穿たれた刻印





「あれは満月の夜だったんだ」そう…ティーダは語り始めた。

青白い月が夜空に浮かんだ夜。
離れで寝ていたら、誰かに呼ばれたような気がしていきなり目が覚めた。
生き物の気配すら無いような真夜中。障子ごしに声が直接頭に届いて、いつもなら寝入ったら朝まで目が覚めない自分だったのに、唐突に起きてしまった。


「誰かに起こされたのか?」
アーロンがティーダの真向かいに座り、そう尋ねる。
その問いかけに、ティーダが首を振る。
「…側に人がいた気配は無かった。頭の中から声がしたような感じだったんだ」
アーロンの問いかけにティーダは答え、窺うような目つきで彼を見上げる。
「これって…変?」
「いや、確かめたかっただけだ。すまん、話を続けてくれ」
「うん…」


あの時の自分はまるで自分じゃないみたいだったんだ…と、ティーダは話を続ける。
まるで魅入られたみたいにふらふらと障子を開け、そのまま裸足で庭へ降りていった。
外の景色も…いつもと違っていた。
毎日見ていた庭なはずなのに生気を無くし、息を潜め、凍り付いたような景色に変わっていた。
虫の声も、木々のざわめきも無くて、何もかもこの世に自分一人だけしか動いていないようなそんな雰囲気だったんだ。
その間もずっと声がしていた。
…ここへお出で。
…私の元へお出で、と。
呼ばれるままに行ったら…櫻の木の下に、男が一人立っていたんだ。


「男が?知っている奴か?」
アーロンが問いかける。
「ううん」
ティーダが首を振る。
「今まで会ったことも、見たことも無い奴だった。それに…」
アーロンの問いかけにティーダを瞳を宙に浮かせ、記憶の中の男の姿を思い出そうとする。
「それにとても変わった格好をしていたんだ。髪がこう…固まってて変な髪型をしていたし、服装も今まで見たことが無いような奇妙な服を着ていた。胸にも何だか…入れ墨、みたいなものが入ってた」
入れ墨…と言う言葉をティーダは言いにくそうにはきだしていた。
それこそが今、ティーダが直面している問題の根元そのものだったのだから。
アーロンがティーダを促す。
「そいつはお前に何て言ったんだ」
「あいつは…」


その男は櫻の木の下でティーダを手招きして、現れたティーダの手を取って自分の方へと招き寄せた。
(ああ…やっと見つけた。ずっと私の伴侶に相応しい者を探していたんだ。待っていたかいがあったな。君は…美しいよ。その顔も身体も何もかも、私好みだ。やっと見つけた。君を…君こそが私の伴侶に相応しい)
彼はそう言って笑みを浮かべ、おもむろにティーダを抱き寄せようとした。
(ちょ…っと待てよ!いきなり人の庭に現れて、あんた何言ってんだ?何で男の俺があんたの伴侶なんかにならなきゃならないんだ?馬鹿な事言ってんじゃねぇよ。そもそもあんた、いったい何ものなんだ?)
訝しむティーダに、男が悠然とした笑みを浮かべる。
(私の正体なんか、どうでもいいだろう?大事なのは、気持ちなのだから。色んな女や少年を見てきたよ。でも、君ほどに私好みなのはいなかったよ。ああ…綺麗な肌だね。今すぐにでも吸い付きたいくらいだ)
そう言って男は好色そうな目を隠そうともせずに、ティーダの全身を舐め回す。
夜着を身にまとってはいるのだが、まるで裸にでもされているような感触に襲われて、思わずティーダははだけていた胸元をあわせていた。
(気持ち悪い事言うなよ。あんた、どっか変なんじゃないのか?)
あからさまに軽蔑の眼差しを向けるティーダに、男は動じもせずに微笑み続ける。
(その気の強さも愛おしいくらいだよ。そんな気の強い君を夜具の中で思う様、組み敷いてみたいね。さぞや淫らな光景だろう)
ティーダの拒絶の言葉なぞまるで耳に入っていないかのように淫らな言葉を男ははき続け、さらに彼の腰に手を回そうとする。そんな男の手から身をよじって身体を離し、ティーダは見ず知らずの男を睨み付ける。
(そんな巫山戯た事を言う為に俺をこんな真夜中に起こしたのか?非常識だぜ、あんた。話がそれだけなら、俺は帰るからな)
気丈な態度をとり、ティーダは男に背を向ける。
だが正直なところ、ティーダは彼に得も言われぬ恐れみたいなものを感じていた。
音一つしない静寂な夜。只一人、木の下に立っていた男。奇妙な格好をしてはいたが、感じる違和感はそれだけではなかった。何かが…違うのだ。普通の人間ではない。気配が、纏っている空気が何もかも普通とは違いすぎるのだと。

