| 闇に響く水音。軋む寝台の音。押し殺された喘ぎ声。 「や・・・くそく・・・アッ・・・守・・・って・・・アアアッ」 「勿論ですとも。全て、君の望むままに・・・ね。」 たった一つだけ灯されたランプが二人の陰影が浮かび上がらせている。 乱れる呼気の下、睦言とは程遠い密談を交わす。 「必ず・・・殺して・・・。ん、くっ・・・あいつを・・・ティッ・・・ダをッ!」 「もう呪詛は始まっている。さあ、もっとその憎しみに満ちた感情をよこしなさい。苦しみ抜いて殺すためにはまだまだ足りないよ。」 キリ、と噛み締めた自分の歯の音がやけに耳につく。無為にすると嬌声を上げてしまいそうで。 突き上げられる度に内側から何かに喰われているようだった。それは呪詛の土台である憎悪を喰われているのか、生命を喰われているのか判別はつかないけれども。稀代の黒呪術師に身を預けている以上、何もかもが終った時には自分もただでは済まないだろう。 すい、と真っ白く華奢な呪術師の指が噛み締められた青年の唇に触れた。 「折角綺麗な声なのに・・・聞かせて欲しいな。こうして組み敷かれることも呪詛の代償の一部だと承知してるんだろう?」 「は、ははっ・・・意地・・・悪、い・・・ことをっ・・・言う・・・んああっ!」 最早、苦痛なのか快楽なのかすら判らない程に追い込まれ、涙を流す。男に抱かれるなどというこの屈辱もアレを殺すためならば。 ティーダを殺すためならば、この涙も無駄にはならない。 Two Heart U 遠くから聞こえる波の音。体全体がゆらりゆらりと揺れている。 どうしてこんなに揺れているんだろう。それに聞き覚えのない声が耳に届く。とろとろと眠りと覚醒の合間で会話を聞く。 「・・・やっぱりか。」 「頭、気が付いてたんですか?あなたの勘の良さには感服しますね。」 「どういうモンかまでは判らねぇけどな。・・・命には係わるだろう。これほどの呪詛となりゃ・・・なァ。」 「相当に危険ですよ。しかもどんな呪かも判らない。次に月が満ちる頃には・・・多分。頭はあまり側にいないほうがいい。巻き込まれちゃ大変だ。」 「あー・・・。おめぇこういった呪詛とかは得意分野だろ?何とかしろや。」 「・・・俺の本業は船医なんですけどねぇ。まあ得意っちゃ得意ですけど・・・。できる限りのことはしますよ。」 黙って聞いていれば話はヤバイ方に向かっていくばっかりで、しかもまたも当事者である俺を置いてきぼりにして。 僅かに身動ぎしたら、側にいた男が気が付いた。 「お、起きたか。ワリィな乱暴しちまってよ。」 「ア、アンタッ・・・!ここドコで・・・うー・・・いたた。」 鳩尾の辺りがじんわりと痛い。そういえば殴られたんだっけっ!? 「ここか?ここは俺の船で俺の部屋だ。ついでに言えば海の上だな。」 いけしゃあしゃあと答えるこの大男の顔を一発殴ってやれればどれだけサッパリするだろう。 体を起こそうとして。はた。と気が付いた。 いやに腕の動きが悪い。重い。視線を落とせば鈍色の鎖と、手枷。 「こ、こ、こ、これッ!」 「ま、取りあえずな。他にイテェとことかねぇか?」 「これ!外せよ!!」 問いには答えずに、両手を差し出した。しゃりん、と金属音が響いて50センチ程度の長さの鎖はティーダの手の動きに倣う。 「それだけ元気なら痛ぇトコなんてねぇな。」 言いながら男は近づいてくる。気が付けば部屋の中には船医と言っていた男もいつの間にかいない。 体が勝手に後ろへ逃げる。でもそこは広いとはいえベットの上。あっという間に追い詰められ。 息も掛かるような至近距離で、傷だらけの顔を見詰めることになった。
