せたのだ。
「一言って何だ?」
「遠藤先輩にはあまり近寄らないでくれ」
「は?」

今更何を言い出すのかと思った。
もしかして冗談かな…とも考えたんだけど、こいつがその手の冗談なんか言わない奴だって事は長年の付き合いで分かっている事だったんで、直ぐにその考えは否定したのだけど。…それにしても、いったいどーいう意味なんだ?
「先輩に近寄るなって、どうしてだよ。お前、あの人嫌いなのか?」
俺の問いかけに桂一郎が一瞬押し黙り、それから言いにくそうに口にする。
「正直、苦手なタイプだ」
「苦手って…」

桂一郎があの手のタイプの人を苦手とするのは、まぁ分からなくもないような気がする。
はっきり言って桂一郎とは真逆の性格だからさ。多分同じ部活でもなければ、きっと話しかけもしない相手だろうってことも。
あの人の軽すぎる性格は俺自身ついて行けないときもあるけれど、そんなに悪い人には思えないんだけどねぇ。