危険だ。
ティーダの頭の中で警告が鳴る。
この男は危険だ。彼の側にいてはいけない。直ぐにここから離れなくては…と。

内心の動揺を押し殺し、ティーダは男に背を向けて歩き出す。
走り出してしまいたい衝動に駆られてもいるのだが、男に弱みを見せるような気がして殊更にしっかりと足取りを進める。
頭の中では疑問だらけだった。
何もかも分からない事だらけだったが、ティーダの本能が彼と関わり合うことを避けていたのだ。
彼は危険だ…と。
部屋に戻ろうとしたティーダの背中に男の静かな声が掛けられる。

(逃がさないよ)
その瞬間、ティーダの足が地面に縫い止められたかのように動かせなくなった。
(え?)
驚き、慌ててティーダは自分の足下を見やる。
(!)
心臓が口から飛び出しそうな衝撃だった。
蛇が…。無数の蛇がティーダの脚に絡みつき、歩こうとしていたティーダの足を止めていたのだ。
(う…そ…!)
突然に何の前触れもなく現れた無数の蛇の群。のたうち回り、脚の無い胴体をくねらせて前に進もうとしていたティーダの脚に絡みついて、行く手を阻んでいた。
直ぐにこれはあの男のせいだとティーダは直感し、慌てて振り返る。
振り返った視線の先には、更に禍々しい光景が映っていた。
男の足下からおぞましい量の蛇がまるで一筋の川を作っているかのように伸びて、それがティーダの足下に迫っているのだ。
(な、何だよこれ!離せよ!)
悲鳴に近いティーダの声。
脚に絡みつく蛇達。
男が…壮絶な笑みを浮かべている。
(逃がさないと言ったろう?君は私の伴侶なんだからね。私の伴侶とするには、いささか準備がいるみたいだから、その為の彼等だよ。お前達…彼に”刻印”を付けてお上げ)
男がティーダに向かって人差し指を向ける。
その瞬間を待っていたかのように、二匹の蛇がティーダの太股を目掛けてゆっくりと脚を伝って這い上がってくる。
ティーダの全身がそそけだつ。
恐怖に声すら出なかった。
(あ…あ…いや…だ!助…けて)
じわりじわりと蛇が上ってくる。ぬめった胴体が脚を伝って這い上がる感触がおぞましかった。
(怖がらなくてもいいんだよ。これは私の伴侶になるための儀式みたいなモノなのだから。寧ろ…)
離れたところにいるはずなのに、ティーダの耳元で聞こえてくる声が不思議なはずなのだが、今のティーダにはそこまで気づくゆとりは無かった。
男が薄く笑う。
(寧ろ、君にとっても気持ちのいいことなのだから)
(何だって?)
どうして蛇が…と、言いかけようとしたティーダの太股に突然に焼け付くような痛みが走る。
(う…わぁ!あ…ぁ…)
余りの痛みに、悲鳴が抑えられなかった。皮膚に直接、焼け火箸を突き立てたような激しい痛みだったのだ。
脳天にまで突き抜けるような痛みに全身が痺れる。腰に力が入らない。ティーダの太股に這い上がっていた蛇が、身体をくねらせて肌に刻印を焼き付けようとする。
くらりとティーダの視界が暗くなる。
太股が引きつる。
意識が遠くなっていく。
朧気な意識の狭間に男の声が微かに聞こえてくる。
(一年後、迎えに来るよ。その頃には君は私の伴侶として相応しい身体になっているだろう。覚えておいで。一年後だよ。一年後…)