ああ、すごい色だ。真紅の瞳なんだ。こんな色は見たことがない・・・な。 「おいおい、聞いてッかー?ったく・・・。度胸がいいっつーか・・・。」 うっかり見詰めて殆ど聞き逃していた。 「え・・・?あ・・・何がだよ。」 そういえば名前がどうのって言ってたような。 「名前を聞くときは普通、訪ねたほうから名乗るもんだろ?」 更に寄ってくる男の手がスカートを抑えるように上に置かれた。 「本当に威勢がいいな。どう見たってイイトコのお嬢さんが何だってそんなに男言葉なんだよ。・・・まーいいか。後でじっくり聞くとして…。」 にやり、と笑った。 「俺の名前はジェクトだ。よーく覚えとけ。」 ああいった手前、名乗らない訳にもいかず。 「オレ・・・は・・・ティー・・・ア。」 「・・・俺ェ?・・・そんなナリしといて実は男でした、なんてくっだらねぇオチは付いてねぇだろうな。」 またやった、と思うが既に言葉は口から滑り出た後。しかもジェクトの言葉も遠からず真実を言い当てている。見た目はともかく実際は男な訳で。 「そうだよ。オレ・・・ホントに男だし。」 「面白ぇこと言うじゃねぇか。いいぜ、実際確かめるからよ。」 どうやって?と尋ねようとしたところへ、少し頭を傾けてジェクトが口付けた。瞬間何が起きたか見当もつかず、大きく目を見開くだけしか出来なかった。 我に返り、慌てて広い胸を押し返そうにもこんな細い腕では何の役にも立たず、蹴り上げてやろうにも抑えられたスカートに阻まれて足も満足に動かせない。 ![]() 更に背中には壁。 せめて懸命に歯を食いしばり、唇を真一文字に結ぶくらいしか出来ない。 こうなれば隙を見て、手枷で思いっきりぶん殴ってやる! ジェクトの手が服の上からふくよかな胸に触れてきた。 途端にぞわり、と総毛立ち、隙を狙うどころではない。 懸命に頭を振り、何とか口付けから逃れ。ただ闇雲に手を振り回し嫌悪の声を上げる。 「やッ・・・だっ!触るなぁっ!」 その手に倣う鎖がジェクトの頬を掠め、ほんの僅か怯んだ瞬間に脇を抜けようとした。 「・・・ってーな。まあ待てよ。そう慌てて逃げても仕方がねぇぜ。」 言うが早いか。ジェクトの手は素早く鎖を掴み、真上に引き上げた。無理矢理に引かれた肩が鋭い痛みを訴える。 「いっ・・・つ・・・放せ!放せよ!」 ティーダも抵抗を止めない。少々の痛みにも目を瞑り、何とか外れないものかともがく。 ふぅ、と溜め息を付いてジェクトは腰に差したナイフを取り出し。振り被って壁が震えるほど力任せに刃を突き立てた。 その大きな音に怯んだティーダの動きが止まった瞬間を逃さず、上向きに柄まで埋まったナイフに鎖を引っ掛けた。 背中には壁があたり、膝はやっとつける状態で吊り下げられ、今度こそ逃げの手段を全て奪われる。 「そう怯えるなって。別に殺そうとか思ってねぇんだからよ。」 呆れ半分に笑うジェクトは変わらず人好きのする笑顔を見せた。それでも再び触れようと伸びてくる手には恐怖しか感じず。 「ヤダっつってんだろ!」 身を捩っても鎖は外れない。 ジェクトの手が頬に触れそのまま滑り、お気に入りのピアスに触れた。肩がぴくりと震える。 耳の形を指でなぞられ、黄金の髪を掻き分け首筋へと降りる。ゆっくりと動く指がくすぐったくて、それでも怖くて。きつく目を閉じて身を硬くすることしか出来ない。 襟元の開いたドレスから覗く鎖骨を指一本で撫でられた時に、大きく体が揺れた。何度か行き来する指が離れたかと思うと濡れた生暖かい何かが代わりに滑った。 「んっ・・・。」 舐められたんだ、と頭で理解するよりも先に声が零れた。その声が妙に気恥ずかしくて唇をかみ締めてしまう。 「可愛い声を聞かせろや。」 「うっさ・・・いっ!」 片手で細い腰を抱き寄せ体を密着させ、胸元に置かれた大きな手はふくらみを布越しに包んだ。 柔らかく持ち上げるように揉まれて、今までに感じたことのない甘い感覚がざわめくように湧き上がる。 体は逃げたいのにジェクトの腕に抱き寄せられていて。ただ、頭を弱く振るしかなかった。何とかこの感覚から逃れたい。 少しずつ動悸が酷くなって、呼気が乱れてしまう。 そうすると抑えようのない声まで一緒に溢れてしまって、自分の声にどうしようもない羞恥に苛まれた。 「いっ・・・や・・・くっ」 俯いて耐えるティーダの露になったうなじに唇を落とし、音をたてて吸う。 「うあっ・・・んくっ・・・。」 密着した体はジェクトが声を殺して笑っているのが伝わる。それが悔しい。 「声を詰めてる方が苦しいぜ。」 