穿たれた刻印〜序章〜

アーロンが仕事へ行った。 いつものように何も言わずに、素っ気なく「暫く帰ってこない」とだけティーダに告げて発っていった。 この広い家に自分一人だけを残して、彼は朝早くに行ってしまった。 古くて年代を感じさせる、日本家屋。総敷地面積も広く、純和風の作りの家と庭。 代々続いた由緒正しい家柄だと人に言われたことがあるが、ティーダにはそれが何なのかは知らなかった。 見る人が見れば落ち着いた佇まいの屋敷だと感じるのだろうが、ここに生まれたときから住んでいるティーダにとってみれば、ただ広いだけの寒々しい家にほかならなかった。 使っている部屋より、使ってない部屋の方が多い家なんて、無駄だとしか思えないのだから。 それでも…まだ同居人のアーロンがいればそれなりに過ごせているのだが、彼がいなくなった途端にこの家の広さが耐えられなくなってしまうのだ。 ティーダが小さかった頃は、一人になるのが怖くて養い親であったアーロンに始終まとわりついていた記憶があった。 ティーダは一人が怖かった。 いや…一人にさせられるのが怖かったのだ。 彼には両親がいなかった。 二親ともにティーダが幼い頃にいなくなってしまったのだから。 父親は、ティーダが十歳の年に突然に帰らなくなった。蒸発したのか、事故か、何か不足の事態に巻き込まれたのか分からないままに帰らなくなってしまった。 母親は………。 突然にいなくなってしまった父親の帰りを待ち続け…そのまま花が枯れるように死んでしまった。 元から身体の弱い女性だったのだが、心も弱かったのだろう。 愛する夫の帰りを待ち続け、待つことに忌み疲れ、心と身体をすり減らしてしまったのだ。 まだ幼かった子供を残して、彼女はひっそりと息を引き取ってしまった。 ティーダ一人を残して。 あの時、父の友人だというアーロンが側にいてくれなかったらティーダは本当にひとりぼっちになっていただろう。 小さかった自分。そんな自分をずっと見守ってくれたアーロン。 厳しくて、でもずっと深いところでは優しい彼。 アーロンがいたからこそ自分は両親がいなくなって大丈夫だったのだろうと、ティーダは今だからそう思ってしまう。 彼がいたから。彼だから…。 いなくなってしまった家族のように慕っていた。彼が大好きだった。 ずっと、ずっと…。 今は…好きの感情が別の方向に向かっているのを、ティーダは自覚していた。 好きが肉親への情からではなくて、恋人への感情に変わってしまっていることを。 アーロンが好きだった。 誰よりも、何よりも。 いつからなんて分からないくらいに。気が付いたら彼を思っている自分に気づいたのだから。 ずっと自分の側にいてほしい。自分を見ていて欲しい。アーロンが…好き…だった。 思い続けて眠れない夜を過ごし、自分の中に思いを抱え続け…懊悩し、ある日それが爆発した。 アーロンが好きだと告白したあの日。 抱え込んだ自分の感情すら抑えきれず持て余していたティーダを、アーロンは優しく受け止めてくれたのだ。 あの時のアーロンの暖かい胸は忘れられなかった。 後先も考えずに自分の気持ちをぶつけたティーダの思いを、アーロンは少ない言葉で返してくれたのだ。 「俺もお前が好きだ」と。 正直、軽蔑されてもいい。どうなってもいいと、そんなせっぱ詰まった思いでうち明けたのだ。ティーダは。 けれど…アーロンも自分を好きだと言ってくれた。 子供じみた感情だとあしらうこともしないで、ティーダを抱きしめてくれたのだ。 夢のような瞬間だった。 嬉しくて、幸せで、彼の腕に抱きしめられたそのことだけでもう、何もいらないとさえ思ったくらいに。 アーロンが自分を見ていてくれる。 彼も自分を思ってくれている。 そのことだけで満たされたはずなのに………。 一旦、思いが満たされてしまうと。人はもっと、とそれ以上を望んでしまう。 それは他愛ない執着であったり、独占欲であったり。あるいは欲望とも呼べる物。 最初は…アーロンに抱きしめて貰えるだけで、ティーダは幸せだった。 彼が自分の名前を呼んで、微笑みかけてくれて、抱きしめる。それだけで良かったはずだったのだ。 なのに…それが物足りなくなってしまう。 もっと強く抱きしめられたい。もっときつく、体中で彼を感じたいのだ。 ティーダはアーロンに飢えていた。 彼を好きだと言って、アーロンも自分を好きだと言ってくれたはずなのに…。 