事件のあらましを語り終え、ティーダはふぅ…と息を吐く。
「そのまま気を失って、目が覚めたらちゃんと自分の部屋の布団の中で寝ていたんだ」
「それが半年前の話なのか?」
「うん」
そう言って、ティーダは着物の上から蛇が走ったという太股の上にそっと手を置いた。
思い出すのも嫌な記憶なのだろうか。眉をひそめ、辛そうに目を伏せている。
顔をほんの少し傾けたせいなのだろう、癖のないさらりとした前髪が額にかかり、彼の顔に金糸の彩りを添えている。深く開いた胸元から覗く、くっきりとした鎖骨の線。
それはどんな美女にも負けないくらい…いや、事によっては少年期独特の危うい艶を持ってアーロンの目に映っていた。
はっきり言ってしまえば、色っぽかったのだ。
(こいつ…いつのまに、こんな色っぽくなっていたんだ?)
そう、アーロンが問いかけたくなるくらいに艶っぽい表情を見せていた。
顔を伏せていたティーダの瞳がアーロンを見つめる。
深い海を思わせるような青い瞳。それが今は不安に揺れて彼を見ている。
この青を、自分は守ってやらなくてはいけないと改めてアーロンは気づかされ、殊更義務的にティーダに尋ねる。
「その男には本当に見覚えが無いのか?」
「無いよ。あんな変わった格好の奴なんて、一回見たら忘れられないって。今まで会った事も見たことも無い」
それだけはいっそ、きっぱりとティーダは言い放つ。
「そうか…」
ティーダの言葉にアーロンはうなずき、押し黙る。
多分、見覚えが無いと言うティーダの言葉に嘘はないのだろう。
だとすれば…と、アーロンは考える。
”魔”に魅入られたのか。
「アーロン?」
黙り込んでしまったアーロンを不安げにティーダは覗き込むように見上げてくる。
その青い瞳を見て、アーロンが大丈夫だと肩を掴む。
彼の言葉にやっとここでティーダが表情を崩していた。自分なりに気を張っていたのだろう。頼れる相手が出来た気のゆるみが彼本来の明るさを取り戻し始めていた。


彼の笑顔を見て、アーロンはあることを考えていた。
綺麗な少年だと、自分の養い子ながらアーロンは思っていた。
彼の母親も美しい人だったのだ。そんな彼女の美貌をティーダはそのままに受け継いでいた。もちろん男女の違いはあるのだが、それを乗り越えてもティーダは綺麗だったのだ。
整った目鼻立ちが小作りな顔の中に綺麗に収まっている。細い顎の線。思わず触れてみたくなる唇。17歳の男子にしては滑らかな肌。しっとりと手になじむような。
何よりもティーダの印象を一番に物語る瞳。海を思わせるような深い青い瞳がその顔の中に、まるで宝石のように収まっている。
どちらかといえば女性的ともいえる顔立ちなのだが、強い意志さえ感じさせるその印象的な瞳がティーダをただの美少年とは一線を画していたのだ。
そしてその顔を華やかに縁取るプラチナブロンド。
さらりとした癖のない髪がティーダの顔を引き立てているのだ。


