さすがに誰も前に出なかった。だた誰も声を挙げる者も居ない。
「後ろの奴。 壁からもっと離れろ、全員、手を頭の上!」
その言葉に、後ろの何人かが壁から離れ、全員が頭の上に手を載せた。
非常ボタンはその壁には無かったが、男は誰も手を伸ばした際に何処にも触れない状況を作り出す。
15:00を廻り、シャッターの降りた店内は密閉された空間だった。
男は銃口を行員に向けたまま、周りをぐるぐると廻り始める。
銃口を向けられた1人の女子行員が、余りの威圧に避けようとする。
「動くな。」
男の言葉で、避けることもできなくなってしまう。
さらには、銃口を向けられていない行員も身を硬くする。
章子たち12人の行員は、人質として男の手に堕ちてしまった。
男は銃口を行員に向けたまま、閉じられたシャッターの脇にある鉄製の勝手口の鍵を開ける。
そして携帯を取り出すと、一言しゃべった。
「井口。入ってこい。」
しばらくすると、勝手口からもう一人の男が現われた。
「狩田さん。表はOKです。言われた物を持って着ました。」
井口は背中から、ナップサックを下ろすと、中からナイフを取り出した。
「首尾は上々ですな。」井口が笑った。
そんな中、固まったのは、中田支店長だった。
井口が20年掛かって築いた自動車部品会社は先月倒産し、井口は夜逃げしたと聞いていた。
それは中田が昨年、融資資金を引き上げたからだった。
灰色のラインだった。
中田の前の支店長時代から井口の会社とは取引していたようだったが、会社の重要な取引先の社長が、
外人に代わり、部品メーカの統合を進めると発表したのがきっかけだった。
資金を引き上げると倒産することは明らかだった。
ただ、日々貸し剥がしを業務としていた中田の感覚が麻痺していたのかも知れない。
「よお、支店長。」
井口が中田に声を掛ける。
「と、倒産は悪かった!! か、貸し剥がしは悪いと思ったが、しょ、しょうがなかったんだ。」
中田が弁明した時だった。
井口が中田に抱きつく。
「い、井口!!」
狩田が叫んだ..時には、井口は、中田の胸にナイフを突き立てていた。
「きゃあああ。」
悲鳴が挙がる。
”さ、刺しちゃった...”
普段は冷静な章子でさえ、嗚咽を漏らしそうだった。
「静かにしろ!! お前らも殺すぞ!」
狩田が叫ぶ。
「狩田さん..悪い。 目的は強盗じゃなくて...これだったんだ。」
狩田は、刺された中田を確認する。
すでに中田は絶命していた。
「俺たち死刑になるぞ。」 狩田がつぶやく。
「巻き込んで悪い。」 井口が答えた。
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そもそも狩田と井口が知り合ったのは、富士山の麓の樹海だった。
狩田の会社もまた銀行の融資を断られ倒産していた。
ただ、狩田は別に死のうと思って樹海に来たわけではなかった。
もともと下級自衛官だった時に、サバイバルの知識を身に付けされ、退官した後にキャンプ用品や、
軍物資の会社を立ち上げた。
結局倒産したが、あれよあれとという間に債権が、始めは都市銀行から、地銀、消費社金融、町金へと転売され、
あっという間に、やくざに追われる立場になっていた。
”数年、山に篭ってやる”
世と銀行を恨みながら、樹海でほとぼりが冷めるのを待つつもりだった。
樹海での生活が数ヶ月がたったころ、自殺しようと樹海に来た井口と出会ったのだった。
狩田は、同じ境遇同士と、井口の自殺を引きとめ、なんだかんだ一緒に生活をしてしまった。
暇な時は、銀行を罵って気持ちを保っていた。
どちらがいい出したか、もうどうでも良いことだった。
銀行を罵れば、銀行強盗でもするかという話になるのは当然の事だった。
「まあ、まず捕まって10年は固いな。」
狩田は冷静だった。
「捕まった方がましじゃないか? やくざに追われるより。」
井口が答える。
「そりゃそうだ。」
2人は乾いた笑いを浮かべた。
「逃げとおせる確立ってどんなもんだ?」
「...10%」
狩田が答える。
「10%で、10年禁固...誰もやらないよな。」
井口がつぶやく。
狩田はその井口の言葉、裏の気持ちを推測してしまった。
もう井口にとって、人生は会社と共に倒産してしまっていた。
「付き合うぜ。」
狩田は井口に答えた。
それから、2人は計画を練った。
ただ、練れば練るほど、捕まらない計画など立てることができなかった。
「無理か....」
狩田が天を仰いでため息を付く。もう春だと言うのに息が白かった。
「狩田さん、あの支店長と行員を弄り殺しにしたら、死刑かな...」
井口がボソッと呟いた。
「間違いなく死刑だな。 ”半殺しなら15年。”」
2人は何も言わず顔を見合わせる。
15年ぐらいどうでも良かった。
「支店長とあの行員は、俺にやらせてくれ。」
井口がうす笑いを浮かべる。
「解った。俺は、あのすまし顔しながら笑ってやがる女どもを弄ってやる。」
狩田が同調した。
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計画を練っていた時が一番楽しい時だったのかも知れなかった。
11名に減った行員に銃を向けながら、狩田は、絶命した中田の顔を見る。
”結局人間ってこんなもんだよな”
”俺も殺人者になってみるか....”
