Cinderella

the latter part...



通された部屋は、階下のダンスフロアと比べると、少し殺風景な気がしましたが、それでもティーダにとっては目新しい物ばかりの部屋でした。

「アンタ・・・ホント変わってんね。王子なのに。正装、それ着方あってないッスよね?」
「こんなかたっ苦しいモン、マトモに着れっかよ。さて、と。ホラ、俺様一押しの酒だ。」
「美味いの?それ。そんじゃ遠慮なくいただきます。」

こくり、と一口飲むと少し苦いような、熱い液体がティーダの胃へと降りてきました。直ぐに胃だけでなく、体全体がほかほかと熱を帯びてくるような。相当度数の高いお酒のようです。

「うっ・・・わあ〜ぁ!キッツー!」
「うわっはっは!そりゃそうだろ、俺様が上玉の女落とす時に飲む上等のヤツだからな。」
「・・・え?」

そう言ってジェクトは自分もグラス一杯飲み干すと、ベッドの端に腰掛けていたティーダの横へ腰掛けます。ジェクトが勢いよく座ったので、風が起きてティーダのドレスの裾を捲りました。直そうと手を伸ばしたティーダを、ジェクトの大きな手が阻むように掴んできます。

「酒に酔わせて女落とそうなんて、アンタにしちゃセコいんじゃない?」
「ほぉ、言うじゃねーか。大抵一口でコロっといっちまうんだがな。まだ酔いが足りねぇか?」

そう言って、ジェクトはボトルを掲げると、グイっと酒を口に含みました。そしてそのまま、ティーダに口付けて来たのです。

「・・・っ!んぐ・・・っ!」

熱くて苦い液体が、先ほどの倍近い量流れ込んで来ました。口を塞がれたティーダは、それを飲む以外に許されません。体内で弾けるアルコールの熱に、少しずつ侵食されていくのが分かります。漸く唇が離されて、息を付いたティーダは、一瞬めまいがしました。

「・・・っにすんだよ馬鹿!」
「気が強い女は好みだ。・・・頬が赤いぜ、酔いが回ってきたか?」
「やめ・・・触んな!ヘンタイ!」
「・・・もっと良くなんのは、これからだぜ?ティーダ。」

か弱いティーダはそのまま抱きすくめられ、ベッドに横たえられます。強いアルコールの為か、体は素直にジェクトに従うのです。

「念のため聞いとくが、まさか『初めて』ってこたぁねーよな?」
「ばっ・・・バカにしてんの?じゃなくて!オレにだって相手選ぶ権利が・・・」
「俺様だったら相手に不足はねぇと思うぜ?」

まるで愛の告白の様なジェクトの台詞に、「冗談きついっての!」と答えて、ティーダは彼の大きな手を受け入れます。ジェクトの指は器用にティーダのドレスの止め具を外し、身に着けていた装飾品をゆっくりと外してゆきます。やがてきつく締められたコルセットの紐の結び目が解かれると、開放感からティーダは思わず声を上ずらせます。

「んっ・・・!ちょ、胸!揉むな!触んなっての!!」
「ンな可愛い声上げといて、なーに言ってやがる。」
「あ・・・、やっ!」

ジェクトの優しい指先が、ティーダの全身を包んでいきます。ティーダの柔肌は触れられて喜んでいるかの如く、熱を帯び、汗を浮き上がらせ、ジェクトを素直に受け入れました。
お互いが触れ合う喜びに満たされている、丁度その時。
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
無情にも、約束の刻を告げる鐘が鳴り響きだしました。
ゴーン、ゴーン・・・と響き渡る鐘の音を聞きながら、魔法使いとの約束を思い出すティーダ。
「魔法は12時になると解けてしまうからね。」
魔法が解けると、ティーダは元の姿・・・いつもの灰かぶりの姿に戻ってしまうのです。楽しかった時間はあっという間。ティーダは戻らねばなりません。慌ててジェクトから体を離そうとします。

「うわー!!12時!!オレ、戻らなきゃ!」
「何言ってやがる。お楽しみはコレからだろが。」
「バカ言ってんな!それどころじゃ・・・とにかく戻んねーとヤバいんスよオレ!」
「素直に、ハイそうですかーって聞けるかよ。大人しく帰してたまるか。」

