「ゆ、許して!!!!」

「....」
畳みに引かれた布団の中で加奈は寝ていた。
布団は、かなり重く、肌触りが、悪い。その割には、豪勢に、鶴の刺繍が施されていた。
加奈は、混乱していた。

「こ、ここ何処....」
加奈は、記憶を必死になって確かめる。
自分の記憶を順序良く組み立てる。初めは、学校の図書室で、調べ物をしていたはずだった。

「訳わからないけど、た、助かったんだ....」



加奈が通っている学校は、伝統のある国立の高校で、大学でもないのに、3年になると、
卒業研究をしなければならなかった。

加奈は、留学を経験し、20歳だった。

そのため、加奈は、学校の図書館に、日々通っていた。
日本史を選択していた加奈には、その辺の図書館よりも、学校の図書館の蔵書には、古文書があり、
細かな調べができていた。

それは、昨日、深夜まで図書館で古文書を調べていたそんな時だった。
昭和初期に調べたと思われる、図書室の蔵書一覧を加奈は発見した。
その中に、『中世の神憑、呪い、儀式』との分類があった。

特に、卒論とは関係なかったが、謎めいた分類と、現在の図書室の分類にはそんな分類が無いことで、
なんとなく、加奈の興味をそそった。
”こんな分類コーナー無いわよね。”

図書室の中でも、誰も立ち入らないだろう、蔵書保管室の中まで、加奈は探してしまった。
「あれ?」
それぞれの分類が書き込まれるブックシェルフの中で、何も書き込まれていない、古びたシェルフを見つける。

「見つけちゃった。」
その棚に入っていた本は、科学が発達する前の自然の振る舞いなどを神の力として、
説明された文書や、雨乞いの儀式等の蔵書だった。

「へぇーーー。」
何冊か、加奈は手にとってぺらぺらと捲る。
中には、印刷物では無く、墨で書かれた古文書等もあった。

ここまでにしておけば良かったのだった。
1冊づつ、取り出すだけでは解らなかった本の裏側に、1冊、かなり古いぼろぼろの本が隠れていた。
それは、本というより、古書物と言えるような代物だった。

「なんか隠してるのかしら?」
加奈は、その本を手に取る。 題名すら無く、中を開けると、筆と墨で書かれた文書が記載されている。
文字や、書体は難解であったが、加奈はどうにか読むことができた。

「邪神を呼び出し、力を借りる?」
難しく書かれてはいるが、そんな様な事だった。

”そんな事できるつもりでいたのかしら...”
加奈は、古書を読み進める。

「巫女を依り代にする?」
その文書には、必要な準備とその方法があった。
ぺらぺらと加奈は、文書を読む。

”偉そうに書いてあるけど、要は、クッキングみたい”
加奈は、可笑しくなっていた。

「材料は、この書物と生贄の処女である巫女1人? あと、願い事かあ、ありがちね。」
加奈の口元から笑いがこぼれそうだった。

「方法は、願い事を短冊に書いておいて、この本の後半の意味わかんない、おまじないを巫女に言わせればいいのね...ぷ。」
加奈は、思わず吹き出す。
”昔の人はこんな事まで信じていたのかしら..”

”まあ、せっかく古文書、見つけたんだし巫女じゃないけど、私、処女だし、やってみよう”
加奈は、メモ用紙の片隅を破り願い事を書く。

「願いごと?」
特に真面目に考えることもないかと加奈は思い、走り書きをする。
『お姫様になれますように。』

そして、巫女以外、読んではいけないと書いてあった後半部分のお呪いを加奈は読み始めた。
「難岳岳那笠師内岳岳。」
”本当に、おまじないだわ。”

「難岳岳那笠師内岳岳。」
「頼岳南岳示威概岳岳。」
「...
「........。」

”あれ?”
加奈は、読み始めて直ぐに、異変に気付く。
”ほ、本物!?”

「難岳岳那笠師内岳岳。」
加奈は、自分の体が、言う事を聞かないことに焦る。
怖くなって、まじないを読むのを止め様とするが、勝手に自分が読み進めてしまう。

”ど、どうしよう”
加奈は頭は、すっきりしているが、体が、金縛りにあったような感覚に陥る。
自分の意思とは裏腹に、自分の腕がかってに動き、ページを捲っていく。

おまじないは、思ったより長く、1時間近く掛かった。
”お、終わりかしら...”
勝手に、呪文を唱える口が恨めしい。

「難岳岳那笠師内岳岳!」
最後のページを読み終えると、加奈の体は元に戻り、自分の意思に従うようになった。

”こ、怖かった...”
加奈は、その場にへたり込む。
”こんな場所、嫌。帰ろう”

