”やっと終わった....こんな格好になってまで..”
百合は、採用係からの終了の言葉を聞いても、床にうずくまったままだった。
ここに来てさらに羞恥は増していく。
少数とはいえ、全てを見られてしまった。
しかも、今現在も全裸と変わらない格好だった。
胸や股間を少しでも隠そうとする格好のまま、震えていた。
「百合さん。」
声をかけたのは同期になるかも知れない1人の男だった。
彼は、先ほど百合が脱ぎ捨てた破れた検査着を拾い百合に手渡してあげようとしていた。
「ありがとう...」
対したことをしてもらった訳ではなかったが、百合にとってその行為はとても嬉しかった。
百合は検査着を受け取り、検査着を羽織ろうとした時だった。
「百合さん。検査着は着なくて良いわ。」
採用係が、同僚からの百合への厚意を踏みにじる言葉を吐いた。
「着なくて良いって!?? 裸のままで過ごせって言うの!」
百合は唖然として採用係を見上げる。
"この人..どこまでやれば気が済むのよ..”
恐ろしさで、言葉も出なくなりそうだった。
「ガラガラガラガラ....」
その横で、吉田がなにやら台を2台ほど、転がして来ていた。
一台は、普通のベットの様であったが、もう一台は異様な形の器具であった。
「そ、それ....」
百合も初めて見る器具であったが、何のためにある器具かは直ぐに理解できる。
その器具は、婦人検査台であった。
大型の椅子の様であったが、フットレストの様なものが付属している。
しかもそのフットレストは、前後に稼動するのでは無く、左右に拡がる物であった。
吉田はその器具を体育館のほぼ真ん中まで転がしていた。
採用係は、冷たい視線をさらに残酷に光らせると、百合に通達した。
「百合さんには、これから婦人検査をしてもらいますから、検査着は着用しなくていいわ。」
冷酷な話だった。
「こ、ここでですか?」
百合はあまりのことに確認するように聞き返した。
「身体検査の前から、ここで実施するって言っていたわよね?」
確かにその通りだった。
”ここで......”
百合は自分がこの検査台に乗っている姿を想像する。
”嫌...”
そう思うが、あくまで普通の婦人検査..そう思うしかなかった。
「まずはその台に座って。」
吉田が簡易ベットを指差した。
「け、けど....」
百合は男たちの方を見ながら、彼らの前では検査を受けれないというゼスチャーをする。
”ま、まさか彼らの前ってことは無いわよね。”
百合は吉田に訴えた。
「ああ、そうか。」
吉田は今頃解った素振りを見せる。
「君たちは、検査終了だから着替えなさい。」
吉田が、男たちに指示を送った。
男たちは、軽く残念そうな表情をするが、見せてくれとも言うことができず、体育館の隅のロッカーに向かってとぼとぼと歩いていく。
「百合さん。これでいいね。」
確認するように吉田は百合に声をかけ、ベッドに座るように指示した。
”検査の先生がこいつか....”
百合は吉田に自分の体を検査させることに悪寒を感じたが、相手は以前の先輩ではなく、正式な医師免許を持った会社の専属医であった。
「..はい。」
百合はどうにか返事をすると、何の仕切りも無く、だだっ広い体育館の真ん中に置かれたベッドに腰を掛けた。
吉田の視線が、百合の胸を凝視する。
舐めるような視線であったが、医師の視線である。
百合は遮ることはできなかった。
吉田は、自分の目の前に拡がる憧れの女性の胸を眺める。
”さすがに綺麗だ”
吉田も医師であり、いままで多くの女性の裸体を見ていたが、百合の胸は格別だった。
もともと好意を寄せていた女性で、かつこっぴどく振られた相手であり、
何時もならば職務としての診断であったが、採用係の態度を見ても、今日は自由にできる女の体であった。
お椀型の丸い乳房は適度な大きさであり、下から見上げるとさぞかしいい眺めだろうと思った。
「百合さん。それじゃあ、胸の絆創膏はがして。」
吉田は百合に要求するそれは、”百合さん。乳首見せて”と同義語であった。
”そ、そんな...”