ティーダにすっかり心を奪われたジェクトは、必死でティーダを引き止めようとしました。ティーダも「まだゴチソウいっぱい食ってないのに!」と名残惜しそうに時計を見つめます。
しかし時刻を告げる鐘の音は、二人の想いを他所に、最後の音を響き渡らせました。
ティーダの体から光の粒が流れ落ちます。魔法が解けているのです。

「だああ!ヤバいッスーー!!」
「な・・・、なんだぁ!?」

光はティーダの体から零れ落ちると、直ぐに輝きを失って消えていきます。光が剥がれ落ちた場所から、ティーダは元の姿へと戻っていきました。
綺麗なドレスは灰に塗れた使用人の服へ。透き通る様な柔肌は日に焼けた頑丈な肌に。
その一部始終を、目の前で見ていたジェクトは、驚いているのでしょう。声も出さずにじっと見つめていました。ティーダは恥ずかしさから「靴、脱いでて良かった」と呟いて、恐る恐るジェクトを見上げました。

「オ・・・オメェ、その・・・体・・・。」

ティーダは恥ずかしくて悲しくて何も言えません。早くその場から去りたいと思うだけ。
ジェクトはまだ信じられないといった様子で、ティーダを見つめ続けていました。

「色々、訳ありで。騙して悪かった、けど・・・オレ男だから!そういう事で!」
「見りゃ分かる!しっかし、さっきまでは確かに・・・。」

いたたまれず立ち去ろうとするティーダを、ジェクトは許しませんでした。しっかりと腕を掴んで、ティーダに問い詰めます。信じられない出来事に、まだ動揺を隠し切れない様子のジェクトは、唸りながら考え込んでしまいます。

「良かったな、間違い起こす前に分かって。」

もうこれでお別れ、そう思い、ティーダは自分の腕を掴んだままのジェクトの指を解こうとします。しかしジェクトは、ティーダを真摯に見つめて言うのでした。

「納得いくか。一度気に入ったモン、簡単に手放すのは俺の主義じゃねえ。」
「だっからー!オレ男だっつってんだろ!?」
「関係ねぇな。顔も威勢のよさも俺の好みだ。大体ここまで来て、今更お預けはねえだろ?」
「こ・・・っの、変態!」
「何とでも。」
「ん・・・っ、あっ、やめ・・・!」



ティーダに掛かった魔法は、12時で解けたかのように思われましたが。どうやら幸福の魔法は、まだ解けてはいなかった様です。
幸せそうな二人を、夜の帳は、優しく静かに包んでいくのでした。





外がだんだんと薄明るくなり。
鳥たちが朝の訪れを告げ始めます。
ティーダは一人、横に眠る王子を起こさぬよう、静かに体を起こし、ベッドから抜け出します。
夢のような一夜・・・でもそれは魔法使いにかけてもらった魔法のおかげ・・・。夢から覚めたティーダは、もう戻らねばなりません。自分の本来居るべき所に。
王子に気付かれない様に、こっそりと寝室の窓から抜け出し、城を後にするティーダ。

「ひ・・・ひどい目にあったッス・・・体痛いー・・・。」

魔法は、解けてしまったのでした。






一日も経たぬうちに、街中が舞踏会の話で持ち切りになっていました。
「王子のお妃候補が、舞踏会に現れた。」「その姫は大変美しい方」と、人々は噂しあいます。勿論ティーダにも、その噂話が届きましたが、あれは魔法が見せてくれた一夜の夢だ、と自分を言い聞かせ、そして諦めようとしていました。
そんな時。
城の者たちが、噂の姫を探す為に、街にやってきたのです。

「あんたが直々に出向くなら、わざわざ俺や騎士を連れてくる事もないだろう?」
「人手は多い方が、探し物も見つかりやすいだろ?しっかし、ついでに街で遊んで行こうとか思わねぇのかよ?堅物だな、アーロンちゃんは。」
「・・・姫探しが『ついで』のように聞こえるがな、ジェクト。」

どうやら噂の姫が、舞踏会に「ガラスの靴」を忘れ、それにぴったりと足の合う娘を、王子の妃として城に迎え入れるようです。街の娘たちは色めき立ちました。我も我もとたくさんの娘がガラスの靴を履こうとしましたが、誰一人としてガラスの靴にあう足の娘はいません。