狩田は、中田の胸に刺さったナイフを引き抜くと、行員達を脅す。
「ほら、2階の会議室に上がれ! こっちは一人殺しちゃってんだよ。 後何人殺したってかまわねえ。」
その言葉に、行員は2階の会議室に入る。
相変わらす、頭の上に手を置き、立たされていた。
そこは、大きめの会議室で、井口が貸し剥がしを通達された会議室でもあった。
狩田は、直ぐにブラインドを閉めフロア全体の鉄製のドアを閉めた。
ビルの大きさを考えると、2階はこの会議室だけの作りであり、このドアを閉めれば密閉されたのも同然だった。
”1,2日は警察相手にでも篭城できるな...”
自衛官だった狩田の感がそう思わせた。
「狩田さん。俺は腹据わりました。」井口が狩田に呟いた。
「中田の死に顔見てたら俺も決めた。」狩田も答える。
「最後に、甘い世の中に住んでるこいつら弄って爆死してやる。」
2人の視線が、ナップサックの中の手榴弾に落ちた。
中田を殺すことによって、2人は腹が据わった訳ではなかった。
狂ったのだった。
”どうしよう....何か良い手は...”
章子は、2人の狂人を前になすすべも無かった。
「壁際に並べ!」
狩田の言葉に従うしかなかった。
11人は、コンクリートの壁側に一列に並ばされた。
「そ、その女!!」
井口が、一人の女を指差す。
「お前、俺が中田に土下座して貸し剥がしを頼んでる時、手が滑ったとか言ってコーヒー掛けやがった女!!!」
妙子だった。
指差された妙子の顔が恐怖で歪む。
「お前から殺す。」
井口が、中田の血糊が付いたナイフを握り締める。
「ゆ、許して...」
妙子は気が狂ったようにその場に跪き、詫びようといた時だった。
「ブチュン!!!」
大き目の音がしたと同時に、妙子の頭の上のコンクリートに弾痕が残った。
「いつ動いて良いと言ったんだよ。」
狩田の手のサイレンサーを付けたP-38から実弾が発射されていた。
”本物...”