ある意味”魔”に魅入られても仕方が無いほどの器量だったのだ。


「…に、してもだ」
ここでアーロンが眉間に皺を寄せながら、ティーダを見つめる。
ティーダが何?と聞き返す。
「そんなことがあったのなら、どうしてもっと早くに俺に言わなかったんだ」
咎めるようなアーロンの物言いに、ティーダが不満げな顔を向ける。
「だってしょうがないじゃないか。俺だってアーロンが”憑き物落とし”をやっているなんて、ブラスカさんに教えて貰うまで知らなかったんだぞ。アーロン、俺に一言もそんなことしてるなんて言わなかったじゃないか」
「お前が聞かなかったからだ」
「そんな普通じゃない仕事してるなんて、誰が気が付くもんか!」
アーロンの言葉に、ティーダが即座に言い返す。
(まったく…黙っていれば、そこそこ美少年で通るのに、どうしてこうも口が悪いんだか)
自分がティーダを育てたということにアーロンは頓着せずに、密かにため息を付いていた。


一方のティーダは彼なりに意外な事実に驚いてもいたのだ。
あの不思議な体験をしてから半年余り。誰にも言えないままに月日だけは過ぎて、自分の身体の変化を一人で耐えていたのだ。
それも最近は耐え難くなってきた。
このまま一人で思い悩むことも出来ずに、思いあまって父の知人のブラスカへ相談したのだ。
博識で、占い師とまではいかないが、悩みを抱えた人や助言を求める人が後を絶たない人物で、彼なら今の自分の状態を何とかしてくれないか。もしくは少しでも光明が見えないかと一縷の望みを持って、ブラスカを頼ったのだった。
だが、相談しにいったブラスカに意外な事実を告げられたのだ。
沢山の本の山に囲まれた部屋で、優しげな笑みを浮かべながらブラスカはこう言ったのだった。
「ああ、そう言うことなら私ではなくて、アーロンに頼った方がいいだろうね。何しろ彼はそれが本職なのだから。私は彼に持っている知識をあげる方の立場なんだよ。現場はね、アーロンの管轄だから」
それでティーダはアーロンの仕事の内容を初めて知ったのだった。


早くに両親を亡くしたティーダを父の知人だというアーロンがやってきて、幼かった自分を育ててくれた彼。
寡黙で強面のアーロンを最初ティーダは、なかなか懐くことが出来なかった。
(実際、顔にこんな傷跡が走っているおっさんを見て、怖がらない子供なんているわけないよな)そう、ティーダは考えていたのだから。
ただ…一緒に暮らしている内に、アーロンが実は只の不器用で口べたなだけの、本当は情に厚い優しい人だということにティーダも気づいて、徐々にうち解けていったのだ。
それでも彼の全てをティーダは知っているわけではなかった。
父親とはどういう知り合いなのか。
仕事と称して、時々何日もいなくなる彼の事を何もティーダは知っていなかったから。


そして、今回の事でティーダはアーロンの仕事の一旦をようやく知ることが出来たと言えるだろう。


「まぁいい。とにかく、その入れ墨を見せてみろ。話はそれからだ。その入れ墨を見ないことには何も始まらんからな」
ふてくされかけたティーダの機嫌を取るわけではないのだろうが、アーロンが話の矛先を逸らしてくる。
けれど、入れ墨を…と言うアーロンの言葉にティーダが躊躇する。
「やっぱ…見ないといけないわけ?」
「当たり前だろう。それが一番の証拠にもなるし、相手が言った”刻印”と言う言葉の意味も確かめたいからな」
「う…ん」
促されて、ティーダが躊躇いがちに着物の裾を割り広げる。
張りのある健康的な太股がアーロンの目に飛び込んでくる。全体的に良く日に焼けたティーダの肌なのだが、太股の内側は焼けにくい場所なのだろう。そこだけ妙に白く、アーロンは一瞬直視するのを躊躇った程だ。