「そいつの事を余程気に入ったのは分かったが、この靴で本当に見つかるのか?」
「実はな、この靴はオトリなんだよ。この靴に合う『娘』が居たとしても、どうでもいいんだなコレが。」
「・・・なら何故こんな無駄な事を・・・。」
「こんだけ話題になりゃ、アイツもその内顔出すかもしんねぇだろ?そこをとっ捕まえるって寸法よ。」
「・・・頭痛がし始めたんだが・・・。」

勿論ティーダの継母と姉たちも、すぐさま王子のいる広場へと出かけます。ティーダはいつもの様に家で雑用を押し付けられ、外出など許されませんでした。あのガラスの靴の持ち主であるにも関わらず。ティーダは「今日ばっかりは、外出できないのが有難いッス。」と、一人寂しく留守番するのでした。
広場に着いた姉たちは、いそいそとガラスの靴に足を合わせます。

「こんな靴、私の趣味じゃないわ。」

上の姉、ルールーには合いませんでした。
次に下の姉、ユウナが足を合わせようとします。しかし、下の姉も合う事はありません。
悔しそうな継母ユウナレスカの側で、ユウナが言いました。

「あのね、王子様。わたしの家のティーダって子がね。昨日のお姫様にすっごくそっくりなんだよ。男の子なんだけどね。」
「マジか?お嬢ちゃん!そいつに会わせてくれるか!?」
「うん、いいよ。でも男の子なんだけど・・・やっぱり王子様って変わってるね!」



コン、コン。
玄関から戸を叩く音がなりました。
きっと継母たちが帰ってきたのだろうと、出迎える準備をしてティーダが入り口へと急ぎます。
扉を開くと、そこには・・・・・・

「よぉ、探したぜ?ティーダ。」
「うわあああああ!!」
「ちょ・・・オイ!何で閉めようとすんだ!待て!」
「足どけろ!・・・って何でここが分かったんだよ!?」
「わたしが教えてあげたんだよー。」
「ユ、ユウナが!?何で!?・・・うわっ!」

扉は大きく開かれ、王子は嬉しそうに室内へ入ってきました。そして再会の喜びに満ちて、ティーダを力強く抱きしめます。

「昨夜は極上だったぜ、ティーダ。気に入った。俺様の嫁になれ。」
「なっ、何言ってんだよ!?オレ、男だっつってんじゃん!」
「俺がこの国の法律だからな。ンなモンどーとでもなる。」

継母や、姉たちは、目の前で起こる出来事に呆然と立ち尽くしていました。

「まさか・・・ティーダが、我が家の台所の救世主となるとは思いませんでした。」
「だから言ったじゃない。最初からあの子を使えって。」
「よかったね!ティーダ!」

王子は軽々とティーダを担ぎ上げました。ティーダは夢見るようにうっとりと、王子に腕を回します。

「オ、オレの意思は!?ねえ、オレ男なんだってば!!」
「じたばたすんな。オメェだって満更じゃなかっただろうが。昨夜は。」
「う・・・。でも!嫁なんて嫌だーーー!!」
「幸せにしてやっからな!」

こうして、ティーダは王子様と結ばれ、お城で末永く幸せに暮らしたのでした。

めでたし、めでたし・・・。



T:「・・・・・・。」
B:「中々いいお話だっただろう?私の作ったお話は。」
T:「・・・め、めでたいッスか?」
B:「全て大魔法使いのお陰だよねえ。シンデレラが幸せになれたのは。」
T:「・・・語り部と、キャラの会話が、気持ちが・・・微妙に噛合ってない気が・・・。」
B:「何だい?何か不満?」
T:「いや!そんな事ないッス!(冷汗)」


ホントにEND





「桜色協奏曲」の櫻様から頂いた、素敵に楽しい小説です。

そもそもの事の起こりは、茶での会話から始まった事。
ひょんな事から、櫻さんが小説を書き、それに私が挿し絵をつけましょーと言う次第になったもの。
お話しが出来たのはかなり前なのに、挿し絵にちと苦しんで時間が掛かってしまいました。
楽しくて素敵な小説だから、プレッシャーがかかったのかしらん。
自分なりに何とか小説のイメージを損なわないようにしたつもりなのですが…ああ〜(汗)

でも、小説は最高に楽しい。ティーダがとっても可愛いし、何よりもジェクトが王子様なんですよ!
王様じゃなくて、王子様。この下りだけで、笑えちゃうよね。
この小説を読んでいてにやけ笑いが止まらなかったのを覚えています。
こんなハッピーで素敵な小説を有り難う御座います。重ね重ね、感謝です。(感涙)

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