どうして彼は自分を抱いてくれないのだろうかと。彼に、ティーダは抱かれたかった。 アーロンの匂いに包まれて、愛されたかった。 今、ティーダは夜具の上に横たわっている。 もう夜も遅い時間。眠ろうと夜具の中に入り眠ろうとしたのだが、なかなか寝付けられなかったのだ。 アーロンがいない家。 一人で眠る夜が寂しかった。 ここに…アーロンがいてくれたら夜の静けさも何もかも気にならないのに。 古いだけの屋敷は、一人で眠るには寒々しいだけなのだから。 眠ろうとしても、目がさえてどうしても寝付けない。 原因は分かっている。 妙に身体が疼いている。多分、そのせい…と。 眠ることを諦めて大きく息を吐いて、夜着の前合わせからティーダは自分の手をそっと胸の上に這わせていく。 この身体をアーロンが触れてくれたら、どんなにか気持ちいいだろうかと思ってしまう。 あの無骨な男の手で、この全身を触ってくれたらとても幸せな気分に浸れるだろうと。 この胸を…触れて欲しい。この胸の飾りを彼が触れたらどうなるのだろう。 逞しい彼の身体に抱かれたい。 彼の匂いに全身を包まれたかった。 触れて欲しいのは胸だけではない。 ここも…と、ティーダの手が下腹部へと伸びていく。 自ら着物の裾を割り、下着の上から自分の中心をそっとなぞっていく。 そこはすでに熱くなっていた。 自らの浅ましい欲望に今はもう、躊躇いなんてなかった。 しっとりと濡れた下着。ティーダの欲望の中心は触れられるのを待ち望んでいるよう。 目を閉じて、ティーダは下着の中へと自分の手を滑り込ませていく。 直接に触れたそこは…先走りの蜜を滴らせ、熱くなっていた。 「く………」 指を滑らせる。 欲望はもっと触れて欲しいのだと訴えかけているかのように頭をもたげ、愛撫を待ち望んでいるようだ。 くちゅりと濡れた音がする。 「あ…ん…」 手を止められない。したたり落ちる精液が手を濡らすのも構わずに陰茎をしごく。 くちくちと淫らな音が耳に届く。 はしたないと分かっていても自分を止められなかった。 アーロン。 胸の中で愛しい人の名前を呼ぶ。 彼にここを触って貰ったら、どれくらい気持ちいいのだろう。 ここを触って欲しい。ここを…彼の手で。 「ん………」 熱くなる体。しとどに濡れる淫らな欲望。 アーロンに触って欲しいのはここだけではなかった。 そろりとティーダは指をもっと奥深く。禁忌の蕾へと伸ばしていく。 今はまだ固く閉ざされた蕾。 そこはまだ誰も受け入れたことのない、ところ。 男同士ではそこを使うのだと、誰かに聞いたことがあったのだ。 こんな狭い場所を男のモノで受け入れられるものだろうかと思ってしまうのだけど…。 それでも…アーロンと一つになれるのなら…。彼と、もっと深く繋がれるのならどんなに辛くても我慢出来ると思う。 恐る恐る指を差し入れる。 「く…」 固く閉ざされたソコは、容易く指さえも甘受してくれない。 浅く差し入れ、何度も潜り込ませてみる。 じわりと身体が熱くなってくる。 快感に火照る体。 自分の手ではなくて、本当に欲しいのは愛しい人の手。 アーロンに…して欲しかった。 彼に、抱かれたかった。 でもここには彼はいない。 疼く身体を慰めてくれる人はいないのだ。 夜具の上で悶える身体。 すでに夜着は肩からはだけ、着物の裾は大きく開き、金糸の髪が褥の上でばらけ乱れる。 ティーダには自覚は無かったが、それは壮絶に淫らで怪しいまでの痴態だった。 洩れる吐息さえも甘く香ってきそうな媚態。 そう…魔さえも惑わせる程の淫らで美しい姿態。 快感に震える彼の匂い。途切れ途切れにもれる声。 彼は知らない。ティーダは気づかなかった。 そんな彼を見つめる怪しい瞳の存在を。 魔が、彼を見つめていることを………。 「穿たれた刻印」〜序章〜 |
「穿たれた刻印」序章編です。
ま、はっきり言ってただの一人H編みたいなもの。
最初はね〜、軽くさら〜と書こうとしたのですよ。
でも、あら不思議。書いたらどんどん長くなるのですよ。
どうしてなんだろう?これでもかなり詰めました。
多分その気になったら、この二倍は軽くいっちゃうかもしんない。(冷や汗)
元々長く書くのが好きなほうだからな〜。
でも、これを描いて思ったことが一つ。
着物って、エロい衣装だわ〜と。
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