もちろん婦人検査であるから、当然といえば当然であったが、自分で乳首を晒す、
しかもまだ男子はロッカーの前で着替えを行っている。
吉田は、その男たちに背を向けて座っているが、百合からは男子が着替えをしながらも、
百合の検診を興味深々で覗こうとしているのだった。
「ま、まだ彼らが...」
百合は、吉田に男たちがこの検診を覗いていることをアピールした。
吉田も振り返り、その様子を確認する。
「そうか、まだ着替えてる最中だったんだ。」
知っていたことをわざとらしく百合に伝えた。
ただ、その吉田の言葉に返答したのは採用係だった。
「吉田先生の貴重なお時間を百合さんは無駄にするつもり?」
厳しい声を百合に掛ける。
「そ、そんなことはありません。けど..見てるし...」
百合は採用係になんとか着替え終わるまで待ってもらえるようにお願いした。
「対した裸でもないでしょ? さっさと剥がしなさい。それともここまで手を焼かせたのに今更帰るの?」
痛烈な返答だった。
”帰れだなんて...”
今更帰るわけにはいかなかった。
せっかく我慢をし続けたあの騎馬戦が無意味になってしまう。
そう思うと、百合は怒りを抑える。
「す、すみません。」
百合はそういうと行動を開始するしかなかった。
男たちも、採用係と百合の問答を聞いて、着替える速度が明らかに遅くなり、視線を百合に向ける。
その内の1人と百合は視線が絡んでしまった。
男の内定者も、採用係の態度に何かおかしい物を感じ取ったのだろう。
百合に対してセクハラを起こしても問題ないかのように、露骨に視線を移し始めていた。
百合は、全員の視線を受けながらも、胸に張られた絆創膏を指で摘む。
”剥がさないと...”
百合は覚悟を決めるが、指を動かすことはできなかった。
「本当にお願いです。彼らが帰るまで待ってもらえませんか...」
百合は最後のお願いをする。
吉田は百合の表情を見て少し考えた。
彼にしてみれば、好きになった相手であった。
吉田は男たちを帰りのバスに乗るように指示しようとした時だった。
「百合さん。カーテンとか仕切りなしで、男子と一緒でも良いっていったわよね。」
採用係だけは、百合の願いを叶えようとはしなかった。
”酷い...”
百合がそう思った時、それ以上の酷いことを、採用係が口走る。
「吉田先生、彼らに診察を見学させるのはいかがでしょうか?」
「えっ!!」
その声を挙げたのは、吉田だった。
もちろん百合にとっても驚きの事だったが、あまりの事に百合は叫ぶこともできなかった。
驚く吉田を他所に、採用係は話を始める。
「もともとそういう約束の元、百合さんを同行させた訳ですし、今更恥ずかしがって先生にご迷惑をおかけしているなんて許せませんわ。」
「本来であればとっくに帰って頂いているのに、きちんとスケジュールを守って望んだ他の内定者だって婦人検診は受けてるんです。彼女達の事を考えれば、これくらいの我慢ができないようでしたら困りますし。」
かってな都合を採用係は押し付け始める。
「彼らだって、婦人検診なんて他で見る機会は無いでしょうし、男の人って、こういうの見るのに興味があるのでしょ?」
百合の羞恥など、まったく関係ないかの様だった。
「彼らもおいしい思いすれば、内定を蹴って他の会社に行かれることもないだろうから、うちとしてもメリットありますから。」
結局、百合を出汁にして男子内定者の機嫌を取るつもりになったようだった。
「そ、そんな話、聞いてません。」
百合は、必死に抵抗する。
婦人検診と言えば、相手が医者だって恥ずかしい行為を強要される。
それを同期の男に見られると思うと絶対に避けなければならなかった。
ただ、百合の抵抗など無駄であった。
抵抗できるくらいであれば、騎馬戦などするはずも無かった。
「じゃあ帰りなさい。 私も他社にあなたを採用しないように通達しなきゃいけなくなるんだから時間が無いのよ。」
これは、採用係のハッタリであった。
ただ、百合には事の真偽を見分けることができなかった。
冷静だった百合であれば、断ることもできたであろうが、今ですら絆創膏3枚で、公衆の前に座っている。
こんな状態で、冷静な判断などできようも無かった。
”今までの努力が無駄になる...”
騎馬戦の恥ずかしさを耐えながら、それが無駄になってしまい、社会人として路頭に迷うことはできなかった。
女手ひとつで自分を育ててくれた母の面影がよぎる。
”ここで恥ずかしいだなんて言っている場合じゃない”
冷静さを欠いた判断を百合はすることになった。
「解りました。 やります。」
百合は悪魔に体を渡す返事をすることになった。