一方。ティーダは彼ながらに躊躇わずにはいられなかった。
いくらアーロンがティーダの養い親で、自分の小さい頃を知っているとはいえ、男の目の前で股を広げなければいけないのだ。
それが必要なこととはいえ、恥ずかしくないわけがなかった。
「ここに…あいつが言った”刻印”の入れ墨みたいのがあるんだ」
恥ずかしさを押し殺し、ティーダはアーロンにその場所を指し示す。
「ん?」
指で指し示された場所にアーロンが目をやっても、そこにはなんの痕跡も無かった。
「どこにそれがあるんだ?俺には何も見えないぞ」
アーロンの指摘にティーダがああ…と合点する。
「あ、そっか。このままじゃ、見えないんだよな。え…っと、どうすればいいかな。(ここでティーダは視線を彷徨わせ、アーロンの腰に目をやる)あ、そうだ。アーロンの腰のお酒、ちょっと貸して」
ティーダが手を伸ばし、アーロンが普段腰に下げている酒の入った入れ物を取ろうとする。
「これをどうするんだ?」
「いいから貸してよ」
アーロンから手渡され、ティーダはその中身に口を付ける。
こくりとティーダの喉が酒を嚥下する。
「お前、いったい…」
アーロンが止める間もないくらいだった。
「これ…結構強いお酒なんだね。アーロン、普段こんなの飲んでるの?」
飲んだ口元を抑え、ティーダがアーロンを見つめている。
「子供が飲むような酒じゃない。それにこれは気付けようだ。酔っぱらうために持ち歩いてる訳じゃない」
ティーダの手から酒を取り上げ、アーロンが自分の腰にまたぶら下げる。
「うわ…熱くなってきた。これで何とか浮かび上がって来るかな?」
酒でほんのりと頬を染め、目元を赤くするティーダ。
そこにはいつもとは違う艶っぽさが彼を彩っている。
身体も火照っているのだろう。手を団扇の用に仰ぎながら、アーロンを見やる。
たった今、酒を飲んだせいなのだろうか。唇が濡れていて、妙に危うい色を全身に漂わせている。


「多分、これで見えてくると思うよ」
意味深なティーダの言葉に、アーロンが何事かと尋ねる。
「いいから、もう一回ここを見てよ。今度は大丈夫だから、きっと」
ティーダがもう一度と言って、自分の太股を指し示す。
言われて彼の太股を見て、アーロンは思わず唸っていた。


そこには…今まで何も映っていなかった場所に、まるで浮かび上がるかのように二匹の蛇が互いに絡み合い、姿を現していたのだ。
「これは…」
驚き、アーロンはティーダを見つめる。
「俺にも良く、分かんないんだ。でも普段は目に見えないんだけど、こうやってお酒を飲んだ後とか、お風呂に入った後なんかになるとこれが浮かび上がるんだ。…身体が暖まった時に…出る?みたい」
張りのある健康的な太股に、そこだけが禍々しく浮かび上がる二体の蛇。怪しげで、淫らな刻印にアーロンは目を反らすことが出来ないほどに。
「なるほど…。入れ墨で言うところの白粉彫りみたいなものか」
ティーダの太股にある刻印から目を離さずに、アーロンは呟く。
「そんなのがあるの?白粉彫りなんて」
「ああ。あれも身体が熱くなったときとか、今みたいに酒を飲んだ後とかに出る、特殊な入れ墨があるんだ。多分、それと同じ原理なのだろう。しかし…それにしても…」
何て凝った刻印なのだろうとアーロンは思わざるを得なかった。
ティーダにこれを刻んだ相手はかなり、老練な相手だろうと。