腰を抱いていた手が離れ、つ、と噛み締められた唇に触れる。ティーダは反射的にその指に噛み付いた。 「っつ!・・・いってーなぁ。元気がいいのは認めたっつってんじゃねーか。そろそろ大人しくしようとか思わねぇか?」 皮膚が破れて血が滲んだ指をぺろりと舐め。やれやれ、と大仰に溜め息をついてみせる。 「触らなきゃ・・・大人しく、しててもいい!」 「それは聞けねぇな。」 両手が丁寧に体の線を辿る。ジェクトはゆっくりと撫でながらティーダが反応を返す場所、背中や脇腹は殊更丁寧に触れた。 「ふ・・・。う、や・・・だっ・・・って。」 身を捩るたびに鎖が頭上で鳴る。温かい手から引き出される感覚に段々と力が抜けてしまう自分に納得できない。 ジェクトがベットに広がる大量の布に手を掛け、滑り込ませた。 「ばっ・・・!ちょっ、と!何処を触って・・・っ!!」 内股を撫で上げられ、慌てて足を閉じようとしたところへジェクトの膝が割り込んで妨害される。 手が何度か太股を往復し。 無骨な指が、花芯に触れた。 布越しとはいえ体中の感覚がそこに集中したみたいで大きく体が震える。 「嫌ッ!やだ!!・・・こ、わいよ!」 覚えのない強い感覚は畏怖しか呼ばない。 「大丈夫だって。」 再び胸に手が伸びやんわりと揉まれ、今度はふくらみの頂点を指がくすぐるように撫でた。先程よりももっと明確で甘やかな刺激に溜め息に混じって声が溢れる。 宥めるように内股を撫でていた手も再び秘所の一番強く感じる花芽に触れた。指先まで痺れるような甘い疼き。 「ああ、やぅ・・・ん。」 震える声はまるで自覚がないのに勝手に零れてしまう。怖くて縮こまっていた体からまた少しずつ力が抜け、熱が蓄積されるようだった。 「オメェ・・・可愛いな。」 耳元で囁かれてまた体が震える。 「ふ・・・やっ・・・だ、よ・・・」 堪えていた涙が頬を滑った。ジェクトがそれを舐め取る。 ティーダの力の抜けた体を抱き、背中を軽く宥めるように叩いて。引っ掛けた鎖を外し、そっとベットに横たえる。 「もう暴れんじゃねぇぞ?・・・ティーア。」 ああ、今が逃げ出す最後のチャンスだ。だけど小さな痛みに似た何かがたくさん蓄積してるみたいで体が重たくて。そして熱くて。息をするのが精一杯。 どうしよう、と逡巡していた時。胸がつきん、と痛んだ。 あれ、なんだろう?と思う間もなく痛みは失せ、僅かだか体が動きそうだった。何かないか、と見回した時。 目に入った窓には太陽の残滓が僅かに残るのみになってた。 ヤバイ!!このままだと・・・男に戻ってしまう!!いや、戻ったほうが今の状態から逃げれそうではあるのだが、見られてはいけないような気がして、慌てて身を起こそうとした。 「オメェ、この期に及んでっ・・・!」 「バカッ、放せってば!・・・あー!もう駄目だっ!」 ティーダの輪郭がぶれた、ようにジェクトには見えた。 「・・・見るなって!」 顔を隠した両手が心なしか太くなった・・・ように見える。 豊かなふくらみがあった胸が・・・平らになったように見える・・・と言うか思いたい。 身長も・・・でかくなった。少々のようだが。 「・・・おい。」 やっと搾り出した声は自分でも笑えるくらいに掠れていた。気持ちも体も萎えるだけ萎えて話にもならない。 「・・・痛っ!・・・なぁ・・・ちょっと!」 顔を顰めて身を捩り。震える手を差し出した。見れば指先は紫色に変じ、拳も既に握れないほどになっている。 「ああ、手枷が小さくなった・・・訳ねぇな。オメェがでかくなった・・・んだよなぁ。やっぱ。」 「痛い・・・からっ・・・こ、れっ・・・取って・・・」 銀の手枷は少女の手首に合わせてきつめに締められたものだ。目の前で男に変じてしまったが、少年であっても食い込んで痛いに決まっている。 「・・・逃げねぇか?」 とりあえず今は頷くしかない。 「仕方ねぇな。」 胸ポケットから小さな鍵を取り出して、隠された鍵穴に差し込む。微かな音がしてやっとティーダの手は開放され、急激に流れる血流は痺れを引き起こした。 「しっかり指を動かして揉んでおけよ。・・・んで聞こうか?何がどうなってんだ。」 