『お姫様? まあいいだろう。 巫女と術者が一緒って所が、今回は面白そうだからな。』
加奈の耳に男の声がする。
「だ、誰!!」

加奈は、図書室の片隅で声を挙げる。
声が聞こえてきた方に、振り向くが、誰もいなかった。
”何処? いやよ。”

加奈は、恐ろしくなり、心の中で、叫び声を挙げる。
『見えはしないけどな。』
心の声に、男の声が木魂する。

”な、何も言っていないのに...”
加奈は、見えない声に、驚く。
確かめるように、加奈は、心の中で話しかける。

”だ、誰ですか?”
『誰って..お前が呼び出したんだろ? 神だよ。か・み・さ・ま』
加奈は、現実を把握できずにいた。

「ご、ごめんなさい。 お姫様なんかならなくてもいいから...無かったことに。」
加奈は、恐ろしくなって、無かったことにしてもらうお願いをする。

『無理』
加奈の願いは一言で片付けられる。
『最近、暇だったんだよね、久しぶりに獲物が来たんだ楽しませてもらうよ。』

男の声が、加奈の脳裏に響いた。
”た、楽しませてもらうって...何を?”
加奈が、自分の脳裏に向かって語りかける。

『俺は実体をもてないからな....』
『そういえば今何年?』

おかしな質問をしてくる。
「2006年ですが...」
加奈は、答える。

『2006?  ああ 平和ぼけした時代か。』
つぶやくように、自称”神”が返答した。

”これは現実?”
加奈は、少しづつ冷静さを取り戻していた。この、寝ぼけた返答をする男の声を無視すれば良いと少し思う。
”とりあえず、この場所から出よう”

加奈は、そう思って図書室の隅から外に向かって歩き出す。
『意外に、神経強いな。 もう冷静?』
頭の中で神の声がする。

加奈は、何も考えず、すたすたと歩く。
図書室を出ると、もう深夜の校内には、人気が無かった。
『無視するな。』

それでも、加奈は、頭の中の男を無視して廊下を歩く。
『お前が呼び出したんだろ?』
ひつこく話しかけてくる脳裏に向かって、加奈は、ついに叫んでしまった。

「成り行きよ!!」
静かな廊下に、加奈の声が響いた。

その響きからか、誰も居ないと思っていた廊下の曲がり角から、1人の男子生徒が、
加奈の声を聞き付け、現れた。

「加奈さん。どうしたの?」
その男子生徒は、加奈も面識のある加藤だった。

”た、確か加藤君...”
加奈は、名前を思い出すと、叫んでしまった言い訳をする。
「ご、ごめんなさい、一人事。誰も居ないと思ったから...」

「びっくりしたよ。」
加藤が、加奈に話しかける。
加奈にして見れば、名前を思い出さなくてはならないほどの影の薄いしかも、オタクっぽい加藤だった。

”こんな時に、こんなやつにかまってられない”
加奈は、そう思い、その場を立ち去ろうとしたときだった。

『お前、こいつ嫌いなの?』
また例のやつの声がする。
”当たり前じゃない!こんな気持ち悪いやつ!!”

加奈は、頭の中で返答する。
『ふーん』
男は、返答してきた。

「それじゃあ加藤君。さよなら。」
加奈は、そう言うつもりだった。
ただ、自分の喉から声が出ない。

”な、何?”
加奈は、体の異変に気づく。そして、自分の意思とは関係ない言葉が、口からこぼれる。
「加藤君。女の子は、好き?」

”わ、私何言ってるの?”
加奈は、自分が発してしまった言葉に、戸惑う。

目の前の加藤も、また戸惑っていた。
学校内でも、かわいいと評判の加奈が、変な質問を自分に投げかけている。
「き、嫌いじゃない..です。」

加藤は、なぜか敬語で、加奈に返答してきた。
「じゃあ、見せてあげる。」
加奈は、さらに、言葉を発する。

しかも今回は、体の自由まで奪われ、勝手に、腕が動き、自分のワイシャツのボタンに手を掛ける。
そして、1つづつ外していく。
白いワイシャツの胸元がはだけ、加奈のやわらかそうな胸の上部と、水色のブラを見せてしまった。

”嫌!!”
いやおうなしに、加藤の視線は、加奈の胸元を注視してくる。

”何見てるのよ!!”
加奈は、加藤に訴えようとするが、ボタンを外し、腕で、胸元を寄せ、強調しているのは、自分自身だった。
『あは。楽しい。』

あの男のつぶやきだった。
 

 

 

続く