章子は端の方にたっていたが、初めて見る実弾の発射に身が凍りそうだった。
実際に狙われた妙子の格好はもっと悲惨だった。
動いていけないと言われ必死に頭の上に手を置き、立とうとするが、膝が大きく振るえている。
髪には、コンクリートの細かい破片が付着していた。
羞恥心も無くなったのか、足は、がに股に拡がり、口を金魚のように明け、恐怖を耐えていた。
「死ぬ前に、やり残すことは無いか?」
狩田が、妙子に聞く。
「し、死にたくない...で、です.わあ。」
先輩としての威厳もお局様の威厳も無かった。
「じゃあ俺から井口に頼んでやろうか?」
その狩田の言葉に、妙子は必死に頷く。
「井口に、コーヒー掛けたんだろ? お前、そいつから顔面に精子掛けてもらえ。」
狩田は、2人行員の男を指差した。
「え?で、できない!!」
あまりの事に妙子が聞き直そうとするが、事実の命令だと確認すると妙子はうなだれる。
ただ、すでに、中田が実際に殺されていた。妙子は恐怖の限界だった。
狩田の命令は厳しかったが、殺されるよりはましだった。
やるのかやらないのか、のろのろと、妙子が、行員の男の前に移動する。
「全員、手は頭の上から離すなよ。」
狩田が命令する。
妙子は、命令通り頭に手を置き、2人の行員の前に移動するだけでどうして良いか解らずにいた。
「口を使ってさっさと脱がせろ!」
狩田は容赦せず妙子に近づき銃口を向ける。
「バン!!!」
その音は、狩田が叫んだ声だった。
ただ、妙子には絶大な効力があった。
10人の行員が見守る中、妙子は、必死に口を使い、行員のベルトを噛む。
必死の形相でベルトを外すと緩めのスーツだったのか、トランクス1枚になった。
妙子は一瞬狩田の方を見る。
ただ、何も言わず、トランクスの裾を咥えると膝下まで引きずり下ろした。
男の行員もされるがままであった。
スーツ姿のまま、腰から下が素っ裸になっていた。
恐怖からか、一物は揺れることなく、ちじこまっていた。
妙子は今度は視線も送らず、行員のその場所を咥える。
”....妙子さん”
章子はその行為の実物を始めて目の当たりにする。
妙子は、必死に首を前後に動かしていた。
”こんな事..酷すぎる”
良い印象を妙子には持っていなかった章子もそう思う。ただ、今のところどうすることもできなかった。
「ピチャ..ピチャ」
無音の会議室に、妙子の立てる音だけが響いていた。
ただ、行員の男は恐怖が強いのだろう下半身はまったくといって良いほど反応しなかった。
「諦めた方がよさそうだぜ。そいつ無理だな。 皆が見てる前で、同僚のちんちん咥えるなんて恥ずかしいだろ?」
狩田が、羞恥を無視してオーラルをしている妙子を諭す。
妙子は自分の状況を把握してしまった様だった。
同僚の子と目があったのだろう一旦、羞恥を顔に浮かべ口を外す。
「ゆ、許してくれるの?」
妙子は恐る恐る聞く。
「ああ、しょうがない、お前じゃ気持ち良くないんだってよ。 誰か他の女にやってもらえ。」
狩田は、並んでいる9人の女を見渡した。
”ほ、他の女性!?”
章子は驚く。もし自分が指名されたら...妙子が殺される。
ただ、自分が、あの異物を口に入れる事なんてできないと思った。
「だ、誰か、お願い。」
無理な願いと解っていても、妙子は、立ち尽くす9人にお願いするしかなかった。
ただ、誰も妙子のために、同僚のナニを咥える者はいなかった。
「残念だね。その歳で死んじゃうなんて」
狩田が、妙子に一方的に言い放つと、銃口を妙子の額、数センチの所にあてがった。
妙子はしゃがんだまま、狩田に向き直ると、必死に首を横に振った。
「誰かお願い....幸恵え..お願い。」
妙子は、幸恵を名指しする。
「た、妙子さん...私、む、無理..ごめんなさい...」
幸恵は困った様に否定する。
狩田は楽しそうにその様子を見ていた。
「幸恵って言うのか? 良いのか、お前がやってやらないと数分後には、こいつただの肉の塊になるんだぜ。」
狩田は笑っていた。
幸恵は、狩田の言葉に息を呑んだ。
幸いと言うか不幸というか幸恵は一度だけ、男性を口にした経験はあった。
もちろん彼氏であり婚約者でもあった。
妙子の命と自分の純潔..天秤に掛けるものではない。
その時だった。
「さ、幸恵は僕と先月婚約したんだ!それだけは勘弁してくれ!」
たたずんでいた男が思わず叫ぶ。
妙子が2人の男の中で片方を選べた理由でもあった。
「婚約者か?」
狩田はにやっとする。
その言葉は狩田に言ってはいけない事だった。 気づくのが遅かった。
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あれから3年たった。今も章子は、昨日のことのように鮮明に思い出す。
「皆の命日...」
これ以上の事を思い出して良いのか、皆の軌跡をたどるべきなのか章子には解らない。
それはだれかが決めれば良い..そう思った。
章子は喪服を着て3年前に退社した銀行跡地に向かった。