これは心して係らなければな…と、改めてアーロンは気を引き締めた程だ。
「ねぇ…」と、ティーダが難しい顔をしているアーロンに呼びかける。
「何だ?」
「もしかして…アーロン、怒ってる?俺が変な奴に目を付けられて、それなのに半年も黙っていたから…それで機嫌悪い…の?だって、その為に他に仕事もあったのにすっぽかして来たんだろう?だから…俺の事、怒ってるの?こんな変なことに巻き込まれて…」
終わりの方の言葉は、殆ど消え入りそうな声だった。
「何を馬鹿げた事を言ってるんだ」
即座にアーロンはティーダの言葉を否定する。
「だって…アーロン、俺のこと真っ直ぐに見てくれないじゃないか。ずっと険しい顔もしてるし。だから…俺…」
くしゃりと顔を歪め、まるで幼い子供のような表情を見せるティーダ。
思わずアーロンは舌打ちをしかける。
そして何か言葉を掛けようと言いかけて思い直し、自分の前に腰を下ろしているティーダの肩を掴み、彼を自分の胸の中へ引き寄せた。
「ア…アーロン?」
「詰まらないことを考えているんじゃない。お前は何も悪くない。寧ろ腹立たしいのは俺自身にだ。今まで気づいてやれなくて、すまん。辛かっただろう。」
気丈さを装ってはいるのだが、ティーダなりにこの半年は苦悩の毎日だったのだろう。掴んだ肩の細さに、抱きしめた身体の冷たさに彼の苦悩の影が現れている。
一人で思い悩み、眠れぬ夜を過ごしたのだろうと思うと、それまで何も気づいてやれなかった自分をアーロンは悔やまずにはいられなかった。

だが…と、アーロンは思う。
彼をこのまま、”魔”に魅入られたままにしておくつもりなど、アーロンは欠片も思わなかったのだ。
だから殊更強い口調で、彼は言う。
「あまり自分を責めるんじゃない。いいか、これだけは覚えておけ。何があっても、俺がお前を守ってやる。そいつがまたお前の前にまた現れても、俺が指一本お前に触れさせやしないからな。だから一人で何もかも背負い込むな。辛いことがあったら、真っ先に俺に言うんだ。俺は、お前を命に替えても守ってやるからな」
それはアーロンの心からの思いだった。
自分の胸の中の、この愛おしい存在を守りたい。誰にも渡すものかと。
それが例え、”魔”と呼ばれる忌まわしいものだとしてもだ。


ティーダがアーロンの広い背中に手を回す。
「俺のこと…守ってくれるの?」
「ああ、俺の命にかえてもな」
彼のその言葉に、ティーダがアーロンの胸に頭を擦りつけて甘えたような声を出す。
「それ…やだな」
「どういう意味だ?」
「だってさ、俺を守るためにアーロンが死んだら、悲しいもん」
それもティーダの本当の気持ち。
彼の子供じみた言葉に、アーロンがふっと表情を和らげる。
「そうか。そうだな…だったら死なない程度に頑張るかな」
「うん。それがいい」
アーロンの広い胸にしがみつくティーダをもう一度抱きしめる。
腕の中に感じる確かな温もりを、アーロンは実感する。
この存在を誰にも渡すまいと、改めてこの身に誓う。


穿たれた刻印。
その正体を突き止めて、何としてもティーダを守るのだと。


その為には…と、アーロンは抱きしめていたティーダの身体を離し、頬にそっと手を添える。
「何?」
ティーダが何事かとアーロンの目を覗き込む。
「お前の刻印をもう一度見せてくれ。もっとじっくり見て、確かめたい事があるんだ」
「もう一度?」
「ああ」
そう言って、アーロンの手がティーダの着物の裾に差し込まれる。
「え?」
ティーダが慌てて、アーロンの手を押しとどめる。





一応続き…ます。



書いても書いても終わりません。まだ序盤です。
これから話は本題に突き進むのです。…っていうことは、もっと書かなきゃ
いけないってこと?(冷や汗、ダラダラ)

え、え〜と目指したのはオカルトエロ。
そう見えないかもしれませんが、オカルトエロなのです。
どこがエロ?と突っ込まれるかしら。でもね、これからエロになる予定なのです。
そう、次はね。続きはあんだーにて。
…しかし、この話はどこまで続くんだろう。



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