”き、騎馬戦?”
百合は状況を推測する。
”わ、私に、男子を持ち上げることなんて無理....”
”けど、こ、この格好で、上に乗るなんてできない!!”
そう思った途端だった。
愕然とする。
「百合さんは、女性だから上がいいですかね?」
吉田が、百合を騎馬の上に乗せようと薦める。
「し、下でがんばります....」
百合は、吉田に向かって、上に上がるのだけは避けようとする。
”この格好で、上に挙がったら...”
そう考えるだけで恐ろしかった。
裾の短い検査着でもお断りだったが、今は、ショーツすら身に着けていない。
百合を隠しているのは、腹立たしいほど恥ずかしい大判の絆創膏だけだった。
「けど、百合さん。3人騎馬ですから、無理ですよ? それとも上に上がるのに何か支障でも?」
相変わらずの口調で、採用係の女性が、百合を脅しながら、吉田に微笑む。
採用係は、通常の身体検査で、騎馬戦なんて、通常はやらないことを知っていた。
吉田はその微笑に、会社側も、ふざけた検査に、同調したしたことに内心小躍りする。
そんな事とは知らずに、百合は返答に困っていた。
”恥ずかしいなんて言ったら、またさっきの二の前だし...どうしよう”
”力には自身あるって言って...”
百合は必死に考えていた。
自分を辱めるために、新たに加えられたいんちき騎馬戦とも知らずに。
「下で、下で大丈夫です。いいえ、力には自身があります。」
必死の言い訳だった。
その様子に、吉田も折れたように見せかける。
「そうか...じゃあ彼を肩車して、ちょっと歩いて見なさい。」
吉田は、9人の中でも、一際恰幅の良い男子学生を指差す。
”か、彼を? ...無理。”
その男は、80kgは超えようかという男だった。
しかし、今更ながら拒否することもできず、試して見るしかなかった。
自分が、騎馬の上になることを考えれば、よっぽどましと考える。
「わ、分かりました。」
百合はそう答えたが、誰が見ても無謀な挑戦だった。
百合は、巨漢の男に近づき、肩車を試みようとした時だった。
その男が、百合から離れる。
”え?”
しり込みする男が、理解できなかった。 なぜ?という視線をその男に向ける。
男は、百合が忘れていた事を口にした。
「ぱ、ぱんつ履いてないし、運動した後なんで、汗かいてるし...」
”そ、そうだったわ.....どうしよう”
百合は、自分がやろうとした事が、あまりにも不潔な行為だったと思う。
”上の方がまだましだわ。 けど上も嫌....”
百合は、四苦八苦の返答をした。
「そ、そうね。嫌よね。」
そこまで言ったものの、吉田達が、許す訳も無かった。
「百合さん!!また迷惑掛けるの? 早く、彼にお願いなさい!!」
採用の女性は冷たかった。
まるで、拒否しているのは、彼だけだと言わんばかりな要求を百合に突きつける。
”できないわ!!”
ただ、何度も許されるとも思っていなかった。
「上..上に乗らせてください。」
ここまでが限界だと思った。
「またいい加減な! 彼に失礼でしょ!」
採用係は、許そうとはしなかった。
早く、彼に頼めと視線を投げかけられ、百合も従わざる終えなかった。
”どうせ、無理なんだし...ちょっとやってできないって言えば。”
百合は、そう思うしかなかった。
「ごめんなさい。お願い。」
百合は、男にお願いをするしかなかった。
百合の視線を受けた男は、拒否することも無かった。彼にしてみれば、百合さえ良ければ、なんとも無いことだった。
「百合さんが、そこまで言うなら...」
男はそういいながら、足を広げる。
”あそこに頭を入れるの....”
百合は、覚悟を決めるしかなかった。
大勢が見守る中、検査着がめくれないように、同期の彼の前に、しゃがむ。
まるで、同期に土下座をするような格好を百合は、するしかない。
「うっ。」
百合は恥ずかしさと悔しさで思わず嗚咽を漏らしてしまう。
それでも、歯を食いしばり、男の股間に頭を入れる。
視線の先には、採用係の、笑顔が百合に向かって放たれていた。
”こ、こんな仕打ちまで...”
立場の弱い自分は、封建時代の奴隷の様だと思った。
百合は早く終わらせてしまおうと、腰を起こす。
「おっう。」
男の声だった。
男は、自分の股間に、百合のうなじの感覚が伝わり、思わず声を上げる。
当然、百合も、同じ感触を得なければならなかった。
”き、気持ち悪い...”