「そっ・・・その前に・・・も、いっこ。・・・背中の・・・」 「・・・へーへー、ボタンね。」 いくつか外してやると、はあ、と大きく溜め息をついた。細いドレスに締め上げられて詰まった息がやっとつけたようだ。 ![]() 外したボタンから覗く薄く筋肉がついた背中も、少しトーンの下がった声も。確かに少女の物ではない。 「で?」 「・・・アンタ言ってだろ?呪詛ってヤツのせいでさ、太陽がある間は女になっちゃうんだよ。」 手首をさすりながら、ぼそぼそと呟いた。 そろりとシーツを引き寄せながら壁際へ逃げる。元に戻ったとはいえ、体の端々に重さが残っていて動き辛い。その上、ドレス姿であるのが非常に恥ずかしい。 「・・・クソ、やっぱ男がモトか。」 心底残念だ、と言わんばかりの表情にティーダは少々安心する。 「だけどよ。」 くるりと向いたジェクトの瞳には既に落胆の色は一片もなく、変わりに好奇心に満ち溢れて輝いている。 「面白ぇよな、おめぇ。」 「面白くないっ!」 すい、とジェクトが近付いた。反射で体が逃げる。まじまじと見つめられて居心地が悪い事この上ない。 「俺はオメェの言うことを聞いて枷を外してやったぜ?」 「に、逃げない約束は・・・守ってる・・・だろ?」 真正面から赤い瞳に覗き込まれる。 「礼もなしか?」 「何だよそれ。」 わからネェか?とジェクトが問うた。 判る訳がない、と本心を答える他はなく。どう考えても分からないモノは分からない。 「よくよく考えりゃ俺がオメェの言うことを聞いてやる義理何ざこれっぽっちもねぇんだ。だが敢て聞いてやったんだぜ?それに対する報酬はねぇのかと言ってるんだ。」 ジェクトの言い分はただの屁理屈にしか聞こえないが、ティーダは納得するより手立てはない。 「えー?え・・・と。あ、ありがと・・・。」 「おいおい、それだけか。せめてキスの一つぐらいしてみろや・・・これぐらいのをよ。」 またも不意に口付けをされた。 今は男に戻れて先程よりは少しは抵抗できるだろうと思えば。奇妙な気だるさが残っていて状況は殆ど変わらない。 押し返そうとした手首をジェクトが強く掴んだ。瞬間走った痛みに上がりかかった声の隙をぬってぬるりと咥内に何かが入り込む。 細い顎をつかまれて、無遠慮に動き回るそれに噛み付いてやろうにも抑えられて出来ない。 「うッ、う・・・む、ンッッ!!」 もしかしなくても口の中を動いてるコレってこいつの・・・舌?! 冗談じゃない!と暴れてやろうにも押さえ込まれて動けず、意識がそこへいけば腰が引けてしまう理解し難い感覚がざわめく。 しかも息苦しいなんてもんじゃない。懸命に鼻で息をしようにも全然追いつかない気がする。空気が肺まで届かないようで。 くらり、と揺れる視界と意識に力が奪われるのがわかる。それでも縋り付きたくなんかなくて、必死でシーツを握り締めていた。 散々咥内を弄った末にやっと開放し、ジェクトが上気したティーダの頬に触れた。 忙しなく肩で息をする姿はなかなかに煽情的だ。 「俺は男になんざこれっぽっちも興味はねぇんだがよ。・・・オメェは面白そうだ。」 to be continued! |
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「CRYSTAL WIND」の安藤蒼師様の小説、「Two Heart」の第二段です。 攫われたティーア姫がジェクトに色々されちゃう、美味しい展開の第二段。 怯えて逃げまどうティーアが可愛いったらないじゃないですか!まさしく腐女子心のツボをつかれてしまいました。 そして僭越ながら、またもやこんな素敵な小説にヘボな挿し絵なんぞをつけてしまいました。 ティーア姫と、ティーダのイラストを。 女の子にドレスを着せるのはなんともないのですが、男にドレスは結構考え込んでしまいました。 女装って苦手でして。なるべく変に見えないように苦心したのですが。 それにしても…小説のこの後の展開がもの凄く楽しみです。 男に戻ったティーダがジェクトにどうされてしまうのか。期待してしまいます。 |