自分の首筋に、なにやら柔らかく、汗ばんだ物体がまとわり付いていた。
もう我慢できなかった。
百合は慌てて、元の姿勢に戻る。
彼から、離れてたっても、自分の首筋に残る感覚が、気持ち悪かった。
「や、やはり私には無理でした...」
懇願に似た必死の気持ちで、同姓の採用係に訴える。
「もっとがんばってみたら?」
笑いを含めた言い回しだった。
「できない....」
百合は、首を振り続けることしかできなかった。
そんな中、吉田が、仲裁と取れる発言をする。
「百合さんじゃ無理だよね?彼80kg以上あるんだから。」
その言葉に百合は助けられたと思った。
ただ、その後の言葉に、絶句する。
「今日は、50kgから80kgまでいい感じに集まってるから、順番に、肩車していけば?」
吉田は、そういいながら、内定者を体重順に並べ替える。
「50kgの彼なら、できるかな?とりあえず、...うん重い順にしよう。」
吉田は、百合のことなど気にも留めない様に、淡々と言い放つ。
「じゃあ百合さん、右側から始めて!」
百合は、自分の身に起こったことが恐ろしくなる。
それでも、やらなければ、就職ができなくなると思うと、意識を無にする覚悟を決めるしかなかった。
”や、やればいいんでしょ!!”
百合は腹立ち紛れに男の足元にしゃがみ、股間に頭を入れる。
ぬるっとした感覚が、首筋を覆い、百合は、背中に鳥肌がたつのを我慢しながら、
2人目を終える。
到底百合に持ち上げられる体重ではなかった。
「無理でした。」
淡々と百合は、無機的な返答をする。
まるで作業を行うように、3人目の男前に、土下座の姿勢をして、股に、首を入れる。
首に何かの感触があるが、百合は、無機質に作業を続ける。
まだ、70kgを超えている相手であり、持ち上がる訳も無かった。
淡々と、百合は、それぞれの同期の足元にしゃがみ、肩車の真似事をする。
ただ、同期たちは、淡々と「無理でした」と返答していく百合の頬に、涙が伝わっていることを見ることは無かった。
百合は何も考えることができなかった。
同期全員の股間に、頭をうずめ、最後の50kgの男を持ち上げようとしたが、
華奢な百合には、持ち上げる体力も、気力も無かった。
「無理でした...」
無気力に、百合は採用係に、返答する。
百合は、この行為に、目が虚ろの状態で答える。
そんな百合に採用係の女は、「じゃあ騎馬の上。」と軽く言った。
”い、今までの苦労は、なんだったんだろう...”
百合は、その言葉に、採用係を恨むというより、呆然と受け入れるしかなかった。
「いいわね!!」
鋭い口調が、体育館に響く。
「はい....」
百合はそう答えている自分が、自分の声と認識するまでに、若干の時間を要してしまった。
「パンパン。」
吉田が手をたたく。
「皆さん。百合さんが余計な時間を使ってしまったけど、騎馬戦を行います。」
夢ごごちだった会場の空気が、若干戻る。
「ルールを説明します。」
吉田が、説明を始める。
「上に載っている人の体のどこかが、地面に付いたら負けです。」
「少しでも、宙に浮いていればOKにしましょう。」
吉田は顎に手を置き、ちょっと考える仕草をする。
「真剣にやってもらえる良いアイディア無いかな...」
その吉田の問いに答えるように、採用係が褒美とも思える言葉を言う。
「みなさん。先生が優秀と判断した人は、私が、デザイナー部に推薦してあげるわ。」
その言葉に、集まっていた内定者の目の色が変わる。
アパレル会社のデザイナー部は、花形である代わりに、配属は、ほとんどされない部署だったからだ。
それが、人事部からの推薦をもらえるチャンスを与えられたのだから、真剣になるのも、仕方無かった。
「それじゃあ、そこと、そこ。 あと、そこで組んで。」
吉田が、ざっくばらんに、ペアを指定し、騎馬を3組分用意する。
百合のチームは、若干、細い男子たちだった。
”こ、この人達の上に乗るの?”
そう百合が思ったときだった。
「上が女性だと、不利ですよね?」
百合のチームの1人が声を上げる。
その男も、一瞬、百合を担げると思っていたのだったが、デザイナー部の推薦が掛かっていると思うと、
色事などと、言っていられなかった。
「その代わり、体重が軽いから有利だろ?」
ほかのチームから罵声が飛ぶ。
皆真剣にやるようだった。
一人、百合だけが、騎馬戦どころでは無かった。
”こ、この格好で、騎馬戦なんて....真面目に、引っ張られたら...”
百合には、検査着の上から、密かに、絆創膏を押さえ、剥がれないことを祈るしかなかった。
「はい。騎馬の方は、準備して。」
その掛け声で、騎馬になるものが、腕を組み、武者を乗せるべく、その場にしゃがむ。
百合の騎馬も、同様だった。
百合の視線が、自分が乗るべき、男たちの腕を見つめる。
”この格好で、あの腕に乗るの...?”
吉田や、採用係だけでなく、
百合はまだ、同期のその騎馬も暴れ馬になるとは思っていなかった。